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2011年1月14日 (金)

事前相談と法定の届出手続の違い

日本では、企業結合は、正式な法律上の届出に基づく審査ではなく、いわゆる事前相談で処理されるのが通常です。

しかし、最近事前相談が長期化する傾向があることや、公取委も事前相談はあくまで任意であることを強調していることなどから、今後は、事前相談をせずに法律上の届出をいきなりするケースが増えるかもしれません。

そこで、事前相談をするか、法律上の届出をいきなりするか迷ったときのために、事前相談と法律上の届出制度の違いを整理しておきます。

まず、開始できるタイミングに違いがあります。

法律上の届出の場合、例えば株式取得を例に取ると、届出書の添付書類として、株式取得の契約書の写しか、取得の意思決定を証する書面を提出する必要があります(届出規則2条の6第2項)。

そこから逆に考えると、取得の正式な内部的意思決定をしていないと届出ができないということになります(譲渡人との契約までは不要)。

そうすると、場合によっては、意思決定をしたために証券取引所の適時開示が必要になったりします。

これに対して事前相談の場合、事前相談を始めるのに企業結合の具体的な計画内容を示すことは要求されているものの(事前相談対応指針)、正式な内部的意思決定をすることまでは要求されていません。

ですので、事前相談のほうが、法律上の届出よりも早く行うことができると言えます。

ちなみに、法律上の届出については、「届出制度Q&A」で、

「特段の事情がない限り,行為予定日からさかのぼって6か月を超えない期間内に届出を受け付けます。」

とされています。あんまり遠い将来に行う企業結合については届出を受け付けてもらえないということですね。

誰が相談・届出を行うのかも違います。

事前相談は、企業結合計画を実施しようとする当事会社からの申し出であることが必要とされているので(事前相談対応指針)、例えば株式取得の場合であれば発行会社と株式取得者、事業譲渡だと譲渡人と譲受人が相談にいくことになります。

これに対して、法律上の届出の場合は、例えば株式譲渡なら、届出をするのは譲受人のみ、事業譲渡なら譲受人のみです。(ただ、事前相談はあくまで任意の制度ですから、例えば敵対的買収の場合など、株式譲受人が株式発行会社と一緒に事前相談に行けない事情がある場合には、譲受人だけでの事前相談を認めるとか、公取委に柔軟な対応をしてくれるよう協議すべきでしょう。)

秘密保持の点についても若干違います。

事前相談の場合には、基本的に第1次審査の段階では取引先に対する聞き取り調査などは行わないので(ただし、既に公表されている事案であれば、第1次審査中でもむしろ関係者のほうから公取委に意見を述べてくることもあるでしょうし、公取委から関係者に聴き取りをすることもあるでしょう)、ある程度秘密は保たれるものの、第2次審査に進む際には当事者が企業結合を計画している旨を公表しなければなりません(事前相談対応指針)。

これに対して法律上の届出制度の場合は、当事者にそのような公表義務はありません。

ただ、このことは、法律上の届出制度では公取委が関係者に聴き取り等を行うことができないということを意味するわけでは決して無く、むしろ原則的に行うはずです。

その際、できるだけ秘密が漏れないように、例えば取引先への質問の仕方を工夫してもらう等の協議をすることは可能ですが、それでも、公取委からの質問の内容を見る人が見れば、「あそことあそこが企業結合しそうだな」というくらいのことは察しがつくかもしれません。

要する時間(スケジュール)の点では、両者概ね同じような感じですが、ちょっと違います。

法律上の届出の場合には、届出書が受理されてから30日以内に公取委が問題があるか否かを通知しなければなりません(独禁法10条9項)。

これに対して、事前相談の場合には、事前相談の申し出をした後に公取委が追加資料リストの提示をするまでの期間(20日内)があり、追加資料の提出が完了して初めて30日間の第1次審査がスタートすることになります。

そういう意味で、第1次審査については法律上の届出のほうが早く終わることになります(日本では、「第1次審査」、「第2次審査」という言葉は事前相談のそれを指すことが通常ですが、外国ではむしろ、法律上の届出に基づく審査を「第1次審査」、「第2次審査」といっており、これが誤解の元になることが多いです。)

ちなみに、報告命令など、強制的な調査手段が用いられるかどうかということは、事前相談の場合と法定の届出の場合とでさほど違いはありません。

といいますか、どちらの場合でも、基本的には、強制的な調査手段は用いられません。

任意の調査に協力しないと報告命令が出されることがあり得ますし、実際そのような例もありますが、基本的には、企業結合の審査は任意です。

報告命令を出そうとすると担当が経済取引局企業結合課から審査局に変わる(というか審査局も加わる)ので、組織内の敷居も高いようです。

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