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2011年2月

2011年2月25日 (金)

不当表示の既遂時期

不当表示は景表法4条で禁止されています。

では、不当表示はいつの時点で「既遂」になるのでしょうか(もちろん刑法犯ではありませんので、ものの譬えとお考え下さい)。

例えば、立派な見本写真を載せた広告(表示)をして、広告をしたときには広告どおりの商品を提供するつもりだったけれど、予想を超える注文をさばききれずに雑な仕事になり、結果として広告どおりの商品を提供できなかった、というような場合、既遂になるのは広告(表示)を出した時点でしょうか。それとも、雑な商品を提供した時点でしょうか。

景表法4条1項柱書きでは、

「〔不当表示〕に該当する表示をしてはならない。」

となっているので、禁止されているのはあくまで「表示」することです。

これがもし、

「表示と異なる商品役務を提供してはならない。」

という条文なら、表示と異なる商品役務を提供した時点で違反が成立するのでしょうが、4条はそうなっていません。

とすると、4条1項では、「表示」をした時点で既遂にならないとおかしいはずです。

不当表示には故意は不要で、まったく不当表示であると知らなくても(例えば、本当にカシミヤ100%のセーターだと信じて売っていても)、違反になります。

でもそれは、事実として「このセーター」を売るということは認識していたのですから、その認識と、「このセーター」を売ったという事実との間には齟齬はなく、まあ妥当な解釈かなと思います。

しかし、冒頭挙げた例のように、表示の時にはきちんと写真どおりのものを提供するつもりだったけど、予想外の事態のためにできなかった、という場合は、一体いつの時点で既遂になるのでしょう?

条文上は「表示」を禁じているので、表示の時点で既遂だ、というのが自然ですが、どうもしっくりきません。

上の例を少し変えて、例えば「国産地鶏100%」を謳って広告を出していて、広告を出したときには国産地鶏を使うつもりで、しばらくは国産地鶏だけを使っていたけど、人気が出てきて地鶏の調達が間に合わなくなったために、途中からブロイラーを使い始めた、という場合を考えてみましょう。

この場合、違反が成立する時点の候補としては、

①広告を出し始めたとき、

②ブロイラーを使い始めたとき、

の2つがあり得ると思います。

しかし、広告を出し始めたときは国産地鶏だけを使うつもりだったのなら、①の時点で既遂(違反成立)というのは、ちょっとおかしな気がします。

かといって、②の時点で既遂とすると、②の時点でも「国産地鶏100%」の広告を出してれば、その継続的な広告行為を捉えて不当表示と捉えればいいのですが、もし②の時点では広告は取りやめていたなら、対象となる不当表示がないことになってしまいそうです。

それとも、消費者庁は、②の時点で既遂になり、その時には実行行為としての表示行為はなくてもいい、という解釈なのでしょうか。よく分かりません。

まず広告で顧客を募って、商品提供の時点には(必要な数の顧客が集まったので)広告は出していない、ということは、けっこうあるように思います。

実務的にはこういう場合、「そうはいっても広告を出す時点で広告どおりの商品を提供できないおそれはあったんでしょう」という形で、事実認定を曲げる形で妥当な解決が図られるのかもしれませんが、理屈の上では釈然としません。

やはり根本的には、表示行為を禁じるだけでなく、表示と異なる商品役務の提供行為のほうを禁じる法律にしておくのが良いように思います。

いずれにせよ、予想外の注文が殺到して提供できない場合には、広告と異なる商品を提供するのではなく、商品を提供しないようにすべきです。そうれば、景表法違反にはならないはずです。

4条1号では、

「実際のものよりも著しく優良であることを示し」

というのが優良誤認ですが、

「実際のもの」=何も提供しないこと、

と考えて、提供しないのに提供するかのように示すことは「著しく優良であることを示し」たことになる、という解釈もあり得ないではないですが、文言的にかなり苦しいと思います。

2011年2月24日 (木)

独占的状態規制(8条の4)について

独占的状態規制(独禁法2条7項、8条の4)は、実際に発動されることはほぼ100%あり得ないですし、実務的には無視して良いのですが、質問されることはあるので、最低限のことを記しておきます。

独占的状態規制とは、一言で言えば、何ら反競争的な行為がないのに、市場構造が独占的であることのみを理由として、排除措置命令が出せる規制、といえます。

この点、独占的状態規制と紛らわしいものに、9条1項2項の「事業支配力過度集中規制」というのがあります。

こちらも実務上は無視して良いのですが、「事業支配力過度集中規制」は、

①他の会社の株式の所有により事業支配力が過度に集中することとなる会社の「設立」(9条1項)、

②他の会社の株式の「取得」または「所有」(9条2項)により事業支配力が過度に集中してしまうこと(9条2項)、

というように、(会社の)「設立」、(他社の株式の)「取得」、「所有」という行為が要件となっている点で、何ら行為を必要としない独占的状態規制とは異なる、と一応は言えます。

ただ、他の会社の株式の「所有」の結果事業支配力の過度集中が生じた場合(9条2項)、例えば、取得したときには過度集中は生じていなかったけれどその後の事情で過度集中が生じた場合というのは、何ら行為がないとも言えますが、やはり現在の「所有」という行為があると読むべきでしょう。

つまり、他社の株式を「所有」することなく、1社単独で過度集中が生じた場合には、条文をどう読んでも、9条1項・2項には違反しないことになります。

この点、9条2項の

「事業支配力が過度に集中することとなる会社となって(はならない)」

というのを、過度集中会社に「なる」という行為と捉えて「転化」と呼ぶようですが(「事業支配力が過度に集中することとなる会社の考え方」)、集中することとなるっていう状態を行為であるかのようにいうのは、具体的に何が違反の構成要件なのかを考える上では混乱の元になる整理のような気がします。

独占的状態規制に話を戻します。

「独占的状態」の定義は2条7項にあります。

使われない条文のくせにマニアックなくらい複雑な定義ですが(笑)、ざっくりいうと、

①当該同種の商品・役務の国内供給価格が最近の1年間で1000億円を超えること(柱書き)、

②その1年間において、1社のシェアが50%を超えるか、上位2社で75%を超えること(1号)、

③新規参入が著しく困難であること(2号)、

④当該商品役務の価格が下方硬直的で、当該事業者が超過利潤を上げていること(3号)、

の全部を満たす状態であることです。

以上の状態を満たす場合には、当該事業者に何らの行為がなくても、公取委は、かかる状態を解消するために必要な排除措置命令を出すことができます(8条の4)。

条文上は、以上の①から④の要件をみたすかどうかを個別に判断して公取委が排除措置命令を出すかどうかを決めることになっているのですが、公取委からは、

「独占的状態の定義規定のうち事業分野に関する考え方について」

というガイドラインが出ていて、これの別表1に、①の1000億円の要件と②のシェアの要件(ガイドラインでは①②をあわせて「市場構造要件」とよばれています)をみたすと公取委が認定している事業分野が列挙されています。

たとえばビール、ウィスキー、バイク、携帯型ゲーム機などがあげられています。

反対にいうと、別表1に載っていない事業分野では独占的状態(8条の4)の規制はない、ということです。(載っていても、実際の規制はほぼ100%ないと思いますが。)

なおガイドラインには、①②の市場構造要件を惜しくもみたさない事業分野を別表2に掲げており、たとえば固定電話、ブロードバンド、携帯、パソコンOS、宅配便、書籍取次、音楽著作権管理、などがあげられています。

2011年2月18日 (金)

複数の事業者がする私的独占

私的独占は、世界の独禁法の体系では「単独行為」というものに相当すると考えられており(アメリカではシャーマン法2条、EUではEU機能条約102条)、またネーミングが、私的「独占」なので、1社のみが違反者になるというイメージを持ちがちです。

しかし、条文にもはっきりと、

「事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し・・・」(独禁法2条5項)

と書いてあるので、複数の事業者が違反者となりうることは明らかです。

実例としても、ぱちんこパテントプール事件などがあります。

ですので、「単独行為」という呼び方は、単独でも(複数でなくても)違反になりうる、という意味くらいに考えておくのが正しいと思います。

ただ、複数の会社の「結合」でも、みんなが平等に「結合」している場合はすべての会社が違反者になると考えてよいですが、リーダー格の1社が他社を引っ張っていっているような場合には、リーダーだけが違反者であって他社は違反者ではない、ということもあり得ると思われます。

では、単数の事業者が私的独占をする場合と、複数の事業者が私的独占をする場合とで、競争の実質的制限の解釈は異なるのでしょうか。

この点、不公正な取引方法の取引拒絶における公正競争阻害性の議論の中では、

①単独の取引拒絶は取引先選択の自由と正面からぶつかるので違法になるハードルは高いけれど、

②共同の取引拒絶は取引先選択の自由の範疇を超えている、

といったような理由で、共同の取引拒絶の方は比較的簡単に公正競争阻害性を認める見解が多いのではないかと思います。

また、直接の取引拒絶と間接の取引拒絶を比べても、

③間接の取引拒絶は、他社に、取引拒絶をさせる点で人為的なので、直接の取引拒絶よりも公正競争阻害性が強い、

という議論をすることが多いのではないかと思います。

しかし、競争の実質的制限が問題になっている私的独占の場合には、単独でも、複数でも、違法となるための競争制限の程度は変わらない、と考えるべきだと思います。

やはり、公正競争阻害性の、ぬえ的な、ゆるい議論を競争の実質的制限に持ち込むのは、私は抵抗があります。

排除型私的独占ガイドラインでも、(注21)で、

「複数の事業者が結合又は通謀して行為者となる場合の市場シェアは,各行為者の市場シェアを合算した値による」

と、複数の事業者が結合した場合でも単純にシェアを足すだけ、という扱いになっているので、例えば1社で60%のシェアを持つ会社が私的独占をしたときも、30%のシェアを持つ会社2社が結合して私的独占をしたときも、競争の実質的制限の程度は同じ、という立場に立っている、といえます。

排除型私的独占ガイドラインでは、おおむねシェア50%以上の場合に優先的に執行対象とするということなので、2社でおおむねシェア50%に届かないときは、私的独占で摘発される可能性は相対的に低い、ということになりそうです(ただ、不公正な取引方法に当たらないかは、別途考慮が必要です)。

ところで、こういう単数か複数かという議論をするときは、単数形と複数形の違いがはっきりしている英語の方がクリアーで良いですね。

英語を読むときに単数形か複数形かを手掛かりに読解するようになると、とくに複雑で厳密な法律の世界の場合、日本語の方が曖昧に感じてしまいます。

定冠詞か不定冠詞か、というのも、それを手掛かりに英語を読む習慣がつくと、日本語の方が読みにくくなります。

英文の和訳で意味が分からないものは、原文にあたって冠詞と単複を確認すると意味がすっきり分かったりします。

法律英語では、こういうことが結構多いように思います。

2011年2月 8日 (火)

両社競合しない市場での「市場における地位」記載上の注意

株式取得(ほかの企業結合も同じですが)の届出書の

「4 届出会社及び株式発行会社の国内の市場における地位

の中に

(1) 届出会社の属する企業結合集団に属する会社等([20%子会社]を含む。)並びに株式発行会社及びその子会社の間で,国内の同一の事業地域内で同一の商品又は役務について競合する場合」(いわば、競合市場)

というのと、

(2) 届出会社の属する企業結合集団に属する会社等([20%子会社]を含む。)並びに株式発行会社及びその子会社の間で,国内の同一の事業地域内か否かにかかわらず同一の商品若しくは役務について競合しない場合又は異なる事業地域において同一の商品若しくは役務を供給している場合」(いわば、非競合市場)

というのとがあります。

(1)の競合市場のほうは、両当事者の市場における地位(シェアなど)を書くべきことは納得がいきます。

問題は(2)の非競合市場のほうです。

こちらのほうは、書式の書きぶりを見る限り、両社競合していない商品でもすべて挙げるべきように読めます。

例えば、総合商社が企業買収をするときには、買収対象の事業にかかわらず、鉛筆からミサイルまで書かなければならないことになります(!)

しかし、そんなことはありません。

実は「株式取得に関する計画届出書記載要領」のほうにこれに関する記述があります。

つまり、同記載要領p30に、

「3((2)欄について)

...ただし,届出会社の属する企業結合集団に属する会社等並びに株式発行会社及びその子会社の間に,現に取引関係に無いものであって今後も取引関係に立ち得ることが無いものについては,原則記載する必要はありません。」

と書いてあります。

つまり、基本的には、取引関係にある市場(売主、買主の関係にある市場)についてだけ書けばよい、ということなんですね。

届出書末尾の「記載上の注意事項」だけ見てると分からないので、記載要領までよく読む必要があります。

しかし、こういう大事なことは、そもそも書式の本文のところに目立つように書くべきではないでしょうか。

2011年2月 7日 (月)

米国水平合併ガイドライン例5(SSNIPテスト)の説明

米国水平合併ガイドラインの例5に、SSNIPテストの例が挙げられています。

「Example 5:

Products A and B are being tested as a candidate market.

Each sells for $100, has an incremental cost of $60, and sells 1200 units.

For every dollar increase in the price of Product A, for any given price of Product B, Product A loses twenty units of sales to products outside the candidate market and ten units of sales to Product B, and likewise for Product B.

Under these conditions, economic analysis shows that a hypothetical profit-maximizing monopolist controlling Products A and B would raise both of their prices by ten percent, to $110. Therefore, Products A and B satisfy the hypothetical monopolist test using a five percent SSNIP, and indeed for any SSNIP size up to ten percent.

This is true even though two-thirds of the sales lost by one product when it raises its price are diverted to products outside the relevant market.」

検算してみましょう。

商品Aの価格をpa、販売数をqa、商品Bの価格をpb、販売数をqbと置きます。

すると、

qa=-30pa+10pb+3200 ・・・①

qb=-30pb+10pa+3200 ・・・②

が成り立ちます。

商品Aを1ドル値上げすると、要するに商品Aの販売数は30個減る、ただし商品Bの価格が1ドル上がると商品Aの販売数は10個増える、というわけで、①式のpaの係数は-30となり、pbの係数は10となるわけです。3200は、pa=pb=100のときにqa=1200という前提から逆算します。

ここで、商品Aからの利益をπa、商品Bからの利益をπb、商品Bの両方を売る企業(仮想的独占企業)の利益をΠと置くと、

Π=πa+πb

=(商品Aの価格-商品Aの単位あたりコスト)×(商品Aの販売数)+(商品Bの価格-商品Bの単位あたりコスト)×(商品Bの販売数)

=(pa-60)×(-30pa+10pb+3200)+(pb-60)×(-30pb+10pa+3200)

=-30pa^2-30pb^2+20papb+4400pa+4400pb-384000 ・・・③

となります。

Πの最大値を求めるので、Πをpaについて偏微分すると、

∂Π/∂pa = -60pa+20pb+4400 ・・・④

となり、Πをpbについて偏微分すると、

∂Π/∂pb = -60pb+20pa+4400 ・・・⑤

となります。

Πが最大になるのは、④と⑤の値がともにゼロになるときですから、

-60pa+20pb+4400=0 ・・・⑥

-60pb+20pa+4400=0 ・・・⑦

となります。

⑥と⑦を解くと、

pa=110, pb=110

となります。

よって、当初の価格(100ドル)より10%値上げするのが利益の最大化になるので、当然、SSNIPの5%の値上げをすることによってこの仮想的独占者は利益を増やすことができることになります。

したがって、商品Aと商品Bだけで1つの市場が画定されることになる、というわけです。

例5の最後にも書いてあるように、このような、相互に3分の1ずつしか乗り換えが起こらない商品群でも市場が画定される、ということです。

素朴な感覚としては、AB間で相互に乗り換えが生じるのの2倍もAB外に流出するなら、AB以外の商品も十分にAおよびBと代替的であるような気がしますが、SSNIPテストでは必ずしもそのような素朴な感覚に従った市場画定にならない、ということです。

つまり、AB以外の商品がABと代替的であっても、AB間の乗り換えが全乗り換えの3分の1もあれば、価格を上げて十分に利益が上がる、ということです。

ただし、もし商品Bよりもより代替性の強い商品Cが商品Aにあれば、商品Cも同一の市場に含まれる、ということが、例6を挙げて説明されています。

2011年2月 4日 (金)

競争政策研究センター第22回公開セミナー

去る1月21日の標記セミナーに参加してきた感想を記しておきます。

講演資料は公取委のホームページに載っています。

とても興味深かったのは、大橋東大准教授の八幡・富士製鉄合併(現在の新日鉄が誕生)に関するお話しでした。

八幡・富士の合併といえば、当時経済学者が猛反対で、公取委が条件付で承認したことが強く批判されていたのは知っていました。

また、「有効な牽制力を有する競争者」の存在の有無で合併の適否を判断する公取委の一般論については、そのような競争者が1社でもあれば複占でも合併を認めることになりほとんど独占の場合しか独禁法違反にならない、とか、協調効果を考慮していないとかいう理由で、当時の学説がこぞって反対していた、というのも事実です(例えば、厚谷他編「条解独占禁止法」p376)。

ですので、八幡・富士の合併を条件付で認めた公取委の判断は誤っていたというのが今でも経済学者、場合によっては法学者の間で根強い見解なのかと思っていたのですが、大橋先生の発表は、「そうでもない」という結論なのですね。

つまり、資料のp37にも書いてあるのですが、本件合併による価格の上昇は1%未満であったのに対して、生産者余剰は49.7%も増加した、というんですね。

その主な原因は、本件合併によって大型設備投資が可能になったというのが大きいんだそうです。

さらに、問題解消措置については、スライドp39に書いてあるとおり、

「・・・新日鉄のほうが競合企業よりも設備資本をより効果的に生産に用いることができたために、資産譲渡によって逆に産業全体の効率性は低下したことが分かった。」

「また効率性が減少した結果、価格が上昇し、消費者余剰は競争回復措置によりさらに減少することとなった。」

「つまり、競争回復措置により、競合企業を活性化させたことは事実であるものの、社会余剰の観点からは必ずしも正当化されないことが分かった。」

というんですね。

いずれも衝撃的でした。

つまり、総余剰の観点からは、合併絶対反対の当時の経済学者の意見が間違っていただけでなく、公取委が命じた問題解消措置も、むしろない方が良かった(無条件で認めるべきだった)、ということなんですね。

(「総余剰」とか「消費者余剰」というのはミクロ経済学の用語で、ざっくりいうと、市場取引の恩恵によって「これ以下の価格なら買っても良い」というギリギリの価格よりも安く買えたことによる消費者の利益の総計が「消費者余剰」で、その裏返しである「生産者余剰」と足したものが、「総余剰」です。)

企業結合を認めるか否かの基準として、消費者余剰だけを見るのか、総余剰を見るのか、というのはそれ自体大きな問題で、講演後の質疑応答でもその質問がなされました。

日本ではたぶん消費者余剰を基準にするのが支配的な考え方だと思いますが、これほど圧倒的に効率性が増したのに対して価格上昇は1%にも満たない、というケースがあることを目の当たりにすると、杓子定規に、価格が0.1%でも上がったら合併を認めない、というのは余りに教条主義的ではないか、という気がしますね。

いずれにせよ、経済学って、後で検証して間違い探しができてしまうところが怖いというか、すごいところですね。少なくとも、ぱっと見た感じでは経済学は科学的ですね。

それに対して法学は、公取委の決定の字面に難癖つけているだけみたいで、ちょっと悲しくなります。

講演の元になっている大橋先生の論文も、是非じっくり読んでみたいです。

2011年2月 3日 (木)

【お知らせ】日経ウェブ版にコメントを載せて頂きました。

日本経済新聞のウェブ版の記事に、私のコメントを引用していただきました。

「クーポンサイト、隆盛の陰にひそむ危うさ - グルーポン『おせち騒動』は氷山の一角」

個別の案件についてこの場でコメントすることは差し控えますが(政治家の答弁みたいですみません。このような私でも、いろいろ立場というものがありますので)、記事自体もとても面白いので、ご興味のある方はぜひご一読下さい。

2011年2月 1日 (火)

EU新水平的協定ガイドライン上の情報交換について

2011年1月14日付で公表されたEU新水平的協定ガイドライン(Guidelines on the applicability of Article 101 of the Treaty on the Functioning of the European Union to horizontal co-operation agreements)の情報交換に関する部分について、気になったことを記しておきます。

同ガイドライン62項では、事業者が一方的にメールなどで戦略的情報(strategic information)を送りつけてきた場合や、会議で一方的に伝えてきた場合にも、EU機能条約101条(共同行為)違反になりうる、としています。

つまり、同項では、

「ある会社が競争者から戦略的データを受領(receives)した場合(会合であろうと、手紙であろうと、電子的にであろうと)には、当該会社がかかるデータを受領することを望まないという明確な返答をしない限り、当該会社は、かかる情報を受入れ(accepted)、それに従ってその市場行動を決定したと推定される。」

としています。

同業他社から戦略的データが一方的に送りつけられてくるということがどれほどあり得るのかよく分かりませんが、いずれにせよ、文字通り読むと結構厳しい内容です。

怪しい情報が送られてきたときには、直ちに異議を申し立てて破棄するような、社内マニュアルを作成しておく必要があるかもしれません。

何が「戦略的データ」にあたるのがについて、同ガイドライン86項では、「戦略的情報」として、

「価格(例えば、実際の価格、値引き、増額、減額、リベート)、顧客リスト、製造コスト、製造量、売上、生産能力、品質、マーケットプラン、リスク、投資、技術、研究開発プログラムとその結果に関係することがあり得る」

と、かなり幅広く挙げています。

しかし、「あり得る」なので、これらの例が当然に「戦略的情報」というわけでもなく、86項では続けて、

「一般的に、価格及び数量に関係する情報は最も戦略的であり、続いて、コストと需要に関する情報がそうである。」

といっています。

一般に、過去の情報を交換することは危険性が低いと言われ、同ガイドライン90項にもそう書いてあります。

ちょっと面白いのは90項の注(2)で、

「委員会は、1年以上古い個別データの交換を歴史的(historic)であると考えてきたが、一方で、1年以内の情報は最近のもの(recent)であると考えられている。」

とされています。

1年というと、結構古い感じがしますが、例えば10ヶ月くらい前でもrecentになりうるということなので、注意が必要です。

ただ、90項本文では、どれくらい古ければよいのかという絶対的な基準はなく、価格交渉の頻度など諸般の事情による、と書いてあります(至極もっともです)。

競争制限の目的をもって行う情報交換は「目的による競争制限」(a restriction of competition by object)とみなされます(72項)。

そして、restriction of competition by object は、競争を制限する可能性を本質的に有しているので、効果を検討するまでもなく違法とされています(24項)。当然違法と考えているわけです。

81条3項一括免除ガイドライン22項によれば、restriction of competition by object といえるためには、競争を制限するという当事者の主観的意図を示す証拠は必須ではないとのことですが、現在や将来の価格や数量に関する情報交換は、restriction of competiion by objectに当たる可能性が高いでしょう。

ちなみに、日経新聞で話題になった、公知(public domain)の情報を交換することも、かかる情報を集めるのにコストがかかる場合には真に公(genuinely public)とは言えないので、違法になり得るという点については、92項に書いてあります。

また、ガソリンスタンドの看板にガソリンの値段が掲げているだけでは真に公の情報とはいえない、という例が109項に例5として掲げられています。

この例だけをみれば、「そりゃそうだよな」という感じがして、それほど不都合には思われないのですが、実際には微妙な例も出てきそうですね。

ただ、情報取得コストがポイントになっているので、例えば、インターネットに情報を載せておけば、多くの場合genuinely publicとなり、リスクを回避できるのではないでしょうか。

ガソリンスタンドの例でいえば、各社が、各スタンドでのガソリン販売価格を、毎日アップデートしてインターネットで公開すれば、genuinely publicと言えるのではないかという気がしますし、消費者も喜ぶことでしょう。

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