外国競争当局との情報交換と守秘義務
平成21年改正により、公取委と海外競争法当局との情報交換に関する規定が独禁法に設けられました(43条の2)。
同条1項では、
「公正取引委員会は、・・・外国競争当局・・・に対し、その職務・・・の遂行に資すると認める情報の提供を行うことができる。」
とされています。
しかし、このことは、公取委がどんな情報でも外国の当局と交換できることを意味するわけではありません。
というのは、公取委の職員は、守秘義務を負っているからです(独禁法39条)。
この点、43条の2第2項では、
「公正取引委員会は、外国競争当局に対し前項に規定する情報の提供を行うに際し、次に掲げる事項を確認しなければならない。
(一号 省略)
二 当該外国において、前項の規定により提供する情報のうち秘密として提供するものについて、当該外国の法令により、我が国と同じ程度の秘密の保持が担保されていること。
(三号 省略)」
とされており、2号をみると、秘密情報も外国の当局に提供されることが予定されているのですが、だからといって、無制限に(守秘義務に反して)情報交換をしていいことにはなりません。
実際にも、公取委が当事者から入手した秘密情報を海外の当局と交換する場合には、当事者から同意を得ており、このような同意書は「waiver」と呼ばれています。
つまり、
①当事者から得た秘密情報を外国当局と交換するには、当事者の同意が必要(39条)、
②仮に当事者から同意を得ても、秘密の保持が担保されていない当局とは情報交換しない(43条の2第2項2号)、
ということです。
厳密に言えば、守秘義務の対象は「秘密」(39条)なので、「秘密」に該当しない情報であれば当事者の同意がなくても交換できるわけですが、秘密かどうかは微妙なことも多いですので、公の情報以外は基本的に秘密情報として扱うべきでしょう。
また、公取委が知った「事業者の秘密」は、「職務に関して知得した」(39条)ものであれば守秘義務の対象となるので、審査の対象になっている当事者から受け取った情報に限らず、第三者に対して審査権限を行使して任意または強制的に得た情報であっても、守秘義務の対象となると考えられます。
理屈を言えば、独禁法39条のような公法上の義務を、私人の同意により解除できるのか、という問題があり得ますが、当の本人が構わないといっているのですから、目くじらを立てることはないでしょう。
なお、独禁法39条では、「事業者の秘密」となっていますので、事業者でない法人や個人の情報は、同条の守秘義務では保護されないことになります。
これは、独禁法では違反者は事業者に限られることになっていることに引きずられたものと思われますが、公取委が審査の過程で事業者でない者から情報を得ることもあるでしょうから、あまり合理的な規定ではないと思います。
そのような場合は、国家公務員法100条の一般的な守秘義務で保護されることになります。
また、違反者が違反行為をした事実なんていうのは、最も秘密にしたい事実でしょうから、当然、守秘義務の対象になると考えられます。
したがって、被疑者自身の同意が無い限り、違反の事実を海外当局と情報交換してはいけないと考えられます。
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