グループ内の売上と単体の「国内売上高」
企業結合の届出においては、グループ全体の売上である「国内売上高合計額」と、会社単体の売上である「国内売上高」の両方が基準になり得ますが、国内売上高合計額の計算においてはグループ内の売上は相殺消去されるのに対して、国内売上高の計算ではグループ内の売上もカウントされるので注意が必要です。
国内売上高合計額の計算においてグループ内の売上が相殺消去されることは、届出規則2条の2第2項に、
「・・・国内売上高合計額を計算する場合においては、当該企業結合集団に属する会社等相互間の取引に係る国内売上高について相殺消去をして合計することができる。」
と書いてあることから明らかです(「できる」なので、必ず相殺消去しなければならないわけではありませんが)。
具体例で見てみましょう。
例えば、A社(持株会社)、a1社(製造子会社)、a2社(加工子会社)、a3社(販売子会社)の4社からなるA社グループ(企業結合集団)があるとします(a1~a3社はA社の100%子会社)。
そして、a1社は製造した商品の全部をa2社に販売し、a2社で加工した上でa3社に販売し、a3社が国内の需要者に販売するとします。
国内売上高合計額を計算するときは、グループ内の売上は相殺消去されるので、a3社の売上だけがA社グループの国内売上高合計額となります。
ですので、A社グループが株式取得における株式取得会社になる場合は、a3社の売上だけが「国内売上高合計額」となり、これが200億円を超えているかが届出の基準になります。
それでは各社の国内売上高はどうなるでしょう。
まず、a3社の国内売上高は、a3社自身の国内売上高です(当たり前ですね)。
ですので、A社がa3社の株式を譲渡する場合には、a3社の国内売上高が50億円超であるかが届出の基準になります。
次に、a2社の国内売上高は、a2社のa3社に対する売上全部となると思われます。
というのは、a2社とa3社は同じグループ会社ですから、a2社は当然a3社が日本国内の需要者に販売することを知っていると思われるからです(届出規則2条1項2号3号参照)。
ですので、A社がa2社の株式を譲渡する場合には、a2社の国内売上高(=a3社への売上高)が50億円超であるかが届出の基準になります。
それではa1社の場合はどうでしょうか。
a2社が国内の法人であれば、a1社のa2社に対する売上はa1社の国内売上高になると考えられます(届出規則2条1項2号)。
これに対して、a2社が国外の法人である場合、a1社の売上が国内売上高と認められるためには、a1社が、
「当該会社等〔=a2社〕が、当該取引に係る契約の締結時において、当該法人等が当該商品の性質又は形状を変更しないで本邦を仕向地としてさらに当該商品を取引すること又は当該法人等の本邦に所在する営業所等に向けて当該商品を送り出すことを把握している」(届出規則2条1項3号)
ことが必要であるところ、a2社は加工してしまうので、「商品の性質又は形状」を変更していることになるからです。
ですので、A社がa1社の株式を譲渡する場合、a2社が外国の法人だと、a1社の国内売上高はゼロとなり、届出は不要になると思われます。
ですので、例えば、精密な製造工程を要する製造業務は国内のa1社が行い、単純作業の組み立てや加工は海外のa2社が行った上で、国内の販売会社であるa3社に販売している、というケースですと、a1社の株式譲渡の場合には、どんなにa1社の届出が大きくても届出は要らないことになります。
さらに一般化すれば、a1社、a2社、a3社がグループ会社でなくても、結論は同じことになります。
このように、実体的な違法性の面からは問題になり得そうな場合でも、届出が要らなくなるということは、細かく見ていくと結構ありえます。
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