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2011年6月 8日 (水)

組合による事業譲受と届出

平成21年独禁法改正で、組合による株式取得についても、届出が必要になりました(ただし、組合を支配する親会社が存在する場合に限って)。

では、組合が事業を譲り受ける場合には、届出は必要でしょうか。

結論としては、不要と考えます。

というのは、組合による株式取得を定めるのは独禁法10条5項で、

「会社の子会社である組合・・・の組合員・・・が組合財産・・・として株式発行会社の株式の取得をしようとする場合・・・には、当該組合の親会社・・・が、そのすべての株式の取得をしようとするものとみなし、会社の子会社である組合の組合財産に株式発行会社の株式が属する場合・・・には、当該組合の親会社が、そのすべての株式を所有するものとみなして、第二項の規定を適用する。 」

とされていますが、事業譲受に関する16条3項では、10条8項から10項までは準用されているものの、10条5項を引用していないからです。

これで話は終わりかと思って念のため立案担当者の10条5項についての解説を見たら、ちょっと気になることが書いてあります。

つまり、藤井他編「逐条解説平成21年改正独占禁止法」(商事法務)p117では、

「旧法における事後報告制の下の運用では、会社が法人格のない組合を通じて株式発行会社の株式を取得する場合には、当該組合自身には法人格がないこと、民法の規定に組合財産は総組合員の共有に属するとの定めがあることから、当該組合に出資を行っている組合員がその出資の割合に応じて当該他の会社の株式を取得するものと解されていた。」

とされています。

だけどそれだと、業務執行権限の無い組合員は組合が取得した株式の議決権割合を把握できないことも多く不都合だったので、新法で、組合が全部を取得するとみなすことにした、という説明です。

でも、組合による株式取得の場合に、

「組合員がその出資の割合に応じて当該他の会社の株式を取得する」

と解されていたのなら、組合による事業譲受の場合にも、

「組合員がその出資の割合に応じて当該他の会社の事業を取得する」

と解されていた、ということになるはずです。

だとすると、株式取得の場合の10条5項のような規定が新法で導入されなかった事業譲受の場合には、引き続き、旧法での解釈が生きている、と解することになりそうです。

とすると、M1社、M2社、M3社がP組合を組成し(出資は3分の1ずつ、議決権は1票ずつ)、組合PがX社のT事業を譲り受けた場合、T事業の国内売上高が届出基準の3倍を超えていれば、M1~M3社はそれぞれ届出基準を上回る国内売上高を持つ事業を譲り受けたことになり、届出が必要、となりそうです。

しかし、それはちょっとおかしいように思います。

そもそも旧法下での説明がおかしいです。

組合が株式を取得した場合に組合員の共有になるというのは正しいですが、それは、例えば他社の株式90株を組合員A、B、Cからなる組合が取得した場合に、それぞれの1株1株がA、B、Cの3分の1の共有(正確には、民法264条の準共有)になるということであって、Aが30株、Bが30株、Cが30株所有することになるわけではありません。

そして、会社法上、株式の共有者は、株主の権利を行使すべき者1人を定めて会社に通知することを要し(会社法106条)、その者だけが株主の権利を行使できます。

権利行使者の指定を欠く共有株式については、会社が共有者全員が共同して行使する形(最判平成11年12月14日・判時1699号156頁)か、その他の権利行使(議決権の不統一行使等)に同意した場合(会社法106条但し書き)を除き、誰も権利行使できないことになっています(江頭「株式会社法(第3版)」p118)。

つまり、A、B、Cが、30株ずつ単独所有するのと、90株を3人で共有するのとでは、全然意味が違うわけです。

にもかかわらず、30株ずつ各自単独所有したかのように旧法下で運用されていたとしたら、その方がおかしいと思います。

(なお、会社に対抗できない議決権でも競争法上は届出させる必要性があるなど、競争法独自の観点が必要ではないか、という議論はあり得ますが、株式共有の場合の共有者の権利は会社法という強行法規で定められているのであり、そのことは重く捉えるべき(=各自30株の単独所有と捉えるべきではない)と思います。)

また、3分の1の共有持分を90株分保有していることを30個の単独議決権保有と同視するのは、独禁法10条の文言にもそぐわないと思われます。

では翻って、組合が事業を譲り受けた場合は、どう考えるべきでしょうか。

やはり、届出は不要と考えるべきでしょう。

株式取得の場合と同様、3分の1しか持分がないということは、当該事業に対して単独では決定できないということであり、3分の1の売上分の事業を単独所有しているのとは、わけが違います。

また、世の中では、組合の株式取得について新法で届出義務が課された、と理解されているのが通常でしょうから、その準用のない事業譲受については、届出不要、と理解する(反対解釈)のが通常と思われます。

なのに届出必要と解するのは、不意打ちもいいところです。

ですので、旧法下での組合による株式取得に関する運用は理論的には誤っていたので無視して差し支えなく、組合の株式取得について届出制が導入された新法では事業譲受については届出不要ということが一層はっきりした、と理解すべきです。

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