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2011年3月 1日 (火)

一匹狼とグループ内談合と少数株式取得

独禁法の企業結合の世界では、それまで積極的に価格競争を仕掛けてきてたとか、アグレッシブな会社のことを「一匹狼」(maverick)といって、そのような一匹狼が消滅してしまうような合併は競争を制限する可能性が高い、というふうに考えます。

日本の企業結合ガイドラインでも、

「従来,当事会社間で競争が活発に行われてきたことや当事会社の行動が市場における競争を活発にしてきたことが,市場全体の価格引下げや品質・品揃えの向上などにつながってきたと認められる場合には・・・競争に及ぼす影響が大きい。」

という記述があり、一匹狼の考え方を意識しています。

問題は、何をもって一匹狼と考えるかです。

この点について、Dennis Carltonが、

「Revising the Horizontal Merger Guidelines」

という論文の中で、興味深いことを書いています。

同論文の中でカールトンは、

「米国新水平的合併ガイドライン上の『一匹狼』というのは、コントロール不能で野性的な企業を意味するのではなくて、アグレッシブな競争者となる経済的インセンティブを有するか否かで決まる、ということをはっきりさせるべきである。CEOの性格が分析の中心であってはならない。」

といっています。

まったくその通りだと思います。

我々法律家はどうしても、社長の性格とか、企業のイメージとかで、その企業が積極的な競争者であるのかを判断してしまいがちなように思います。

なぜなら、そのほうが分かりやすいからです。

でも、それでは合理的な独禁法の分析はできません。

アグレッシブに競争する経済的インセンティブがあるかどうかというのは、突き詰めれば、その企業の費用曲線と、その企業が直面する需要曲線がどうなっているかということだと思います。

そのような費用曲線と需要曲線を踏まえ、利益を最大化できる数量(と同時に価格)を決める、というのが合理的な行動です。

どんなに積極的な社長でも、自分の会社の利益が減るような価格設定をすれば、そのうち会社は潰れてしまいます。

突き詰めれば、「一匹狼」が「一匹狼」たりうるのは、その企業の生産設備やノウハウや従業員の能力など、諸々の事情が相俟ってそうなるのであって、社長の性格で決まるのではないはずです。

そもそも「一匹狼」というネーミングが良くありません。こういう刺激的なネーミングは、しばしば冷静な分析を曇らせます。

実は、似たようなことは、「グループ内での談合は独禁法違反か」という論点でも生じます。

天然ガスエコステーションの談合事件の担当官解説(公正取引685号68頁)では、東京ガスの100%子会社である4社が談合を行ったことが独禁法違反である理由として、4社が独自に営業活動を行い相互に競争関係にあると認識していたことを理由にしています。

しかし、このような論理は、「一匹狼」の議論での、「経済的インセンティブ」という観点からすると、まったく不合理なものであるというほかありません。

100%子会社である4社には、相互に競争する経済的インセンティブはないというべきでしょう。

確かに、担当者レベル(あるいは社長)の認識としては、自分が営業成績を上げたいからとか、受注を目指すインセンティブがあるのかもしれません。

しかし、そういうのは経済合理的なインセンティブではありません。

単に同じ会社の異なる部門の間で競争しているのと、何ら異なりません。

従業員に発破を掛けるために部門間で競争させている会社はいくらでもあるでしょうが、そのような擬似的な競争を独禁法上保護する必要がないことは明らかです。

100%子会社でも、部門間の競争と実質は同じです。

また、企業結合における少数株式取得の文脈では、過半数に遠く及ばない株式取得(例えば25%くらい)でも、買収者とターゲットの間で、積極的に競争するインセンティブが無くなる(親は、子の利益が配当や株価上昇という形で自分に跳ね返ってくるし、子は、親の顔色を見て競争する)とかいって問題にすることとも辻褄が合いません。

つまり、そのような少数株式の取得を問題にするということは、少数株式の取得ですら競争が失われることを前提にしています。

これに対して、100%子会社間の談合も違法とする考えは、100%子会社間でも本来は競争すべきであることを前提にしています。

この2つは明らかに矛盾します。

やはり、エコステーションの件は、入札談合という特殊なケースだけを念頭に置いたものというべきでしょう(入札の文脈でも、私はおかしいと思いますが、実務上はこういう命令がある以上、少なくとも入札談合の文脈では保守的にアドバイスせざるを得ません)。

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