企業結合ガイドラインの「結合関係」の改正
平成21年独禁法改正に合わせて、企業結合ガイドラインの「結合関係」の内容が、地味に改正されています。
株式取得の場合の「結合関係」(複数の企業が株式保有、合併等により一定程度又は完全に一体化して事業活動を行う関係)は、3段階で判断されます。
A社が株式を取得する会社、T社が株式を発行する会社とすると、以下のとおりです。
①A社グループ全体でのT社に対する議決権比率が50%超の場合、当然に「結合関係」ありとなり、企業結合審査の対象になります。
②A社グループ全体でのT社に対する議決権比率が20%超で、かつ単独で1位の場合も、当然に「結合関係」ありとなり、企業結合審査の対象になります。
①と②は、平成21年改正で、企業結合の届出がグループ単位での議決権比率で判断されることになり、届出の閾値が50%と20%の2つに整理されたことに合わせてガイドラインを改正したものです。
その証拠に、①も②も、改正前は、A社グループ全体での議決権比率ではなく、A社単体での議決権比率で判断することとされ、かつ、②については「25%超」でした。
やや注意を要するのは次の場合です。
③A社単体でのT社に対する議決権比率が10%超で、かつ3位以内のときは、以下の事情を考慮して「結合関係」が形成・維持・強化されるかを判断する。
(ア) 議決権保有比率の程度
(イ) 議決権保有比率の順位,株主間の議決権保有比率の格差,株主の分散の状況その他株主相互間の関係
(ウ) 株式発行会社が株式所有会社の議決権を有しているかなどの当事会社相互間の関係
(エ) 一方の当事会社の役員又は従業員が,他方の当事会社の役員となっているか否かの関係
(オ) 当事会社間の取引関係(融資関係を含む。)
(カ) 当事会社間の業務提携,技術援助その他の契約,協定等の関係
(キ) 当事会社と既に結合関係が形成されている会社を含めた上記(ア)~(カ)の事項
さて、③だけA社単体の議決権比率になっています。
しかし、これは、改正前の届出制度では10%、25%、50%の閾値で届出が必要で、しかも比率は単体でみることに合わせていたのが、改正後は10%超の届出が無くなったのに、ガイドラインでは③だけがそのまま残ってしまったからで、特に深い意味は無いと考えるべきでしょう。
つまり、ガイドラインを文言どおり厳密に読めば、A社の子会社がT社の議決権を10%超保有していても、A社単体での保有がゼロの場合には、A社が新たに9%取得しても、
「(A社の)・・・議決権保有比率・・・が10%を超え」
の要件を満たさず、結合関係の形成・維持・強化が生じないということになりそうです。
((キ)で、グループ会社の持株数も考慮されますが、それは、A社単体での議決権比率が10%超という要件を満たした上での話です。)
しかし、それでは不都合な場合もあり得ることは容易に想像できますから、きっとそのような厳密な読み方はしないのだろうと思います。
ただ、元を辿れば、平成21年改正前のガイドラインで実体的な違法要件であるべき「結合関係」をA社単体の議決権比率で判断していたこと自体に問題があるのであって、③はそれを引き継いだだけではあります。
しかし、どうせ①と②も改正するなら、ついでに(目立たないように?)③も改正しておけば良かったのにと思います。
今のままでは、なぜ③だけが単体基準なのか、疑問が沸いてきそうです。
有り体に言えば、「10%という低い比率でも結合関係を認めるのは慎重であるべきなので、単体基準にした」ということになるのかも知れませんが、それは後知恵というべきでしょう。
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