事前相談廃止の盲点
企業結合に関する事前相談を廃止すべき、あるいは、事前相談は正式届出前の公取委のコミュニケーションあるいは調整の機会にとどめるべき、という意見が産業界を中心にあるようです。
(日本経団連2010年10月19日「企業結合に関する独占禁止法の審査手続・審査基準の適正化を求める」など)
確かに、日本の事前相談は、正式届出前に、正式届出と瓜二つの手続(第1次審査→第2次審査)を行うという点で、世界的にみてかなり異色な制度といえます。
まさに、屋上屋を架す、英語で言えば、belt-and-suspender approachです。
しかし、ひとつ注意しておくべきことがあると思います。
それは、法律上の届出要件を満たさない企業結合にどう対応するか、です。
法律上の売上要件を満たさないような小さな企業結合は無視していいんじゃないか、というのも1つの割り切りです。
しかし、日本の独禁法は、実体上競争を実質的に制限することとなるのであれば違法であるとはっきり言っており(10条1項など)、届出要件を満たさないからといって、実体法上も違法でなくなるわけではありません。
それに、法律上の届出要件を満たさないのは、規模が小さな企業結合だけではありません。
たとえば、ジョイントベンチャーを設立して、当事会社の生産設備の運営を委任する(ただし生産設備の譲渡はしない)、というようなスキームを考えてみましょう。
この例では、ジョイントベンチャーを設立するときに両親会社がジョイントベンチャーの株式を取得するので、株式取得の届出を考えることになります。
しかし、新たに設立するジョイントベンチャーには売上がないので、売上要件を満たさないことになります。
したがって、株式取得の届出は不要ということになります。
そうすると、極めて生産能力の大きい生産設備を実質的に統合する場合でも、法律上の届出が要らないという場合が出てきます。
ちなみにこの例では、経営の委任(16条1項4号)に当たると言えるのかも知れませんが、経営の委任には届出制度がない(16条2項は事業譲渡の届出だけ)ので、やはり届出は不要といわざるを得ません。
日本の企業結合規制は、法的なスキーム毎に縦割りに届出制度を定めているので、法律に定められたスキームの間からすり抜けてしまうものがあり得ます。
日本の会社法の適用のない外国会社どうしの企業結合ならなおさらです。
ですので、少なくとも、法律上の届出要件を満たさないような企業結合については、事前相談を残しておく方が良いと思います。
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