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2011年3月

2011年3月31日 (木)

ABA Spring Meeting初日

毎年恒例の、American Bar Association, Antitrust SectionのSpring Meetingに出るために、ワシントンDCに来ています。

初日(30日)に出たセッションについて、簡単にまとめておきます。

午前中は、カルテルの域外適用についてのセッションに出ました。

カルテルは米国では刑事罰が課される重罪(felony)ですが、犯罪人の引渡しには、自国の国民は引き渡さない(日本など)とか、双方の国で刑罰が課されるものでないと引き渡さないとか(EUではカルテルは刑事罰の対象ではありませんが、イギリスでは対象です)、制約も多く、しかし、容疑をかけられた外国の役員も任意に米国に出頭することが多いそうです。

やはり、これだけ国際化した社会でビジネスをしていくのに、未来永劫米国に入国できないということは採りえない選択だし、米国以外でも、インターポールのレッド・ノーティスで逮捕されることがあるのが原因だろう、ということでした。

しかし、服役期間が長期化すると、将来にわたっても同様の傾向が続くかは不透明、との意見が述べられました。

またDOJのパネリストの方は、外国において服役した被告に米国において再度刑罰を課すか否かは、当該外国の刑罰が米国の観点から見て十分な抑止力となっているか否かで判断する、ということを強調されていました。

つまり、外国での刑罰が十分な抑止力を持つのであれば、米国では再度刑罰を課すことはない、ということです。

しかし併せて、これは二重の危険の法理とは関係がない、とも述べられていました。

カルテル調査の国際協力については、情報交換はするけれど証拠の交換まではしないとのことでした。

また国際協力をしたからといって必ずしも各国で結論が同じになるわけではなく、例えばエアカーゴのケースでは、EUでは2種類のサーチャージについて、韓国では燃料サーチャージだけ、米国では戦争リスクのサーチャージなどその他のサーチャージについても訴追された、という例が紹介されました。

また、何を持って国内売上とするか(罰金や課徴金の基礎になります)についても各国では結論が異なり、韓国では、国内から国外への売上については100%国内売上とし、国外から国内への売上については50%を国内売上としたそうです。

また、証拠の収集については、DOJでは外国に所在する証拠まで差し押さえることはしていないということでした。

ただ、外国で作成された証拠であっても、米国内に所在するものは当然差し押さえられます。

EUでは、リーニエンシーに関する証拠の開示請求がカルテルの被害者からあったとしても、開示は拒否しているとのことでした。

また、事件の調査のために作成されたのではない、生の証拠(いわゆるhot document)についても、開示には応じていないとのことでした。

午後の1つめのセッションは、今年改正されたEUのガイドラインを中心に、情報交換と標準化のセッションについてのセッションに出てきました。

欧州委員会のパネリストの方によると、新ガイドラインでは、情報交換による害の発生として、collusive effectとforeclosure effectについて触れられているが、主な関心は前者にあり、後者は、comprehensiveであるために入れただけ、とのことでした。

collusive effectについては、人為的な透明性を作出する点が問題であるというのが興味深かったです。透明であれば良いというわけではない、ということですね。

また、by objectによる違反は米国の当然違法の法理とは違うものであり、効率性により正当化されることもありうるとのことでした。

標準化については、FRANDコミットメントをしながらそれを遵守しない特許権者を102条(支配的地位濫用)に問えるか、という議論がなされました。

一方米国では、標準化に関して欧州新ガイドラインのような統一的なガイドラインはなく、96年のヘルスケアに関するレポートや、07年のFTCレポートなどに標準化に関する当局の考えが示されているとのことでした。

午後2つ目のセッションは、インターネットのターゲット広告とプライバシーに関するセッションに出てきました。

これに関しては昨年12月に、「Do not Track」レポートというのが出ているそうです。

グーグル・バズの事件やIntelliusの事件の紹介などがありました。

消費者保護の委員会が主催だったのですが、質問に立った女性がいかにもアメリカの消費者保護の弁護士らしく、消費者の同意なく消費者から情報を得ることに強い拒否反応を示していたことが印象的でした。

でも、インターネットのサイトもどこかで収入を得ないといけないので、ターゲット広告を一律認めないという選択肢はあり得ないと思います。

あくまで、情報を得られたくないと思う消費者がオプトアウトできる仕組みがあればよいのだと思います。(米国で議論されているのもそのような仕組みです。)

むしろ自分の関心のある広告が表示されることを喜ぶ消費者も多いのではないかという気がします。

インターネットのサイトは表示面積が限られていることもあり、ターゲット広告を認めないと、ひいてはサイトが維持できなくなるとか、質が落ちるとかいった影響も、無視できないのではないでしょうか。

2011年3月28日 (月)

「直接の利益」の矛盾(優越的地位濫用ガイドライン)

優越的地位濫用ガイドラインでは、優位にある事業者(甲)の要求を劣位にある事業者(乙)が受け入れることによって乙が得る利益が、「直接の利益」でなければならないと再三述べられています。

具体的には、

(注9)(協賛金等の負担の要請)

(注12)(従業員等の派遣の要請)

(注23)(返品)

です。

そして、いずれの場合も、

「・・・(甲の要求を受け入れることにより)将来の取引が有利になるというような間接的な利益を含まない。」

と念押しされています。

しかも、「直接の利益」に該当しない場合には、乙の納得があっても優越的地位濫用になるという書きぶりになっています。

例えば、協賛金については、違法となる場合として、

①当該協賛金等の負担額及びその算出根拠,使途等について,当該取引の相手方との間で明確になっておらず,当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合と、

②当該取引の相手方が得る直接の利益(注9)等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり,当該取引の相手方に不利益を与えることとなる場合(注10)

とがあります。

このうち、①の、「明確になっておらず」というのは、裏返せば、明確に甲乙で合意・納得していれば、違法でない、と読めます。

これに対して②は、「直接の利益」でなければ、ほぼ必然的に違法となると読め、さらに注10で、

「この場合〔②の場合〕は,協賛金等の負担の条件について取引の相手方との間で明確になっていても優越的地位の濫用として問題となる。

と念押しされており、明確に合意・納得していても違反である、というのがガイドラインの立場です(さらに、注13もこの注10と同旨を述べます)。

注10の文字面だけをみれば、

「『明確になって』いるだけでは違反だけれど、『明確になっていて、かつ、乙が納得していれば違反にならない』という余地もある」

と読む余地もあり得なくはないですが、多分ガイドラインの趣旨はそうではないでしょう(それなら、「乙が納得しているかどうか」だけで割り切れば良いはずです)。

(なお、以上に対して、返品については、

「④当該取引の相手方から商品の返品を受けたい旨の申出があり,かつ,当該取引の相手方が当該商品を処分することが当該取引の相手方の直接の利益(注23)となる場合には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなら〔ない〕」

と、たんなる甲乙の合意・納得ではなく乙から積極的に申し出た場合という限定された場合ではありますが、甲乙間の合意により違法性が阻却されるという立場をとっており、協賛金や従業員派遣の場合と異なる扱いになっています。返品については実際、値崩れを防ぎたい乙から積極的に甲に返品を申し出ることもあるでしょうから、協賛金や従業員派遣とは違う扱いにしたのでしょう。)

さて、「直接の利益」は「将来の取引が有利になるというような間接的な利益」では足りない、とすることは、本当に乙にとって有利なのでしょうか。

この場合、乙が仮に充分納得していても、協賛金や従業員派遣が違法になる、ということの意味をよく考えるべきです。

つまり、甲に対して劣位にある取引先乙と、劣位とはいえない取引先Aがいるとします。

この場合、Aは、積極果敢に協賛金を支払ったり従業員を派遣することによって甲との取引を獲得することが可能です。

これに対して乙は、自らが甲に対して劣位な立場になっているために、Aと同じ競争手段を使って甲との取引を獲得することができません。

なぜなら、そのようなことをすると、甲が優越的地位濫用に問われてしまうからです。

このような場合、甲としては、そもそも乙に協賛金や従業員派遣を要求せず、協賛金支払や従業員を派遣してくれるAと有無を言わせず取引するのが合理的でしょう。

甲が、協賛金支払や従業員派遣をしてくれるAと取引すること自体を、乙に対する優越的地位濫用というのは、条文の文言上無理でしょう。(立法論としては、無理難題を聞いてくれるAと、聞かない乙とを、甲は平等に扱わなければならない、と義務づけることも、不可能ではないのでしょうけれど。)

その結果、乙は、Aとの競争に敗れてしまう、という、本末転倒なことになってしまいます。

以上は極端な例かもしれませんが、実務では、乙に当たる立場のクライアントから、

「こういうサービスを甲に提供したいんだけれど、それでも甲が優越的地位濫用にならないという意見書を書いて欲しい」

という依頼を受けることが、時々あります。

このような例は、優越的地位濫用規制が足かせとなって、かえって乙が競争上不利になってしまうことがあり得ることを物語っています。

恐らくガイドラインは、

「従業員派遣や協賛金というのは、典型的な優越的地位濫用であり、そもそも悪なのだから、乙の同意の有無を問わず厳しく取り締まるべき」

という発想なのかなぁと想像します。

確かに、社会の実態をみれば、従業員派遣や協賛金は、乙が明確に合意・納得していても違反であると割り切ったほうが、多くの場合、据わりの良い結論になるのかもしれません。

しかし、論理的には、それでは却って乙の不利益になる、ということは間違いなくあります。

にもかかわらず、なぜ協賛金と従業員派遣の場合だけ、他の行為類型のような「乙の十分な納得が必要」という基準(「納得基準」)ではなく、直接の利益を要求する基準(「直接利益基準」)なのか、合理的な説明は難しいように思われます。

優越的地位濫用というのは、このように論理的に考えると矛盾が生じることが、本質的に有るような気がしてなりません。

2011年3月25日 (金)

優越的地位濫用の課徴金の違反期間

法定の優越的地位濫用のうち、継続してするものについては違反期間の売上の1%の課徴金がかかることになっています(独禁法20条の6)。

では、ここでの「違反期間」はどのように考えるべきでしょうか。

漠然と考えると、「取引先をいじめてた期間じゃないの?」ということになりそうですが(多分、立法者の意思もそうでないかと想像しますが)、本当にそうでしょうか。

条文をみてみましょう。

上で、「違反期間」と略称したのは、20条の6では、

「当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間」

とされています。

そこでいう、「当該行為」とは、

「第十九条の規定に違反する行為(第二条第九項第五号に該当するものであつて、継続してするものに限る。)」

です。

(ところで、この部分は素直に、「第二条第九項第五号に該当する行為」とすればよいのに、違反の根拠規定である19条を入れるために、わざわざ読みにくい書きぶりになっています。)

ですので、結局、「当該行為」とは、2条9項5号の行為ということになります。

2条9項5号は、

 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。

 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。

 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。

 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。」

と規定しています。

要するに「当該行為」(20条の6)とは、

「購入させること」(イ)、

「利益を提供させること」(ロ)、

「受領を拒むこと」、「商品を引き取らせること」、「支払を遅らせること」、「支払額を減じること」、「不利な条件を設定すること」、「不利な条件に変更すること」、「不利な条件を実施すること」(ハ)、

となります。

では、例えば、大手電器チェーン店(甲)が、納入業者(乙)に、店舗での陳列のために人を派遣させる場合を考えましょう。

これは、従業員による「役務」を

「提供させること」(2条9項5号ハ)

に該当すると言えます。

つまり、

「当該行為」(20条の6)=「役務・・・を提供させること」(2条9項5号ハ)です。

とすると、

「当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間」(20条の6)

というのは、

「『役務・・・を提供させること」をした日から『役務・・・を提供させること』がなくなる日までの期間」

というように読めます。

いうまでもないことですが、

A: 違反期間の始期を定める「当該行為」(20条の6の1個目の「当該行為」。「をした日」の前の部分。公取委の英訳では、"the said act")と、

B: 違反行為の終期を定める「当該行為」(20条の6の2個目の「当該行為」。「がなくなる日」の前の部分。同じく英訳では"the said act")

は、文言上、同じ行為でなければなりません。

同じ行為である必要があるのであり、同種の別の行為ではダメなはずです。

と考えると、先の従業員派遣の例では、

「従業員を派遣させた日から、従業員を派遣させることの無くなった日までの期間」

ということです。

つまり、もし乙の従業員が派遣されたのが3日間だったら、その3日間が違反期間になる、というのが素直な文言解釈ではないかと思います。

例えば、甲が、6ヶ月に1店、新規店舗をオープンするたびに、3日ずつ、乙に従業員を派遣させる、ということを2年間継続してやっていても(オープンしたのは24ヶ月で4店舗)、課徴金がかかるのは、その派遣を受けた当該12日分の売上、ということになるのではないかと思います。2年間ではありません。

(ちなみに、課徴金の額は、被害者(乙に相当する会社)ごとに算定すべきで、違反期間も被害者ごとに異なることは、20条の6で「当該行為の相手方との間における・・・売上額」と、相手方ごとに算定することになっていることから、明らかと思われます。)

想像ですが、立法者の意図としては、上の設例では、2年間が違反期間になる、ということを想定していたのではないかと想像します。

でも、そのような解釈は、上述のように、素直な文言解釈からは出てこないので、文言をかなり曲げて解釈しないと、出てこないように思われます。

入札談合の場合なら、基本合意があって、各個別調整もまとめて1つの違反行為だということなので、個別調整が続く限り違反期間が継続するというのは違和感がありません。

むしろ、違反期間中であってもいわゆる「たたき合い」があった場合には、課徴金の対象から除外されると解釈されているくらいです。

排除型私的独占の場合も、まあ、まとめて1個の行為と認定できる場合が多いと思います。

というのは、だいたい排除型私的独占というのは、競争者を排除するという統一的な意図に基づいて、競争者を排除するまで継続的になされることが多いからです。

違反者が違反であると認識していない場合には、営業政策として、契約書に明記してなされることすらあるかもしれません(JASRACの場合など)。

しかし、優越的地位濫用の場合は、複数の行為をまとめて1個の行為とカウントしてよいという解釈は、一般論としては難しいと思います。

なぜなら、入札談合の基本合意に該当するような、扇の要にあたる行為が、一般的には存在しないからです(存在するケースもあるかもしれませんが)。

ひらたくいうと、排除型私的独占は、ず~っとやっているのが普通ですが、優越的地位濫用は、ず~っとやっているなんてことは、違反類型にもよりますが、一般的には少ないのではないかと思います(例えば、不利益な取引の実施(2条9項5号ハ)などは、その条件で取引が続いている限りは、違反期間であるといってよいかもしれません)。

実質的に考えても、上記の設例で、合計12日しか役務の提供を受けていないのに、2年分の売上に課徴金がかかるというのは、バランスが悪すぎるように思います。

論点を一般化すれば、

「断続的に行われた複数の優越的地位濫用が、1つの『当該行為』(20条の6)なのかどうか」、

ということが、今後大いに争われるのではないかと思います。

ちなみに、優越的地位の課徴金が、継続してする優越的地位濫用にのみかかるということは、かかる継続してする優越的地位濫用が1個の「当該行為」であるとする根拠にはなり得ないと思われます。

なぜなら、「継続してするもの」(20条の6)というのは、2条9項5号に該当するものであって、かつ、継続してするものであることが要求される、というのが条文の構造なのであり、2条9項5号に該当する行為を絞る役割はあっても、複数の行為を1つの「当該行為」とする役割は与えられていないからです。

公取委が以上のような解釈を採るかは不明ですが、もし上記の設例で2年分の売上に課徴金をかけられたら、大いに争ってみる価値があるのではないかと思います。

例えば、甲が、1個目の店舗開店時は乙1に、2個目は乙2に、3個目は乙3に・・・というように、開店するたびに別の納入業者に従業員を派遣させる、ということを2年間続けた場合には、課徴金はどう算定されるでしょうか。

あるいは、甲が乙に、最初は従業員を派遣させ、次に不要なものを購入させ、次に代金減額し・・・と、異なる種類の行為を継続的に行った場合はどうでしょうか。

実際の例として、三井住友銀行が融資先に金利スワップを購入させた優越的地位濫用というのが課徴金導入以前にありましたが、これなど、もし1つの融資先に1回しか金利スワップを売りつけていなかったとすると(そういうことは充分あり得そうです)、各融資先については違反期間はゼロということになるのではないでしょうか。

いずれにせよ、20条の6の条文は、細かく見るといろいろと配慮が足りない条文であるように思われます。

2011年3月24日 (木)

「企業結合審査の手続に関する対応方針」(案)について

3月4日に公取委から公表された「企業結合審査の手続に関する対応方針」の案について、気が付いたことを記しておきます。

まず、これまで「事前相談」と呼ばれていたものがなくなり、「届出前相談」になりました。

(ちなみに、「事前相談」は、prior consultationと訳すことが多かったですが、「届出前相談」は、pre-notification consultation ですかね。)

両者は名前が変わっただけではなく、その実質もまったく異なるものです。

つまり、「事前相談」は、本来法律上の届出後になされるべきような実質的な競争制限に関する審査がなされる(その後の法律上の届出はフリーパス)ものであったのに対して、新しい「届出前相談」は、届出書の記載方法などについて相談するものです。

ですので、新しい「届出前相談」では、実質的な審査までなされることは予定されていません。

ただ、届出前相談の例として、一定の取引分野についての公取委の考え方を相談できるとされていますが、このような相談をする必要性がある場合はかなり限られるのではないかと想像します。

というのは、公取委との相談が必要なくらいに一定の取引分野(市場)が何なのかの判断が難しい事例では、当事者と公取委が協議を重ねて、詳細な審査を行った上で、初めて「一定の取引分野」が明らかになることが多いと思われるからです。

ですので、そのような微妙な事案では、届出書は当事者が考える市場に従って記載し、届出書をさっさと受理してもらって、「一定の取引分野」については届出後の審査の中で争っていく、というのがオーソドックスになるのではないかと思います。

しかも同方針ではご丁寧に、

「届出後の審査において、届出前相談における当委員会の説明が修正されることがある。」

とされています。

つまり、届出前相談で決まった市場画定が、届出後の審査で覆されることがある、ということです。

しかも、どういう場合に覆されるのかの限定がないので、何の理由も無しに覆せることになっています。

これでは、届出会社が届出前相談で市場画定について詳細な議論をする意欲がますます萎えるのではないでしょうか。

おそらく公取委としては、事前相談が批判の的になったために廃止された(もともと事前相談は企業側の要望で取り入れられたものなので、公取委を批判するのは筋違いと思いますが・・・)という背景があるため、届出前相談は法律上の届出書の記載に関する相談に限って行う、という建前があり、そのため、届出書の記載事項の中で書き方が一番難しそうな「国内の市場における地位」を例として掲げたのでしょう。

しかし、そもそも実務上は、届出書の「市場」と独禁法上の「一定の取引分野」とが厳密に一致していなければならないとは考えられていないと思います。

つまり、両者が厳密に一致しないと届出が受理されないとか、虚偽届出の罪(独禁法91条の2第3号など)になるとか、排除措置命令の事前通知の期間が延びる(独禁法10条9項2号など)ということにはならないはずです。

当事者が、例えば政府や業界の統計などの分類に従って、ある程度合理的に「市場」と考えるものを書いていれば、とりあえずは受理されているはずです(書き方の詳細は、届出書の記載要領をご参照ください)。

それで充分受理されるのに、どういう場合に「一定の取引分野」に関する議論を届出受理前に公取委と議論する気になるのか、私にはあまりイメージが沸きません。

むしろ実務上相談したくなるのは、現物出資とか逆三角合併とか、2段階、3段階にわたる複雑な買収スキームとかの場合に、どのタイミングでどの届出が必要なのか、とか、事業用の固定資産に帰属する売上の範囲とか、国内売上高の範囲とか、外貨建ての売上を円に換算するときの為替レートとかいったことかなぁと思います。

それから、同方針案では、審査結果の公表について定められています。

公表される場合は2つです。

まず、第1次審査が終了した事案のうち、他の会社の参考になる事案です(5(2))。

次に、第2次審査で問題なしとされた事案は、その結果が公表されます(6(3)イ)。

公表の有無は実務上けっこう重要で、現行の事前相談では、2次審査に入るときに、公取委のホームページで全件公表される上、当事者も自発的に公表しなければなりません。

それと比べると、方針案での第2次審査の結果の公表は、(問題なしという)結果が出た時点で公表されるようなので、現行の事前相談よりは公表が遅いことになります。

また、方針案では「結果」だけが公表されるようにも読めますが、1次審査終了事案の公表の場合と同じく、参考になる事例については理由と共に公表されるのでしょう。

でも2次審査の結果の全件公表というのは、数は多くないと予想されるにせよ、敵対的買収などの場合には秘密にしておきたいという当事者の希望にも配慮して欲しいところです。

それから、届出を要しない企業結合についても、法律上の届出の場合に準じて対応するそうです(7)。

ということは、法律上の届出書の記載事項に相当する情報が当事者から提供されれば、公取委は相談を受理し、30日以内に2次審査に進むかどうかを回答するということです。

もしその通りに運用されるとすれば大変結構なことで、現行の事前相談で時々みられた、事前相談の受理までに1年以上かかるというケースは新制度下では起こりえない、ということになります。

あと細かいことですが、現行の事前相談では結合の当事者が一緒に公取委に行くのが基本でしたが、新制度では届出予定者が行くことになっています。

ですので、例えば株式取得の場合であれば、取得者だけが行くことになり、買収される側は行かないことになります。

事業譲渡なら、譲受人だけです。

ただ実際の運用ではそこまでやかましいことは言わず、当事者両方からの相談にも乗ってくれるんだろうと想像します。

2011年3月23日 (水)

待機期間や措置期限が週末や休日の場合

株式取得などの企業結合が届出を要する場合には、届出受理後30日間は取引を実行することができません(「待機期間」)。

さらに、待機期間中に追加の報告要求が公取委からあった場合には、

①当該報告等が完了した日から90日間または、

②届出受理から120日間

のいずれか遅い期限(通常は①でしょうね)までは、排除措置命令の事前通知を受ける可能性があります(「措置期限」)。

つまり、30日の待機期間中はそもそも取引実行できず、待機期間経過後は取引実行できるけれども措置期限経過までは排除措置命令の事前通知を受けるリスクがある(当事会社はそのリスクを負いたくないなら、措置期限経過まで取引実行を待つ)ということになります。

それでは、このような待機期間または措置期限の末日が土日や休日に当たった場合は、いつが最終日になるのでしょうか。

結論からいえば、期間の末日が土日や休日でも関係なく、期間満了します。

まず、期間の起算日については、民法140条で、

「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。」

とされており、初日不算入です(午前0時に届出が受理されたり(待機期間の場合)、報告が完了したり(措置期限の場合)することは通常ないでしょうから、但し書きは適用されないでしょう)。

なお、独禁法のような公法の期間を数えるのにも民法140条を適用して良いことは、民法138条で、

「期間の計算方法は、法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めがある場合を除き、この章の規定に従う。」

と明記されています。

さて、待機期間や措置期限にも、「行政機関の休日に関する法律」の適用があるのかなと一瞬思ってしまいそうですが、適用はありません。

同法1条(行政機関の休日)では、

第一条  次の各号に掲げる日は、行政機関の休日とし、行政機関の執務は、原則として行わないものとする。

 日曜日及び土曜日

 国民の祝日に関する法律 (昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日

 十二月二十九日から翌年の一月三日までの日(前号に掲げる日を除く。) 」

とされており、土日と祝日は行政機関の休日です。

しかし、同法2条(期限の特例)では、

「国の行政庁・・・に対する申請、届出その他の行為の期限で法律又は法律に基づく命令で規定する期間・・・をもつて定めるものが行政機関の休日に当たるときは、行政機関の休日の翌日をもつてその期限とみなす。ただし、法律又は法律に基づく命令に別段の定めがある場合は、この限りでない。」

となっており、この法律は、あくまで、行政機関に対する申請などの行為の期限についてです。

逆に、行政機関の側からする行為についての期限は、この法律は何ら定めていないのです。

したがって、土日や休日に関係なく、待機期間と措置期限は満了する、ということになります。

ちなみに待機期間については、公取委のQ&Aで、

「 Q1 禁止期間30日はどのように計算するのですか。

A1  禁止期間は受理日の翌日から起算して30日間です。営業日ではなく,土日を含めた暦上での30日間です。」

とされています。末日だけに着目した回答ではなく、30日の期間中の土日もカウントされることに重点を置いた回答ですが、末日が土日でも、それを含めて30日間で待機期間(Q&Aでは「禁止期間」)が満了する、と読んで間違いないでしょう。

2011年3月22日 (火)

株式取得の外為法上の届出

独禁法の届出と併せて訊かれることが多い外為法上の株式取得に関する届出について、外国会社が国内の会社の株式を取得する場合を念頭に、簡単にまとめておきます。

大雑把に言うと、多くの場合、日本の会社の株式を外国投資家が取得する場合には、取得後の持株比率が10%以上となる場合に、事後報告が必要です。

ではまず、非上場会社の株式から。

①国内の上場会社の株式を、

②「外国投資家」(=外国法人や外国居住者)が、

日本の投資家(「外国投資家」でない者)から取得する場合(つまり、外→外は含まない)、

「対内直接投資等」の定義に該当します(外為法26条2項1号)。

「対内直接投資等」に該当する場合、原則として、事後報告が必要です(外為法55条の5第1項)。

しかし、非上場会社の株式を取得する場合、発行済み株式総数に占める割合が特定関係者と合わせて10%未満の場合には、例外的に、報告不要とされています(対内直投政令3条1項3号)。

ですので、取得後の持分割合が10%以上の場合には、当該株式取得の日の翌月の15日まで(対内直投政令6条の3第1項)に、財務大臣および事業所管大臣に報告する必要がある(外為法55条の5第1項)、ということになります。

次に、上場会社の株式について。

①国内の上場会社の株式を、

②「外国投資家」が取得した結果(外国投資家からの取得(外→外)も含みます)、

③持株比率が、特別関係者の持っている分も含めて10%以上になる場合、

「対内直接投資等」に該当します(外為法26条2項3号)。

(「対内直接投資等」の定義上、取得後の持分割合が10%以上のものに限られている点が、非上場会社の場合(定義上は10%未満でも「対内直接投資等」に該当するが、報告対象から外されている)と異なるわけですね。)

そこで、非上場会社の株式の場合と同じく、翌月の15日までに届出が必要です(外為法55条の5第1項)。

いったん10%以上になったらその後は届出が要らなくなるわけではなく、10%以上になったあとは、1株取得でも届出が必要になります(この点、いったん20%を超えたら次は50%超まで届出が要らない独禁法の場合と異なります)。

さて、以上で多くの場合解決しますが、

①国の安全にかかわるもの(武器など)、または

②農作物など、OECDの資本移動自由化コード上、自由化が留保されている業種、

については、事前届出が必要です(外為法27条1項)。

また、外国投資家が、アメリカ合衆国、シンガポール、中華人民共和国(中国)など、多くのまともな国(対内直投命令別表1記載の国)であれば問題ないのですが、そうでない場合、業種にかかわらず事前届出が必要です。

細かいところは条文を確認して下さい。

なお以上は、非居住者が国内の株式会社の株式を譲り受けた場合を念頭に置いているので関係ないのですが、貿易の対価ではなく(株式譲渡なども含まれる)、居住者が非居住者に3000万円相当以上の支払をし、または非居住者から支払を受けた場合には、「支払又は支払の受領に関する報告書」の提出が必要になります(外為法55条1項、外為令18条の4,報告省令1条1項)。忘れがちなので気をつけて下さい。

2011年3月18日 (金)

【お知らせ】Chambers Asia Pacific 2011

Chambers and Partners という、世界の弁護士に関する情報提供をしているイギリスの会社が発表している、「Chambers Asia Pacific 2011」の独禁法部門で、"Leaders in Their Field (Leading Individuals)"の1人に選ばれました。

2011年3月17日 (木)

【お知らせ】NBL執筆

NBL(New Business Law)という法律雑誌の3月15日号に、

「米国新水平的合併ガイドラインおよび欧州新水平的協定ガイドラインがわが国の独禁法解釈に及ぼす影響」

という論文を執筆しました。

同僚の藤本豪弁護士と平山賢太郎弁護士の執筆した論文とあわせて、新欧米ガイドラインについての特集になっています。

ご興味のある方は、書店で手に取って頂ければ嬉しいです。

今回は地震もありましたし、何年かあとに振り返ってみると、感慨深い執筆になるのだろうと思います。

2011年3月16日 (水)

今回の地震について

このブログでは、あまり「日記」的なことは書かないことにしているのですが、今回はやはり気持ちの区切りがつかないので、書くことにします。

先週金曜日の地震、わたしの事務所(38階)も、かなり揺れました。

でも、実家の高槻市(大阪府)で経験した阪神大震災ほどではなかったし、東北地方の被害があそこまでだとは分からなかったので、揺れが収まった後は、普通にお客さんと会議をしてました(気分はそわそわしていましたが)。

スマトラの津波のときは、遠い国のことのように思ってましたが、日本でも起こりうることなのですね。

被害に遭われた方々、避難生活を送っている方々のことを考えると、東京から200キロ以上離れた福島の原発の状況に一喜一憂する自分が恥ずかしいです。

生きていることはありがたいとです。

現地で命がけで原発を制御している東電の方々や自衛隊の方々の勇気は、大いに賞賛すべきです。

コンビニの店員さんも、ガソリンスタンドにガソリンを運ぶ運転手さんも、掃除のおばさんも、それぞれの仕事はそれぞれに尊いのだと思います。

「自分がいなくても代わりがいる」かどうかは、どうでもいいのです。

その場、その瞬間に、与えられた役割が使命なのです。

隣に困っている人がいたら手をさしのべるのも、自分にしかできない使命なのです。

わたしも、何があっても、求める人がいる限り、仕事は放棄しないでいようと思います。

2011年3月 9日 (水)

再販売価格維持が非価格拘束より悪い理由

再販売価格維持は、原則、違法だと、よく言われます(例外も多いですが)。

つまり、価格拘束と非価格拘束を区別して、(最低)価格拘束は原則違法だけれど、非価格拘束はケースバイケースで判断する、とされます。

でも、価格競争が非価格競争より重要な理由というのは、実はあまりはっきりしません。

価格競争を重視する見解は、価格決定は事業者(例えば小売店)の基本的権利だ、とか、基本的な競争手段だ、ということを強調することが多いみたいです。

例えば流通取引慣行ガイドラインでは、

「事業者が市場の状況に応じて自己の販売価格を自主的に決定することは、事業者の事業活動において最も基本的な事項であり・・・」

とされています(第2部、第1,1(1))。

しかし、価格拘束の違法性が高いとされる本当の理由は、端的に、消費者に対する害が大きい、あるいは明白だから、ということなのではないでしょうか。

事業者にとって基本的な事項かどうかは二の次だと思います。

上記ガイドラインでは、続けて、

「・・・かつ、これによって事業者間の競争と消費者の選択が確保される。」

といっていますが、趣旨が不明確です。

自主的な価格決定により「事業者間の競争」が確保されるというのはいいとしても、「消費者の選択」が確保されるというのは、なんだか、消費者は高い商品も安い商品も選択することがあり、そのような選択の余地が確保されるべきである、といっているみたいで、実態に合いません。

消費者は、同じ品質なら安い商品を選ぶに決まってます。

価格以外の競争手段(商品のデザインとか、アフターサービスとか)は、消費者によって選択するものが違うことがいくらでもあります。

でも、価格にはそういうことがありません。

仮に、「高い方がいい」という変な消費者がいても、そういう消費者の「選択」の余地を独禁法が保護する必要はありません。

価格拘束が悪い理由は、消費者への害、つまり消費者が高い物を買わされることを中心に考えるべきです。

再販売価格維持の違法性の根拠として価格設定が事業者の基本的権利であることを強調すると、最高再販売価格維持も最低再販売価格維持と同様に違法であるというような、とんでもない見解になりがちです。

2011年3月 8日 (火)

流通取引ガイドライン英訳の誤訳

公取委のホームページに載っている流通取引慣行ガイドラインの総代理店との契約条項に関する部分(第3部、第2、1,(2)競争品の取扱いに関する制限。公正取引協会の黄色い六法ではp397)で、

「②契約終了後における競争品の取扱い制限

 供給業者が契約終了後において総代理店の競争品の取扱いを制限することは、総代理店の事業活動を拘束して、市場への参入を妨げることとなるものであり、原則として独占禁止法上問題となる。」

の英訳として、

「b. Restrictions on handling competing products after the termination of the contract

In case where a supplier restricts its sole distributor from handling competing products after the termination of the conduct would restrict business activities of the sole distributor and obstruct entry into the market, and it presents, in principle, a problem under the Antimonopoly Act.」

とされているのは、意味が分かりませんね。

原文を生かしつつ、私なりに英訳すると、

「b. Restrictions on handling competing products after the termination of the contract

In case where a supplier restricts its sole distributor from handling competing products after the termination of the contract, such restriction would restrict business activities of the sole distributor and obstruct entry into the market, and it presents, in principle, a problem under the Antimonopoly Act.」

ですかね。

コピペして使うときには注意しましょう。

ところで、この部分、改めて読み返すと、そもそもの考え方がやや変ですね。

つまり、この部分を素直に読むと、総代理店が競合品を取り扱えないことが、当該総代理店の参入を阻害する、としていますが、競争品の供給業者の参入を阻害する、と考えるのが正しいような気がします。

たしかに、総代理店自身が競争品の供給業者である場合には、当該総代理店の参入を阻害するといっても正しいと思いますが、総代理店自身が供給業者である場合というのは一般的には限られています。

「第1 競争者間の総代理店契約」のところでは、総代理店も競争者(=競争品の供給者)であることが想定されていますが、この「第2」のところでも、それを引きずってしまったのでしょうか。

2011年3月 7日 (月)

CPRC国際シンポジウム(競争法と企業結合規制)

3月4日の公正取引委員会競争政策研究センターの国際シンポジウム~競争法と企業結合規制~に行ってきた感想をメモしておきます。

(私の誤解も多いかも知れませんので、念のため。)

ネーヴェン教授のお話では、垂直合併の分析で、統合後の企業が川下市場で競争者を締め出す経済的インセンティブを、川上市場での損失と川下市場での利得のトレードオフで見る、という点が興味深かったです。

結局、水平合併であるか垂直合併であるかを問わず、合併の反競争性は、合併当事者の経済的インセンティブを分析することで、統一的に判断できるように思われました。

垂直合併による排除(あるいは囲い込み。foreclosure)には、「インプット・フォークロージャー」と、「カスタマー・フォークロージャー」があるということですが、ネーヴェン教授も指摘されるように、「カスタマー(=流通網)・フォークロージャー」というのは、メーカーにとっての一種のインプット(流通網)を囲い込んでしまうことなので、本質的には両者同じものといえます。

いずれもいわゆるライバル費用引き上げ(Raising Rivals' Costs)戦略です。

小田切教授のお話では、合併の純粋な効果をみるために、「合併しそうな企業だから生じた効果」と「現実に合併したから生じた効果」を分けて、後者だけを抽出する、という考えが面白かったです。

その結果、合併による優位な利益率の向上は認められなかった、ということです。

それから、合併が研究開発に与える影響について、R&D集約度(=研究開発費÷売上高)をみたところ、研究集約型産業では半分以上の合併でR&D集約度が上がった、というのも興味深かったです。

あと、味の素とヤマキの合併の結果、味の素の製品は値上がりしてヤマキの製品は値下がりした、ということから、合併審査においてもプロダクトポジショニングへの影響を考慮すべき、というのも面白かったです。

法律家ではなかなかそこまで細かいことは思いつきません。きっと、それぞれの商品のマージンと需要曲線を推計すれば、プロダクトポジショニングも予想できるんでしょうね。

合併の結果、一部の消費者は利益を受け(例えば、ヤマキのファン)、一部の消費者は不利益を受ける(味の素のファン)場合があるというのも、実は悩ましいですね。

味の素ファンとヤマキファンのトータルで利益になるのか不利益になるのかを見る、というのがオーソドックスだと思いますが、それで良いのか、もっと良い方法がないのか、考えてみる必要があるかも知れません。

川濱教授のお話では、合併による効率性の定量化も必要だが、同様に、合併による悪影響(市場支配力の形成による影響)も定量化する必要がある、というのが、なるほどと思いました。

しかし、単独効果の定量化はまだしも、協調効果になると定量化は難しいのではないかという疑問も沸きました。

それから、合併シミュレーションは反競争効果が生じる前提条件を明らかにする点に意義がある、というのも、なるほどと思いました。

そうだとすると、法律家が合併シミュレーションを理解することも無意味でない気がします。

あと、シカゴ学派のボークらは企業結合において効率性を評価しなかったこと(効率性の判断にコストがかかりすぎるため。いかにも損得で割り切るシカゴ学派らしいと思いました)の紹介、余剰の重み付けをする考え方(レジュメでは、カナダのプロパン事件で、低所得者層からの余剰の移転を2倍に評価したことを紹介)や、個別の事件では消費者余剰基準を採ることがトータルでは総余剰の増加につながる、という議論の紹介が面白かったです。

でも、個別の判断は理屈に合わなくてもトータルで見れば結果オーライ、というような議論は、ちょっと受け容れられないように思いました。

後半のパネルでは、ネーヴェン教授から、「ほとんどの合併は失敗するが、一部は著しい成功を収める。競争法において重要なのは、そのような一部の成功例をブロックしないことだ」というお話しがありましたが、だからといって、「ほとんどの合併は失敗するのだから、ちょっと厳しめに合併を禁じたほうが、トータルでは望ましい」という議論では当事者は納得しないでしょう。

いずれにせよ、非常に内容の濃い、突っ込んだお話しが聴けて、大変ためになるシンポジウムでした。

2011年3月 3日 (木)

各種ガイドラインのシェア基準

公取委のガイドラインでシェアを基準にしているルールを以下にまとめておきます。

これくらいは覚えておいても良いかもしれません。

1.排除型私的独占ガイドライン

  違反者のシェアが概ね50%以上の場合に優先的に執行。

2.知財ガイドライン

  シェア20%以下なら競争減殺効果は軽微。(或いは代替技術4つ以上)(第2-5)

3.共同研究開発ガイドライン

  シェア20%以下なら通常独禁法上問題なし(第1-2(1))。

4.標準化パテントプールガイドライン

  プールの規格に関する市場シェアが20%以下、または競合規格が4以上ある場合、通常問題なし(販売価格・数量制限等を除く)。

5.流通取引慣行ガイドライン

  シェア10%または上位3位以内が有力な事業者の目安(注7)。

  供給者と総代理店が競争者で、総代理店がシェア25%以上かつ1位の場合、競争阻害効果が強い。

  逆に、総代理店のシェアが10%未満または4位以下のときは、問題なし。

6.企業結合ガイドライン

  水平: HHIが2500以下かつシェア35%以下のときは、通常問題なし。

  垂直: ①シェア10%以下、または②HHIが2500以下でシェア35%以下。

以上を並べると、流通取引慣行ガイドラインの有力事業者基準の10%というのが、知財ガイドラインや共同研究開発ガイドラインと比べて、異常に厳しいことが分かります。

いくら目安とはいえ、理屈の上では両者を区別する合理的な理由は乏しいように思います。

有力な事業者か否かにかかわらず再販売価格維持をすれば原則違法とされていることも併せて考えると(流通慣行ガイドライン第1-2(1))、なおさらです。

欧州の垂直的合意一括適用免除規則ではシェア30%が違法か否かの目安とされていること(ハードコア制限を除く)と比べても、やはり厳しすぎると思います。

2011年3月 2日 (水)

優越的地位濫用と「行為の広がり」

優越的地位濫用には、「行為の広がり」論というものがあります。

優越的地位濫用が成立するための法律上の要件というよりは(「行為の広がり」などは条文のどこを探しても書いてありませんので)、公取委が重要な事件を取り上げるための基準であると考えるのが一般的ではないかと思います。

優越的地位の濫用というのは、余り安易に成立を認めてしまうと、私企業間の契約交渉で決まった内容を公取委が公権力でひっくり返すということが頻発してしまいます。

ですので、重要性のあるものだけを取り上げる、という絞りをかけることは意味のあることだと思います。

また、1対1の関係に過ぎない紛争というのは、市場における競争とは関係ないといえ、そういう意味でも、「行為の広がり」がある場合に限って公取委が取り上げるというのは妥当なことだと思います。

ところで優越的地位濫用ガイドラインでは、

「どのような場合に公正な競争を阻害するおそれがあると認められるのかについては,
問題となる不利益の程度,行為の広がり等を考慮して,個別の事案ごとに判断すること
になる。

例えば,①行為者が多数の取引の相手方に対して組織的に不利益を与える場合,

②特定の取引の相手方に対してしか不利益を与えていないときであっても,その不利益
の程度が強い,又はその行為を放置すれば他に波及するおそれがある場合

には,公正な競争を阻害するおそれがあると認められやすい。」

という記述があり、行為の広がり論を述べています。

ただ、パブコメ回答で、

「『その行為を放置すれば他に波及するおそれがある場合』とは、例えば、取引上優越した地位にある事業者の特定の支店で行われていた行為が、他の支店でも行われるようになる場合が考えられます。」

と回答しているのは、説明としてはちょっと疑問です。

私が「行為の広がり」としてイメージするのは、取引先1社に対して無理な値引きを強制したりする場合は「行為の広がり」が無い、という使い方です。

逆に、1つの支店だけで行われていようとも、会社の方針として一律に無理な事後値引きを要求するような場合は、「行為の広がり」がある、というイメージです。まさに①ですね。

1つの支店だけで行われていようが複数の支店で行われていようが、関係ありません。

上記公取委の回答では、

「他に波及するおそれ」

というのが、

「違反者の他の支店(より一般的には、他の指揮命令系統)に波及」

という意味だと解釈されてしまいます。

しかし、ガイドラインの文言を素直に読めば、

「他に波及するおそれ」

というのは、

「他の取引先に波及するおそれ」

という意味だと思います。

だいたい、他の支店であっても同じ法人なわけですから、同じ法人の1つの支店で行われた場合と複数の支店で行われた場合とで、別個の取扱いをするのは余り根拠がないのではないでしょうか。

2011年3月 1日 (火)

一匹狼とグループ内談合と少数株式取得

独禁法の企業結合の世界では、それまで積極的に価格競争を仕掛けてきてたとか、アグレッシブな会社のことを「一匹狼」(maverick)といって、そのような一匹狼が消滅してしまうような合併は競争を制限する可能性が高い、というふうに考えます。

日本の企業結合ガイドラインでも、

「従来,当事会社間で競争が活発に行われてきたことや当事会社の行動が市場における競争を活発にしてきたことが,市場全体の価格引下げや品質・品揃えの向上などにつながってきたと認められる場合には・・・競争に及ぼす影響が大きい。」

という記述があり、一匹狼の考え方を意識しています。

問題は、何をもって一匹狼と考えるかです。

この点について、Dennis Carltonが、

「Revising the Horizontal Merger Guidelines」

という論文の中で、興味深いことを書いています。

同論文の中でカールトンは、

「米国新水平的合併ガイドライン上の『一匹狼』というのは、コントロール不能で野性的な企業を意味するのではなくて、アグレッシブな競争者となる経済的インセンティブを有するか否かで決まる、ということをはっきりさせるべきである。CEOの性格が分析の中心であってはならない。」

といっています。

まったくその通りだと思います。

我々法律家はどうしても、社長の性格とか、企業のイメージとかで、その企業が積極的な競争者であるのかを判断してしまいがちなように思います。

なぜなら、そのほうが分かりやすいからです。

でも、それでは合理的な独禁法の分析はできません。

アグレッシブに競争する経済的インセンティブがあるかどうかというのは、突き詰めれば、その企業の費用曲線と、その企業が直面する需要曲線がどうなっているかということだと思います。

そのような費用曲線と需要曲線を踏まえ、利益を最大化できる数量(と同時に価格)を決める、というのが合理的な行動です。

どんなに積極的な社長でも、自分の会社の利益が減るような価格設定をすれば、そのうち会社は潰れてしまいます。

突き詰めれば、「一匹狼」が「一匹狼」たりうるのは、その企業の生産設備やノウハウや従業員の能力など、諸々の事情が相俟ってそうなるのであって、社長の性格で決まるのではないはずです。

そもそも「一匹狼」というネーミングが良くありません。こういう刺激的なネーミングは、しばしば冷静な分析を曇らせます。

実は、似たようなことは、「グループ内での談合は独禁法違反か」という論点でも生じます。

天然ガスエコステーションの談合事件の担当官解説(公正取引685号68頁)では、東京ガスの100%子会社である4社が談合を行ったことが独禁法違反である理由として、4社が独自に営業活動を行い相互に競争関係にあると認識していたことを理由にしています。

しかし、このような論理は、「一匹狼」の議論での、「経済的インセンティブ」という観点からすると、まったく不合理なものであるというほかありません。

100%子会社である4社には、相互に競争する経済的インセンティブはないというべきでしょう。

確かに、担当者レベル(あるいは社長)の認識としては、自分が営業成績を上げたいからとか、受注を目指すインセンティブがあるのかもしれません。

しかし、そういうのは経済合理的なインセンティブではありません。

単に同じ会社の異なる部門の間で競争しているのと、何ら異なりません。

従業員に発破を掛けるために部門間で競争させている会社はいくらでもあるでしょうが、そのような擬似的な競争を独禁法上保護する必要がないことは明らかです。

100%子会社でも、部門間の競争と実質は同じです。

また、企業結合における少数株式取得の文脈では、過半数に遠く及ばない株式取得(例えば25%くらい)でも、買収者とターゲットの間で、積極的に競争するインセンティブが無くなる(親は、子の利益が配当や株価上昇という形で自分に跳ね返ってくるし、子は、親の顔色を見て競争する)とかいって問題にすることとも辻褄が合いません。

つまり、そのような少数株式の取得を問題にするということは、少数株式の取得ですら競争が失われることを前提にしています。

これに対して、100%子会社間の談合も違法とする考えは、100%子会社間でも本来は競争すべきであることを前提にしています。

この2つは明らかに矛盾します。

やはり、エコステーションの件は、入札談合という特殊なケースだけを念頭に置いたものというべきでしょう(入札の文脈でも、私はおかしいと思いますが、実務上はこういう命令がある以上、少なくとも入札談合の文脈では保守的にアドバイスせざるを得ません)。

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