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2011年7月

2011年7月26日 (火)

【祝】開設2周年

2年前にこのブログを書き始めて、今日で2周年になりました。

第一回目の記事は何だったかというと、平成21年改正で不公正な取引方法の定義が法律に格上げされた副作用で、文言上、法定の不公正な取引方法の要件に「公正な競争を阻害するおそれ」が必要でないかのように読めるようになってしまったけれど、やっぱり必要と解すべき、という内容でした。

今読み返すと、ものすごくあっさりしています(笑)。

ブログを書き始めた当初は、自分の名前でグーグルで検索してもこのブログがヒットしなくて、どうやったら検索にひっかかるのかなぁと悶々としていたものですが、今ではおかげさまで、「独禁法」とかいう、ざっくりとしたキーワードでも、結構上の方に表示されるようになりました。

これも、読んで頂いているみなさまのおかげなのであろうと感謝しております。

このブログを書き始めたときからの方針なのですが、時事ネタを安易に追いかけることは、基本的にしていません。

そのブログだけ見ていればその分野の最新動向が分かるような、情報をまとめる形のブログも、それはそれで有意義なのでしょうが、ちょっと手間をかければネットでいくらでも情報が手に入る時代ですし、自分は別のやり方で社会に貢献したかったのです。

なので、元ネタをコピペだけするようなことも、していません。元ネタがあるなら、私が書くより、そちらに直接あたったほうが、はるかに信頼性が高いからです。

それから、個別事件の論評も、あまりやっていません。

これは、私自身が担当している案件なら書かないのは当然ですが(守秘義務以前の問題として、利害関係があるのに隠して公平を装って書くことは、問題があるように思います)、うちの事務所も、業界では四大法律事務所の1つといわれる弁護士300人を超える大所帯ですし、具体的事件について書くと、同僚の誰かのクライアントが関係者だったりということが、ままあるからです。

それに、独禁法は具体的事実関係が分からないと適切な回答ができないことが多く、個別案件についてコメントしても、一般社会に対して参考になることは少ないと思うのです。

なので、どうしても一般論、抽象論が多くなるのですが、それでも、私が実務で疑問に思って、みんなも疑問に思いそうなことを、できるだけ書くようにしています。

それから、ブログを書くことで、書いてる途中にどんどん疑問点が芋づる式に出てきて、よい頭の整理になることがあります。

なので、例えば改正法について質問されても、だいたい考えたことがある論点ばかりで、すぐに答えが出る、というようになりました。

それから、このブログを見て依頼してくれたクライアントの方もいらっしゃいましたし、既存のお客さん、弁護士の方、公取委の職員の方(!)など、いろいろな方から「読んでますよ」と言われたりして、嬉しく思うことが多々ありました。

それも、一つの出会いだと思います。

こういう独禁法実務に関するブログを、書く能力のある弁護士は他にもいると思いますが、書けて、かつ、実際に書いてみようと思う弁護士は、そうはいないと思いますので、これからも、自分にできる社会貢献として、書き続けていきたいと思います。

2011年7月25日 (月)

排除措置命令を行わない旨の通知と待機期間の関係

7月1日から、公取委が企業結合に対して排除措置命令を行わないことに決めたときには、全件について、その旨通知されることになりました(届出規則9条)。

ですが、この通知がなされたからといって、企業結合の待機期間が短縮されるわけではない、というのが公取委の見解ですので、注意が必要です。

このことは、「企業結合審査の手続に関する対応方針」の注3に、

「当委員会が・・・排除措置命令を行わない旨の通知をした後に,届出会社が書面により禁止期間の短縮を申し出た場合も,速やかに禁止期間の短縮を行う。」

と記載されていることから、明らかです。

つまり、上記注3により、排除措置命令をしない旨の通知がなされた場合でも、当事者が、期間短縮を申し出ない限り、禁止期間(待機期間)が短縮されない、ということが分かります。

しかし、ここまで杓子定規に考えないといけないのか、私は疑問に思っています。

30日間の待機期間について独禁法10条8項では、

「〔株式取得の〕届出を行つた会社は、届出受理の日から三十日を経過するまでは、当該届出に係る株式の取得をしてはならない。ただし、公正取引委員会は、その必要があると認める場合には、当該期間を短縮することができる。 」

とされています。

つまり、公取委が「期間を短縮する」という意思決定をしないかぎり、30日は取引実行を待たなければならない、ということです。

しかし、「排除措置命令をしない」という通知を受ければ、普通の日本人は、公取委が取引を実行してよいというお墨付きを与えたというふうに捉えるのではないでしょうか。

10条8項の文言解釈としても、排除措置命令をしないという意思表示の中には、「待機期間を当該通知の日までに短縮する」という意思表示も当然に含まれる、と考えればよいと思います。

少なくとも、通知書の中に、「なお、この通知によって待機期間が短縮されるものではありませんのでご注意下さい。」とか、注意書きを書かないと、非常に紛らわしいのではないでしょうか。

我々弁護士は、文言の、よく言えば厳密な解釈、悪く言えば形式的な解釈というものに馴染んでいるので、まだ公取委の対応方針のような解釈は理解できますが、企業結合の届出などは弁護士の手を借りずに自分でやってしまう企業の方々も少なくないでしょうから、普通の感覚の日本人にとって紛らわしくないか、という観点も大事だと思います。

以上のような、待機期間満了と排除措置命令をしない決定の時期を一致させるべきとの立場に対しては、「諸々の事情から(例えば他の国の当局とのバランス?)、30日よりも前に待機期間が満了するのも、それはそれで困る」という反論もあるかも知れませんが、大半のケースでは両者一致した方が分かり易くて便利なのであり、そういう特殊な事情があるケースは、実務の工夫で何とでもなると思います。

もう一つ、公取委の「対応方針」で疑問を感じるのが、

「当委員会が・・・排除措置命令を行わない旨の通知をした後に,届出会社が書面により禁止期間の短縮を申し出た場合も,速やかに禁止期間の短縮を行う。」

と、排除措置命令をしない旨の通知の後で短縮の申し出をすることになっており、通知の前に申し出をした場合について何も触れられていないことです。

これなども、形式的に解釈すれば、「通知の前に短縮の申し出をしても、短縮されるかどうかは分かりませんよ」なんていう、とんでもない解釈が出てきかねません。

当然、待機期間の短縮申し出は排除措置命令をしない旨の通知より前にすることもできるのですから(というより、届出時にするのが普通でしょう)、期間短縮の申し出が予めあった場合に排除措置命令をしない旨の通知をしたときには、同時に期間も短縮される(満了する)という扱いにすべきでしょう。

ですので、少しでも早く取引実行をしたい(あるいは、実行するかどうかを問わずそういう自由な地位を手に入れたい)という場合には、届出時に期間短縮を求めるとともに、排除措置命令をしない旨の通知がなされた場合にはその時点で待機期間を満了させることも、同時に求めておけばよいと思われます。

2011年7月21日 (木)

排除措置命令をしない旨の通知(届出規則9条)の経過措置

平成23年6月24日に、

「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第九条から第十六条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則の一部を改正する規則」(公正取引委員会規則第3号)

により、

「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第九条から第十六条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則」

が改正されました。

改正規則9条では、

「公正取引委員会は、企業結合届出書に係る株式の取得・・・について法第四十九条第五項の規定による通知をしないこととしたときは、届出会社に対し、様式第四十三号・・・による通知書を交付するものとする。」

と、いわゆる排除措置命令を行わない旨の通知というものがなされることになりました。

ちょっと面白いのは、この規則改正には、

「施行日前の届出については従前の例による」

といった経過措置がなく、上記規則第3号の附則では、

「この規則は、平成二十三年七月一日から施行する。」

とだけ定められています。

つまり、平成23年7月1日よりも前に届け出た企業結合の届出であっても、7月1日以降に

「法第四十九条第五項の規定による通知〔排除措置命令の事前通知〕をしないこととしたとき」

には、排除措置命令を行わない旨の通知がなされることになります。

・・・と、細かいことを書いているのは、今日その通知をもらったからです。

受理から約20日目でした。

案外、30日ぎりぎりに出るものでもないのですね。

大変結構なことです。

でも、

「法第四十九条第五項の規定による通知をしないこととしたとき

に通知をする、という条文の文言からすると、おそらく、公取委が内部意思決定として通知をしないことを決めたのが(改正規則施行日である)7月1日より前か、7月1日以降かで、通知をするかどうかが決まる、ということのようです。

つまり、例えば平成23年6月15日付で受理された届出書について、

①6月30日に内部意思決定をしたときは、通知する必要なし、

②7月1日に内部意思決定をしたときは、通知する必要あり、

ということだったようです。

2011年7月19日 (火)

届出前相談のタイミング

今年の7月1日から発効した「企業結合審査の手続に関する対応方針」では、従来の事前相談が廃止され、法律上の届出一本に統一されました。

そして、公取委との相談は、届出書の記載方法に関してのみ受け付けることとされ、「届出前相談」と呼ばれています。

(「等」なので、厳密に届出書の記載方法に関しないものでも、相談に乗ってくれそうです。)

では、この届出前相談は、いつから受け付けてくれるのでしょう。

受付時期のお尻は、届出よりも前、ということで明らかなので、問題は、どれくらい早い段階で受け付けてくれるのか、ということです。

この点、対応方針では、届出前相談の時期については、

「当該届出を行う前に」

としか記されておらず、それ以上の限定はとくにありません。

パブコメ回答では、届出前相談のスケジュールについては、

「・・・届出前相談の時間的な制限が不明確ではないか。」

という質問(要は、すぐに回答をもらえるのか、2~3ヶ月かかるのか、という質問)に対して、

「・・・届出予定会社は、いつでも届出前相談を終了して届出書を提出することができるので、届出前相談をいつまで行うかは届出予定会社が決めることである。」

という回答がなされているだけで、どれくらい早い段階で相談を受け付けてくれるのかについては、とくに言及されていません。

ところで、法律上の届出をどれくらい早い段階でできるのかについては、法律上の制限はとくにありませんが、届出書には一定の添付書類が必要であることとの関係から、事実上、余りに早い(=添付書類が揃わない)時期における届出は、できないことになります。

例えば事業譲受の場合、届出規則6条2項に

① 当事会社の定款

② 当該行為に関する契約書の写

③ 当事会社の最近一事業年度の事業報告、貸借対照表及び損益計算書並びに総株主の議決権の百分の一を超えて保有するものの名簿

④ 当該行為に関し株主総会の決議又は総社員の同意があつたときは、その決議又は同意の記録の写

⑤ 届出会社の属する企業結合集団の最終親会社により作成された有価証券報告書その他当該届出会社が属する企業結合集団の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なもの

が添付書類として必要であると規定されています。

①の定款、③の計算書類、株主名簿は、まともな会社なら通常あるでしょうから、問題ないですね。⑤の有報等も、とくに問題ないでしょう。

④の総会決議等も、あったとき(通常は、事業譲渡に法律上必要なときでしょう)に出せばよいので、無ければ出さないで良いです。

問題は、②の契約書の写しです。

ただこの契約書の写しは、どのような事業が譲渡されるのかが分かるような内容のものであればよく、いわゆるMemorandum of Understanding (MOU)のようなもので構いません(ただし、最終契約を締結した段階で追完する)。

なので、ひとまずMOUがあれば、普通は届出書は受理されます。

(これに対して、まだ買主候補の1つに過ぎず、ターゲットの入札参加中である、というような場合は、届出をするのは無理でしょう。)

では、届出前相談はどうでしょうか。契約書の写しは必要でしょうか。

あくまで届出前相談は任意の行政サービスですから、公取委に強制することはできませんが、私は、MOU締結前でも届出前相談は受け付けられると考えます。

理由は、届出書に必要な添付書類が揃って無くても、届出前相談に回答することは可能なはずであり、また、MOUの締結前に相談を受け付けて欲しいという需要は、スケジュールの関係から、それなりにあり得ると思われるからです。

ちなみに届出前相談の回答をもらうのにどれくらい時間がかかるのかについては、公取委のQ&Aで、

「 Q1  届出前相談にはどの程度の期間が必要ですか。

A1  届出書の記載方法の確認に関する御相談であれば,通常2週間から1か月程度掛かります。その他,一定の取引分野に関する当委員会の考え方についてなど,届出書に記載すべき内容に関連した御相談の場合は,内容により回答に掛かる時間は異なります。 」

と回答されています。

(ただ、簡単な記載事項の確認なら、実務的な感覚としては2週間もかからず、即日とか、2,3日で回答してくれます。)

一定の取引分野についてが、まさに聞きたいことの中心であるので、早く回答して欲しいところですが、こればかりは、時間がかかるのは仕方のないことであり、「内容により回答に掛かる時間は異なります。」というのもやむを得ないでしょう。

ですが、そうであるからこそ、できるだけ早く届出前相談は受け付けて欲しいのです。

実務では、市場画定に関する公取委の考えが明らかになればほぼ結論が見える、というケースも少なくないので、市場画定に関する届出前相談は、あなどれないのです。

ちなみに、対応方針では、届出不要な企業結合に関する相談も任意に受け付けるとされていますが、その時期について、Q&Aでは、

「 Q1  届出要件を満たさない企業結合に関する相談は,いつ頃から申し込むことが可能でしょうか。

A1  当該企業結合の計画に関して具体的な計画内容を示すことが可能となった時点で,相談を申し込むことが可能です。」

とされています。

つまり、具体的な計画内容を示すことができれば、契約書(MOUなども含め)は不要、ということです。

実質的な回答をする届出不要事案の相談ですらそうなのですから、実質的な回答はしない届出前相談の場合にも、それと同じか、それよい早い段階で相談を受け付けるべきでしょう。

2011年7月16日 (土)

ポイントカードやマイレージと景表法

「ポイントカード」や「マイレージサービス」が、景表法の規制に服するのか、という論点があります。

結論からいえば、抽選でポイントやマイレージを与える場合を除いては、一般的には景表法の規制には服さないのですが、説明はちょっと複雑です。

順番に説明しましょう。

実は論点は2つあって、

論点A:ポイントカードやマイレージは景表法上の「景品類」に該当するか、

論点B:景品類に該当するとして、景表法の制限に服するか、

ということを、それぞれ考えないといけません。

まず、論点A(景品類該当性)をみるために、条文の確認から始めましょう。

景表法2条3項では、「景品類」は、

「顧客を誘引するための手段として、・・・

事業者が自己の供給する商品又は役務の取引・・・に付随して相手方に提供する

物品、金銭その他の経済上の利益であつて、

内閣総理大臣が指定するものをいう。」

と定義されています。

そこで、内閣総理大臣が指定している(ただし、平成21年改正附則4条の経過規定により、改正前に公取委が指定したものが有効)、

不当景品類及び不当表示防止法第二条の規定により景品類及び表示を指定する件」(昭和37年6月30日公正取引委員会告示第3号)(「定義告示」)

をみると、

「〔景表法〕第2条の規定により、景品類・・・を次のように指定する。

1 ・・・景品類とは、顧客を誘引するための手段として・・・事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に附随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、に掲げるものをいう。

ただし,正常な商慣習に照らして値引又はアフターサービスと認められる経済上の利益

及び

正常な商慣習に照らして当該取引に係る商品又は役務に附属すると認められる経済上の利益は、含まない

・・・

(以下、1号から4号は、金銭、物品、便益、とか、あらゆる物を列挙していて意味がないので、省略します。)」

とされています。

定義告示の本文はほとんど景表法2条3項と同じなので、定義告示は、但し書きの、

「正常な商慣習に照らして値引又はアフターサービスと認められる経済上の利益

及び

正常な商慣習に照らして当該取引に係る商品又は役務に附属すると認められる経済上の利益」

が景品類に含まれない、という点だけに、意味があることになります。

ここで、もしポイントカードやマイレージが定義告示の但し書きの

「値引」

に当たるのなら(アフターサービスや附属の利益ではなさそうですし。。。)、景品類ではない、ということになります。

ところで定義告示の解釈については、

景品類等の指定の告示の運用基準について」(通称、「定義告示運用基準」)

という、公取委事務局長通達があります。

そして、同通達6(1)では、

「『値引と認められる経済上の利益』に当たるか否かについては,

当該取引の内容,その経済上の利益の内容及び提供の方法等を勘案し,公正な競争秩序の観点から判断する。」

とされています。

・・・さすが通達、わけが分かりませんね(笑)。

でもこれにはもう少し続きがあって、同通達6(3)には、

「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」

の3類型が挙げられています。

つまり、

①相手方がこれから支払う代金を減額してあげること、

②相手方が既に支払済みの代金を割り戻してあげること、

同一の商品役務を、追加支払無しで付けてあげること、

です。

①が支払前の減額、②が支払後の減額、③が同一商品の追加、です。

ポイントカードは、ポイント発行店で次に買い物するときに代金を減額するものであれば、①ですね(次の買い物からの、値引)。

マイレージも、マイレージを付与した航空会社への次回搭乗分から値引する場合には、同様に①ですね(次の搭乗からの、値引)。

よって、ポイントカードも、マイレージも、発行者自身の商品役務から次回の購入時に値引をする場合には、「値引」にあたり、景品類ではない、ということになります(論点A。よって、そもそも景表法上の適用の余地はありません)。

ちょっと注意すべきなのは、①~③の値引の3類型には例外があり、

(1)懸賞(つまり、くじなど)により①~③を行う場合、

(2)①で減額または②で割戻した金銭の、使途を制限する場合

(3)同一の企画において①~③と景品類を併用する場合、

には、「値引」とはみなされず、「景品類」になる、とされています(同通達6(4))。

たんなる通達なので、告示の解釈としても問題ないかを念のためみておくと、(1)は、「懸賞だと値引とはみなさない」ということでしょうが、まぁ妥当でしょうね。くじで当たる値引というのは、世の中で普通に考える値引というのとは、だいぶ隔たりがあります。

(2)の、値引きした代金の使途を制限する場合も、やはり「値引」とはいえないでしょう。

(3)は、値引と景品類を併用する場合には、値引も景品類とみなされる、ということです(値引と景品類を相手方に選択させる場合が、同通達に例として挙げられています)。これについては異論もあるかもしれません。

ですので、ポイントカードへのポイントを抽選で与える場合には、(1)の例外に当たってしまい、値引とはみなされず、景品類になってしまいます。

以上をまとめると、ポイントカード、マイレージは、

(A)ポイントまたはマイル発行者自身からの次回の購入額を割り引くもので、かつ、

(B)抽選でポイントやマイルを与えるのでなく、かつ、

(C)同一企画で景品類と併用するのでない、

という場合には、「景品類」に該当しないことになります。

でも、(B)や(C)はまだしも、世の中のマイレージは他社との共通マイレージが常識です。ポイントカードも、いろんなお店の間でポイントが併用できる場合もあります(例えばコンビニでためたポイントがガソリンスタンドで使えるなど)。

そういう、他社からの商品役務の購入時に割引が受けられるようなポイントカードやマイレージ((A)を満たさない)は、どう考えればいいのでしょうか。

ここで、論点B(景品類に該当するとして、景表法の適用の有無)が問題になります。

そこで、くどいですが、また景表法の条文から確認しましょう。

景表法3条(景品類の制限及び禁止)では、

「内閣総理大臣は、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を確保するため必要があると認めるときは、景品類の価額の最高額若しくは総額、種類若しくは提供の方法その他景品類の提供に関する事項を制限し、又は景品類の提供を禁止することができる。」

とされています。

この景品類の提供の制限または禁止として公取委が定めたのが、

一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」・・・①

懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」・・・②

です(いずれも、「制限」で、「禁止」まではしていません)。

まず、問題になることが多そうな、①(総付景品)から。

①の告示2項では、

「次に掲げる経済上の利益については、

景品類に該当する場合〔なので、上記「値引」に該当する場合は、「景品類」ではないので、そもそも同告示2項は不適用〕であつても、

前項の規定〔注:景品類の価格は取引額の20%(当該金額が200円未満なら200円)を超えないこと〕を適用しない。」

とした上で、その3号では、

自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票であつて、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの」

とされています。

自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる・・・割引を約する証票」

なので、自分の供給する商品役務から割り引く割引券だけを指すのかな、と思いきや、実は、

『一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準について」(「総付運用基準」)

というのがありまして、同通達の4項

「4  告示第二項第三号の『自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票』について」

の(2)で、

「(2)  『証票』には、

①金額を示して取引の対価の支払いに充当される金額証(特定の商品又は役務と引き換えることにしか用いることのできないものを除く。)

並びに

②自己の供給する商品又は役務の取引及び他の事業者の供給する商品又は役務の取引において共通して用いられるものであって、同額の割引を約する証票

を含む。」

と明記されています。

つまり、②の、他の事業者と共通して用いられるもの、というのが、共通マイレージ、共通ポイントを想定しているわけです。

ただし、②に該当するためには、「同額」の割引をするものでなければいけません。

なので、ポイント制ではあまりないとは思いますが、例えば、「20%割引き」のような、同率の割引をするものである場合には、②には該当しません(つまり、総付制限告示の対象になります)。

他社と共通で使えるマイレージというのは、もし同額の値引きをするのではない場合(例えば、自社利用と他社利用で同額を引くのではなく、同じマイル数を飛べるようにする場合は、必ずしも同額の値引きにはなりません)には、総付制限告示の対象になりそうです。

結局、共通マイレージ、共通ポイントは、自店と他店で同額の割引をするものである限り、告示第2項第3号(←これは、景表法3条の正式な委任あり)の

「自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票」

に該当し、結局、告示から適用除外されていることになります。

(しかし、正式な告示に、「自己の供給する・・・」と明記してあるのに、他社の供給する取引に用いるものまで含めるという、実質的な告示の改正を、通達でやってしまうというのは、何とも前時代的でオソロシイ気がします。

ほかにも、総付運用基準は、上記「証票」の①と②の整理が論理的か、とか、体系的な美しさを重んじる論理家の目から見たら、つっこみどころ満載です。)

以上は総付でポイントとマイルをあげる場合(総付景品)の説明でしたが、最後に、懸賞による景品類の提供にあたる場合は、どうなるのでしょう。

前述のように、懸賞でポイントやマイルをあげる場合は、(仮に自店でのみ使用できるものでも)「値引」ではありません。

よって、「値引に該当して景品類ではないので景表法は適用されない」という理屈(論点A)は使えません。

そこで、「景品類」に該当するとして、とはいえませんので、再度、

論点B:景品類に該当するとして、景表法の制限に服するか、

を考えることになります。

懸賞の場合の景品類の提供についての、

懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」・・・②

を見てみると、ポイントカードやマイレージに関する特例はありません。

同運用基準にも、何ら記載はありません。

したがって、抽選で与えるポイントやマイルについては(他店と共通のものでなくても)、「景品類」となり、②の告示の制限に服することになります(取引価格の20倍(10万円を超える場合は10万円。同告示2項)。

最後にまとめをしておくと、

ポイントカードやマイレージ・サービスは、

①自社だけで使えるのは、懸賞で与えない限り、「値引」となり、景表法不適用、

②他店共通のものは、「値引」ではないが、総付であって自店と他店で同額の割引きをするものである場合、総付告示が通達により不適用となり、景表法不適用(同率の値引きの場合等は、総付告示の適用あり)、

③懸賞で与えれば、(自社のみか他店共通かを問わず)「値引」ではなく「景品類」となり、懸賞告示が適用(取引価格の20倍か10万円、いずれか少ない方)、

ということになります。

2011年7月10日 (日)

下請法の「情報成果物作成委託」について

下請法の対象である「情報成果物作成委託」について、まとめておきます。

「情報成果物作成委託」というのは、簡単に言うと、システムソフトの作成をお客さんから受注したソフトウェアメーカー(親事業者)が、その作成を下請に出すような場合です。

ですが、「情報成果物」は、下請法2条6項で、

 プログラム(・・・)

 映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの

 文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの

 前三号に掲げるもののほか、これらに類するもので政令で定めるもの」

と、何でも入るような、かなり幅広い定義がされています(単純な商品は、2条1項の「製造委託」でカバーされます)。

つまり、「情報成果物」というラベルに反して、

「情報」(=「ある事柄に関して知識を得たり、判断のより所としたりするために不可欠な、何らかの手段で伝達(入手)された種種の事項(の内容)」・新明解国語辞典)

という日本語に即した絞りは、まったくかけられていません。

むしろ情報成果物作成委託は、それまで下請法にあった製造委託や修理委託でカバーできない物の作成の委託をカバーするためにできた概念なので、「情報」で絞られていないのは、当然といえば当然かもしれません(なので、ちょっとネーミングに難あり)。

4号の政令は、今のところありません(もし規定されるとしたら、「下請代金支払遅延等防止法施行令」に追加されるのでしょう)。

でも現行法でも、

2号で「映像(視覚に訴える動く物)and/or 音声(聴覚に訴えるもの)」が、

3号で「文字 and/or 記号 and/or 色彩(視覚に訴えるが、動かない物?)」が、

1号で、コンピュータに働きかけるプログラムまでもが、

カバーされているので、既に相当広く、4号に何が来るのか(1~3号でカバーされず、しかも製造委託でもカバーできないもの?)、ちょっと想像できません(大脳中枢に直接働きかける電気信号とか?ほとんど、「マトリックス」の世界ですね・・・)。

なお、製造委託と情報成果物作成委託の違いをイメージ的に表現すると、

製造委託→物理的生産物、ハードの作成に重点、

情報成果物作成委託→知的生産物、ソフトの作成に重点、

という感じです。

公取委のQ&AのQ15では、

ポスターのデザインの委託→情報成果物作成委託、

ポスターの印刷の委託→製造委託、

と整理されています。ややこしいですね。

さていよいよ本題ですが、情報成果物作成委託は、下請法2条3項で定義されていて、大きく分けて2種類のものがあります。

1つめ(2条3項の前半)が、

「事業者が

①業として行う提供

若しくは

②業として請け負う作成

の目的たる情報成果物

作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」

というものです。

①は、「(自ら)業として行う提供(の目的たる情報成果物の作成の委託)」なので、そういう情報成果物(プログラムとか)を、親事業者自らお客さんに提供している、という類型です。

②は、「業として請け負う作成(の目的たる情報成果物の作成の委託)」なので、情報成果物の作成を親事業者がお客さんから請け負っている、という類型です。

①と②の区別は場合によっては微妙ですが、どちらでも結論には違いはないのであまり気にしなくていいでしょう。

・・・と言ってしまうと身も蓋もないので(笑)、まず②から説明すると、②は、親事業者とお客さんの関係が請負(請負人がある仕事を完成することを約し、注文者がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約すること。民法632条)である場合です。

請負なので、仕事の完成に、お客さんの注文の力点があります。

例として、

「ソフトウェア開発業者が、ユーザーから開発を請け負うソフトウェアの設計書の作成を他のソフトウェア開発業者に委託すること」

というのが挙げられています(粕渕他編著「下請法の実務(第3版)」p49)。

開発を請け負うわけですから、特注のソフトなんでしょうね。

(細かいことを言うと、上の例では、お客さんが親事業者に発注しているのは、ソフトウェアの開発で、親事業者が下請に出すのは、ソフトウェアの設計書の作成です。なので、「設計書の作成」は、「ソフトウェアの開発」の「一部」だ、という整理なのでしょう。)

これに対して、①は、親事業者自身がそのお客さんに対して情報成果物を提供する(報告書なら、報告書を渡す。プログラムなら、ライセンスしたり、CDロムに焼いて渡す)、という場合です。

仕事の完成はお客さんからの注文の目的ではなく、もっぱら情報成果物の提供が注文の目的である、ということです。

例として、

「プログラム開発業者が、ユーザーに提供する汎用〔広くいろいろな用途に使える〕アプリケーションソフトの一部の開発を他のプログラム開発業者に委託すること」

というのがあります(前記粕渕p47)。

こちらは、汎用品なわけですね。

でもよく考えてみると、請負の場合でも、目的物は普通、お客さんに「提供」するでしょうから、そういうものは、①に入れても②に入れても構わない気もします(お客さんに情報成果物を提供しない請負の場合(例えば、市場調査の依頼を受けて、お客さんにプレゼンだけして、報告書は渡さないような場合?)には、②だけに当たることになります)。

それをあえて(常識的に)分ければ、

成果物の提供が注文の主な内容の場合→①、

仕事の完成が主な内容の場合→②、

というところでしょうか。

情報成果物作成委託の2つめ(2条3項の後半)が、

「事業者が

その使用する〔つまり、自己使用〕情報成果物の作成を業として行う場合に

その情報成果物の作成の行為の全部又は一部を

他の事業者に委託すること」

というものです。

自分で使う物を「業」といえるくらいに反復継続して社内で作っている場合に、あえて外に発注する場合ですね。

自前でもできるけど外注に出す場合には、下請いじめが起きやすいので、下請法の対象にした、ということです。

なので、自前で作っていない(作れない)場合は、この類型の情報成果物作成委託には該当しません。

公取委の「下請取引適正化推進講習会テキスト」p12では、

「事務用ソフトウェア開発業者が、自社で使用する会計用ソフトウェアの一部の開発を他のソフトウェア開発業者に委託すること」

という例が挙がっています。

事務用ソフトウェア開発業者なら、会計用ソフトウェアも自社で作ろうと思えば作れるので、情報成果物作成委託にあたる、ということですね。

ところで、「情報成果物作成委託」の「委託」の意味については、事務総長通達「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」で、

「この法律で『委託』とは,事業者が,他の事業者に対し,給付に係る仕様,内容等を指定して物品等の製造(加工を含む。)若しくは修理,情報成果物の作成又は役務の提供を依頼することをいう。」

とされていますので、製造委託の場合によく問題になる、既製品の売買は「委託」にあたらない(仕様等を指定していないので)、という論点は、情報成果物作成委託の場合でも、一応問題になります。

でも、情報成果物の場合には、オーダーメイドが普通で、既製品というものはあまりないので(お客さんに売るのが汎用ソフトでも、汎用ソフトの全部または一部の開発が、親事業者からの仕様の指定も不要なくらいに規格化されて定型的にできる、ということはないでしょう)、事実上、この論点が問題になることは少ないのでしょう。

2011年7月 9日 (土)

【東日本大震災:お墓にひなんします 南相馬の93歳自殺】(毎日jp)

このブログでも時々は独禁法と関係のない話題を書いていますが、いま、ヤフーニュースをみていたら、標題の記事がありました。

もう一度読もうと思ったら見つからなかったので、配信元の毎日jpのリンクを貼っておきます。

とてもショックな内容です。

記事には、

「遺書には『老人は(避難の)あしでまといになる』ともあった。」

とあります。

この部分は、涙が出てきました。

ニュース見て泣けてきたなんて、記憶にありません。

人は、人のためになっていると思えるから、生きられるのであって(自分の欲のためだけに生きられると思っている人は、目を覚まして欲しいです)、足手まといになると思わざるを得ない状況というのは(本当は、そんなことはないはずで、ご家族にしてみたら、おばあちゃんに元気でいてくれるのが一番なのですが、そう思えない状況というのは)、本当につらいと思います。

今も、同じような避難生活をしているお年寄りはたくさんいるのだと思うと、とてもつらい気持ちになります。

私も地震直後の輪番停電があったときは、家では暖房を消して、靴下三重重ねにして毛布にくるまっていましたが、それでも寒くてつらかったですが、お年寄りは肉体的にも精神的にも、はるかにつらいのだろうと思います。

原発の事故と、その後の対応に責任のある方々は、運が悪かったなどと及び腰にならずに、これが自分の使命だと腰を据えて、対応にあたっていただきたいと思います。

また、世の中はみな繋がっているのですし、私も東京電力から電気を送って頂いて生活していますので、まったく無関係ではないわけですから、よく考えたいと思います。

亡くなられた方のご長男夫婦が、記者さんに、

「おばあちゃんが自ら命を絶った意味を、しっかりと伝えてください」

とおっしゃったそうなので、リンクはそのうち切れるでしょうから(記事全文は著作権の問題もありますので)記事に引用されていた遺書のみを転載して、記憶に留めたいと思います。

(以下、転載)

◇女性が家族に宛てた遺書の全文

(原文のまま。人名は伏せています)

 このたび3月11日のじしんとつなみでたいへんなのに 原発事故でちかくの人達がひなんめいれいで 3月18日家のかぞくも群馬の方につれてゆかれました 私は相馬市の娘○○(名前)いるので3月17日にひなんさせられました たいちょうくずし入院させられてけんこうになり2ケ月位せわになり 5月3日家に帰った ひとりで一ケ月位いた 毎日テレビで原発のニュースみてるといつよくなるかわからないやうだ またひなんするやうになったら老人はあしでまといになるから 家の家ぞくは6月6日に帰ってきましたので私も安心しました 毎日原発のことばかりでいきたここちしません こうするよりしかたありません さようなら 私はお墓にひなんします ごめんなさい

(転載終わり)

2011年7月 7日 (木)

下請法の役務提供委託について

下請法の役務提供委託(下請法2条4項)について、まとめておきます。

「役務提供委託」とは、

「事業者が

業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を

他の事業者に

委託すること・・・」

と定義されています(2条4項)。

(建設業者が建設工事を下請けに出す場合は除外されます。)

ざっくり言えば、製造委託のサービス版のようなものなのですが(製造委託では製造を委託するが、役務提供委託では、役務の提供を委託する)、きちんと定義をみてみましょう。

まずこの定義は、

①ある会社(A社。「親事業者」という)が、

②そのお客さんから、役務提供を受注し(運送サービスでも、メンテナンスサービスでも、何でも良いです)、

③受注した役務提供の全部(つまり、丸投げ)または一部(一部下請)を、

④他の事業者(下請業者)に委託する、

という構造になっています。

つまり、親事業者と、そのお客さんと、下請業者の3者が登場します。

いいかえれば、下請に出される役務が、親事業者がお客さんから受注した役務(の全部または一部)であることが必要です。

例えば、東京に本社のある運送会社(A社)が、大阪のお客さんから、

「大阪から東京まで荷物を運ぶ役務」

を受注したとします。

このときに、A社が、名古屋に本社のある別の運送会社(B社)に、大阪から名古屋までの運送を委託したとすると、役務提供委託になります(名古屋から東京までは、自分で運ぶ)。

なぜなら、「大阪から東京まで荷物を運ぶ役務」には、「大阪から名古屋まで荷物を運ぶ役務」が含まれるからです。

逆に言うと、下請業者に委託する役務が、

親事業者がお客さんから受注した役務(条文の文言では、「〔お客さんへの〕提供の目的たる役務」)

に含まれない場合には、「役務提供委託」にはなりません。

例えば、オフィスビルのオーナーが、ビル内のトイレの掃除を清掃業者に委託しても、別にそのオーナーがテナントやビルへの訪問者からトイレの清掃業務を受注しているわけではありませんので、「役務提供委託」にはなりません。

なお、これを、「自ら用いる役務の委託に該当するので『役務提供委託』に該当しない」と説明されることがありますが、「自ら用いる役務」というのは、「他から受注した役務ではない」というのを、一般へ分かりやすく説明したものであり、論理的には(条文の文言上は)、「自ら用いる」か否かが決定的なのではなくて、「(お客さんへの)提供の目的たる役務」か否かが決定的です。

ところが、実際には、「親事業者がお客さんから受注した役務」といえるのかどうか、微妙な場合が少なくありません。

例えば、公取委のホームページのQ&Aにある例ですが、

「Q24 ソフトウェアを販売する事業者が,販売したソフトウェアの顧客サポートサービスを他の事業者に委託することは役務提供委託に該当するとのことですが,無償のサポートサービスの場合も含まれますか。

A. ソフトウェアを購入した顧客に対するサポートサービスの提供は,無償に見えても対価は当該ソフトウェアの販売価格に含まれていると考えられるので, サポートサービスを他の事業者に委託することは下請法の対象となる役務提供委託に該当します。 」

というのがあります。

しかし、これはちょっと説明が必要ですね。

まず、この親事業者(ソフトウェア販売業者)が、たんにお客さんにソフトウェアを売っているだけ、と考えると、サポートサービスは「親事業者がお客さんから受注した役務」には該当しません。

ですので、この設問は、サポートサービスが、ソフトウェアのライセンス契約に含まれていて、このソフトウェア販売会社がソフトウェアの購入者からサポートサービスを受注していることが前提になっている、と考えるべきです。

(ところで、そいういうサポート義務を負うのは、ふつうソフトウェアメーカーであって、販売店ではないのではないか?という疑問が湧きますが、たぶんこの設問のメインの関心事ではないので、割愛します。)

その他には、

「Q19 メーカーが,ユーザーへの製品の運送を運送業者に外注した場合には,下請法の対象となりますか。

A. メーカーがユーザー渡しの契約で製品を販売している場合,運送中の製品の所有権がメーカーにあるときは,当該運送行為は製品の販売に伴い自社で利用する役務であるため,役務提供委託には該当しません。

下請法の規制対象となる役務提供委託に該当するのは,他人の所有物の運送を有償で請け負い,他の事業者に委託する場合に限られます。」

というのがあります。

(なお、この設問では、受注した役務は有償の場合に限るとされていますが、公取委職員の手による粕渕「下請法の実務(第3版)」p26では、製造委託についての説明ではありますが、「業として」というのは、「営利事業以外の行為・・・であっても構わない」と、逆のことをいっています。ホームページの方が、公取委の公式見解ということなのでしょう(事務総長通達・「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」にも同旨の記載あり)。条文解釈としては疑問ですが。)

この設問をもっと一般化すると、本屋さんで本を買って家まで郵送してもらう場合とか、デパートでスーツを仕立てて家まで郵送してもらう場合、「郵送」の部分を運送業者に委託したら役務提供委託なのか、という問題です。

あるいは、通販で、通販業者が配送の部分だけを運送業者に委託するという例でもいいでしょう。

この設問では、製品の所有権が誰にあるかで決まるとしていますが、条文の根拠がありませんし、理屈としてもおかしいと思います。

もし所有権が誰にあるかで決まるなら、例えば、(代金支払時に所有権がお店からお客さんに移転する前提で)、

代金先払いであれば、運送前に所有権はお客さんに移転しているので役務提供委託ではなく、

後払い(あるいは着払い)であれば、運送時の所有権はまだお店にあるので役務提供委託になる、

という、わけの分からないことになってしまいます。

やはりここは、お客さんはあくまで物を買うのが主な目的だったのであって、お店は運送役務を受注したわけではない(配達は、あくまでおまけ)、したがって配達を運送業者に委託しても役務提供委託ではない、と説明すべきだと考えます。

いずれにせよ、理屈はともあれ、上記設問からは、例えばアマゾンで本を買う場合に、アマゾンが運送を他の業者に委託しても、「役務提供委託」には該当しない、というのが公取委の見解であろう、ということは言えます。

(実際には、運送会社も大手でしょうから、資本金要件のために下請法が適用されないことが多いのでしょうけれど。)

さらに微妙なQ&Aに、

「Q21 医療法人が患者の検査を行い,検査結果の解析を外部に委託する取引は,役務提供委託に該当しますか。」

というのがあります。

回答は、

「A. 治療行為の参考とするために行われる検査は,医療法人が自ら用いる役務であるので,役務提供委託に該当しませんが,

人間ドック,健康診断等の委託を受けて行う検査の場合には,その検査結果の解析を委託することは下請法の対象となる役務提供委託に該当します。 」

とされています。

前半の、

「治療行為の参考とするために行われる検査」

の場合には、あくまでお医者さんが患者さんから受注(この文脈にはそぐわない言葉ですが、ご容赦を)したのは、病気を治すとかいった治療サービスであって、検査を受注したわけではない、検査はあくまで、治療サービスに必要になるから行われたのだ、ということなのでしょう。

(ここでも、「自ら用いる役務であるので」という説明がされていますが、「親事業者がお客さんから受注した役務」であるか否かが決定的です。)

これに対して後半の、

「人間ドック,健康診断等の委託を受けて行う検査の場合」

には、まさに検査自体を患者さんから受注しているので、これを外注すれば、役務提供委託に該当する、という理屈です。

こうみていくと、

「親事業者がお客さんから受注した役務」

なのか、

「『親事業者がお客さんから受注した役務』に必要な役務」

なのか、微妙な場合はけっこうありそうです。

ところで、今ちょっとウェブで検索したら、

「専門商社に勤めています。・・・

カタログ製品の売買が主ですが、客先に販売した装置・設備の定期点検、検査、保守を業者に発注して行うことがあります。・・・

定期点検や検査、保守などは、役務委託に該当するのでしょうか?」

という質問に対して、

「・・・自社の販売した製品の定期点検や検査、保守など顧客へのサービスを下請事業者に委託するものなので役務提供委託に該当します。」

と回答されているのがありました。

これも、結論は合っていますが、理由が変ですね。

「自社の販売した製品」かどうかは、問題ではありません。

「お客さんから受注した役務」なのかどうかが問題なのです。

この質問の文脈では、当然、定期点検や検査、保守のサービスも、「お客さんから受注」しているのでしょう。

ですが、もし他社が販売した製品の保守、点検を依頼されて、それを外注した場合でも、やはり「お客さんから受注」したことには変わりはないので、役務提供委託に該当することは明らかです。

やはり、法律の問題は、専門家に尋ねた方が良いと思います。

2011年7月 6日 (水)

再販と販売方法の拘束の理由付けの矛盾(価格決定権と販売方法決定権は誰のものか?)

再販売価格維持は原則違法だといわれます。

その理由として、流通取引慣行ガイドラインでは、

「事業者〔主に小売店です。〕が市場の状況に応じて自己の販売価格を自主的に決定することは、事業者の事業活動において最も基本的な事項であり、かつ、これによって事業者間の競争と消費者の選択が確保される。」

と説明されたりします。

つまり、小売価格は小売店が自主的に決定できるべきである、ということです。

粉ミルク事件最高裁判決(昭和50年7月10日)でも、

「・・・取引の対価や取引先の選択等は、当該取引当事者〔小売店です。〕において経済効率を考慮し自由な判断によって個別的に決定すべきものである・・・」

としています。

これに対して、メーカーが小売店に販売方法を指定する場合については、資生堂事件最高裁判決(平成10年12月18日)では、

①販売方法にそれなりの合理性があり、

②他の取引先にも平等に課されている限り、

メーカーが対面販売を小売店に強制することは拘束条件付取引とはならないとし、その理由として、

「・・・メーカーや卸売業者が販売政策や販売方法について有する選択の自由は原則として尊重されるべきである」

という理由を述べています。

つまり、販売方法を決めるのはメーカーの自由だ、ということです。

(ちなみに流通ガイドラインでは、「合理的な理由」の例がかなり厳格に解されるかのような書きぶりになっていますが、上記最高裁判例があるので、ガイドラインは実務上無視していいです。)

このように、再販売価格維持の場合と販売方法の拘束の場合を比べると、

①小売価格を決めるのは、小売店の自由である、

②販売方法を決めるのは、メーカーの自由である、

ということになります。

これって、合理的な理由付けなのでしょうか。

私は、疑問に思います。

素朴な感情としては、

「価格は、いったん小売店に売り切ったのだから(所有権が移転したのだから?)、小売店が自由に決めるべきというのは確かにそうだよな。」

とか、

「でも販売方法は、メーカーのそのブランドの信用に関わる話だから、メーカーが決めるべきというもの一理あるよな。」

という感想を持たれる方もいらっしゃるかも知れません。

しかし、それはたんなる生の価値判断であって、

・小売価格も販売方法も、小売店が決めるべき、

・小売価格も販売方法も、メーカーが決めるべき、

という価値判断があっても、何らおかしくないように思います。

私は、上記①②は、あくまでリップサービスで、要は競争制限が起きる危険が、再販のほうが高いから、というのが本当の、かつ唯一の理由だと考えています。

ただ、そういう、対市場効果だけを理由として述べると、経済学に馴染んだ人には受け入れられても、法学者や一般の人の心には響かないので、リップサービスで(=それらしい理由付けに見せるために)、小売店の基本的権利だとか、メーカーの自由だとかいっているに過ぎないと捉えるべきです。

(経済効率性だけを考えるなら、小売店に市場支配力がある場合には、最高再販売価格維持を認めた方が(つまり、メーカーに価格決定権を認めた方が)効率性は改善するというのは、二重限界化の問題としてよく知られているところです。)

なので、「なぜ価格を決めるのは小売店の自由なのか?」とか、「なぜ販売方法を決めるのはメーカーの自由なのか?」とかを、一生懸命考えても、何ら有効な独禁法のルールは導けません。

ではなぜ、再販は原則違法で、販売方法の拘束はむしろ原則合法なのでしょうか。

理由は端的に、価格競争のほうが、その他の競争(サービス競争など)よりも、激烈な競争になりやすいからです。

これを裏返して言えば、価格競争を制限した方が、サービス競争を制限するよりも、競争制限の効果が絶大である、ということです(当該競争手段をまったく制限しない場合をベンチマークにした場合の、ベンチマークからの隔たりが、価格競争の制限の方が圧倒的に大きい)。

安売りが激しくなり過ぎて(価格競争)小売店が淘汰されることは、世の中で充分にあり得ることに思われます。

これに対して、過剰なサービスを提供し過ぎて(コストアップになって?)小売店が淘汰される(サービス競争?)ということは、あり得なくはないでしょうが、価格競争の場合に比べれば遙かに少ないと言えます。

なので、小売店としては、価格競争は、本音のところでは避けたいのです。

小売店の意向を無視できないメーカーの本音も同じでしょう。

では、違法かどうかは競争制限効果一本で説明できるとして、販売方法の拘束はどのように競争制限に繋がるのでしょうか。

例えば対面販売の場合だと、ほとんど競争制限にはつながらないと思います。

一般論として、競争制限の生じるパターンとしては、

①競争者で手を組むこと(競争停止)

と、

②競争者を市場から駆逐すること(競争者排除)

があります。

対面販売は、このいずれにもあたりません。

(再販は、競争停止ですね。同じ非価格制限でも、テリトリー制は、小売店間の競争が緩むのが問題なので競争停止であり、排他取引は、ライバルメーカーが流通網へアクセスできなくなるのが問題なので、競争者排除です。)

なので、対面販売には競争制限効果はほとんどないのです。

中には、「対面販売を強制するとコストアップにつながるので、競争が制限されるじゃないか」という説もありますが、コストアップといってもたかが知れています。

それに、対面販売や専用カウンターの設置は固定費なので、小売店の限界費用には影響ないはずであり、卸価格を値上げするほうが遙かに競争制限効果があるはずです。

その程度の競争制限効果に過ぎないのに、とやかく言う必要はないはずです。

「卸価格を上げるか下げるかは自由な競争に任せるべきだから、そのために価格が上がるのは仕方ないけれど、対面販売とか専用カウンターの設置のような余計なもののために価格が維持・安定するのは許せない」

というのは、生の価値判断としては分からないではありませんが、合理的な独禁法解釈としては、いかがなものかと思います。

「カウンセリングなんて必要としていない消費者にとっては、余分なコストを負担させられて不当だ」

という議論もありますが、そんなものは市場の競争に任せておけばいいのです。

再販売価格維持のフリーライダー論では、メーカーが提供を希望するサービスが消費者も希望するものか否かはフリーパスなのに(つまり、消費者にそっぽを向かれるサービスを提供させようとしたメーカーは市場から淘汰されるのだから構わないという立場に思えるのに)、販売方法の拘束の文脈では、にわかに消費者にとって必要かを議論し出すのも、バランスが悪いと思います。

(ちなみに、市場支配力のあるメーカーの場合に限って、対面販売の強制で価格安定効果がある場合には違法とすべきだとの議論もありますが、対面販売が固定費であることは市場支配力のあるメーカーでも同じなのですから、やはり、価格安定効果は微々たるものなのではないでしょうか。市場支配力があるメーカーでも卸価格を上げることは自由なのですから、単に卸価格を上げる以上の独占利潤を対面販売の強制により得られるなら問題かも知れませんが、そのような超過利潤が得られる可能性は低いように思います。)

それに、消費者が必要としてるかしていないかとか、販売方法として合理的かという議論をやり出すと、裁判所には判断しかねる問題だと思います。

(この点、女性の裁判官のほうが化粧品につては販売方法の合理性の判断を正確にできると思いますが、むしろ合理性は判断すべきではないので、そうすると男性裁判官のほうが変なバイアスがなくてよいように思います。)

判断の順序としては、販売方法の拘束については、まず競争制限効果があるのかどうかを判断し(無ければその時点で合法)、競争制限効果が認められて初めて、それなりの合理性と、他の小売店にも平等に適用しているか(平等性)を判断する、というのが、本当は論理的なのでしょう。

でも、競争制限効果があれば、「それなりの合理性」があっても、やはり違法とすべきではないでしょうか。

そうしないと、それなりに合理的に見える販売方法の拘束だけれど、極めて競争制限効果が大きい販売方法の拘束の場合、どうするのでしょうか(現実にはそんな制限はあまり無いから、資生堂最高裁判決の立場で結論は妥当なのでしょうけれど)。

これに対して、平等性については、再販の隠れ蓑である可能性をチェックするために、それ自体としては競争制限効果のない販売方法の強制であっても、有用な要件でしょう。

2011年7月 5日 (火)

流通ガイドラインの「価格が維持されるおそれ」の意味

流通取引慣行ガイドラインには、いくつかの行為類型が違法となるかどうかの基準として、「価格が維持されるおそれ」というのを用いています。

例えば、厳格な地域制限について、

「市場における有力なメーカー・・・が流通業者に対し厳格な地域制限を行い、これによって当該商品の価格が維持されるおそれがある場合・・・には、不公正な取引方法に該当し、違法となる」

とされています。

その他には、地域外顧客への販売制限、帳合い取引の義務づけ、仲間取引の禁止、安売り業者への販売禁止、一定の広告表示の禁止などに、同様の表現があります。

では、そもそも「当該商品の価格が維持されるおそれ」とは、何なのでしょう。

まず、「当該商品」というのは、(同一市場を構成する商品全てと解する余地もなくはないのですが)文字通り、当該行為を行っている事業者(メーカーなど)の商品のことである、と考えられます。

山田昭雄他編「流通・取引慣行に関する独占禁止法ガイドライン」p172でも、

「『当該商品の価格が維持されるおそれがある場合』とは、すなわち、厳格な地域制限により、当該ブランドについて競争圧力が減少し、流通業者がある程度当該商品の価格を維持できるようになっている場合である。」

と、「当該商品」というのが、当該ブランドの商品であることを念頭に置いたと思われる解説がなされています。

注意すべきなのは、

「当該ブランド(=自分のブランド)の小売価格なんて、(例えば、卸売価格を上げたり、あるいは端的に再販売価格維持をするなどして)自分である程度どうにでもできるのだから、当該ブランドの価格維持のおそれなんて、ほとんど全ての場合に認められるのではないか?」

と疑問に思ったら、それは間違いだということです。

上記山田他の解説からも理解できるとおり、もしあるブランドの価格を維持しようとしてテリトリー制や再販売価格維持を導入した結果、小売店の店頭価格が高止まりして、その結果そのメーカーの売上が落ちて利益が減少するような場合には、他のブランドからの競争圧力が働いているのであって、そういう場合は、「当該商品の価格が維持されるおそれ」はない、というべきです。

つまり、あるブランドについて競争的価格を上回る価格を付けたために消費者からそっぽを向かれてそのブランドが消えていく場合は、まさに競争が働いているのであって、競争に任せておけばよいのです。

さらに論理的に考えれば、小売価格が高止まりしていても、商品が売れなくなっていく場合は、仮に小売店が絶対に値引をしないでも(つまり、見た目は価格が「維持」されていても)、「価格が維持されるおそれ」には該当しない、ということです。

そこで疑問が湧いてくるのは、「価格が維持されるおそれ」というのは、本当に価格だけを問題にしているのか(品質や量や品揃えは問題にしていないのか)、ということです。

独禁法に親しんでいる者としては、価格だけを取り上げて違法かどうかを論じるのはナンセンスに思えます。

なぜなら、価格と、その他の要素(品質、数量、付加サービス)は、一体的に評価されるものであって、価格だけが問題ということはあり得ないからです。

もし価格だけを問題にするなら、上記の例のように、あくまで高値にこだわって売上(量)を減らしてしまう場合も、「価格」は「維持」されているのだから(その「価格」以外では市場で手に入らないのだから)、「価格が維持されるおそれ」あり、となるはずです。

公取委は比較的ガイドラインを文言どおりに運用する傾向があるように思われるので、ひょっとしたら、「価格」と書いてあるのだから、あくまで価格に注目する、という立場かもしれません。

そして、流通ガイドラインが扱うテリトリー制とかの場合は、価格だけに注目すれば反競争性が概ね判断できるので、価格だけに注目しても、結果が不都合ということはないのかもしれません。

しかしやはり、理論的に「価格」だけに注目するのはおかしいわけで、「価格」というのは、あくまで様々な競争変数の代理変数に過ぎない、くらいに考えておくべきです。

例えば欧州の非水平合併ガイドラインの8個目の注では、

「In this document, the expression ‘increased prices’ is often used as shorthand for these various ways in which a merger may result in competitive harm.」

という具合に、価格の上昇というのはあくまで様々な競争阻害の生じるルートを手短にまとめていったに過ぎない、と明記しています。

日本の流通慣行ガイドラインの「価格が維持されるおそれ」も、同様に解すべきだと思います。

なので、「なぜ価格だけに注目するのか」といって目くじら立てるのは筋のよい議論ではなくて、「そんなことは独禁法を知っている人なら分かるでしょう」というくらいに、大らかに構えておけばよいと思います。

いずれにせよ、ガイドラインを文字通りに読んで、「『価格』と書いてあるのだから問題になるのは価格だけだ」という議論をする人が出てこないとは限らないので、不親切なガイドラインであることは確かです。

2011年7月 4日 (月)

平成22年度相談事例集

6月22日に、「独占禁止法に関する相談事例集(平成22年度)」が公表されましたので、気がついたことをメモしておきます。

事例1は、見込み違いで大量の売れ残りが出た商品を原価割れで販売しても不当廉売にならないか、という相談ですが、いつもの公取委の運用どおり、こういう場合は、

「正当な理由」(独禁法2条2項3号)

に該当するので、不当廉売にあたらない、と回答しています。

結論はそれで構わないのですが、不当廉売ガイドラインの(事例集にも引用されています)、

「商品の市況に対応して低い価格を設定したときは、『正当な理由』がある」

という法律構成は、私にはしっくりきません。

コスト割れ要件は行為要件で、市場価格割れは対市場効果要件(公正競争阻害性)で判断する、と分かれるのが、分かりにくい気がするのです。

端的に、「コスト割れ」の、「コスト」というのを、仕入価格(歴史上のコスト)ではなく、販売時点での再調達価格(将来コスト)であるとか、考えられないものでしょうか(そうすれば、基準の「コスト」のほうも下がっているので、不当廉売にならない)。

事例2は、国内繊維メーカーが外国繊維メーカーの総代理店になることが問題ないとされた事例ですが、

X社〔外国メーカー〕とY社〔国内メーカー〕が競合する関係になった場合は、独占禁止法上の判断が変わり得る。

というのは大事な点だと思います。

こういう事案に限らず、実務で相談を受けていると、「今はシェアが低いから問題ないけど将来30%超えるくらいになったら危ないですよ」というようなケースがけっこうあります。

将来のことを見越してアドバイスする必要があるのが独禁法の特徴です(金融の世界の意見書みたいに、山ほど前提事実を書いて意見書を出すのでは、意味がない)。気をつけましょう。

事例3は、競合するメーカーから全量OEM供給を受けるのが不当な取引制限にあたらない、とした事例です。

結論は問題ないと思うのですが、

「本件OEM供給によってX社の製品ラインナップが充実すれば、2社間の販売競争が活発化することが期待されること」

っていう認識は、ちょっと甘いのではないでしょうか。

もしそうなら、OEM供給するY社は、競争が活発化することによって割を食うのを見越して、高い値段でX社にOEM供給するのではないでしょうか。

また、X社にとってはフルラインナップを揃えることが重要なようで、そうすると、X社には、相当高い価格(当該商品だけを見れば原価割れ販売になるか、ほとんど利益の出ない仕入価格)でもOEM供給を受けるインセンティブがあります。

だからといって、本件が独禁法上問題ありとされる可能性は無いことに変わりはないのですが、理由付けはきちんとしたいものです。

OEMの独禁法の問題点については、以前このブログで書いたことがありますので、ご覧いただければと思います。

ポイントは、OEMは競合社間というヨコの関係で行われることが多いので不当な取引制限に該当するように見えるけど、OEMという取引自体はタテの関係である、ということです。

事例4は、複数の映像コンテンツメーカーが法人ユーザー向け営業活動(もちろん価格交渉も)を一括して行わせることが不当な取引制限に該当しうるとした事例です。

これは、ほとんど露骨なカルテルですね。ダメでも仕方ないでしょう。

相談事例集に、

「販売価格の下落を避けるため」

と書かれていますが、当事者がこのとおり言っていたとしたら、正直ですね。

正直なことは大切ですし、私も正直を旨としていますが、公取委に相談にいくときには、理論武装もしてから行きましょう。

事例5は、広告の媒体複数社が、1つの広告内に2種以上の商品を扱う広告を引き受けることを制限する基準を共同で定めることが、不当な取引制限にあたりうる、とされた事例です。

これも、違法と言われても仕方ないでしょうね。

「複数の商品が1つの広告に載っていると消費者の誤解を招く」という相談者の主張も、弱いですね。

「消費者の誤解を招く」というのは、競争を避けたい事業者の常套文句です。

「ガソリンの価格を店頭で表示したら、消費者の誤解を招く。」

というので、地域のスタンド共同で店頭表示をしないことにした、という例を昔ニュースで見たことがありますが、さっぱり意味が分かりませんでした。

本件は、「2種類以上の商品が載った広告の掲載」という役務を提供しないことを合意した数量制限カルテルと構成してもよいし、より端的に言えば、広告主にとってよりコストが安くより効果の高いサービスの提供をしないことを共同で合意した、ということでしょう。

事例6は、1人住まいの学生向けに新聞を割引販売しても、定価からの割引を禁止した新聞特殊指定に違反しない、としたものです。

学生であれば、新聞に支払ってもよいと思う価格(留保価格)は低いでしょうし、一人暮らしというのも、留保価格が低いことを伺わせる要素です(他に読む人がいないので)。

私は、差別対価は一般的に競争促進的なので、新聞特殊指定自体が競争制限的だと思いますので、本件が問題なしとされたのも、当然だと思います。

特殊指定があるために、学生の活字離れとか、いろいろ理屈をこねないといけなくなるとうのは、そもそもの政策が間違っているときには辻褄合わせで余計な議論をしないといけなくなる、という例ですね。

事例7は、電子コンテンツ著作権者の団体が、コンテンツの許諾料の算定基準となる標準掛け率を表明することが、不当な取引制限にあたるおそれがある、とした事例です。

目安を示すだけで、強制するわけではないのに、独禁法違反とするのは厳しいと感じる方もいるでしょうが、仕方ないのでしょう。

単に目安なら良いとか、一括りにはできない問題があり、実は意外と難しい問題です。

我々弁護士の業界も、昔は報酬基準というものが各弁護士会から出ていましたが、独禁法違反のおそれがあるのではないかということで、今は存在しません。

でも、弁護士報酬基準の場合は、実態としても目安に過ぎなかったので、とことん詰めて考えれば、独禁法上問題なし、という主張も可能だったかもしれません。

その一方で、弁護士業務の中にもコモディティ化したサービスがあり、そのようなものについては価格安定効果があるではないか、といわれれば、そのような気もします。

本件の「電子コンテンツA」というのも、きっとそのような価格安定効果が見込まれる商品だったのでしょう。

事例11は、事業者団体による高額なポイント付与自粛要請が独禁法違反になるおそれがあるとした事例です。

ポイント付与というのは実質的な値引ですから、本件は値引の禁止を要請したに等しく、違法となっても仕方ないのでしょう。

ところが本件で興味深いのは、ポイント対象商品(商品A)が、「法令によって定められた対価を顧客から受領することが義務づけられている」商品だった、という点です。

そうすると、ポイント付与は、脱法行為だったのではないのか?そいういう脱法行為の自粛要請を独禁法違反とすると、脱法行為を独禁法が推奨することにならないか?という疑問が湧いてきます。

本件のいきさつも、商品Aの専売業者を会員とするY協会が、日用品も含めて売る業者を会員とするX協会に苦情を申し入れて、X協会が公取委に相談した、というものです。

要するに、専売業者はポイントをつけて商品Aに還元することが、法律違反のおそれがあるためできないのに、日用品販売業者は、商品A以外にポイントを還元することで、実質的に商品Aの値引を行っている、という構図です。

こういう構図を見ると、そもそも商品Aの小売価格が法律で決まっているというのが、矛盾の根本的な原因でないかという気がします。

2011年7月 3日 (日)

企業結合届出書はどの程度詳細に書くべきか?

企業結合の届出書の記載事項は、当事者の名称であったり、所在地であったり、形式的に簡単に埋めていけるものが多いのですが、企業結合の目的、方法とか、どのように書くのか、あるいはどの程度詳細に書くべきか、迷うような記載事項もあります。

ほかに、市場画定の仕方やマーケットシェアの算定根拠なども、数字だけ書いたのでは意味がよく分からない(なぜそのように市場画定したのか、など)、という場合に、どれくらい説明をしたらいいのか、という問題もあります。

しかし、結論からいうと、一般的にいって、届出書には最低限の説明に留めるので充分であり、あまり詳しく書く必要はありません。

というのは、親切のつもりでいろいろ説明を書いても、公取委の窓口でばっさりと削除を求められることが多いからです。

私が過去手掛けた大型案件でも、届出書についてはもっと詳しく書くようにとかは言われませんでした。一般的な案件では、さらにそっけない印象です。

ちなみに、なぜ詳細な説明の削除を求められるのかは、よく分かりません(追加で情報を出すように言われたときにその理由が疑問な場合には率直に尋ねますが、消す分には手間もかからないので、理由を聞くこともありません)。

勝手な推測ですが、あまりくどくどと届出書に書くと、窓口の担当者の方があとで上司の決裁を取るときに根掘り葉掘り聞かれて面倒だからではないでしょうか(くどいですが、あくまで推測です)。

2011年7月 2日 (土)

改正企業結合ガイドライン英訳(ちょっと誤訳)

7月1日から発効している企業結合ガイドライン英訳が公取委の英語版ホームページで見られるのですが、ちょっとした誤訳がありましたので指摘しておきます。

ガイドラインでは、

「当該商品と類似の効用等を有する商品」

「競合品」

と定義し、英訳では、

「competing goods」

と訳されています(英訳28頁)。

ところが、今回の改正で加わった、

「・・・近い将来において競合品が当該商品に対する需要を代替する蓋然性が高い場合」

の英訳の部分では、

「... when the probability of competitive products replacing demand for such goods is high in the near future」

と訳されています(英訳29頁)。

やはりここは、当初の定義の翻訳に揃えて、「competing goods」と訳すべきでしょう。

すみません、、、つまらない指摘で。でもやっぱり、定義語の訳語が揃ってないのは気になるので。。。

でも、公取委の英語版のサイトは最近どんどん充実してきていますし、プレスリリースや排除措置命令の英訳(全部ではありませんが)が載るタイミングもますます早くなってきているように思いますので、有益なツールであることは間違いないと思います。

デザインも今年の4月に変わって、ちょっとお洒落になりましたhappy01

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