事業の廃止と国内売上高
A社が、自社の事業(α事業、β事業)のうち、一部の事業(例えばα事業)を廃止した場合、その直後に行う別の企業結合の届出における国内売上高は、α事業を除いて計算されるべきでしょうか。
例えば、国内売上が、
(α,β)=(120億円,120億円)
のA社が、α事業を廃業したとします。
その直後に、まったくこれとは関係なくB社の株式を取得する場合(B社の国内売上高は50億円超とします)、株式取得の届出の判定の際に、α事業の120億円が国内売上高に含まれるのか、という問題です。
含まれれば、A社の国内売上高は240億円となり、届出を要することになりますが、含まれないとすると、120億円となり、届出は不要となります。
さて、どちらでしょうか。
この点、α事業を別会社に譲渡した場合には、α事業の売上高は、その事業が決算を経たものである限り、当該売上高は当該別会社に引き継がれる、というのが公取委の立場です。
例えば、届出制度Q&Aの「株式取得の届出の要否について」のところで、
「
とされています。
このQ&Aの場合に、承継対象事業の売上が、譲渡後にB社(譲渡会社)の売上にもカウントされるということは、さすがにないはずです(それではダブルカウントです)。
では、今問題にしている、事業廃止の場合はどうでしょうか。他社にα事業を譲渡した場合と同様、α事業の売上はゼロとカウントしてよいでしょうか。
困ったときは条文をみてみましょう。
10条2項で国内売上高は、
「国内売上高(国内において供給された商品及び役務の価額の最終事業年度における合計額として公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下同じ。)」
と定義されています。
これを文字通り読むと、α事業の「最終事業年度」(決算を経た最後の事業年度と考えてよいでしょう)に売上が計上されている以上、その後α事業を廃止しても売上の数値は残る、とも読めそうです(とくに、「国内売上高」が、「事業」の存廃に影響を受けることを裏付ける文言の根拠はなさそうですし)。
でも、そうすると、前述の、α事業を譲渡した場合も同じに考えないと辻褄が合わないと思います。
ですので、事業を譲渡した場合に譲受会社にα事業の売上が承継されると考える公取委の立場に立つ限り、10条2項はα事業廃止の際にその売上を除外することを否定する決定的な根拠にはならないように思います。
やはり、譲渡の場合と同様に、廃止の場合も、「国内売上高」から除外されると考えるべきではないでしょうか。それが常識に適うように思いますし、条文の文言に反するとまでは言えないと思います。
確かに、
①事業は一応存続しているけれど最近売上が激減している場合(←この場合は、最終事業年度の売上をカウントすべきことに争いはないでしょう)と、
②完全に廃止してしまった場合
との限界は微妙なこともあるかもしれませんし、両者で結論が正反対になるのはバランスが悪いのではないか、という意見もあるかもしれません。
しかし、そこは常識で判断すれば良いのではないかと思います。
イメージでいえば、事業の廃止は事業の譲渡のほうに近く、売上の激減とは違う、ということです。
でも、「常識で」といっても、やはり微妙な場合はあるでしょうね。
事業を廃止したといっても、当該事業用資産を廃棄したような場合は、もう生産することはできませんから、競争法の観点からも、「なし」と扱ってよいと思います(←こういう実質的な考慮を形式的な届出要件の判断に持ち込むと、ますますわけが分からなくなるので、賛否両論あろうかとは思います)。
これに対して、景気が悪くて一時的にラインを止めているだけなら、「廃止」にはならないでしょうし(しかもここでの問題設定の前提では、「一時的」というのは、必然的に1年未満ということになりますし。2年止まっていれば、何もしなくても「最終事業年度」の売上はゼロになります)。
やはり、競争単位として操業できるような事実上の状態が残っている限りは、廃止には当たらないのでしょうね。
ちなみに、α事業の最終事業年度の売上をゼロにするために決算期を変更して期中で決算すれば良いのではないか(例えば、廃止後3ヶ月後に決算をすれば、α事業の最終事業年度はゼロなので、4倍して1年分にしてもゼロ)、と一瞬思ったのですが、これは無理っぽいです。
というのは、公取委の見解では、足りない9ヶ月分は前年度の売上からもってくるということなになっているからです(Q&Aの「届出の要否について」の第1問)。
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