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2011年4月 2日 (土)

ABA 3日目

3日午前中の1コマめは、新水平合併ガイドラインについてのセッションに出席しました。

モデレーターがNew York UniversityのOrdover、スピーカーの一人がPrinceton UniversityのRobert Willigという、独禁法と経済学に関心のある者なら必見のセッションでした。

まずDOJの方がこの1年を振り返り、新ガイドラインはまさにDOJの実務を反映したものなので、実務自体は変わっていない、とのことでした。

新ガイドラインで当局が合併に異議を述べる手段が増えたのではないか、という批判があることに対しては、HSRの申立て件数に占める正式審査に至った件数の割合からみると、むしろ正式審査の割合は減っている、との説明がありました。

また証拠としては、win-lossレポートなどは極めて重要と考えている、とのことでした。

また、証拠の中でも、合併申請のために作成した文書ではなく、contemporaneousな証拠を重視している、とのことでした。

また、仮想独占者テストは市場画定のスタートポイントに過ぎない、とも述べられていました。

Willig氏からは、新ガイドラインで、合併の対価が割高な場合には市場支配力の存在が疑われるとされているのは、以前の実務でもそのように考えられていたもので特に目新しいものではなく、むしろ、商品の多様性やイノベーションに着目した点が目新しい、との評価がなされました。

また、GUPPI(gross upward pricing pressure index)については、エコノミストらしく、とくにその中心的な概念であるdiversion ratioについて、簡便で有益だと、非常に高い評価をしているのが印象的でした。

なお、商品差別化された市場ではGUPPIは効率性が無い限り常に正となるので厳しすぎるとの批判に対してカール・シャピーロは様々なスピーチなどで、5%をセーフハーバーとするべきと述べている、とのことでした。

ところでGUPPIは、英語のグッピー(guppi, 発音は「ガッピー」)と同じなんですね。スピーカーのみなさん、「ガッピー」、「ガッピー」と呼んでました(もちろん、小魚をネタにした駄洒落もちりばめられていました)。

ECの弁護士の方からは、UPPに対してモデル内で反論しようとするとかなり困難である、との評価が述べられました。

たしかに、仮に5%とか10%のセーフハーバーがあるにしても、いったんこれを超えてしまうと、それでもUPPがマイナスであることを立証しようとすると、効率性を立証するか、マージンとdiversion ratioの数値がおかしいと主張するしかないので、そのとおりであろうと思います。

なので、例えば過去のケースで合併でUPPが正であったけれども実際には競争制限効果がなかったケースなどを反証として用いることができると述べられていました。

ただイギリスのOFTでは、UPPはあくまでinitial screenであると考えられている、とのことでした。

OFTのケースとして、LovefilmとAmazon.comのケースと、ZipcarとStreetcarのケースが紹介されました。

午前の2コマ目は、各国の当局トップによるラウンドテーブルに参加しました。

DOJからはAssistant Attorney GeneralのChristine Varney、FTCからは委員長のJon Leibowitz、欧州委員会からは競争法総局トップのAlmuniaが来ていました。

バーニー氏からは、DOJは最近HSR法での申請基準に満たないために既に申請なしで既に実行済みの合併に対する執行が活発であるとの紹介がなされました。

このようなケースの場合、事前に当局に相談すればHSR法と似たような手続きで調査をしてくれるそうです。

最近の大きな事件としてはNBCとコムキャストの合併が紹介され、同事件ではFederal Communications Commission (FCC)と密接な協力がなされたとのことでした。

カルテルについては、地方債に関するカルテル事件(リニエンシーで発覚)、自動車部品の事件、エアカーゴの事件などが紹介されました。

次にLeibowitz氏は、FTCでは最近消費者問題に力を入れている、とのことでした。

とくに、詐欺的なスキームに対する活動や、データプライバシーの問題に力を入れており、つい最近和解が成立したGoogle Buzzのケースが紹介されました。

主な事件としては、GoogleによるAdmobの買収、インテルのケースなどが紹介されました。

DOJとFTCの話を聞いていると、お互いに特徴を出そうとしているように見られ、それがFTCによる消費者問題への活発な執行に繋がっているような印象を持ちました。

日本では景表法が公取委から消費者庁に持っていかれてしまったのと対照的です。

一般的には、似たような機関が複数あるのは無駄だと思いますが、微妙なバランスの上にうまくいくこともある例ではないかと感じます。

アルムニア氏からは、長らく使われることの無かったカルテルの和解制度で、2件の和解が成立したことが紹介されました。

また、航空、金融、インターネットなどの業界での企業結合に関する活動が紹介されました。

さらに、新しい水平的協定ガイドラインと垂直的協定ガイドラインとが紹介されました。

水平的協定ガイドラインについては、できたのが今年の1月1日でまだ日も浅いので当然かもしれませんが、垂直的協定ガイドラインについても、同ガイドラインに基づいて欧州委員会が判断を下した事例はまだないとのことでした。

水平的協定ガイドラインについては、情報交換と標準化についての部分が重要であるとのことでした。

とくに、標準化の部分については、支配的地位の濫用を防止することを意図しているとのコメントがなされました。

今年でABAに来るのは2回目ですが、充実した3日間でした。また来年も来ようと思います。

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