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2010年11月30日 (火)

20%超の株式の間接取得

A社の株式(厳密には「議決権」ですので、気になる方は読み替えて下さい)の21%を保有するB社の全株式をC社が譲り受ける場合、C社は株式取得の届出をする必要があるでしょうか。

ここでA社とC社は届出要件を満たすくらい充分に大きな国内売上高を有しており、逆にB社には国内売上高は無いとします。

つまり、

C社→(100%)→B社→(21%)→A社

というように、いわばC社がB社を100%子会社とすることによって、間接的にA社の株式を21%取得する、というケースです。

結論からいえば、この場合株式取得の届出は不要であると考えられます。

なぜなら、独禁法10条2項では、

「会社・・・は、他の会社・・・の株式の取得をしようとする場合・・・において、当該株式取得会社〔とそのグループ会社〕が所有する当該株式発行会社の株式に係る議決権の数・・・の当該株式発行会社の総株主の議決権の数に占める割合」

が一定の割合(20%または50%)を超えるときに届出を要するとしており、本設例でいえば、C社がA社の株式を「所有する」場合でなければ届出義務が無いことは、文言上明らかだからです。

本説例では、A社の株式を「所有」しているのはあくまでB社なので、仮にB社がC社の100%子会社になって、21%の議決権についてはC社が完全にコントロールできるとしても、C社には届出義務はないというべきです。

ただし、独禁法17条には脱法行為の禁止に関する規定があるので、専ら届出義務を免れる目的のためだけに不自然な行為をすれば、17条違反に問われる可能性はあり得ます。

例えば、P社の株式21%を保有するQ社がR社にその21%のP社株を譲渡しようと考えたが、そうすると届出要件を満たしてしまうので、ことさら届出義務を免れる目的で、P社株式だけを分割対象資産として、新設分割によりQ’社を設立し、その後に、Q社がその保有するQ’社株式をR社に譲渡するような場合です。

つまり、

Q社→(21%)→P社

の状態でQ社が21%のP社株式を譲渡すると届出要件に引っかかるので、新設分割(これ自体は届出不要です)により、P社株のみを資産とするQ’社を設立し、

Q社→(100%)→Q’社→(21%)→P社

という形にしてから、Q’社の全株式をR社に譲渡する、というものです。

(その結果、R社→(100%)→Q’社→(21%)→P社、となります。)

このような露骨な脱法の場合は、17条違反と言われても仕方ないと思います。

これに対して、もともとQ’社が存在していた場合には、脱法とは言えないと思います。

この点、公開買付の文脈では、KDDIによるジェイコム買収の件において、中間持株会社の株式を取得する場合にも公開買付が必要になることがあり得るという見解が金融庁から示され、同案件が中止に追い込まれるということがありました。

なので、当局(公取委)が金融庁なみに積極果敢な解釈を取れば、最初から「Q’社」に相当する会社が存在していた場合でも17条違反に問われ得る、ということだと思います。

ですので、どうしてもこの点が心配だ、ということであれば公取委に聞くしかないのですが、私は、上記のような脱法的な場合で無い限りは、届出は不要と考えています。

それに、TOBの場合と独禁法の届出の場合は、状況がだいぶ異なります。

つまりTOBの場合は、まさに実質的に支配権が移転するか否かがTOBを強制するか否かの本来的なメルクマールです。その意味で、条文の文言はさておき、実質的には、間接取得でもTOBをさせるべき、という議論(立法論?)はありえます。

これに対して、独禁法の届出の20%というのは、あくまで届出の範囲を明確化するための便宜的、手続的な基準です。

実体的、本来的な違法性の基準は独禁法10条1項の競争を実質的に制限することとなるか否かです(19%の取得でも10条1項違反になり得ますし、21%の取得で10条1項違反にならないこともあります)。

ですから、独禁法の届出の場合には、無理に条文の拡大解釈をする必要性はそもそも乏しいのであって、そうすると、公取委が金融庁と同様の積極果敢な解釈をする可能性は乏しいし、そのような解釈をする必要性も無いと思います。

なお、以上は20%を跨ぐ株式の間接取得の場合であって、50%を跨ぐ間接取得の場合には、届出が当然に必要です。

つまり、

B社→(51%)→A社

という状況で、C社がB社の全株式を取得することにより、

C社→(100%)→B社→(51%)→A社

となる場合です。

この場合は、B社がA社の株式の過半数を有しているために、B社とA社は同一の企業結合集団に属することになりますので、B社の株式をC社が取得する際に、B社の売上にA社の売上もカウントされます。

ですので、仮にB社単体に国内売上高が無くても、問題なく届出が必要となるわけです。

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