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2011年3月28日 (月)

「直接の利益」の矛盾(優越的地位濫用ガイドライン)

優越的地位濫用ガイドラインでは、優位にある事業者(甲)の要求を劣位にある事業者(乙)が受け入れることによって乙が得る利益が、「直接の利益」でなければならないと再三述べられています。

具体的には、

(注9)(協賛金等の負担の要請)

(注12)(従業員等の派遣の要請)

(注23)(返品)

です。

そして、いずれの場合も、

「・・・(甲の要求を受け入れることにより)将来の取引が有利になるというような間接的な利益を含まない。」

と念押しされています。

しかも、「直接の利益」に該当しない場合には、乙の納得があっても優越的地位濫用になるという書きぶりになっています。

例えば、協賛金については、違法となる場合として、

①当該協賛金等の負担額及びその算出根拠,使途等について,当該取引の相手方との間で明確になっておらず,当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合と、

②当該取引の相手方が得る直接の利益(注9)等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり,当該取引の相手方に不利益を与えることとなる場合(注10)

とがあります。

このうち、①の、「明確になっておらず」というのは、裏返せば、明確に甲乙で合意・納得していれば、違法でない、と読めます。

これに対して②は、「直接の利益」でなければ、ほぼ必然的に違法となると読め、さらに注10で、

「この場合〔②の場合〕は,協賛金等の負担の条件について取引の相手方との間で明確になっていても優越的地位の濫用として問題となる。

と念押しされており、明確に合意・納得していても違反である、というのがガイドラインの立場です(さらに、注13もこの注10と同旨を述べます)。

注10の文字面だけをみれば、

「『明確になって』いるだけでは違反だけれど、『明確になっていて、かつ、乙が納得していれば違反にならない』という余地もある」

と読む余地もあり得なくはないですが、多分ガイドラインの趣旨はそうではないでしょう(それなら、「乙が納得しているかどうか」だけで割り切れば良いはずです)。

(なお、以上に対して、返品については、

「④当該取引の相手方から商品の返品を受けたい旨の申出があり,かつ,当該取引の相手方が当該商品を処分することが当該取引の相手方の直接の利益(注23)となる場合には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなら〔ない〕」

と、たんなる甲乙の合意・納得ではなく乙から積極的に申し出た場合という限定された場合ではありますが、甲乙間の合意により違法性が阻却されるという立場をとっており、協賛金や従業員派遣の場合と異なる扱いになっています。返品については実際、値崩れを防ぎたい乙から積極的に甲に返品を申し出ることもあるでしょうから、協賛金や従業員派遣とは違う扱いにしたのでしょう。)

さて、「直接の利益」は「将来の取引が有利になるというような間接的な利益」では足りない、とすることは、本当に乙にとって有利なのでしょうか。

この場合、乙が仮に充分納得していても、協賛金や従業員派遣が違法になる、ということの意味をよく考えるべきです。

つまり、甲に対して劣位にある取引先乙と、劣位とはいえない取引先Aがいるとします。

この場合、Aは、積極果敢に協賛金を支払ったり従業員を派遣することによって甲との取引を獲得することが可能です。

これに対して乙は、自らが甲に対して劣位な立場になっているために、Aと同じ競争手段を使って甲との取引を獲得することができません。

なぜなら、そのようなことをすると、甲が優越的地位濫用に問われてしまうからです。

このような場合、甲としては、そもそも乙に協賛金や従業員派遣を要求せず、協賛金支払や従業員を派遣してくれるAと有無を言わせず取引するのが合理的でしょう。

甲が、協賛金支払や従業員派遣をしてくれるAと取引すること自体を、乙に対する優越的地位濫用というのは、条文の文言上無理でしょう。(立法論としては、無理難題を聞いてくれるAと、聞かない乙とを、甲は平等に扱わなければならない、と義務づけることも、不可能ではないのでしょうけれど。)

その結果、乙は、Aとの競争に敗れてしまう、という、本末転倒なことになってしまいます。

以上は極端な例かもしれませんが、実務では、乙に当たる立場のクライアントから、

「こういうサービスを甲に提供したいんだけれど、それでも甲が優越的地位濫用にならないという意見書を書いて欲しい」

という依頼を受けることが、時々あります。

このような例は、優越的地位濫用規制が足かせとなって、かえって乙が競争上不利になってしまうことがあり得ることを物語っています。

恐らくガイドラインは、

「従業員派遣や協賛金というのは、典型的な優越的地位濫用であり、そもそも悪なのだから、乙の同意の有無を問わず厳しく取り締まるべき」

という発想なのかなぁと想像します。

確かに、社会の実態をみれば、従業員派遣や協賛金は、乙が明確に合意・納得していても違反であると割り切ったほうが、多くの場合、据わりの良い結論になるのかもしれません。

しかし、論理的には、それでは却って乙の不利益になる、ということは間違いなくあります。

にもかかわらず、なぜ協賛金と従業員派遣の場合だけ、他の行為類型のような「乙の十分な納得が必要」という基準(「納得基準」)ではなく、直接の利益を要求する基準(「直接利益基準」)なのか、合理的な説明は難しいように思われます。

優越的地位濫用というのは、このように論理的に考えると矛盾が生じることが、本質的に有るような気がしてなりません。

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