EU新水平的協定ガイドライン上の情報交換について
2011年1月14日付で公表されたEU新水平的協定ガイドライン(Guidelines on the applicability of Article 101 of the Treaty on the Functioning of the European Union to horizontal co-operation agreements)の情報交換に関する部分について、気になったことを記しておきます。
同ガイドライン62項では、事業者が一方的にメールなどで戦略的情報(strategic information)を送りつけてきた場合や、会議で一方的に伝えてきた場合にも、EU機能条約101条(共同行為)違反になりうる、としています。
つまり、同項では、
「ある会社が競争者から戦略的データを受領(receives)した場合(会合であろうと、手紙であろうと、電子的にであろうと)には、当該会社がかかるデータを受領することを望まないという明確な返答をしない限り、当該会社は、かかる情報を受入れ(accepted)、それに従ってその市場行動を決定したと推定される。」
としています。
同業他社から戦略的データが一方的に送りつけられてくるということがどれほどあり得るのかよく分かりませんが、いずれにせよ、文字通り読むと結構厳しい内容です。
怪しい情報が送られてきたときには、直ちに異議を申し立てて破棄するような、社内マニュアルを作成しておく必要があるかもしれません。
何が「戦略的データ」にあたるのがについて、同ガイドライン86項では、「戦略的情報」として、
「価格(例えば、実際の価格、値引き、増額、減額、リベート)、顧客リスト、製造コスト、製造量、売上、生産能力、品質、マーケットプラン、リスク、投資、技術、研究開発プログラムとその結果に関係することがあり得る」
と、かなり幅広く挙げています。
しかし、「あり得る」なので、これらの例が当然に「戦略的情報」というわけでもなく、86項では続けて、
「一般的に、価格及び数量に関係する情報は最も戦略的であり、続いて、コストと需要に関する情報がそうである。」
といっています。
一般に、過去の情報を交換することは危険性が低いと言われ、同ガイドライン90項にもそう書いてあります。
ちょっと面白いのは90項の注(2)で、
「委員会は、1年以上古い個別データの交換を歴史的(historic)であると考えてきたが、一方で、1年以内の情報は最近のもの(recent)であると考えられている。」
とされています。
1年というと、結構古い感じがしますが、例えば10ヶ月くらい前でもrecentになりうるということなので、注意が必要です。
ただ、90項本文では、どれくらい古ければよいのかという絶対的な基準はなく、価格交渉の頻度など諸般の事情による、と書いてあります(至極もっともです)。
競争制限の目的をもって行う情報交換は「目的による競争制限」(a restriction of competition by object)とみなされます(72項)。
そして、restriction of competition by object は、競争を制限する可能性を本質的に有しているので、効果を検討するまでもなく違法とされています(24項)。当然違法と考えているわけです。
81条3項一括免除ガイドライン22項によれば、restriction of competition by object といえるためには、競争を制限するという当事者の主観的意図を示す証拠は必須ではないとのことですが、現在や将来の価格や数量に関する情報交換は、restriction of competiion by objectに当たる可能性が高いでしょう。
ちなみに、日経新聞で話題になった、公知(public domain)の情報を交換することも、かかる情報を集めるのにコストがかかる場合には真に公(genuinely public)とは言えないので、違法になり得るという点については、92項に書いてあります。
また、ガソリンスタンドの看板にガソリンの値段が掲げているだけでは真に公の情報とはいえない、という例が109項に例5として掲げられています。
この例だけをみれば、「そりゃそうだよな」という感じがして、それほど不都合には思われないのですが、実際には微妙な例も出てきそうですね。
ただ、情報取得コストがポイントになっているので、例えば、インターネットに情報を載せておけば、多くの場合genuinely publicとなり、リスクを回避できるのではないでしょうか。
ガソリンスタンドの例でいえば、各社が、各スタンドでのガソリン販売価格を、毎日アップデートしてインターネットで公開すれば、genuinely publicと言えるのではないかという気がしますし、消費者も喜ぶことでしょう。
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