グレーゾーンへの対応
先日、伊豆半島の海岸沿いを愛車のユーノスコスモ20Bでドライブしていたら、おもしろい警告板を見つけました。
ひとつは、「この海岸でのアワビ漁を禁止する。」というものです。
これ自体は何ということもないのですが、おもしろかったのは、
「この海岸ではウェットスーツの着用を禁止する。」
という掲示もされていたことです。
想像するに、これはアワビ漁をしていた密猟者が、見つかったときにアワビを海に捨ててしまうと密漁の証拠が掴めず無罪放免になってしまって不都合だから、「こんな海岸でウェットスーツを着ているのは密漁目的に違いない」という経験則(?)に基づいて、ウェットスーツの着用も禁止しているのでしょう。
なかなかかしこいやり方だと思いました。
確かに、ウェットスーツを着ているからといって、必ず密漁しているわけではありません。
単に泳ぎたいというだけかもしれませんし(およそ海水浴向きの海岸には見えませんでしたが・・・)、海底のアワビを鑑賞したいという目的かもしれません。
でもそういった、あまりあり得ない例外は慮外に置いて、まずは取り締まりを優先しているということでしょう。
また、このような掲示をすることにより、「見つかったらアワビを海に捨ててしまえばいいや」と考える不届き者を予め排除できるという効果も期待できそうです。
このように、本当に悪いこと(=アワビの密漁)を予防するために、それに関連する(あるいは関連の可能性がある)けれどそれ自体悪くはないこと(=ウェットスーツを着ること)も禁止してしまう、という発想は、客観的な証拠が残らずグレーなゾーンが大きい独禁法、とりわけカルテル防止の場合にも、積極的に採用してよいように思います。
もちろん、これを公取委が公権力を用いて大々的にやることは派生的な影響が大きくて問題がありますが、企業が内部のコンプライアンスプログラムを定めるときには、あっても良い発想だと思います。
例えば、営業担当者は同業他社の営業担当者と会ってはいけないとか、会ったときには報告を義務づけるとかです。
先の看板の例も、地方の小さな自治体がこっそりと条例で定める程度なら、大きな問題にはならないのでしょうけれど、日本国政府がやるとすれば大問題になりそうです。
また、独禁法は各社で実態にあったコンプライアンス規則を作るのに向いている法律のように思われます。
例えば、インサイダー取引というのは、いずれの上場会社においても問題の発生の仕方が類似しており、似たような場面で似たようなことが問題になるので、インサイダー取引の防止に関する内規というのは、各社概ね似たような内容になります。
これに対して、独禁法のリスクについては、各社全く状況が異なりうるわけで、同じ行為でも会社によっては全くリスクがないということはいくらでもあり得ます。
ですので、独禁法コンプライアンスはあくまでオーダーメイドが基本です。
先日のIBAのアジア・パシフィック・フォーラムで、ゲストのデラウェア州の裁判官の方が、
「コンプライアンスにおいて、"one size fits all"の発想は間違っている。」
と繰り返しおっしゃっていました。
独禁法のコンプライアンスにおいては、とりわけそうだと思います。
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