米国水平合併ガイドライン例5(SSNIPテスト)の説明
米国水平合併ガイドラインの例5に、SSNIPテストの例が挙げられています。
「Example 5:
Products A and B are being tested as a candidate market.
Each sells for $100, has an incremental cost of $60, and sells 1200 units.
For every dollar increase in the price of Product A, for any given price of Product B, Product A loses twenty units of sales to products outside the candidate market and ten units of sales to Product B, and likewise for Product B.
Under these conditions, economic analysis shows that a hypothetical profit-maximizing monopolist controlling Products A and B would raise both of their prices by ten percent, to $110. Therefore, Products A and B satisfy the hypothetical monopolist test using a five percent SSNIP, and indeed for any SSNIP size up to ten percent.
This is true even though two-thirds of the sales lost by one product when it raises its price are diverted to products outside the relevant market.」
検算してみましょう。
商品Aの価格をpa、販売数をqa、商品Bの価格をpb、販売数をqbと置きます。
すると、
qa=-30pa+10pb+3200 ・・・①
qb=-30pb+10pa+3200 ・・・②
が成り立ちます。
商品Aを1ドル値上げすると、要するに商品Aの販売数は30個減る、ただし商品Bの価格が1ドル上がると商品Aの販売数は10個増える、というわけで、①式のpaの係数は-30となり、pbの係数は10となるわけです。3200は、pa=pb=100のときにqa=1200という前提から逆算します。
ここで、商品Aからの利益をπa、商品Bからの利益をπb、商品Bの両方を売る企業(仮想的独占企業)の利益をΠと置くと、
Π=πa+πb
=(商品Aの価格-商品Aの単位あたりコスト)×(商品Aの販売数)+(商品Bの価格-商品Bの単位あたりコスト)×(商品Bの販売数)
=(pa-60)×(-30pa+10pb+3200)+(pb-60)×(-30pb+10pa+3200)
=-30pa^2-30pb^2+20papb+4400pa+4400pb-384000 ・・・③
となります。
Πの最大値を求めるので、Πをpaについて偏微分すると、
∂Π/∂pa = -60pa+20pb+4400 ・・・④
となり、Πをpbについて偏微分すると、
∂Π/∂pb = -60pb+20pa+4400 ・・・⑤
となります。
Πが最大になるのは、④と⑤の値がともにゼロになるときですから、
-60pa+20pb+4400=0 ・・・⑥
-60pb+20pa+4400=0 ・・・⑦
となります。
⑥と⑦を解くと、
pa=110, pb=110
となります。
よって、当初の価格(100ドル)より10%値上げするのが利益の最大化になるので、当然、SSNIPの5%の値上げをすることによってこの仮想的独占者は利益を増やすことができることになります。
したがって、商品Aと商品Bだけで1つの市場が画定されることになる、というわけです。
例5の最後にも書いてあるように、このような、相互に3分の1ずつしか乗り換えが起こらない商品群でも市場が画定される、ということです。
素朴な感覚としては、AB間で相互に乗り換えが生じるのの2倍もAB外に流出するなら、AB以外の商品も十分にAおよびBと代替的であるような気がしますが、SSNIPテストでは必ずしもそのような素朴な感覚に従った市場画定にならない、ということです。
つまり、AB以外の商品がABと代替的であっても、AB間の乗り換えが全乗り換えの3分の1もあれば、価格を上げて十分に利益が上がる、ということです。
ただし、もし商品Bよりもより代替性の強い商品Cが商品Aにあれば、商品Cも同一の市場に含まれる、ということが、例6を挙げて説明されています。
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