違反者が買主の場合の書きぶり(20条の6かっこ書き)についての疑問
平成21年独禁法改正で、継続的な優越的地位濫用に課徴金が課せられることになりました(独禁法20条の6)。
しかし、優越的地位にある者(以下「違反者」といいます)が商品役務の買主である場合の20条の6の書きぶりには、やや疑問があります。
まず、20条の6では、違反者が被害者に対して商品役務を売る場合を念頭に、本文で、
「〔違反期間〕における、当該行為の相手方との間における・・・売上額」
を基礎に課徴金を算定するとしています。
違反者が売主である場合というのは実は例外的で、典型的な優越的地位濫用、例えば大手家電量販店(買主)が納入業者(売主)に対して従業員の派遣を要請するような場合や、メーカー(買主)が下請業者(売主)に対して不当な値引きを要求するような場合(通常は下請法で処理されますが)は、いずれも買主が違反者です。
買主は、売主にとってはお客様であり、買主が代金を払ってくれるおかげで商売が成り立っているのですから、売主(被害者)が買主(違反者)の言うことを聞かざるを得なくなりがち、という構図です。
ですので、20条の6の本文で書かれているような、売主が違反者となる場合というのは実はあまり多くはありません。
あえて言えば、例えばフランチャイズにおいて、商標の利用を許諾しているフランチャイザー(=役務の提供者・売主)が、フランチャイジー(=役務の購入者)に対して優越的地位の濫用を行う、という場合くらいでしょうか。
他には、銀行と融資先との関係は、融資という役務を提供する銀行(売主)が融資先(役務の買主)に対して優越的地位に立つ場合と言えます。
さて、そいういうわけで買主が優越的地位に立つ、世の中によくある場合について定めたのが、20条の6の3つめのかっこ書きです。
そこでは、
「当該行為が商品又は役務の供給を受ける相手方に対するものである場合は当該行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した購入額」
とされています。
しかしこの条文、素直に読むと誤解しそうです。
というのは、
「商品又は役務の提供を受ける相手方」
といえば、
「商品又は役務の提供」
を受けるのが、
「相手方〔被害者〕」
であるというふうに、読まれはしないでしょうか。
藤井他編著「逐条解説 平成21年改正独占禁止法」(商事法務)p90では、
「優越的地位の濫用は、違反行為者が取引の相手方に対して商品等を供給する立場にある場合〔注:本文の場合〕と需要する立場にある場合〔注:かっこ書きの場合〕とが考えられるところ、違反事業者が前者である場合には相手方への売上額が、後者である場合には相手方からの購入額がそれぞれ課徴金の算定の基礎になる。」
と書いてあり、そういう理解を前提に読めば、かっこ書きの
「商品又は役務の提供を受ける相手方」
というのは、違反者が商品・役務の提供を受ける場合の相手方、つまり違反者への商品役務の提供者のことである、と理解できます。
しかし、そういう前提知識無しに読むと、かっこ書きは、商品役務の提供を受ける相手方に対して優越的地位濫用を行う場合、と読めてしまう気がします。
私などは、久しぶりに条文を読んで、「むむむっ」としばらく考え込んでしまいました。
ですので、
「当該行為が商品又は役務の供給を受ける相手方に対するものである場合は当該行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した購入額」
というのは、
「当該行為が、当該事業者に商品又は役務を供給する相手方に対するものである場合は当該行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した購入額」
としたほうが良かったと思います。
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