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2011年6月

2011年6月29日 (水)

【独禁法実務の参考文献】

「独禁法でどの本がお勧めですか」という質問を時々受けるので、私が仕事でよく参照する文献を挙げておきます。

(あまり人様の書いたものをどうのこうのいうのは性に合わないのですが、自分が知らない分野を勉強するとしたら、何が信頼できる文献かはやっぱり真っ先に知りたい情報ですから、情報提供のために、率直に書く次第です。)

①白石忠志「独占禁止法(第2版)」(有斐閣・2009年)

言わずと知れた、東大白石教授の基本書です。

この本だけを読んで理解できる人には、実務の理論面については、この一冊でほぼ充分だと思います。(個別のケースは原典を自分で読んで理解する。)

おかしな特定の立場に染まらず、学説の紋切り型思考にはまることもなく、実務のありのままの姿を描こうという客観的な姿勢が、実務ではとても参考になります。

脚注で、判決、審決、ガイドラインなどにも網羅的に触れられているのも便利です。とにかく、情報量とその正確性は圧倒的です。

あと、条文の文言をていねいに拾って解釈されているので、実務で初めて出会う問題を考える際の参考となります。他のどの本にも書いていないことがこの本には書いてあって、「さすがだなぁ」と思ったことが何度もあります。

ただ、「同じことはまとめて総論に書く」という立場が徹底されているので、世の中でオーソドックスな切り口からこの本を紐解くと、「○○の点は総論○頁で既に述べた」みたいに、別の章に飛ばされるので(それでも、相互参照が極めて丁寧なので困らないのですが)、独禁法の体系が理解できていないと、例えばこの本を読んで意見書を書くときには、あっちにいったりこっちにいったり、ということが必要になり、自分の頭で組み直す必要があります。

「もっとオーソドックスな本がいい」という方には、

金井・泉水・川濱他「独占禁止法(第3版)」(弘文堂・2010年)

をお勧めします。

②厚谷他編「条解独占禁止法」(弘文堂・1997年)

既に絶版ですが、未だに利用価値の高いコンメンタールです。

条文の文言を丁寧に拾って解説してあり、あるべきコンメンタールの姿です。

実務では、何はともあれ、条文の文言をとっかかりにしてリサーチが始まり、条文の文言を舞台に議論が展開されますので、時間の限られた実務家にとってコンメンタールはどの法分野でも重要なツールですが、独禁法の世界では、今でもこの本がバイブル的な存在だと思います。

今アマゾンで見たら、中古で1万円近くします(定価8400円)。

手に入るうちに、手に入れておきましょう。

③伊従他編「実務解説独禁法Q&A」(青林書院・2007年)

真に独禁法実務を知る、一流の独禁法実務家からなる執筆陣による、Q&A形式の実務書です。

目の前の問題に、大まかでも良いからすぐに答えを出すには、これに勝る本はありません。

記述もかなり踏み込んでおり、実務の本当の姿が分かります。

独禁法の専門家でなくても、この本は理解しやすいし、この本を読めば大きく間違った答えをすることはないでしょう。

④川濱他「企業結合ガイドラインの解説と分析」(商事法務・2008年)

学者の方々による執筆ですが、ガイドラインの解説なので、実務で大変重宝します。

企業結合の意見書を書くのによく参考にします。

⑤山木編著「Q&A特許ライセンスと独占禁止法」(別冊NBL59号・商事法務・2000年)

旧ガイドラインの公取委職員による解説書ですが、未だに利用価値が高いです。

公取委の方の著作とは思えないくらい(失礼!)、踏み込んだ、かつ合理的な内容の記述で、未だ類書もなく、とても参考になります。

今アマゾンで見たら、中古が14000円もします!(定価4515円)

でもまだ手に入るだけましなほうで、私は数年、アマゾンで探しました(事務所の図書館にはあったけど)。

⑥「独占禁止法関係法令集(平成22年版)」(公正取引協会)

その名の通り、独禁法の法令集です。通称、「黄色い六法」(と呼んでいるのは、うちの事務所だけかな)。

規則やガイドラインまで網羅されているので、今ではネットで全て手にはいるとはいえ、やはりこの六法は実務では欠かせません。

⑦粕渕他「下請法の実務(第3版)」(公正取引協会・2010年)

公取委職員による下請法の解説書です。下請法実務はこの本で決まりです。

【2012年1月12日追記

優越的地位濫用と下請法については、

長澤哲也著「優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析」(商事法務・2011年)

を強くお勧めします。

特殊指定もまとめて説明してあって、知りたいことが一冊ですぐ分かり、しかも公取委の見解がおかしな点は適切な指摘がされていて、一度使えば誰でも良さが納得できることでしょう。実務家必携です。】

⑧笠原他「景品表示法(第2版)」(商事法務・2010年)

消費者庁職員による景表法の解説書です。景表法も、ほぼこれで決まりでしょう。

2011年6月28日 (火)

平成22年度企業結合事例集雑感

6月21日、平成22年度の企業結合事例集が公表されました。

既に公表済みであったケースも多いですが、気がついたことをメモしておきます。

事例2の「北越紀州製紙(株)による東洋ファイバー(株)の株式取得」では、商品の画定について、

「・・・バルカナイズドファイバー〔vulcanized fiber。両社で競合する製品。以下VF〕は複数の用途に用いられているが,・・・用途ごとに異なる種類のバルカナイズドファイバーが用いられ,代替的に用いられる素材も異なるところ,需要の代替性の観点からみた場合には,用途や種類ごとに細分化した上で,バルカナイズドファイバーとの代替性の高い素材が存在する場合には,それを含めて商品範囲が画定されると考えられる。

しかしながら,このように商品範囲を細分化した上で各商品範囲の競争の実態を把握することは,データの制約等のため必ずしも容易ではない

という理由と、各用途、各種類のVF間には供給の代替性があるという理由で、「VF全体」で市場画定されているのが、興味深いです。

企業結合ガイドラインでも、商品市場の画定は基本的に需要の代替性をみて行うとされており、「必要に応じて」供給の代替性もみる、とされています。

そこで普通にイメージされるのは、ある用途に用いられる商品Aで市場画定してよいかを考えるときに、用途は違う商品Bも、

「商品Bを作っているなら、(工場のラインを少しいじるなりして)商品Aもすぐに作れるだろう」

という理屈で、同じ商品市場に含まれる(AとBで市場画定される)というパターンです。

ですので、本件でもその理屈を通せば、まず需要の代替性をみるために、

VFの、用途1、用途2、・・・・、用途n

のそれぞれについて、競合品の有無を検討します。

例えばVF用途1の競合品(用途1と同じ用途に使える代替品)として、

競合品a、競合品b、競合品c

があるとすると、需要の代替性をみて画定した市場は、

(VF用途1、競合品a、競合品b、競合品c)

で画定されます。

これに加えて供給の代替性も考慮して市場画定すると、全ての用途のVFが市場に含まれるので、

{(VF用途1、VF用途2、・・・、VF用途n)、競合品a、競合品b、競合品c}

で市場が画定されます。

VF用途1+VF用途2+・・・+VF用途n = 全VF

ですから、結局、

(全VF、競合品a、競合品b、競合品c)

で市場画定されます。

同じ作業を、VF用途2以下についても繰り返すのが、オーソドックスな、供給の代替性を考慮した市場画定です。

例えば、VF用途2については、

(全VF、競合品d、競合品e)

で市場画定され(dとeは競合品ですが、dとa,b,cは競合しません)、

VF用途3では、

(全VF、競合品f、競合品g、競合品h、競合品i)

と市場画定される、という具合です。

しかし、これを厳密にやると大変だし、データもないので、全部ひっくるめて、

(全VF)

だけで市場画定しよう、ということです。

ただ、事例集の記載からも伺われるように、厳密に考えれば、これは正確ではありません。

なぜなら、用途の代替性があり、当然同一市場とされるべき競合品が、同じ市場でなくなるからです。

では本件では競合品が考慮されていないか、というとそんなことはなく、代替品は隣接市場として考慮されています。

この事例からも分かるように、

①市場画定の問題と考えるか、

②隣接市場からの競争圧力の問題と考えるか

は、分析のしやすい方を選べば良い(余りこだわらなくてもいい)、ということが、本件では端的に示された、といえます。

次に事例11のリネンサプライ事業者間の株式取得の事例では、とくに目新しいことは無いのですが、検討対象市場(四国における病院リネン事業)の市場規模が、たったの33億円です。

33億円といえば、株式取得における株式発行会社の売上要件の50億円を大きく下回ります。

さらに、当事会社の合算シェアは約35%ということなので、当事者の売上は10億円そこそこです。

こんな小さな市場でも、まじめに審査するんですね~と、感心した次第です。

あと、この件もそうですが、次の事例12(企業再生支援機構の案件)も含め、当事会社の経営内容が思わしくないことを積極的に評価して統合を認める案件が増えてきているように思われます。

さて、企業結合の届出件数については、平成21年度の985件から平成22年度は265件に激減しています(事例集の「参考2」)。

これはいうまでもなく、平成21年改正法が平成22年から施行され、大型案件のみに届出義務が課されるようになったからです。

また、10%超の株式取得が届出不要になったことも大きいでしょう。

平成21年改正で届出件数が半減するのではないか、と予想されていたところですが、半減どころか、3分の1以下に減っています。

届出件数が減った分、公取委ではより効率的に審査が行われるようになったのではないかと推測します。

2011年6月27日 (月)

企業結合に対する排除措置命令(17条の2)の問題点

7月1日から事前相談が廃止されるのに伴って、今までほとんど顧みられることのなかった法定の企業結合審査手続がにわかに注目を集めていますが(笑)、現在の独禁法の企業結合に対する排除措置命令の規定(独禁法17条の2)には、根本的な問題があるように思われます。

つまり、17条の2は、

「第十条第一項〔競争を実質的制限することとなる株式取得の禁止〕・・・

第十五条第一項〔同合併の禁止〕、

第十五条の二第一項〔同共同新設分割の禁止〕、

第十五条の三第一項〔同共同株式移転の禁止〕、

第十六条第一項〔同事業譲受等の禁止〕

又は

前条の規定〔脱法行為の禁止〕

違反する行為があるときは、

公正取引委員会は、・・・

事業者に対し、

株式の全部又は一部の処分、事業の一部の譲渡その他これらの規定に違反する行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。 」

と定めています。

要するに、10条1項等に「違反する行為があるとき」に、それを排除する措置を命じる、ということです。

例えば合併の場合に、「違反する行為」というのを素直に読めば、「合併をすること」です。

では、「合併をすること」というのが何を指すのかとえば、合併を実行すること(具体的には、2つの法人が1つになること)と考えるのが自然でしょう(逆に言えば、合併契約の締結や、合併承認の株主総会決議自体は、15条1項では禁じられていない)。

このことは、届出の手続規定である10条8項を15条3項に従って合併のケースに読み替えると、

「第2項の規定による届出を行つた会社は、届出受理の日から30日を経過するまでは、当該届出に係る合併をしてはならない。」

となり、ここでいう

「合併をしてはならない」

というのが、合併を実行してはならないという意味である(合併契約を締結したり、合併承認の株主総会決議をすることは禁じられていない。むしろ届出の添付書類です)こととのバランスから考えても、明らかです。

とすると、まだ合併が実行される前の段階で、そもそも排除措置命令を出せるのか、という疑問が湧いてきます。

なぜなら、上述のように、文言上は、合併であれば合併が完了していることを前提に、それを「排除する措置」を命じる、という建て付けになっているように読めるからです。

これは、3条(私的独占と不当な取引制限に対する排除措置命令)や20条(不公正な取引方法に対する排除措置命令)と同じ建て付けですが、私的独占等の違反類型であれば、これでも何ら問題ありません。

なぜなら、これらの違反類型では、まさに違反行為が現に行われていているのが通常(というか、そうでない場合は考えられない)からです。

しかし、企業結合の場合は違います。

企業結合の場合でも、届出基準に満たない企業結合が、届出もなされず実行され、でも競争を実質的に制限していた、という場合であれば、3条や20条と同じ建て付けでも問題ないでしょう。

しかし、企業結合で普通問題になるのは、届出をして審査をしたら、合併を実行したら競争の実質的制限が生じそうだと分かったので、合併実行前に差し止める、というパターンでしょう。

ところが、現在の17条の2では、このような、「実行前に差し止める」という建て付けに、文言上なっていないのです。

3条や20条と同じ文言になっていることからしても、17条の2も、実行前に差し止めることはできない(想定していない)と読むのが自然です。

例えば事業者活動についての事前相談で、まだ計画中で実行もしていないのに、不当な取引制限だといって排除措置命令が出たら、びっくりするでしょう。

(「企業結合は法律上の届出なので、任意の事業者団体の活動についての事前相談とは違う」という反論もあり得ますが、残念ながら、17条の2の文言は、企業結合の事前相談のある場合と無い場合とで排除措置命令の事前通知の期限を区別して定めているに過ぎず、出せる命令の内容や、実行前に命令を出せるかという点では区別していません。)

文言上は、17条の2も同じはずです。

ですので、企業結合に対する排除措置命令は、企業結合の実行後にしか出せない、というのが素直な文言解釈だと思うのですが、そのようなことを言う人は誰もいません。

私も、結論としては、実行前に命令ができないと意味がないので、できると解釈するのだろうと思います。

審査手続きに照らしたタイミング的な問題からしても、企業結合に対する排除措置命令は、原則、2次審査が開始してから90日以内に出さないといけないことになっているので、企業結合実行後にしか排除措置命令を出せないと解釈すると、当事会社は90日過ぎてから実行すれば(普通はそうするでしょう)、競争を実質的に制限する企業結合でも排除措置命令を受けない、という、とんでもない結論になってしまいます。

ですので、文言解釈としてはかなり苦しいですが、17条の2の「違反する行為」というのを

「・・・第十五条第一項〔同合併の禁止〕・・・に違反する行為があるときは、」

というのを、

「違反する行為をしようとしているときは」

と読み、

違反する行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。 」

というのを、

「実行すれば違反となる行為の実行を差し止め(全面禁止)、又は実行しても競争の実質的制限が生じないような措置(問題解消措置)を命ずることができる。」

と読むしかないのでしょう。

でも、法律の文言解釈としては、かなりいい加減な解釈だと言わざるを得ません。

というより、17条の2の文言が、いい加減だ、ということでしょう。

ちなみに、富士八幡製鉄の合併の同意審決の主文では、

「被審人富士製鉄株式会社は、昭和44年3月6日付の同八幡製鉄株式会社との合併契約にもとづく合併の合併期日前に、富士製鉄株式会社釜石製鉄所の鉄道用レール製造用附席設備を、別紙1の1、2の契約および覚書(案)にもどづいて、日本鋼管株式会社に譲渡しなければならない」

と、合併期日前(合併実行前)に、同意審決がなされていますので、実務の運用では、実行前に排除措置命令が出せるということになるのでしょう。

いずれにせよ、現行の企業結合の審査手続、排除措置命令に関する手続は、著しく不備だと思います。

公取委が90日以内に結論を必ず出さないといけないというのも、ある意味、当事者にとっても使い勝手が悪いですし(当事者が申し出れば期限を延ばせるようにすべき)、問題解消措置をどのように排除措置命令に盛り込むのか(その手続やタイミング)も、はっきりしません。

これらについても大幅に改正をすべきですが、その際には、17条の2の文言も、ぜひきちんと、実行前に命令が出せることが明らかになるように、修正していただきたいものです。

2011年6月21日 (火)

企業結合の届出における報告等要請の回答期限

企業結合の届出において、2次審査に進む場合には、届出受理から30日以内に、報告等要請というのが、公取委からなされます(株式取得の場合につき独禁法10条9項)。

これには所定の書式があって、例えば株式取得なら様式第31号というものです(書式は、6月14日プレスリリースの別紙1で見られます)。

そこには簡単に、

「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「法」という。)第10条第2項(同条第5項の規定によりみなして適用する場合を含む。)の規定により提出され,平成○年○月○日付け公○株第○号をもって受理した貴社の株式取得に関する計画に関する調査のため必要がありますから,下記事項について提出してください。」

と書かれています。

この書式にはとくに明示されていませんが、実際には、1ヶ月以内とか、報告等の提出期限が書かれることもあるかも知れません。

ただ、法律上は、そのような提出期限に関する規定はありません。

もちろん、提出期限内に報告が間に合わなくても、罰則はありません。

ただ、必要な報告等を行わないと、2次審査の期限が延びるだけ、ということになります(2次審査の期限は、基本的に、必要な報告等が終わってから90日間なので。独禁法10条9項など)。

逆に、全部報告を行わないと公取委の結論が絶対に出ないかというと、そういうことはありません。

法律上は、公取委が判断するのに必要な情報が揃ったと考えれば、90日の2次審査の期間満了のだいぶ前であっても、結論を出すことは、何ら問題ありません。

2011年6月20日 (月)

モバゲーへの排除措置命令について

モバゲーを運営するDeNAが、グリーの取引を妨害したということで、6月9日に排除措置命令が出ました。

ちょっとびっくりしたのは、一般指定14項の取引妨害が適用されたことです。

一般指定14項の取引妨害というのは、

「自己・・・と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止・・・その他いかなる方法をもつてするかを問わず、その取引を不当に妨害すること。」

というものです。

つまり、

モバゲーが、

「自己・・・と国内において競争関係にある他の事業者」(=グリー)と、

その取引の相手方(=ゲームメーカー)との取引を、

不当に妨害した、

という法律構成です。

確かに14項の文言には当たりそうなので、こういうのも取引妨害といっていいのかもしれません。

でも、こういうケースは、排他条件付取引として処理すべきなのではないでしょうか(モバゲーが、ゲームメーカーに、自分とだけ取引することを要求した)。

あるいは、間接の取引拒絶というのも考えられます(モバゲーが、ゲームメーカーに、グリーとの取引を拒絶させた)。

もともと取引妨害というのはいろんなパターンがあって、本件のような場合には、正当なお客さんの奪い合いと紙一重というケースもあり得ます。

あるいは、民法の不法行為で処理すれば充分であって競争法の問題か疑問、ということもあります。

ですので、他の違反類型で処理できそうなケースまで取引妨害で処理されるとなると、不公正な取引方法の守備範囲が際限なく広がりかねない気がします。

プレスリリースの英訳も出ていますが、こういうケースが日本ではinterference with a competitor's transactions で違法になる、と欧米のローヤーに説明したら、驚いて目を丸くするのではないでしょうか。

(ちなみに、 a competitor's という単数であって、competitors' ではないことにも注意。)

どうして排他条件付取引や間接の取引拒絶ではなくて取引妨害でいったのか、理由を想像すると、

①排他条件付取引の要件は満たさなかった(グリーの売上が落ちなかったなど、競争減殺が立証できなかった?)、あるいは間接の取引拒絶の要件は満たさなかった(グリーへの提供が拒絶されたゲームは、いわゆるキラーコンテンツと言えるほどのものではなかった?)、

②グリーを狙い撃ちにしたところが、いかにも「妨害」っぽかった、

あたりが考えられます。

しかし、①だとすると、そういうケースは警告くらいで良かったんじゃないかという気がしますし、②は、そもそも法律論の体をなしていません(書いた自分が言うのも何ですが)。

そのうち担当官による解説が「公正取引」に載ると思われますが、注目したいところです。

最後に余談ですが、

「不公正な取引方法が出たら、どんな違法類型でも必ず取引妨害も検討する」

なんていうのが、司法試験の採点基準にならないことを、強く望みます。

2011年6月18日 (土)

再販売価格維持におけるフリーライド論の妥当範囲

最近、京都大学の川濱教授の「再販売価格維持規制の再検討」という論文を読んで、フリーライド論について、なるほどと納得したことがあったので、私なりに自分の頭の中を整理しておきます。

(なお、この論文は本来、「第5章 現行法解釈と展望」で完結するはずなのに、第5章がありません。第5章の発表が待ち遠しいです。)

再販売価格維持を正当化する根拠として、いわゆる「フリーライド論」というのがあります。

「フリーライド論」というのは何かといえば、例えば、洋服などを百貨店で試着して、気に入ったら、その百貨店では(値段が高いので)買わずに、値段の安いネットショップで買う、というような問題です。

このようなことをされると、試着室分のスペースを借りて店員も雇って試着サービスを提供している百貨店は、そういうコストを負担していないネットショップにはコスト面で太刀打ちできないので、たまったものではありません。

この場合、ネットショップが、百貨店の「試着サービス」にフリーライド(ただ乗り)している、と考えます。

そして、このようなフリーライドを防ぐのに、再販売価格が有効である、といわれることがあります。

つまり、メーカーが再販売価格維持をすると、コストの安いネットショップも、コストの高い百貨店と同じ値段で販売することを強制されるので、安値でお客さんを引きつけることができません。

そうすると、商品は同じものを売っている以上、商品の品質で勝負するということはあり得ないので、お客さんを引きつけるためにはサービスで勝負するしかないことになります。

そうすると、再販売価格維持によって、百貨店もネットショップも、十分にサービスを提供するようになるだろう、という理屈です。

これが、フリーライド論による再販売価格維持の正当化です。

これは一見なるほどと思えるのですが、現実にはそれほど話は単純ではありません。

まず、このようなフリーライドされるサービスというのは、実は余り多くありません。

先ほど述べた、試着サービスは、フリーライドされるかもしれませんが、実は、試着した服と全く同じものが、安売りネットショップで見つかるかどうか分かりません。

そう考えると、案外、フリーライドは杞憂かもしれません。

他には、「高級百貨店の優雅な環境で快適にショッピングできるサービス」というのも、フリーライドのしようがありません(百貨店でショッピングの気分だけ味わって、後で同じものをネットショップで買うという人は、ほとんどいないでしょう)。

さらに、仮にフリーライド問題が起きるようなサービスの場合であってすら、フリーライド問題の解決策として再販売価格維持は不十分だということです。

「なんとなれば、フリーライドされ得る『サービス』の提供を怠って、それ以外の消費者にとって魅力的な『サービス』を提供する戦略が小売り店にとって有利となるはずだから」

です(法学論叢137巻1号13頁)。

上記の試着サービスの例でいえば、再販売価格維持を行っても、もし試着サービスがフリーライド可能なサービスなのであれば、ネットショップは、試着サービスを提供せずに、その他のサービス(たとえば無料配送サービス)を提供するのが、利益の最大化になります。

(ここで注意を要するのは、仮に、

①試着サービスによって消費者が得る満足度(限界便益)の方が無料配送サービスによる満足度よりも大きく(=試着サービスのほうが消費者にとって価値が高い)、

かつ、

②無料配送サービス提供のコスト(限界費用)が試着サービス提供の限界費用よりも大きい(=小売店にとっては、試着サービスを提供する方が安上がり)、

としても(つまり、試着サービスのほうが明らかに費用対効果に優れるサービスであっても)、消費者が百貨店で試着後ネットショップで購入するのにコストがかからない場合(あるいは、そのような面倒をまったく厭わない)のである限り、フリーライドは起こりうる、ということです。)

つまり、再販売価格維持をしても、メーカーが思うようなサービスを小売店が提供する保証は、まったくないわけです。

いいかえれば、問題となっているサービスがフリーライド可能なものであれば、再販売価格維持をしようがしまいがフリーライドは起きるし、フリーライド不可能なものであればもともとフリーライド防止のために再販売価格維持を行う必要はない、ということです。

また同論文では、再販売価格維持が行われる商品の多くは、小売段階で陳列棚の見やすい位置に置いてもらったり、推奨販売してもらうことによって売上が大きく左右されるタイプの商品であるが(例えば、粉ミルク、ドリンク剤、大衆薬品、化粧品)、こういう棚の取り合いによる売上増は、

「せいぜい単に生産者間での余剰の移転をもたらすだけで『経済的厚生』の増加にはつながらない。」

と指摘されています(法学論叢137巻1号20頁)。

この論文を読んでの感想として、価格制限が非価格制限に比べてはるかに競争制限的であるというのには、充分な理由があるんだな、と納得がいきました。

あと、うまく一言で表現できませんが、流通網には、流通網独自の規模の経済や範囲の経済など、メーカー(1つのブランド)では到底達成できない効率性があるのだから、流通網を、たんにメーカーにとっての「消費者へのアクセスサービス」というインプットの1つと考えるのは誤った認識である、ということもよく分かりました。

同様に、メーカーが自分で売るときには自分で値段を決めて良いのに他人(小売店)に売らせる時にその値段を決める(再販売価格維持)のがなぜいけないんだ、という主張は、小売店の自由な意思決定という観点(←ただし、私はこの理屈には依然として懐疑的です。小売店はメーカーと契約関係に入るときに、そのような契約を受け入れるかどうかという「自由な意思決定」ができるのですから。)から誤りであるだけでなく、経済効率性の観点からも誤りである、ということも納得がいきました。

経済学の基礎知識がないと読みこなすのが大変ですが、再販売価格維持に対する理解が大いに深まる論文です。

2011年6月16日 (木)

改正企業結合ガイドラインパブコメ回答など

6月14日に、企業結合ガイドラインなどの改正が公表されました。

その中で、パブコメへの回答に、いくつか興味深いものがあったので、メモしておきます。

まず、回答で、企業結合届出書の「国内の市場における地位」については、

「日本標準産業分類にこだわらず,届出会社が最も適当と考える資料に基づいて記載していただければよく,販売金額でみたシェアに限らない。」

と明記されています(「企業結合規制(審査手続及び審査基準)の見直し案に対する意見の概要とこれに対する考え方」p3)。

「産業分類コード」に従って記入する必要はないというのは、今までの運用を変更するものではありませんが、「届出会社が最も適当と考える資料に基づいて記載していただければよく」というのは、けっこう思い切った回答だなあと思いました。

もちろん、どんな市場画定でも良いわけではなく、合理的なものでないといけないと思いますが、届出会社は自分のシェアを低く見せたいというインセンティブがあるので、この回答をみて、堂々と広めの商品市場を基準に届け出てくる会社(や、そういうアドバイスをする弁護士)が増えやしないかと、ちょっと心配です。

次に、

「今般の見直しにおいて,届出会社の負担に配慮し,届出様式において,「届出会社が保有する株式に係る議決権の数の総株主の議決権の数に占める割合が100分の10を超える会社」(同2(5)など)の項目を削除し,10%超20%以下の議決権を保有する会社の報告を求めないこととした。」

とあります(p5)。

これは実務的に大きいですね。

いままでは、届出会社が10%超の議決権を有する会社まで調べて届け出なければいけなかったので、少数出資をたくさんしている会社だったりすると、全部調べ上げるだけでも大変でした(特に外国会社の場合)。

やっぱり20%未満くらいの出資では意味がないということで落ち着いたのでしょうね。大変結構なことだと思います。

次に、実行日のどれくらい前から届け出られるのか、という点について、

「今般の見直しに併せて,原則として実行予定日から遡って1年を超えない範囲内であれば届出書を受け付けるという運用に変更する。」

と回答されています(p12)。

今までは、事前相談があることを前提に、法律上の届出は実行日の原則として6ヶ月前以降であれば受け付けていたのが、1年に延びたということです。

事前相談では1年以上かかることもまれではなかったことを考えると、1年以上後に実行する取引でも届出受理してくれても良さそうなものですが、この回答はむしろ、どんな審査でも1年以内に終わらせるという公取委の宣言とみるべきでしょう。

そう考えないと、早めに(1年以上前に)届け出たくても受理されないし、かといって、実行まで1年を切ったので届け出たら1年経っても審査が終わらないし、という板挟みの状態になってしまいます。

大型案件だと、さすがに審査が1年で終わるか不安なので、現在の事前相談のようなことはしないとしても、届出前のかなり早い段階(実行の1年以上前)で、事実上、公取委に事案の詳細を説明しておく、ということが慎重な対応なのかもしれません。

でも私は、やはり1年で終わらせるという宣言だと解したいです。

次に、届出後の報告要請(追加情報の要求)の回数について、

「独占禁止法第10条第9項・・・は,報告等の要請に関し回数の制限は設けていないが,届出受理の日から30日を経過した後に新たな報告等の要請を行うことはないため,実際の運用としては,報告等の要請は,通常1回となると考えられる。」

と回答されています。

事前相談では、運用基準の期限の後でも第2弾、第3弾の追加質問があったことを考えると、これは大変結構なことです。

念のため条文を確認すると、独禁法10条9項では、

「公正取引委員会は、《排除措置命令》を命じようとする場合には、

前項本文に規定する三十日の期間・・・(公正取引委員会が株式取得会社に対してそれぞれの期間内に・・・必要な・・・「報告等」・・・を求めた場合においては、前項の届出受理の日から百二十日を経過した日とすべての報告等を受理した日から九十日を経過した日とのいずれか遅い日までの期間)内に、

株式取得会社に対し、第四十九条第五項の規定による通知《事前通知》をしなければならない。」

とされています。

この条文によると、確かに、報告等要請の回数は制限がなく、2回でも3回でも良さそうです。

ですので、届出受理から30日(待機期間)以内である限り、何度でも報告要請はできそうです。

でも、通常は1回だ、というのが上記パブコメ回答です。

では、待機期間後に報告等要請をすることはあるのでしょうか。

ない、というのが上記パブコメ回答です。

条文上も、待機期間後には報告等要請はできない、と解すべきでしょう。

仮に報告等要請(所定の書式でなされます)が待機期間後になされたとしても、その要請に応えなくても90日の審査期間は開始する、と解されます。

逆に言えば、待機期間後であっても、任意の「報告依頼」はなされる可能性はあります。

ただ、そのような報告依頼には、それに応えないと90日間がスタートしないという効果(いわば、時計の針を止める効果)が無い、ということになります。

ですので、極論すれば、公取委が100個の質問をしたいときに、待機期間内に1個だけでも「報告等要請」しておけば、時計の針は止まるわけですが、そういうことをすると、その1個の質問に答えれば90日の期間がスタートしてしまうので、充分な審査期間を確保したい公取委としては、できるだけ全ての質問を、待機期間内に、報告等要請の形でしておく必要があるわけです。

と、理屈の上ではいろいろな問題が考えられるわけですが、パブコメ回答で明確な回答がなされたので、今後は、「報告等要請は30日以内に1回だけが原則」という運用が定着すると思われます。

2011年6月 8日 (水)

組合による事業譲受と届出

平成21年独禁法改正で、組合による株式取得についても、届出が必要になりました(ただし、組合を支配する親会社が存在する場合に限って)。

では、組合が事業を譲り受ける場合には、届出は必要でしょうか。

結論としては、不要と考えます。

というのは、組合による株式取得を定めるのは独禁法10条5項で、

「会社の子会社である組合・・・の組合員・・・が組合財産・・・として株式発行会社の株式の取得をしようとする場合・・・には、当該組合の親会社・・・が、そのすべての株式の取得をしようとするものとみなし、会社の子会社である組合の組合財産に株式発行会社の株式が属する場合・・・には、当該組合の親会社が、そのすべての株式を所有するものとみなして、第二項の規定を適用する。 」

とされていますが、事業譲受に関する16条3項では、10条8項から10項までは準用されているものの、10条5項を引用していないからです。

これで話は終わりかと思って念のため立案担当者の10条5項についての解説を見たら、ちょっと気になることが書いてあります。

つまり、藤井他編「逐条解説平成21年改正独占禁止法」(商事法務)p117では、

「旧法における事後報告制の下の運用では、会社が法人格のない組合を通じて株式発行会社の株式を取得する場合には、当該組合自身には法人格がないこと、民法の規定に組合財産は総組合員の共有に属するとの定めがあることから、当該組合に出資を行っている組合員がその出資の割合に応じて当該他の会社の株式を取得するものと解されていた。」

とされています。

だけどそれだと、業務執行権限の無い組合員は組合が取得した株式の議決権割合を把握できないことも多く不都合だったので、新法で、組合が全部を取得するとみなすことにした、という説明です。

でも、組合による株式取得の場合に、

「組合員がその出資の割合に応じて当該他の会社の株式を取得する」

と解されていたのなら、組合による事業譲受の場合にも、

「組合員がその出資の割合に応じて当該他の会社の事業を取得する」

と解されていた、ということになるはずです。

だとすると、株式取得の場合の10条5項のような規定が新法で導入されなかった事業譲受の場合には、引き続き、旧法での解釈が生きている、と解することになりそうです。

とすると、M1社、M2社、M3社がP組合を組成し(出資は3分の1ずつ、議決権は1票ずつ)、組合PがX社のT事業を譲り受けた場合、T事業の国内売上高が届出基準の3倍を超えていれば、M1~M3社はそれぞれ届出基準を上回る国内売上高を持つ事業を譲り受けたことになり、届出が必要、となりそうです。

しかし、それはちょっとおかしいように思います。

そもそも旧法下での説明がおかしいです。

組合が株式を取得した場合に組合員の共有になるというのは正しいですが、それは、例えば他社の株式90株を組合員A、B、Cからなる組合が取得した場合に、それぞれの1株1株がA、B、Cの3分の1の共有(正確には、民法264条の準共有)になるということであって、Aが30株、Bが30株、Cが30株所有することになるわけではありません。

そして、会社法上、株式の共有者は、株主の権利を行使すべき者1人を定めて会社に通知することを要し(会社法106条)、その者だけが株主の権利を行使できます。

権利行使者の指定を欠く共有株式については、会社が共有者全員が共同して行使する形(最判平成11年12月14日・判時1699号156頁)か、その他の権利行使(議決権の不統一行使等)に同意した場合(会社法106条但し書き)を除き、誰も権利行使できないことになっています(江頭「株式会社法(第3版)」p118)。

つまり、A、B、Cが、30株ずつ単独所有するのと、90株を3人で共有するのとでは、全然意味が違うわけです。

にもかかわらず、30株ずつ各自単独所有したかのように旧法下で運用されていたとしたら、その方がおかしいと思います。

(なお、会社に対抗できない議決権でも競争法上は届出させる必要性があるなど、競争法独自の観点が必要ではないか、という議論はあり得ますが、株式共有の場合の共有者の権利は会社法という強行法規で定められているのであり、そのことは重く捉えるべき(=各自30株の単独所有と捉えるべきではない)と思います。)

また、3分の1の共有持分を90株分保有していることを30個の単独議決権保有と同視するのは、独禁法10条の文言にもそぐわないと思われます。

では翻って、組合が事業を譲り受けた場合は、どう考えるべきでしょうか。

やはり、届出は不要と考えるべきでしょう。

株式取得の場合と同様、3分の1しか持分がないということは、当該事業に対して単独では決定できないということであり、3分の1の売上分の事業を単独所有しているのとは、わけが違います。

また、世の中では、組合の株式取得について新法で届出義務が課された、と理解されているのが通常でしょうから、その準用のない事業譲受については、届出不要、と理解する(反対解釈)のが通常と思われます。

なのに届出必要と解するのは、不意打ちもいいところです。

ですので、旧法下での組合による株式取得に関する運用は理論的には誤っていたので無視して差し支えなく、組合の株式取得について届出制が導入された新法では事業譲受については届出不要ということが一層はっきりした、と理解すべきです。

2011年6月 7日 (火)

企業結合届出規則の改正案について

平成23年3月4日に公表された企業結合届出規則改正案について、メモしておきます。

まず、改正届出規則7条の2(意見書及び資料の提出)で、

「届出会社は、

公正取引委員会が企業結合届出書を受理した日から

法第四十九条第五項〔注:排除措置命令の事前通知〕

又は

第九条〔注:排除措置命令の事前通知をしない旨の通知〕

の規定による通知を行う日までの間、いつでも、

公正取引委員会に対し、意見書又は審査に必要と考える資料を提出することができる。」

と、企業結合審査において当事者から意見や資料を提出できる旨が明記されました。

当然のことを確認的に規定したもの、ということができますが、「提出することができる」と書いてあるだけなので、提出したものを公取委が考慮してくれるかどうかは分かりません。

でも、わざわざ「提出することができる」と規定したのですから、実際には、当然、提出したものは考慮してくれるのだろうと思われます。

それでも、あまり期限のぎりぎりになって提出すると、事実上、考慮されないということはありえますから、余裕を持って提出することが望ましいでしょう(「企業結合審査の手続に関する対応方針(案)」にも、その旨の記載がありました)。

意見や資料を提出できるのは、「届出会社」なので、例えば、株式取得なら取得会社は提出できますが、株式発行会社や譲渡会社は、この条文に基づいては、提出できないことになります。

ただ実際には、これらの関係者が意見を提出するのに公取委が拒むということもないでしょうし、6月1日付の新日鉄と住友金属に関する意見募集のように、メジャーなケースでは第三者の意見が募集されるでしょうから、そのような募集がなされたらそれに従って提出すればよい、とも言えます。

(ただ、この第三者意見募集手続によれば、「情報提供者が特定される形で当事会社を含め外部に開示することはありません。」とされているので、実質当事者的な株式発行会社をこの手続に乗せるのはちょっと変な感じがします。やはり、届出規則案7条の2は、確認規定に過ぎない、と整理するのでしょう。なので、株式発行会社の意見書も、事実上、届出会社の意見書と同等の扱いで提出する。)

次に、届出規則案8条では、企業結合の届出について、独禁法10条9項などに基づき報告等要請を行う場合には(この要請がなされると、公取委の審査期間が原則報告等の受理から90日間に延長されます)、

「当該報告等要請書には、報告等を求める趣旨を記載するものとする。」

とされています。

どの程度詳細に「趣旨」が記載されるのかは、実務の運用次第ですが、詳細な趣旨の説明がないからといって規則違反だどうだという話でも無いでしょう。

でも例えば、当事会社間で重複しない商品について細々と聞かれたりすると、どうしてこんな質問に答えないといけないんだって感じることもあるでしょうから、そういうときには、趣旨の記載というのも意味があるかも知れません。

続いて、届出規則案9条(排除措置命令前の通知をしない旨の通知)では、

「公正取引委員会は、企業結合届出書に係る株式の取得・・・について法第四十九条第五項の規定による通知をしないこととしたときは、届出会社に対し、様式第四十三号・・・による通知書を交付するものとする。」

と、措置を取らない旨の通知をすることとされています。

現行の規則では、そのような通知をすることにはなっていませんし、実際にもそのような通知はなされていません(事前相談すらしない形式的な届出が実務上は圧倒的多数であることからすれば、当然かもしれません)。

この点、改正規則では、全ての案件について、このような不処分の通知をすることになるようです。

つまり、3月4日の意見募集では、

「独占禁止法上問題がなく,報告等の要請を行わない案件について,事前通知をしない旨を書面で通知することとします。」

とされています。

なお、報告等要請を行った場合には、

「当委員会が報告等の要請を行った案件について,独占禁止法上問題がないと判断したときは,届出会社に対し,事前通知をしない旨を書面で通知し,審査結果について,その理由も含め説明することとします。また,そのような案件については,原則として公表することとします。」

とされています。

この不処分通知をする時期については、特に規則上限定はありませんから、不処分を決定したら速やかに通知する、ということになるのでしょう。

またこの不処分通知は、法律の規定に基づくものではありませんから、理屈の上では、(規則上の)不処分通知をした後でも、法律上の期限内(独禁法10条9項)であれば、事前通知をなし得ると解する余地もありますが、やはり常識的に、不処分通知の後は、事前通知はできないと解すべきでしょう。

でもこういうことは、できれば法律に書いた方が良いのかも知れません。

ちなみに、例えば様式第43号(株式取得の場合の不処分通知)によると、この通知というのは、

「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第10条第2項・・・の規定により提出され,平成○年○月○日付け公○株第○号をもって受理した貴社の株式取得に関する計画については,同法第49条第5項の規定による通知をしないこととしましたので,昭和28年公正取引委員会規則第1号第9条の規定により,その旨を通知します。」

というような、簡単なものです。

なお届出規則の改正ではありませんが、それと併せて改正予定の企業結合ガイドラインでは、待機期間が短縮される場合が大幅に広がることが重要です。

つまり現行ガイドラインでは、

①競争の実質的制限がないことが明らかで、

かつ

②禁止期間を短縮することについて合理的な理由がある場合

であることが短縮の要件で、しかも②としては、

「一定期日までに株式取得等をしなければ,当事会社の事業に支障(例えば,会社の倒産,従業員の離散,得意先の喪失等)が生じる蓋然性がある場合,当事会社が行う公開買付けにおいて,届出受理の日から30日を経過するまでに株式取得に係る決済が終了する場合などがこれに該当する。」

と、倒産やTOBの場合に限定する書きぶりだったのが、改正案では、

①競争の実質的制限がないことがあきらかで、

かつ

②禁止期間を短縮することについて届出会社が申し出た場合、

には、短縮するとしています。

つまり、統合シェアが低いなど明らかに問題ない事例であれば、当事者が申し出さえすれば、30日の禁止期間が短縮される、ということです。

とはいえ、どの程度短縮されるかは短縮理由次第と思われ、例えばTOBの場合でしたら、決済が終了する前日までに短縮されるのでしょうか。

でも、問題ないケースは原則短縮する、という方針を徹底すれば、1日に短縮して受理日の翌日(あるいは、0日に短縮して受理日と同日?)で待機期間満了、という運用が定着してもおかしくないと思います。

なお、30日の禁止期間の短縮の根拠規定は独禁法10条8項但し書きで、

「公正取引委員会は、その必要があると認める場合には、当該期間を短縮することができる。」

とされています。

このように、法律上の短縮要件は、公取委が短縮の必要性を認めた場合であるのに、ガイドラインで、必要性の有無にかかわらず短縮を認める(つまり、法律の規定よりも幅広く短縮を認める)というのは、日本のお役所的な発想からすれば、実は画期的なことなのかもしれません。

2011年6月 4日 (土)

「並びに」と「及び」と「、」(読点)

よく法令の読み方の基本として、「並びに」と「及び」の違いが説明されたりします。

そして、

1段階だけの接続の場合には「及び」だけを使うけれど、

2段階以上の接続の場合には、大きいグループの接続には「並びに」を使い、小さいグループの接続には「及び」を使う、

という説明がなされるのが一般的です。

しかし、これだけでは条文を読み解くには不十分で、もう一つ押さえておくべきポイントがあります。

それは、「、」(読点)の使い方です。

まず、通常の「及び」と「並びに」の使い方の説明の仕方を見てみましょう。

例えば独禁法7条の2第5項1号(中小企業の場合の課徴金の軽減)では、

  第一項の場合において、当該事業者が次のいずれかに該当する者であるときは、同項中「百分の十」とあるのは「百分の四」と、「百分の三」とあるのは「百分の一・二」と、「百分の二」とあるのは「百分の一」とする。

 資本金の額又は出資の総額が三億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が三百人以下の会社及び個人であつて、製造業、建設業、運輸業その他の業種・・・に属する事業を主たる事業として営むもの」

とされています。

では、1号で、課徴金が軽減されるのは、どのような企業でしょうか。

(「製造業・・・」以下は、業種を表す要件で、その前の全部にかかるのが明らかなので、「であつて」の前の、企業規模の要件だけを見てみましょう。)

まず、「並びに」は、大きなグループを繋ぐので、「並びに」の前と後で、大きく分かれます(このように、「並びに」の前と後で大きく分ける、という視覚的なイメージを持つことが大事です)。

つまり、

①「資本金の額又は出資の総額が三億円以下の会社」

②「常時使用する従業員の数が三百人以下の会社及び個人」

に分かれます。

次に、「及び」に注目です。

②は、文章の意味も踏まえて素直に読めば、

A:「常時使用する従業員の数が三百人以下の会社」と「常時使用する従業員の数が三百人以下の個人」

という読み方が通常でしょう(また、それが正解です)。

でも、形式的には、

B:「常時使用する従業員の数が三百人以下の会社」と「個人」

という読み方も可能です(この場合、例えば常時1万人の従業員を使用している個人事業者は課徴金が軽減される)。

しかしこの場合、単に文脈でAの読み方をするというだけでなく、「並びに」と「及び」の使い方のルールとして、Bの読み方はあり得ないことになっています。

つまり、「及び」の前後の「会社」と「個人」はひとかたまりのイメージになっていて、その前の「常時使用する従業員の数が三百人以下の」は、そのかたまりにかかるイメージです。

なので、どうしてもBのような軽減事由を立法したいときには、

「個人及び資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下又は常時使用する従業員の数が三百人以下の会社」

とでもして、誤解の無いようにするのだと思います。

もう1つ、判決から例を挙げると、東洋精米機事件という有名な独禁法の判決文に、

「3馬力以上50馬力以下の精米機、混米機及び処理能力毎時30俵以下の石抜撰穀機(いしぬきせんこくき)」

というくだりがあります。

これは、

①3馬力以上50馬力以下の精米機、

②混米機(馬力は問わず)、

③処理能力毎時30俵以下の石抜撰穀機、

と読むのが正しいです。

理屈の上では、

①’3馬力以上50馬力以下の精米機、

②’3馬力以上50馬力以下の混米機、

③’処理能力毎時30俵以下の石抜撰穀機、

という読み方もあり得ますが、そうは読みません。

もしそういう読み方をさせたいのであれば、

「3馬力以上50馬力以下の精米機及び混米機並びに処理能力毎時30俵以下の石抜撰穀機」

とすべきでしょう。

このような暗黙のルールの根底には、

「3馬力以上50馬力以下の精米機混米機及び処理能力毎時30俵以下の石抜撰穀機」

の、「」のところで、意味が大きく途切れる(つまり、「、」の前の「精米機」の前の「3馬力以上50馬力以下」という修飾句の影響力を、「、」の後に及ばないように遮断する)という了解があるのだと思われます。

まとめると、

「並びに」と、「及び」は、つなぐ、

「、」は、はなす、

ということです。

しかし、こういう暗黙のルールというのは、法律に縁が薄い人には極めて分かりにくいものです。

「3馬力以上50馬力以下の精米機及び混米機並びに処理能力毎時30俵以下の石抜撰穀機」

という文章でも、論理的には、

①3馬力以上50馬力以下の精米機、

②混米機(馬力は問わない)、

③処理能力毎時30俵以下の石抜撰穀機

という読み方が不可能かというと、全然そんなことはないと思います。

実に、法律家の各文章というのは、難しいものです。

2011年6月 1日 (水)

事業者団体の構成事業者への課徴金の疑問

事業者団体が不当な取引制限に相当する行為をした場合には、当該違反行為の実行としての事業活動をした構成事業者に課徴金が課されることになっています(独禁法8条の3)。

しかし、8条の3の仕組みは、じっくり読むと、よく分からないところがあります。

8条の3の第1文では、(事業者に対する課徴金に関する規定である)7条の2の各項の規定を、

「第八条第一号(不当な取引制限に相当する行為をする場合に限る。)・・・の規定に違反する行為が行われた場合に準用する。」

とされています。

そして、8条1号というのは、柱書きとともに引用すると、

第八条  事業者団体は、次の各号のいずれかに該当する行為をしてはならない。

 一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。

(2号以下、省略)」

というものです。

当然ですが、8条1号に違反する行為を行う主体は、事業者団体です(柱書きの「事業者団体は、・・・」)。

ということは、8条の3第1文の、

「第八条第一号(不当な取引制限に相当する行為をする場合に限る。)・・・の規定に違反する行為が行われた場合に準用する。」

のかっこ書きの中の、

「(不当な取引制限に相当する行為をする場合に限る。)」

といっている、「行為をする」の主語も、事業者団体であると解さざるを得ません。

なぜなら、8条1号の行為の主体が事業者団体なのですから、それを限定する事由を定めるかっこ書きの行為の主語も、論理的に、事業者団体であると考えざるを得ないからです(事業者団体の行為の中から、違法なものを構成事業者の行為に限定する、というのは、論理が破綻しています)。

そして、「不当な取引制限」は、競争者による共同行為であると解されています(2条6項の「相互に」という文言から、そこまで読み込むのが判例になっています。私は、そこまで読み込むのは深読みのし過ぎだと思いますが)。

つまり、

「(不当な取引制限に相当する行為をする場合に限る。)」

というのは、

「(事業者団体が、競争する他の事業者団体と共同して、不当な取引制限に相当する行為をする場合に限る。)」

と読むのが文言に忠実な論理的解釈、ということになります。

しかし、それ誰が考えても変でしょう。

もちろん、8条の3が想定しているのは、事業者団体が旗を振って、その構成事業者に、カルテル等の不当な取引制限をさせる場合です。

ですので、

「(不当な取引制限に相当する行為をする場合に限る。)」

というのは、

「(不当な取引制限に相当する行為を構成事業者にさせる場合に限る。)」

というふうに読むのだと思います。

文言に忠実に読むと、例えば、東京弁護士会と、第一東京弁護士会と、第二東京弁護士会が、弁護士報酬についてカルテルの合意をするというような場合が8条の3に該当することになりそうですが(余り良い例が思いつかず、すみません・・・)、そういう場合が8条の3の場合に該当しないとは思いませんが、少なくとも、それが8条の3が想定する典型例と言われると、大いに異論を唱えたくなります。

理屈の上では、構成事業者に不当な取引制限をさせる場合に限らず、その他の者、例えば構成事業者の取引先に不当な取引制限をさせる場合もあり得そうですし、そうすると、より一般的に、

「(不当な取引制限に相当する行為を事業者にさせる場合に限る。)」

と読むべきなのかもしれませんが、おそらく、事業者団体がその構成事業者の取引先に不当な取引制限をさせた場合に構成事業者に課徴金を課すべきとは誰も考えないので、不当な取引制限に相当する行為をするのは構成事業者で、させる主体は事業者団体、という読み方が正しいのでしょう。

あるいは、仮に、

「(不当な取引制限に相当する行為を事業者にさせる場合に限る。)」

という読み方をしても、構成事業者には、違反行為の実行としての事業活動がない(構成事業者自身はカルテルをしていないので)ので、結果として課徴金はゼロになる、というのでも、結論としては構わないのかも知れません。

あるいは、(ひょっとしたらこれが立法者の意図かも知れませんが)

「(不当な取引制限に相当する行為をする場合に限る。)」

の「相当する」のという部分で、不当な取引制限を構成事業者にさせることが、事業者団体が不当な取引制限に相当する行為をしていることなのだ、と読む(擬制する)のかも知れません。

しかし、それも何だか結論先にありきのような読み方だと思います(この読み方でもやはり、不当な取引制限をさせる対象が構成事業者に限られるという解釈は出てきませんし)。

むしろ、なぜ「相当する」という表現を使っているのかを、私なりに素直に考えてみると、8条1号では事業者団体の違反行為の行為態様に限定がないので、課徴金の8条の3では、

「競争の実質的制限という、実質は備えているけれども形式的には無限定な(8条1号の)潜在的課徴金対象行為を、不当な取引制限に相当する行為、という絞りをかけて絞った」、

つまり、形式面のみを絞るニュアンスを出すために、「不当な取引制限」で絞るのではなく、「不当な取引制限に相当する行為」で絞ったのだ、ということではないでしょうか(つまり、「不当な取引制限に相当する行為」というのは、不当な取引制限の形式要件を満たす行為を意味することになります)。

8条1号の実質要件も、「不当な取引制限」の実質要件も、競争の実質的制限で同じなので、8条の3第1文のかっこ書きで実質要件も重ねて絞ったって構わないはずですが、論理的重複を避けるというのは、立法技術としては分からないではありません。

いずれにせよ、このように文言を足して読まなければいけないというのは、法律の条文として、ちょっとどうかと思います。

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