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2010年11月 4日 (木)

前後理論について

カルテルの被害者が加害者(カルテルの参加者)に損害賠償請求をする場合の損害額の認定の方法として、米国の判例法には、前後理論(before and after theory)というものがあります。

これは、カルテルが行われるの価格と、カルテルが行われている最中(「前後理論」という名前との対応を意識すれば、カルテル開始、といってもいい)の価格とを比較して、その差額がカルテルにより引き上げられた価格だと考えるものです(価格ではなくカルテル参加者の利益で比較するのが本来みたいですが、分かりやすいので価格で説明します)。

したがって、被害者の損害額は、そのような差額に、カルテル中の購入数量を掛けた額となります。

カルテルがいつから始まったか分からないなど、カルテル前の価格が明らかでない場合は、カルテルの最中(再び「前後理論」という名称と対応させれば、カルテル終了、ということなのでしょう)の価格と終了の価格を比較する、ということも行われます。

アメリカでは個別具体的な事案の類型毎に、ナントカ理論という名前がつくことが多いのですが、この前後理論も、要するに日本の判例の差額説の一種です。

もう少し論理的に言えば、差額説における「差額」を立証するための手段であると言えます。

差額説とは、加害行為が無かったと仮定した場合の被害者の財産状態と加害行為があったために現に存在する被害者の財産状態との差額を損害とする考え方です。

「前後理論」という名前がつくと、

「『前』って、何の前だっけ?」

と、どうでも良いことで悩みかねないので、こういう余分な名前を付けるのはやめた方がいいと思うのですが、確立された用語なので仕方ありません。

しかし、カルテル期間中とそれ以外とで、材料費とか経済状況とかが変わっていることも多く、この前後理論を額面どおりに適用してよいかは問題です。

アメリカでも、前後理論を適用できるための要件についての議論が蓄積されています(谷原修身「独占禁止法と民事的救済制度」p227)。

とくに、談合が摘発された後には、落札価格は一旦は急激に下がりますが、それは、自由競争に慣れていない入札業者が過剰反応して安値で入札するからであるということも充分考えらます(そのような入札を続けていけばいずれ立ちゆかなくなることが徐々に分かってくるにつれ、ほどほどのレベルに落ち着く)。

そういうことも考えると、とくに、談合中の価格と談合摘発直後の価格とを比べて損害を認定することには、慎重であるべきではないかと思われます。

それに比べれば、談合を開始する前と談合中の価格を比べるほうが、まだましだと言えるでしょう。

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