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2011年1月10日 (月)

信託銀行の「国内売上高」

平成21年改正で、企業結合の届出基準が従来の総資産基準から国内売上高基準に変わりました。

そして、銀行については、「売上高」は「経常収益」とする、とされています(届出規則2条)。

(なお、

「経常利益

という言葉は普通の事業会社の損益計算書に表れますが、

「経常収益

という言葉は銀行業や保険業に独特の項目ですので、注意が必要です。)

(一応、財務諸表規則の体系に従って整理をしておくと、

「経常利益」または「経常損失」(財務諸表規則95条参照)

というのは「営業外収益及び営業外費用」(同規則第3章第4節参照)に位置付けられますが、

「経常収益

というのは、財務諸表規則2条に基づく業種別会計基準の1つとしての別記3「銀行・信託業」を受けて定められた銀行法施行規則内の会計関連規定中の用語である、ということになります。)

(ちなみに、会計の世界では、「収益費用対応の原則」(principle of matching expenses with revenues)という言葉もあるように、

「収益」(revenue)

の反対が

「費用」(expense)

で、その差額が

「利益」(profit, income)または「損失」(loss)

ということになっています。)

「『売上高』は『経常収益』とする」というだけではよく分からなくなりそうですが、要するに、モノを売るわけではない銀行の場合は、「売上高」という言葉が似つかわしくないので、事業会社でまさに売上高に相当するものを「経常収益」と呼んでいる、と考えた方が分かり易いです。

理屈をつけて「売上高」と「経常収益」をつなげると、どちらも、その会社の経常的な事業活動による収益である、ということができます(ただ、「売上」は商品役務の提供による収益なので、経常的な事業活動一般による収益よりは狭い)。

それでは、信託銀行の「売上高」はどのように考えればいいのでしょうか。

まず、信託銀行というのは、その名前が示すとおり、

「金融機関の信託業務の兼営等に関する法律」(「兼営法」)

に基づき信託業務を兼営する銀行ですから(兼営法1条)、当然、届出規則2条の、

「銀行業・・・を営む会社等」

に該当すると言えます。

このように、信託銀行も銀行である以上、信託銀行の「売上高」は、独禁法上、「経常収益」とされることになります。

ちなみに「経常収益」の定義は銀行法施行規則にもなく、会計の世界の用語のようです。

ネットで見られる某銀行の損益計算書では、「経常収益」はさらに、

①資金運用収益

②信託報酬

③役務取引等収益

④特定取引収益

⑤その他業務収益

⑥その他経常収益

の6つに分かれています。

(それぞれの詳しい意味については、例えば神戸大学会計学研究室編「会計学辞典」(同文館出版)などをご覧下さい。このブログは無料媒体ですので、批評や検討目的でない単なる情報提供目的での引用(表現のみならず内容も)は、著者の労力に敬意を表して差し控える方針です。)

「②信託報酬」は、文字通り信託業務の報酬ですからとくに問題はないでしょう。

「①資金運用収益」は、さらに、「貸出金利息」、「有価証券利息配当金」、「コールローン利息及び買入手形利息」、「債券貸借取引受入利息」、「その他の受入利息」からなっています。銀行の利息収入はここに入るわけですね。

(念のためですが、貸出の元本額は売上高とは何の関係もありません。レンタカー会社が時価200万円の自動車を1日1万円で1日貸し出したときの売上がレンタル料1万円であるのと同じく、銀行が時価200万円の現金(つまり現金200万円)を年利3%で1年貸し出したときの「売上」は6万円です。)

信託銀行の場合も、銀行ですから、同じ分類になっています。

ですので、例えば信託銀行が稼いだ信託報酬については、「②信託報酬」として、経常収益に計上されることになり、独禁法の届出を考える上での「国内売上高」にカウントされることになります。

さて、ここでふと、届出規則2条のかっこ書きの、

「銀行業及び保険業を営む会社等については経常収益、第一種金融商品取引業を営む会社等については営業収益とする。」

というのはどういう性質の規定なのか(創設的規定なのか、確認的規定なのか)という疑問が頭に浮かびました。

私は、確認的規定と考えるべきだと思います。

つまり、このかっこ書きが仮になくても銀行の場合は経常収益を売上と考えるべき(それに従って独禁法上の届出の要否も判断すべき)ところ、銀行の損益計算書を見て、

「『売上高』という項目が存在しないので売上高はゼロであり独禁法上の届出は要しない」

というとんでもない誤解(曲解)を避けるために、念のために規定された、と見るべきでしょう。

したがって、例えば銀行ではない信託会社(外国にはたくさんありそう)の場合も、「売上」がないから「国内売上高」はゼロとみるのではなく、「売上」に相当するもの、例えば信託手数料(これは信託受託サービスという役務の対価なので「売上」と呼んでもそもそも違和感無さそうですが、言葉の問題でしょう)を「売上」と見て、売上高を算定するのが正しいと思います。

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