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2011年3月25日 (金)

優越的地位濫用の課徴金の違反期間

法定の優越的地位濫用のうち、継続してするものについては違反期間の売上の1%の課徴金がかかることになっています(独禁法20条の6)。

では、ここでの「違反期間」はどのように考えるべきでしょうか。

漠然と考えると、「取引先をいじめてた期間じゃないの?」ということになりそうですが(多分、立法者の意思もそうでないかと想像しますが)、本当にそうでしょうか。

条文をみてみましょう。

上で、「違反期間」と略称したのは、20条の6では、

「当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間」

とされています。

そこでいう、「当該行為」とは、

「第十九条の規定に違反する行為(第二条第九項第五号に該当するものであつて、継続してするものに限る。)」

です。

(ところで、この部分は素直に、「第二条第九項第五号に該当する行為」とすればよいのに、違反の根拠規定である19条を入れるために、わざわざ読みにくい書きぶりになっています。)

ですので、結局、「当該行為」とは、2条9項5号の行為ということになります。

2条9項5号は、

 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。

 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。

 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。

 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。」

と規定しています。

要するに「当該行為」(20条の6)とは、

「購入させること」(イ)、

「利益を提供させること」(ロ)、

「受領を拒むこと」、「商品を引き取らせること」、「支払を遅らせること」、「支払額を減じること」、「不利な条件を設定すること」、「不利な条件に変更すること」、「不利な条件を実施すること」(ハ)、

となります。

では、例えば、大手電器チェーン店(甲)が、納入業者(乙)に、店舗での陳列のために人を派遣させる場合を考えましょう。

これは、従業員による「役務」を

「提供させること」(2条9項5号ハ)

に該当すると言えます。

つまり、

「当該行為」(20条の6)=「役務・・・を提供させること」(2条9項5号ハ)です。

とすると、

「当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間」(20条の6)

というのは、

「『役務・・・を提供させること」をした日から『役務・・・を提供させること』がなくなる日までの期間」

というように読めます。

いうまでもないことですが、

A: 違反期間の始期を定める「当該行為」(20条の6の1個目の「当該行為」。「をした日」の前の部分。公取委の英訳では、"the said act")と、

B: 違反行為の終期を定める「当該行為」(20条の6の2個目の「当該行為」。「がなくなる日」の前の部分。同じく英訳では"the said act")

は、文言上、同じ行為でなければなりません。

同じ行為である必要があるのであり、同種の別の行為ではダメなはずです。

と考えると、先の従業員派遣の例では、

「従業員を派遣させた日から、従業員を派遣させることの無くなった日までの期間」

ということです。

つまり、もし乙の従業員が派遣されたのが3日間だったら、その3日間が違反期間になる、というのが素直な文言解釈ではないかと思います。

例えば、甲が、6ヶ月に1店、新規店舗をオープンするたびに、3日ずつ、乙に従業員を派遣させる、ということを2年間継続してやっていても(オープンしたのは24ヶ月で4店舗)、課徴金がかかるのは、その派遣を受けた当該12日分の売上、ということになるのではないかと思います。2年間ではありません。

(ちなみに、課徴金の額は、被害者(乙に相当する会社)ごとに算定すべきで、違反期間も被害者ごとに異なることは、20条の6で「当該行為の相手方との間における・・・売上額」と、相手方ごとに算定することになっていることから、明らかと思われます。)

想像ですが、立法者の意図としては、上の設例では、2年間が違反期間になる、ということを想定していたのではないかと想像します。

でも、そのような解釈は、上述のように、素直な文言解釈からは出てこないので、文言をかなり曲げて解釈しないと、出てこないように思われます。

入札談合の場合なら、基本合意があって、各個別調整もまとめて1つの違反行為だということなので、個別調整が続く限り違反期間が継続するというのは違和感がありません。

むしろ、違反期間中であってもいわゆる「たたき合い」があった場合には、課徴金の対象から除外されると解釈されているくらいです。

排除型私的独占の場合も、まあ、まとめて1個の行為と認定できる場合が多いと思います。

というのは、だいたい排除型私的独占というのは、競争者を排除するという統一的な意図に基づいて、競争者を排除するまで継続的になされることが多いからです。

違反者が違反であると認識していない場合には、営業政策として、契約書に明記してなされることすらあるかもしれません(JASRACの場合など)。

しかし、優越的地位濫用の場合は、複数の行為をまとめて1個の行為とカウントしてよいという解釈は、一般論としては難しいと思います。

なぜなら、入札談合の基本合意に該当するような、扇の要にあたる行為が、一般的には存在しないからです(存在するケースもあるかもしれませんが)。

ひらたくいうと、排除型私的独占は、ず~っとやっているのが普通ですが、優越的地位濫用は、ず~っとやっているなんてことは、違反類型にもよりますが、一般的には少ないのではないかと思います(例えば、不利益な取引の実施(2条9項5号ハ)などは、その条件で取引が続いている限りは、違反期間であるといってよいかもしれません)。

実質的に考えても、上記の設例で、合計12日しか役務の提供を受けていないのに、2年分の売上に課徴金がかかるというのは、バランスが悪すぎるように思います。

論点を一般化すれば、

「断続的に行われた複数の優越的地位濫用が、1つの『当該行為』(20条の6)なのかどうか」、

ということが、今後大いに争われるのではないかと思います。

ちなみに、優越的地位の課徴金が、継続してする優越的地位濫用にのみかかるということは、かかる継続してする優越的地位濫用が1個の「当該行為」であるとする根拠にはなり得ないと思われます。

なぜなら、「継続してするもの」(20条の6)というのは、2条9項5号に該当するものであって、かつ、継続してするものであることが要求される、というのが条文の構造なのであり、2条9項5号に該当する行為を絞る役割はあっても、複数の行為を1つの「当該行為」とする役割は与えられていないからです。

公取委が以上のような解釈を採るかは不明ですが、もし上記の設例で2年分の売上に課徴金をかけられたら、大いに争ってみる価値があるのではないかと思います。

例えば、甲が、1個目の店舗開店時は乙1に、2個目は乙2に、3個目は乙3に・・・というように、開店するたびに別の納入業者に従業員を派遣させる、ということを2年間続けた場合には、課徴金はどう算定されるでしょうか。

あるいは、甲が乙に、最初は従業員を派遣させ、次に不要なものを購入させ、次に代金減額し・・・と、異なる種類の行為を継続的に行った場合はどうでしょうか。

実際の例として、三井住友銀行が融資先に金利スワップを購入させた優越的地位濫用というのが課徴金導入以前にありましたが、これなど、もし1つの融資先に1回しか金利スワップを売りつけていなかったとすると(そういうことは充分あり得そうです)、各融資先については違反期間はゼロということになるのではないでしょうか。

いずれにせよ、20条の6の条文は、細かく見るといろいろと配慮が足りない条文であるように思われます。

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