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2010年11月

2010年11月30日 (火)

20%超の株式の間接取得

A社の株式(厳密には「議決権」ですので、気になる方は読み替えて下さい)の21%を保有するB社の全株式をC社が譲り受ける場合、C社は株式取得の届出をする必要があるでしょうか。

ここでA社とC社は届出要件を満たすくらい充分に大きな国内売上高を有しており、逆にB社には国内売上高は無いとします。

つまり、

C社→(100%)→B社→(21%)→A社

というように、いわばC社がB社を100%子会社とすることによって、間接的にA社の株式を21%取得する、というケースです。

結論からいえば、この場合株式取得の届出は不要であると考えられます。

なぜなら、独禁法10条2項では、

「会社・・・は、他の会社・・・の株式の取得をしようとする場合・・・において、当該株式取得会社〔とそのグループ会社〕が所有する当該株式発行会社の株式に係る議決権の数・・・の当該株式発行会社の総株主の議決権の数に占める割合」

が一定の割合(20%または50%)を超えるときに届出を要するとしており、本設例でいえば、C社がA社の株式を「所有する」場合でなければ届出義務が無いことは、文言上明らかだからです。

本説例では、A社の株式を「所有」しているのはあくまでB社なので、仮にB社がC社の100%子会社になって、21%の議決権についてはC社が完全にコントロールできるとしても、C社には届出義務はないというべきです。

ただし、独禁法17条には脱法行為の禁止に関する規定があるので、専ら届出義務を免れる目的のためだけに不自然な行為をすれば、17条違反に問われる可能性はあり得ます。

例えば、P社の株式21%を保有するQ社がR社にその21%のP社株を譲渡しようと考えたが、そうすると届出要件を満たしてしまうので、ことさら届出義務を免れる目的で、P社株式だけを分割対象資産として、新設分割によりQ’社を設立し、その後に、Q社がその保有するQ’社株式をR社に譲渡するような場合です。

つまり、

Q社→(21%)→P社

の状態でQ社が21%のP社株式を譲渡すると届出要件に引っかかるので、新設分割(これ自体は届出不要です)により、P社株のみを資産とするQ’社を設立し、

Q社→(100%)→Q’社→(21%)→P社

という形にしてから、Q’社の全株式をR社に譲渡する、というものです。

(その結果、R社→(100%)→Q’社→(21%)→P社、となります。)

このような露骨な脱法の場合は、17条違反と言われても仕方ないと思います。

これに対して、もともとQ’社が存在していた場合には、脱法とは言えないと思います。

この点、公開買付の文脈では、KDDIによるジェイコム買収の件において、中間持株会社の株式を取得する場合にも公開買付が必要になることがあり得るという見解が金融庁から示され、同案件が中止に追い込まれるということがありました。

なので、当局(公取委)が金融庁なみに積極果敢な解釈を取れば、最初から「Q’社」に相当する会社が存在していた場合でも17条違反に問われ得る、ということだと思います。

ですので、どうしてもこの点が心配だ、ということであれば公取委に聞くしかないのですが、私は、上記のような脱法的な場合で無い限りは、届出は不要と考えています。

それに、TOBの場合と独禁法の届出の場合は、状況がだいぶ異なります。

つまりTOBの場合は、まさに実質的に支配権が移転するか否かがTOBを強制するか否かの本来的なメルクマールです。その意味で、条文の文言はさておき、実質的には、間接取得でもTOBをさせるべき、という議論(立法論?)はありえます。

これに対して、独禁法の届出の20%というのは、あくまで届出の範囲を明確化するための便宜的、手続的な基準です。

実体的、本来的な違法性の基準は独禁法10条1項の競争を実質的に制限することとなるか否かです(19%の取得でも10条1項違反になり得ますし、21%の取得で10条1項違反にならないこともあります)。

ですから、独禁法の届出の場合には、無理に条文の拡大解釈をする必要性はそもそも乏しいのであって、そうすると、公取委が金融庁と同様の積極果敢な解釈をする可能性は乏しいし、そのような解釈をする必要性も無いと思います。

なお、以上は20%を跨ぐ株式の間接取得の場合であって、50%を跨ぐ間接取得の場合には、届出が当然に必要です。

つまり、

B社→(51%)→A社

という状況で、C社がB社の全株式を取得することにより、

C社→(100%)→B社→(51%)→A社

となる場合です。

この場合は、B社がA社の株式の過半数を有しているために、B社とA社は同一の企業結合集団に属することになりますので、B社の株式をC社が取得する際に、B社の売上にA社の売上もカウントされます。

ですので、仮にB社単体に国内売上高が無くても、問題なく届出が必要となるわけです。

2010年11月27日 (土)

白石先生のtwitterでつぶやいていただきました。

何人かの同僚が教えてくれたのですが、昨日、白石忠志先生のtwitterでこのブログについて触れていただきました。

https://twitter.com/#!/stjp6

私はtwitterの使い方というか読み方が今ひとつよく分からず、ほとんど使ったことがないのですが、これを機会にちょっと使い方を覚えてみたいと思います。

日本を代表する独禁法学者の先生に読まれているというのはちょっと緊張しますが(笑)、私が独禁法について情報発信できるのも、

案件を依頼してくれるクライアント(とともに、必死になって頭を絞る機会を与えてくれる相手方や公正取引委員会)、

一緒に仕事をする同僚、

支えてくれるスタッフ、

弁護士の仕事の基本を学び、留学に行く機会を与えてくれた前職の大江橋法律事務所、

恩師、両親、友人、

またより広くはそれを支える人々と社会のみなさま、

のおかげだと思いますので、これからも気後れすることなく、自分の考えたことを発信して、社会に還元していこうと思います。

2010年11月26日 (金)

抱き合わせは取引強制です。

一般指定10項は、「抱き合わせ販売等」として、

「相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること。」

を不公正な取引方法であるとしています。

これは、独禁法2条6号ハの、

「不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又は強制すること。」

を受けたものです。

ちなみに、ハの「誘因し」のほうは、一般指定8号(ぎまん的顧客誘引)の、

「自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について、実際のもの又は競争者に係るものよりも著しく優良又は有利であると顧客に誤認させることにより、競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引すること。」

と、9号(不当な利益による顧客誘引)の、

「正常な商慣習に照らして不当な利益をもつて、競争者の顧客を自己と取引するように誘引すること。」

というところに引き継がれています。

つまり、独禁法2条6号ハのうち、「誘引」は一般指定8号と9号に、「強制」は10号に落ちている、という構造です。

一般指定10号が「強制」を伴うものでなければならないことは、

「・・・その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること。」

という文言に表れています。

本来、「その他」は、その前の名詞(句)(10項では、「相手方に対し、不当に・・・購入させ(ること))と、

その後の名詞(句)(10項では、「(相手方に対し、不当に、)自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること。」)

とが対等・並列な関係にあることを示すのが基本です。

ただ、その前の名詞句がその後の名詞句の例示であることを示す「その他の」と混同して用いられることもあります。

そして、10項では、「その他」の前は、その後の例示と思われます(つまり、本来「その他の」とすべきでしょう。語呂は悪いですが)。

なぜなら、10項の根拠である独禁法2条9項6号ハが

「不当に競争者の顧客を自己と取引するように・・・強制すること」

とされており、10項の「その他」より前の部分も「強制すること」に該当しなければならない(該当しないとすると、法律の委任を超えた無効な指定となる)からです。

以上のことから明らかなように、一般指定10項の「抱き合わせ」は、あくまで取引強制であることが大前提です。

ところが、実際には、「強制」があったか否かはあまり(あるいは全く)抱き合わせの議論においては考慮されていないことが多いのではないかという気がします。

私などは、アメリカの独禁法から入った方なので、むしろ「強制」を要件とすることのほうに違和感を覚え、他者を排除する効果はむしろ需要者が喜んで抱き合わせを受け入れている場合のほうが大きいのではないかと考えたりするのですが、条文にはっきりと「強制」と書いている以上、仕方ありません。

むしろ、こういう明白な条文上の要件を半ば無視して(ひょっとしたらアメリカの議論にかぶれて)抱き合わせの議論が展開されていくのは、実務を担う者としては、学生レベルの幼稚な解釈だと感じざるを得ません。

この点、白石先生が、抱き合わせについてはに、「他者排除型抱き合わせ」という側面と、「不要品強要型抱き合わせ」という側面とに分析される、とした上で(白石「独占禁止法(第2版)」p207)、

他者排除型については、

「需要者が主たる商品役務を特定の供給者から購入せざるを得ないという状況のもとで、当該主たる商品役務に特定の供給者の従たる商品が抱き合わせられるために、従たる商品に関する他の供給者が排除される、という点に着目する」

とされ、

不要品強要型については、

「需要者が主たる商品役務を特定の供給者から購入せざるを得ないという状況のもとで、当該主たる商品役務に対し、需要者にとって不要なものが抱き合わせられる、という点に着目する」

とされ、いずれも「ざるをえない」という状況、つまり強制が必要であることを示唆されているのは、一般指定10項があくまで取引強制の条文であるということを意識されてのことではないかと思います(違ってたらごめんなさい)。

とくに他者排除型については、需要者が喜んで抱き合わせに従っているほうが排除効果が大きいので、明示的に「ざるを得ない」ことが必要とされているのは、重要、かつ正しいことだと思います。

ですので、まったく強制の要素がない抱き合わせは、ほんらい私的独占でいくしかないはずなのです。

実際、排除型私的独占ガイドラインの抱き合わせの説明を読むと、需要者に対する強制の有無という要素は考慮されていません(私的独占の定義にそのような要件は無いので、当然といえば当然ですが)。

以上を整理すると、社会的な事実としてのいわゆる抱き合わせは、

①公正競争阻害性にとどまる場合には、「強制」がある場合に限り、不公正な取引方法になる、

②競争の実質的制限に至る場合には、「強制」の有無にかかわらず、私的独占にあたる、

と整理するのが、文言に忠実な解釈だと思います。

2010年11月25日 (木)

公取委HPの「先輩職員からのメッセージ」

公取委のホームページの採用情報の中に、「先輩職員からのメッセージ」というのがあります。

これ、公取委の職員の方々がどのようなメンタリティで仕事をされているのかとか、内部での仕事の様子とかが窺えて、とても興味深いです。

公取委に就職を考えている人はもちろん読むのでしょうけれど、そうでなくても、独禁法実務に関わる人は一読の価値ありではないかという気がしました。

時間のあるときに、じっくり読んでみたいと思います。

独禁法の実務を通じて諸外国の実務家と交流して感じるのは、規制当局側であると在野法曹であるとを問わず、独禁法に関わる専門家の間では、かなりのメンタリティの類似性があるということです。

国を問わず、当局側か在野法曹かを問わずです。

「同じ法律を扱っているんだから当たり前じゃないか」といわれればそれまでですが、例えば刑事弁護では、検察官と弁護士の物の見方は全く違うように思います。

金融関係や薬事関係など、行政の多くの分野でも、規制する側とされる側なので、物の見方が違うことが多いでしょう。

それに比べれば、独禁法の場合は、規制する側とされる側というメンタリティが比較的少なく、当局側も在野法曹も、「独禁法は私利私益を実現するためにあるのではなく、市場における公正な競争という公益的価値を実現するためにある」という価値観を共有できているのでしょう。

むしろ独禁法をやっていると、独禁法の非専門家である弁護士との間に、感覚のずれというか、埋めがたい溝を感じることが度々です(笑)。

でも、在野法曹というのは周りに理解されないと存在価値がないので、理解されるようにがんばっていこうと思います。

2010年11月24日 (水)

事業の現物出資による子会社設立と独禁法上の届出?

ある会社が、自己の事業の一部を現物出資して100%子会社を設立する場合、独禁法上の届出は必要でしょうか。

「単なる分社化で、届出不要に決まってるじゃん。」

と多くの方は思われるでしょう。

実際、結論はそのとおりだと思うのですが、条文と公取委の見解に照らしてこれをきちんと説明しようとすると、実はなかなかやっかいです。

例として、P社が、その事業の一部を現物出資することによって、新たに100%子会社であるS社を設立するとします。

P社の国内売上高も、譲渡対象事業の国内売上高も、届出要件を超えるくらい充分に大きいとします。

そして、現物出資には、

①P社がS社の株式を取得するという株式取得の側面(届出義務者はP社)と、

②S社がP社から事業を譲り受けるという事業譲受の側面(届出義務者はS社)

とがある、と考えられます。

そこでまず、株式取得の側面から見てみましょう。

独禁法10条2項では、株式発行会社(S社)の国内売上高が50億円超であることが届出の要件ですが、S社は新設会社なので売上はありません。

なので10条2項の条文を形式的に読む限り、届出は要らなさそうです。

実際、公取委ホームページの「届出制度Q&A」の「株式取得の届出の要否について」のところでは、

「 Q4  旧独占禁止法第10条第2項ただし書において,『株式発行会社の発行済の株式の全部をその設立と同時に取得する場合』については報告が免除されていたと思いますが,改正独占禁止法にはそのような規定がありません。届出は必要ですか。

A4  届出基準が総資産基準から国内売上高基準に変更されており,設立されたばかりの株式発行会社には国内売上高がなく,届出基準に該当しないことから,届出は不要です。」

と記載されており、一見、届出は要らないように見えます。

しかし、どうもこの記述は、現金を出資して子会社を設立するシンプルなケースを想定しているようであり、ここで問題にしているような、事業の現物出資による子会社設立の場合までは想定していないように思われます。

というのは、公取委のQ&Aは、他社から国内売上高を伴う事業を承継した会社は、届出制度との関係では、当該国内売上高を自社の国内売上高としてカウントすべき、という立場に立っているように思われるからです。

例えばQ&Aの「株式取得の届出の要否について」の第16問では、新設合併により事業を承継した場合について、

「 Q16  今年の4月に国内売上高合計額が200億円を超えるA社と,同じく50億円を超えるB社が新設合併(合併の届出書を提出済)し,C社が設立されています。C社は同年10月にさらに国内売上高合計額50億円超のD社と合併を予定しています。C社としては,未決算ですが,D社との合併についての届出は必要ですか。

A16  届出は必要です。

その際,合併前のA社とB社の国内売上高合計額を単純合算したものをC社の国内売上高合計額としてください。

としており、新設合併により消滅する会社(A社とB社)の国内売上高が、新設合併により設立される会社(C社)の国内売上高とみなされることになっています。

もちろん、吸収合併の場合でも同じでしょう。

さらに共同新設分割の場合について、第17問では、

「 Q17  今年の4月に国内売上高合計額200億円超のA社と同じく50億円超のB社が共同新設分割(分割の届出書を提出済)し,C社を設立しています。C社は同年10月にさらに国内売上高合計額50億円超のD社と合併を予定しています。C社としては,未決算ですが,D社との合併についての届出は必要ですか。

A17  届出は必要です。

その際,分割前のA社とB社の分割対象部分に係る国内売上高を単純合算したものをC社の国内売上高合計額としてください。

としており、共同新設分割により切り出されたA社とB社の事業にかかる国内売上高が、共同新設分割により設立された会社(C社)の国内売上高とみなされることとされています。

もちろん、単独の新設分割でも考え方は同じでしょうし、吸収分割の場合でも同じでしょう。

とすると、今検討しているような、事業を現物出資して新会社を設立する場合には、新設分割の場合と同様、届出制度との関係では、新会社が当該事業にかかる国内売上高を承継すると考えるのが自然でしょう。

そうすると、親会社は国内売上高のある新会社(元々は自分の事業の国内売上高ですが)の株式を100%取得することになるので、株式取得の届出の必要にも思えます。

どう考えればいいのでしょうか。

株式取得の届出要件は、

(1)取得会社のグループ全体の国内売上高(「国内売上高合計額」)が200億円超、

(2)株式発行会社(とその子会社)の国内売上高が50億円超、

(3)取得会社グループが株式発行会社に対して有する議決権割合が20%または50%を超えること、

です。

売上は充分に大きいという上述の仮定より、(1)と(2)は満たされます。

そして、P社は、新たに設立されるS社の全株式を引き受ける(0%→100%)ので、(3)も満たされます。

にもかかわらず届出要件を満たさないとすることの説明の一つは、「グループ内再編なのだから、グループとしての持株比率に変更はなく、よって(3)を満たさない」という説明が考えられますが、独禁法10条2項の文言からすると、ちょっと無理があります。

というのは、「20%、50%」というときの分母と分子は何なのかという点について、独禁法10条2項では、

「当該株式取得会社〔P社〕が当該取得の後において所有することとなる当該株式発行会社〔S社〕の株式に係る議決権の数・・・の当該株式発行会社の総株主〔P社〕の議決権の数に占める割合」

とされており、この「割合」は、現物出資の前と後で、0%→100%と解さざるを得ないように思われるからです。

(あるいは、S社設立前はS社は存在しないので、分母も分子も0だから、0÷0で「不定」、なので不定→100%は、20%も50%跨がないので要件(3)を満たさない、という説明もあり得ますが、数学的にマニアック過ぎて公取委では相手にされなさそうです。)

ではどう考えればいいのでしょうか。

実はこの問題のヒントは公取委Q&Aの中にあります。

公取委Q&Aの「株式取得の届出の要否について」の第10問では、

「 Q10  最終親会社A社の子会社であるB社及びC社が共同株式移転を行うことにより,中間持株会社であるD社を設立します。B社及びC社は同一企業結合集団に属する会社であるため共同株式移転の届出は不要と理解しています。その際,最終親会社であるA社は,新設された持株会社D社の株式を取得することとなりますが,この株式取得の届出は必要ですか。

A10  同一の企業結合集団に属する会社の株式を,同一の企業結合集団に属する他の会社の株式に交換した結果の取得であり,届出は不要です。」

とされています。

このQ&Aについては以前このブログでも少し触れたことがありますが、一見当たり前に見えるこの設問の問題意識は、

「D社は新たに設立されるんだからA社の持株割合は0%から100%になる。よって届出が必要なのではないか」

という点です。

グループ会社間で発行会社の株式が右から左に動くなら100%→100%で届出不要ですが、新設会社なので、株式取得前の持株割合は明らかに0%です。

このような問題意識に対して公取委のQ&Aは、

「同一の企業結合集団に属する会社の株式を,同一の企業結合集団に属する他の会社の株式に交換した結果の取得であり」

という、10条2項のどの文言に該当する適用除外なのか今ひとつはっきりしないけれども実質的には誰も反論できないまっとうな理由により、届出不要としているのです。

そこで上記設例の回答を、Q&A第10問になぞらえて作成してみると、

「自社〔P社〕の事業を、設立と同時に同一の企業結合集団に属する他の会社〔S社〕に出資した結果の取得であり、届出は不要です。」

という回答になるのでしょう。

我ながら10条2項のどの文言に引っかかるのかよく分かりませんが(笑)、それは公取委の第10問のQ&Aも同じことです。

あともう一つ、現物出資による事業譲渡の効力発生のタイミングと株式取得のタイミングはどっちが先なのかも、理屈の上では検討しておく必要があります(結論は、日本の会社に関する限り、「同時」です。外国会社は別途の考慮が必要かも知れません)。

この点、現物出資により会社を設立する場合、現物出資者は、設立時発行株式の引受後遅滞なく、発起人に対し、出資にかかる財産の全部を給付しなければなりません(江頭p81,会社法34条1項)。

そして、給付された出資財産は、会社成立時(つまり設立登記時)に、「設立中の会社」という権利能力無き社団からS社に引き継がれることになります。

なので、S社の事業譲受の時点は、設立登記の時となります。

そして、P社がS社の株主となるのも、S社の成立時、つまり設立登記時です。

結局、P社によるS社の株式取得とS社による事業譲受は同時に効力を生じることになります。

同時なのでやはり、設立時に譲り受けた事業に係る売上は、P社による株式取得の届出要件を考える際の株式発行会社の国内売上高に含まれると考えるべきでしょう。

さてもう1つ、②事業譲受の側面が残っていました。

事業の現物出資も、その事業が移転するという側面においては、事業譲渡であると考えられます。

会社法上も、現物出資は事業譲渡の対価が株式である場合であると整理されています(江頭「株式会社法(第3版)」871頁)。

ですので、事業の現物出資を受ける側(S社)は事業の譲り受けをしたと、独禁法上も認められると考えられます。

とすると、S社は新設会社なので、設立前に事業譲受の届出をすることができません。

届出ができないので、届出不要となります。

「届出ができないので事業譲受自体ができなくなるのでは?」というのは心配のしすぎでしょう。法律は不可能を強いることはできません。

このように、設立前に届出をすることは不可能だから届出不要なのです(立法論としては、「設立中の会社」という法人格無き社団に届出させることも考えられますが、現状届出義務者は「会社」に限られるので、現行法ではあり得ません)。

ですので、届出が可能な場合、例えば受け皿会社を設立した後に事業譲渡をするような場合には、事業譲受について届出が必要になることがあり得、その場合には届出た上で最低30日の待機期間を待つ必要もあることには注意すべきです(分社化の場合は同一の企業結合集団なので不要ですが、他社から譲り受ける場合など)。

2010年11月23日 (火)

グレーゾーンへの対応

先日、伊豆半島の海岸沿いを愛車のユーノスコスモ20Bでドライブしていたら、おもしろい警告板を見つけました。

ひとつは、「この海岸でのアワビ漁を禁止する。」というものです。

これ自体は何ということもないのですが、おもしろかったのは、

「この海岸ではウェットスーツの着用を禁止する。」

という掲示もされていたことです。

想像するに、これはアワビ漁をしていた密猟者が、見つかったときにアワビを海に捨ててしまうと密漁の証拠が掴めず無罪放免になってしまって不都合だから、「こんな海岸でウェットスーツを着ているのは密漁目的に違いない」という経験則(?)に基づいて、ウェットスーツの着用も禁止しているのでしょう。

なかなかかしこいやり方だと思いました。

確かに、ウェットスーツを着ているからといって、必ず密漁しているわけではありません。

単に泳ぎたいというだけかもしれませんし(およそ海水浴向きの海岸には見えませんでしたが・・・)、海底のアワビを鑑賞したいという目的かもしれません。

でもそういった、あまりあり得ない例外は慮外に置いて、まずは取り締まりを優先しているということでしょう。

また、このような掲示をすることにより、「見つかったらアワビを海に捨ててしまえばいいや」と考える不届き者を予め排除できるという効果も期待できそうです。

このように、本当に悪いこと(=アワビの密漁)を予防するために、それに関連する(あるいは関連の可能性がある)けれどそれ自体悪くはないこと(=ウェットスーツを着ること)も禁止してしまう、という発想は、客観的な証拠が残らずグレーなゾーンが大きい独禁法、とりわけカルテル防止の場合にも、積極的に採用してよいように思います。

もちろん、これを公取委が公権力を用いて大々的にやることは派生的な影響が大きくて問題がありますが、企業が内部のコンプライアンスプログラムを定めるときには、あっても良い発想だと思います。

例えば、営業担当者は同業他社の営業担当者と会ってはいけないとか、会ったときには報告を義務づけるとかです。

先の看板の例も、地方の小さな自治体がこっそりと条例で定める程度なら、大きな問題にはならないのでしょうけれど、日本国政府がやるとすれば大問題になりそうです。

また、独禁法は各社で実態にあったコンプライアンス規則を作るのに向いている法律のように思われます。

例えば、インサイダー取引というのは、いずれの上場会社においても問題の発生の仕方が類似しており、似たような場面で似たようなことが問題になるので、インサイダー取引の防止に関する内規というのは、各社概ね似たような内容になります。

これに対して、独禁法のリスクについては、各社全く状況が異なりうるわけで、同じ行為でも会社によっては全くリスクがないということはいくらでもあり得ます。

ですので、独禁法コンプライアンスはあくまでオーダーメイドが基本です。

先日のIBAのアジア・パシフィック・フォーラムで、ゲストのデラウェア州の裁判官の方が、

「コンプライアンスにおいて、"one size fits all"の発想は間違っている。」

と繰り返しおっしゃっていました。

独禁法のコンプライアンスにおいては、とりわけそうだと思います。

2010年11月22日 (月)

実際より劣ったと誤認させる表示

景表法では、実際のものよりも著しく優良であると誤認させるような表示は不当表示として禁止されます(景表法4条1項1号)。

ですので、これとは逆に、実際よりも劣ったものと誤認させるような表示は景表法には違反しないことになります。

「自分の商品を実際よりも劣ったものと表示することなんてあるの?」と疑問に思われる方も多いかもしれませんが、実はそれほど珍しいことではありません。

例えば、広告で安売りのミシンを見つけたので買いに行ったら、セールスマンから、「そっちの安い商品はこういった難点があるから」といって高い方の商品を買わせるような場合です。

この場合、高い方の商品を実際より優良と表示すれば、もちろん景表法違反です。

でも、安い方の商品を実際より劣ったと表示しても、景表法違反にはならないでしょう。

その他の例としては、例えば、「聞くだけで脳が活性化する」というCDがあるとして(その表示どおりの効果がなければそれ自体景表法違反ですが、効果があるとして)、メーカーとしては、コピーされたりしては困るので(コピー自体著作権法違反ですがそれはさておき)、

「コピーをしたものを聴いても効果はありません」

と表示したり、付加価値をつけるために専用ヘッドフォンをつけて、

「専用ヘッドホンで聴かないと効果がありません」

と表示するような場合です。

この場合、アイポッドにダウンロードして普通のイヤホンで聴いても効果がある方が明らかに利用者にとっての利便性は高まるので、より優良であることになると思います。

したがって、コピーでは効果がないとか、専用ヘッドホンが必要とかいうのは、実際よりも劣っている表示ということになります。

しかしこれもやはり同様の理由で、景表法違反にはならないというべきでしょう。

微妙な例で、自社の旧商品と新商品を比較する表示なんていうのもあります。

例えば、キッチン用洗浄剤で、

「当社従来品に比べて洗浄力40%アップ!」

なんていう表示があります。

この場合、本当に40%アップしていなかったら不当表示といっていいでしょう。

では、「従来品」のデータをわざと品質の劣ったものと表示して、新製品のデータは真実のデータを表示した場合はどうでしょう。

(「40%アップ」という表示はなしです。)

新製品のデータが真実のデータを表示したものである以上、著しく優良と誤認させる表示というのは難しく、不当表示には該当しないように思います。

比較の対象(参照点)を意図的に悪く見せることで、売りたい商品を良く見せようとするのは、心理学や行動経済学が取り扱う領域ですが、優良誤認表示としてそのような表示を規制するのは、ちょっと難しいように思います。

なので、そのような表示を規制するとしたら、景表法4条1項3号で内閣総理大臣がしているするしかないのでしょう。

表示法というのは、消費者が不合理であることを前提に作られるべきだと思いますが、優良誤認表示というのは、優良か否かが客観的に決まることを前提にしているような気がします。

もちろん判例実務では、優良か否かは消費者がどう感じるかという視点から判断することになっています。

例えば、旬のアブラガニはタラバガニと劣らないくらい美味であっても、アブラガニを「タラバガニ」と表示すれば不当表示です。

しかし、「優良」か否かは客観的に決まると考えるのが本来は合理的なはずで、「優良か否かは消費者が優良と考えるかどうかで決まり、客観的に優良か否かで決まるのではない」というような、小手先の解釈で妥当な結論を導くのは、文言解釈としてしっくりこないものがありますし、微妙な事案で解決の指針を与えてくれないような気がしてなりません。

2010年11月21日 (日)

「一方的」といわれないために(優越的地位の濫用)

優越的地位の濫用では、違反者が被害者に対して「一方的に」不利な契約条件を押しつけた、という認定が公取委によってしばしばなされます。

それでは、「一方的」でないというためにはどうしたらいいのか、というのが問題ですが、これに答えるのは簡単ではありません。

「対等な当事者として誠実に交渉してください」というのが最も当たり障りのない回答ですが、では具体的にどうすればよいのか、というと、決め手はないと言わざるを得ません。

そもそもビジネスでは、どちらかが相対的に強くてどちらかが相対的に弱いということは当たり前のことであって、「対等」ということ自体、きれいごとであると感じる方も、発注者側であると受注者側であるとを問わず、いらっしゃることでしょう。

それに、実際に排除措置命令に至っている事例を見ると、不利益の内容が大きすぎて、いくら誠実に交渉しても違法との評価を免れない場合が多いように思います。

しかし、法律家として何もアドバイスもできないというのも寂しいので、私なりに少しでもリスクを減らす方法を考えてみたいと思います。

まず、最初から「ネゴ代(しろ)」を設定しておく、ということが考えられます。

つまり、交渉の結果多少は譲っても良いという部分を見込んで条件を提案するのです。

言葉は悪いですが、交渉したことのアリバイを残しておくわけです。

ただ、この「ネゴ代」戦略は、最初に投げられた高いボールをあっさり受け入れてしまった相手方が公取委に駆け込んでしまった場合、不必要に相手に不利(自分に有利)な条件を押しつけてしまった、ということになる可能性もあるので、さじ加減が難しいところです。

それから、ネゴ代とも似ていますが、相手方のために複数のオプションを用意するということが考えられます。

相手方に複数のオプションを提示して、その中から相手方に選ばせることで、交渉が実質的なものになることを期待するわけです。

そして、こちらの希望する条件を受け入れてくれた相手方には、何らかの利益を与えるようにするなど、いろいろと工夫をします。

複数のオプションは、まったく別の契約書を複数作るのでもいいですし、同じ契約書の中にオプションを選択した場合としない場合の条項を書き込んでおいてもよいでしょう。

また以上述べたことと関連しますが、優越的地位の濫用は、強い1社対弱い多数という構造であることが多いところ、強い1社の側が統一的な条件を全ての相手方に一律に適用しようという場合には、相対的に優越的地位の濫用に該当する可能性が高くなると思われます(もちろん、どれくらい相手に不利な条件かということのほうが、ずっと重要なのですが)。

全部の相手方に統一的な条件を設定して例外は認めないという立場だと、誠実に交渉しているとはいえない可能性が相対的に高くなると思われます。

人によっては、「すべての相手方に同じ条件が適用されるほうが平等で良いのではないか」と感じる方もいるかもしれません。

しかし、私の感覚では、優越的地位の濫用に該当するか否かの判断において、「みんな同じだから」という抗弁は、まず認められないと思います。

例えば交渉の中で、「他の全ての下請にもこの条件を呑んでもらっているのだから、おたくも呑んでもらわないと困る」なんていうことを言うのは、むしろマイナスだと思います。

それから、既存の取引先との契約条件を相手方に不利益に変更する場合には、変更までにある程度の猶予期間を置くことも考えられます。

いきなり不利益に変更するよりも、相手方に不利益に対応できるような猶予期間をおいた方がよいと言うことです。

どれくらいの期間をおいたらいいかはそれこそケース・バイ・ケースですが、1年では長すぎるでしょうし、1ヶ月ではほとんど意味がないでしょうから、ものによって3ヶ月から6ヶ月くらいでしょうか。

2010年11月20日 (土)

20%以下の株式取得の留意点

平成21年独占禁止法改正で、それまで10%、25%、50%を超えるたびに株式取得の報告が必要だったのが、20%と50%に簡略化されました。

しかし、これに伴って20%以下の株式取得が独禁法上問題がないと改正されたわけではありません。あくまで届け出が不要になっただけです。

独禁法10条1項では、

「会社は、他の会社の株式を取得し、又は所有することにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、当該株式を取得し、又は所有してはなら(ない)」

と、はっきりと書いてあります。

例えば、ターゲットの会社が、株主が分散している上場会社であるような場合には、その19.9%もの株式を取得すれば、明らかに取得者とターゲットの意思決定の協調が強まるように思われます。

ですので、両者のシェア次第では、「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる」ことは、十分にあり得ると思います。

届出について書いてあるのは10条2項のほうで、この届出要件と1項の違法要件とは、全く別のものです。

10%超の取得でいちいち届け出をさせるのは、改正前10%超取得の届出のほとんどがフリーパスであった実態に鑑みて煩雑であり、妥当な法改正だったと思いますが、だからといって20%までの取得がフリーパスでできるようになったわけではありません。

しかも、届出要件を満たさない、19.9%(20%ちょうどでもいいのですが)の株式取得の場合には、排除措置命令を出せる期間の制限(10条9項)がありませんので、そのような取得が行われていたことが後で公取委に分かると、排除措置命令を受ける可能性があります。

しかも、理屈の上ではそのような可能性が永久に残る、ということになります。

ですので、20%以下の株式取得の場合でも、問題ありそうな場合には(法律上の届け出は要らないわけですが)事前相談をすることをおすすめします。

2010年11月19日 (金)

M&A交渉における情報管理

M&Aの交渉時に、統合後のシェアがそれなりに高くなる場合には、双方の情報交換について、独禁法の観点からもそれなりに気を遣わなければなりません。

独禁法上認められ無さそうなくらいにシェアが高くなるケース(例えば2位と3位が合併してシェア50%を超えるような場合)では、情報管理には細心の注意を払うべきでしょう。

公取委での事前相談をしている場合(が多いでしょうが)ならもちろん、そうでない場合でも、価格、コスト、生産量、生産能力、将来の設備投資、取引先など、競争の観点からセンシティブな情報については、相手方に伝わらないような工夫が必要です。

例えば、公取委にセンシティブな情報を提供しなければならない場合には、双方の弁護士限りで情報を共有するに留め、相手方の当事者の目には直接触れないようにするということが考えられます。

あるいは、独禁法の事前相談に限っては、両当事者で1つの法律事務所に依頼して、センシティブな情報はその法律事務所限りとする、ということも考えられます。

この点、各当事者がまったく別々に公取委に情報提供し、弁護士すら相手方の情報は知らない、というようにすることも考えられますが、そうすると双方の主張に矛盾が生じたりする可能性があるので、この方法はできれば避けたいところです。

さて、独禁法上相当問題がありそうなケースでは情報管理にも注意が行き届くことが多いのですが、そこまででは無い場合にどこまで厳密に独禁法の観点から情報管理するのかは、実はなかなか悩ましい問題です。

もちろん、M&Aでは一般的に、交渉が決裂して開示した情報だけを持って行かれてしまう、というリスクがあります。

なので、細かいコスト構造に関する情報などは、独禁法が問題なくても、ビジネス上の理由から開示したくないということも多いでしょう。

しかし、そういうビジネス上の理由の場合には、ある意味開示する側が納得すればそれでいいので、法律上どうのこうのという問題ではありません。

ですが、独禁法の場合には、当事者が納得すれば済むという話ではないので、両当事者の間で独禁法のリスクについての考え方が違うと、なかなかややこしいことになります。

明らかに独禁法上問題になりそうなケースでは情報管理にも細心の注意を払うべきですが、そこまでではないケース(例えば、セーフハーバーでは救われないケース)では、当事者の一方が厳しめの立場に立つということもあります。

論理的に割り切って考えれば、ゴールの企業結合が独禁法上問題ないなら途中の情報交換も問題ない、ということになります。

でも実際には、最終的に独禁法上問題ないという結論になるか否か未確定の時点で交渉を進めないといけないわけで、そこに悩ましさがあります。

ですので、なかなか一般化はしにくいのですが、やはり事前相談をしたら第二次審査に行きそうなケースでは、上述のような情報管理方法を取ることを検討したほうが良いでしょう。

このように、独禁法とM&Aの世界では、最終的にどの程度認められそうかというレベルと、途中でどの程度情報交換に気をつけるべきかというレベルの両方からアドバイスを求められることになります。

ただ現実問題としては、M&Aの交渉過程における情報交換だけを取り出して公取委が摘発するということは、これまでも無かったし、今後も恐らくないであろうとは思います(先のことなので保証はできませんが)。

この点アメリカでは「ガンジャンピング」と呼ばれる問題があり、待機期間中に実質的な支配の移転を行うと、市場における競争制限効果の有無にかかわらず届出手続違反に問われるということがありますが、以前このブログでも書いたように、日本ではそのような恐れは無いと思います。

2010年11月18日 (木)

【IBA Asia Pacific Forum 2010 Tokyo】

本日から2日間、IBA(International Bar Association)のアジア・パシフィック・フォーラムが東京国際フォーラムであり、私もスピーカーとして日本の最近の企業結合規制について話してきました。

世界各国から弁護士を中心とした法曹関係者が集まり、大変盛況でした。

このような会議で各国の独禁法専門家と意見を交わすのはいつも知的興奮に満ちていて、楽しいものです。

ですが、実は今回のフォーラムで一番印象に残ったのは、我が日弁連の会長の宇都宮健児弁護士の挨拶でした。

宇都宮弁護士は消費者金融の被害者救済の第一人者で、会長になられる前からNHKの「プロフェッショナル」に出演されたりしていて、弁護士でない人でもご存じの方は多いのではないかと思います。

法曹養成問題などの話題も印象的でしたが、なかでも、ヤミ金の被害者である依頼者の、「先生のおかげで死なずに済んだ」という言葉を支えに仕事を続けてきた、というお話に、大変心を打たれました。

すばらしいご挨拶で、日弁連の会員として大変誇らしく思いました。

私は独禁法を専門にしていますので、大きく括ればビジネス弁護士ということになるのでしょうけれど、仕事を通じて社会正義を実現していくという姿勢は貫いてゆきたいと思います。

ところでIBAといえば、すでに報道されているところですが、我が事務所の川村明弁護士が来年からIBAの会長を務めます。

日本人では初めての会長です。

私も同じ事務所のメンバーとして、川村弁護士を精一杯支えてゆきたいと思います。

2010年11月17日 (水)

優越的地位濫用の摘発リスク

依然として優越的地位濫用への立入検査が後を絶ちませんが、よく新聞などで会社側のコメントとして「違法だとは思っていなかった」というのを見かけます。

どうして違法だという意識もなく違反してしまうのでしょうか。またそもそも、どうして優越的地位の濫用は無くならないのでしょうか。

確かに、優越的地位濫用の限界が不明確、というのは1つの理由でしょう。

しかし、

「優越的地位濫用にならないか心配で、社内でも十分検討して、弁護士にも相談して違反の可能性があるといわれて、それでも敢えてギリギリの線を狙ったら優越的地位の濫用になってしまった」

というケースは、実は少ないのではないかと思います。

そこで考えられる原因は、優越的地位濫用に対して違反企業が持っているイメージと、公取委の実際の運用とが、けっこう違うのではないか、ということです。

具体的には、例えば取引先の大半が賛成してくれているような場合、企業側は、

「取引先の大半は進んで協力してくれているし、優越的地位濫用になるなんてことは無いだろう(あるいは考えもしなかった)」

と考えている場合がかなりあるのではないかと思われます。

しかし、これは少々甘いのではないかと言わざるを得ません。

つまり、優越的地位の濫用というのは、例えば取引先の過半数が強制されたと感じていなくても成立しますし、摘発のリスクもあります。

公取委が優越的地位濫用の認定に当たって、被害者が公取委の質問に「強制されたと感じた」と回答したか否かを重視していることはほぼ間違いありませんが、私の感触では、20%~30%が「強制された」と回答すれば、充分摘発のリスクがあると思います。

逆に言えば、8割が喜んで従っていても、優越的地位の濫用とみられるわけです。

企業は、「8割も賛成してくれていたら構わないじゃないか」と思うのかもしれませんが、そういうわけではありません。

場合によっては、9割が賛成しているような場合でも、摘発される可能性はあると思います。

もし「強制されたと感じた」と回答したのが1社だけだったり、アンケートの回答者のうちの1~2%だったりすると、さすがに摘発リスクは低いと思いますが(優越的地位ガイドライン案でも「行為の広がり」が必要と書いてあります)、そのようなごく少数の者が反対しているだけの場合を除けば、優越的地位濫用の摘発リスクはあるわけです。

このような次第ですので、企業のみなさんは優越的地位濫用にならないよう、充分気をつけて下さい。

2010年11月16日 (火)

条文を読みましょう。

独禁法は、他の法律と比べて、条文の文言解釈があまり重要でない法律であることは確かです。

条文の解釈を商売にしている弁護士としては、だから独禁法というのは扱いにくい法律であるわけですが(またそこに独禁法専門の弁護士の存在価値もあるわけですが)、こまごまとした文言解釈にあまり意味がない法律であることは認めざるを得ません。

でも、ときどき独禁法も条文が決定的に重要な意味を持つことがあります。

例えば企業結合規制です。

日本の独禁法の企業結合規制は、株式取得(10条)、役員兼任(13条)、合併(15条)、分割(15条の2)、共同株式移転(15条の3)、事情譲受等(16条)というように、結合のスキームごとに条文が定められています。

ですので、これらのスキーム以外の結合は企業結合規制で取り締まることはできません。

(あともう1つ、脱法行為の禁止(17条)というのもありますが、例外的です。)

したがって、一見企業結合っぽい業務提携でも、上記のスキームの何れかに該当しない場合には、不当な取引制限か私的独占で取り締まるほかないことになります。

例えば、A社とB社が提携する場合でも、そこに株式取得などが絡まず純粋に契約上のアレンジに過ぎない場合には、いくらトップ同士が握手する記者会見の様子がテレビで流れて企業結合っぽく見えても、企業結合規制で取り締まるのは無理です。

外国の独禁法では、controlやbeneficial ownershipといった、価値的な概念で企業結合規制の範囲を画しているので、解釈で柔軟な運用が可能なのかも知れません(あまり深く考えたことはありませんが)。

でも日本では、文言上、そのような解釈は不可能といわざるを得ません。

契約上のアレンジを企業結合で禁止すべきという意見は、日本では解釈論の域を超えており、立法論だと言わざるを得ないでしょう。

2010年11月15日 (月)

会員登録をした人にあげるグッズは「景品類」か。

インターネットで商品を販売する場合に、事業者が、当該インターネットのサイトへの会員登録を促すために、会員登録してくれた人の全員または一部に何らかのグッズをあげたい、と考えることがあります。

このようなグッズは景表法の「景品類」に該当するでしょうか。

そもそも「景品類」に該当するのとしないのとで何が違うのかというと、提供できるグッズの価格に差が出てきます。

もし「景品類」に該当するとすると、景表法の適用があることになり、登録者全員にグッズをあげる場合には総付景品告示の範囲内、登録者の一部にあげる場合には「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(告示)の範囲内でのみグッズを提供できることになります。

これに対して、もし「景品類」に該当しないとすると、景表法の適用がないことになり、提供できるグッズの価格に制限はなくなります(以前はこのような「オープン懸賞」にも一定の制限がありましたが、廃止されて制限は無くなりました)。

結論からいえば、基本的には「景品類」には該当しないと私は考えます。

ただし、インターネットのサイトから会員登録を申し込む方法に限ることが必要です。

お店にきてもらって登録してもらう場合や、インターネットとお店の両方で登録が申し込めるような場合は、取引付随性が認められるため(インターネットと店舗申し込みを併用する場合には、場合によっては取引付随性が無いといえることもあるのではないかと個人的には考えていますが)、「景品類」に該当してしまうため、だめです。

それではなぜ「景品類」に該当しないといえるのでしょうか。

「景品類」に該当するためには、取引付随性が必要です。

お店にきてもらってグッズをあげる場合には、お店にきてもらうということで取引付随性ありと認められます。

これに対して、インターネットで抽選に申し込む場合には、たとえその業者のサイトから申し込む場合でも、取引付随性は無いというのが公取委の立場で、私もそれが正しいと考えています。

あるサイトに行くことを、あたかもお店に行くことと同様に考えれば取引付随性ありということになりますが、インターネットは誰でも手間をかけずにアクセスできるので、お店に行くのではなくて、新聞広告が自宅に届いたり、お茶の間でテレビのCMに映るのにむしろ近い、という発想です。

なので、インターネットで申し込む限りは、「景品類」には該当しないのですが、ここでの問題は、会員登録という行為をさせるために、なんとなく取引に付随しているような感じがするので、すっきりしないのだと思います。

しかし、会員登録とはそもそも何かといえば、突き詰めて考えれば、申込者に、氏名やメールアドレスや住所といった個人情報を登録させて、それを業者の側で勝手に「会員」と名付けている、という場合が多いのではないかと思います。

もしそうだとすると、オープン懸賞(←景表法の適用なし)の申し込みはがきに氏名や住所を書かせるのと何ら異ならないといえます。

仮にオープン懸賞に応募してきた人の情報をデータベース化して、ダイレクトメールを送ったりといった販売促進活動に用いたとしても、(個人情報保護法の問題はさておいて)そのために景表法が適用されるということにはならないでしょう。

これに対して、「会員登録」という行為に気持ち悪さを感じる人は、「会員登録」という行為がインターネット取引を前提にしており、インターネット取引の必須の条件であるので、取引付随性があるのではないか、と感じるのでしょう。

しかし、「会員」というのは、極端に言えば、事業者の側が「会員」と呼べば「会員」である、といえます。

普通は消費者の側が会員になることに同意している場合がほとんどですが、何らかの権利義務が相互に発生しないような関係を、事業者の側が「会員」と呼ぶことは、法的には消費者の側の同意を得ることなく可能であるといわざるを得ないように思います。

(以前、かつて商品を購入した人全員を「○○クラブ会員」と呼んでいる会社がありました。)

会員登録は取引を前提にしているというのも、実際にはそんなことはなくて、グッズ目当てに会員登録だけして買い物しないことも大いに可能で、実際そういう人もおおいでしょうから、会員登録だけで取引付随性ありというのは無理があると思われます。

そのような「ただ登録するだけ」の会員登録でも、企業の側からすれば自分のサイトを消費者に知ってもらうメリット(オープン懸賞と同様のメリット)があるので、グッズをつけたいと思うのでしょう。

(ただ、あまり大きな賞品を付けると、商品に興味のない人がどんどん会員登録してきてしまうというジレンマはありますが。)

いったん会員登録しておくと、次にそのサイトで買い物をしようかどうか迷ったときの敷居が低くなる、というのも会員登録を促す理由かもしれません。

でもその程度の効果で、取引付随性や取引への誘引があるというのは無理でしょう。

ただし、申込者と事業者との間に何らかの権利義務関係が発生するような会員登録の場合は話は別です。

たとえば、会員登録するために会員規約に同意することが必要な場合は、会員規約というのは一種の基本契約ですが、そのような基本契約締結行為自体が取引の一部、あるいは取引と密接不可分な一部と考えられるので、取引付随性ありと私は考えます。

ですので、もし景表法の範囲を超えてグッズをつけたい場合には、会員申込時には規約への同意をさせない仕組みにしないといけないと私は考えます。

その場合には、実際に買い物をするときに「購入条件」などに同意させるのでしょう(それを「会員規約」と呼んでも同じことです)。

あるいは、会員となることで会費の支払い義務が発生するような場合には、会員となることがまさに取引そのものと考えられ、取引付随性ありとみなされると思います。

厳しい立場を取れば、グッズを送るのに必要な範囲を超えて情報を提供させるのは全て取引付随性ありという考えも不可能ではありませんが、限界が不明確ですし(氏名と住所は必要だけれども、Eメールアドレスはどうか、誕生日はどうか等)、そのような微妙なラインで線引きすることは、実務的な感覚としてはちょっと考えにくいです。

そのほかにも、取引付随性ありとみなされる可能性のある行為はいろいろあるかもしれません。

ですので、具体的な問題については、消費者庁の見解が知りたいときは消費者庁の表示対策課へ、消費者庁と議論で戦いたいときは弁護士へ(笑)、ご相談ください。

ちなみに、消費者庁に移管前の公取委のQ&Aでは、以下のとおり、基本的に景品類に該当しないとの趣旨の回答がなされています。

「Q35 インターネット上のショッピングサイトにおいて,無料の会員登録をした人を対象に,抽選により物品を提供することを考えていますが,当該企画は懸賞に該当するのでしょうか。

A. ウェブサイト上で行われる懸賞については,懸賞サイトが商取引サイト上にあったり,商取引サイトを見なければ懸賞サイトを見ることができないようなウェブサイトの構造であったとしても,消費者は当該ウェブサイト内のウェブページや各事業者のウェブページ間を自由に移動できることから,懸賞に応募しようとする者が商品・サービスを購入することに直ちにつながるものではありません,したがって,懸賞応募の条件として,商取引のための無料の会員登録をすることを求めたとしても,商品・サービスの購入を条件としていなければ一般懸賞〔注:Q&Aでは、来店者を対象として行う懸賞のこと〕には該当しません。

ただし,商品・サービスを購入しなければ応募できない場合や,商品・サービスを購入することにより,クイズの解答やヒントが分かるなど懸賞企画に応募することが可能又は容易になる場合には,取引に付随すると認められることから,一般懸賞に該当し,景品規制の対象となります。」

2010年11月14日 (日)

「排除措置命令」と「排除命令」と「措置命令」

似たようで違う意味の言葉というのは法律の世界につきものですが、独禁法の世界では、その例に、「排除措置命令」と「排除命令」と「措置命令」というのがあります。

「排除措置命令」というのは、独禁法違反の行為をやめるように公正取引委員会が命じるものです。

「排除命令」というのは、今はもうなくなってしまったのですが、景表法が公取委の所管だったころに、景表法違反の行為をやめるように公取委が命じていたものを、このように呼んでいました。

それが、平成21年9月に景表法が消費者庁に移管されてからは、「措置命令」と呼ばれるようになりました。内容は「排除命令」と同じです。出すのが公取委から消費者庁に変わっただけです。

ややこしいのは、新聞などでは、独禁法上の「排除措置命令」を短くして、「排除命令」と呼んでいることが結構あることです。

ですが、今は法律上は「排除措置命令」と「措置命令」しかなく、「排除命令」というのは存在しないので、「排除命令」と新聞に書いてあれば明らかに「排除措置命令」の略称だろうな、とわかるようになりました。

その意味で、以前ほどややこしくはなくなったと言えるかもしれません。

いずれにせよ、新聞では文字数の制限もあるでしょうから、独禁法上の「排除措置命令」を「排除命令」と短く書くことも許されるのかもしれませんが、法律実務の文書としては許されないので、独禁法の場合はきちんと「排除措置命令」と書くようにしましょう。

2010年11月13日 (土)

微量でも入っていたら「○○入り」と表示しても景表法に反しないか

ある成分がほんの微量でも入っていたら、「○○入り△△」と表示しても景表法問題ないでしょうか。

たとえばカテキンをほんの少し入れたお茶を「カテキン入り健康茶」とか名付けるような場合です。

景表法4条1項1号では、

「商品・・・内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると・・・示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」

をしてはいけないことになっています。

上のカテキンの例ですと、少しでもカテキンが入っているお茶なら、「実際のものよりも著しく優良である」と示すことにはならないように思います。

「実際のもの」はこの場合、「カテキンが入っていること」ですから、「カテキン入り」というのは事実そのものであり、「実際のものよりも著しく優良」という要件を満たさないと思われます。

それに、そもそも一般消費者は、単にカテキンが入っているというだけでは、「じゃ、何グラム入っているの?」と当然考えるわけで、ただ「カテキン入り」と書くだけで、何グラム入っているか書いていなかったら、「不当に顧客を誘引」することもないでしょう。

議論のための議論としてあえて反対説の立場を想像すれば、

「『カテキン入り』と書く以上、消費者はカテキンによる健康効果を期待して商品を購入するのであり、およそ効果の期待できない量しか入っていないのは消費者の期待を裏切るので有利誤認に当たる」

という説が考えられますが、そのような消費者は皆無とは言わないまでもまれでしょう。具体的な効果を期待する消費者は、含有量を気にするはずです。

そのほかには、

「この例での実際の商品は、『カテキンが微量入っていること』なのだから、『カテキン微量入り健康茶』と表示しないと虚偽の表示だ」

というのも考えられますが、日本語としては「入っている」の反対は「入っていない」なので、少しでも入っている限りは「○○入り」というのが正しく、「微量の○○入り」というのはまさに「入っている」のですから、この説は論理的におかしいです。

私も以前、「玉露入り緑茶」というのを見たことがありますが、全然誘引されませんでした。

かえって怪しげな感じがしたくらいです。

でも事業者、とくにブランド力のない事業者としては、「カテキン入り」と書くことで消費者の目を惹きたいんでしょうね。

そういう事業者の気持ちも分からないではありません。

たしかに、まったく聞いたことのないブランドのお茶が2種類並んでいて、片方に「カテキン入り」と書いてあったら、そっちを手に取ってしまう消費者のほうが多いかもしれません。

しかし、そういうのはカテキンの効果に期待して合理的に選択して買ったというよりは、最近よく聞く「カテキン」という何となく体に良さそうな名前が目にとまったのでつい手に取ってしまった、というレベルではないかと思います。

いわば、奇抜なデザインで目を引くポスターと同じレベルです。

あるいは、サブリミナル広告と同じレベルの問題で、景表法違反が問題となるような話ではないと思います。

でもたとえば、「今、脂肪の燃焼を助けると話題沸騰のカテキンが入っています」とか、何か効能を期待させるような表示をすれば、有利誤認となる余地は十分にあると思います。

このような表示をすれば、「その商品を飲めば脂肪の燃焼を助けてくれるのだろう」と消費者が受け取る可能性が大いにあり、まったく効果がないくらいに微量しか入っていない場合には表示から受け取る印象と大いに異なるからです。

あるいは、店頭での説明が「その商品を飲めば脂肪が燃える」とかいった誤解を招く説明になりがちで、そのような説明も「表示」になるので、注意が必要です。

このように、簡単に思えることでも案外、微妙なものです。

ですので、消費者庁に聞くときも、たんに「ちょっとしかカテキンが入っていなくても『カテキン入り健康茶』という名前をつけても大丈夫ですか」というように漠然と聞くのではなくて、いろいろな場合を想定して具体的に質問するようにしましょう。

なお以上はあくまで私個人の考えですので、消費者庁の見解を知りたい方は消費者庁に聞いてください。丁寧に教えてくれるはずです。

それから、食品の表示については食品衛生法など、ほかの法律も問題になりますから、それらについてもよく調べてください。

2010年11月11日 (木)

検索サイトの結果を個人毎に変えたら景表法上問題か。

インターネットのサイトで本を買ったりすると、「あなたへのおすすめ」として商品が紹介されることがあります。

これは過去の購入歴などからサイトの運営者が、ログインした人ごとに、おすすめ商品をコンピューターで割り出して、表示しているものと思われます。

さて、同じようなことをインターネットの検索サイトでやったら、景表法上何か問題でしょうか。

つまり、パソコンを使う人ごとに、検索の癖や好みというものが検索キーワードから割り出せるとする仮定して、パソコンごとに、その利用者の好みにあった検索結果を表示させるということを検索サイト運営者がやったら、何か問題あるでしょうか。

テレビである商品のCMが流れていたら、同じCMをたくさんの人が見ていることは明らかで、「CMで宣伝しているんだから信頼できる商品なんだろう」と、そのCMを見た人は思うかもしれません。

ところが、もしインターネットの検索サイトで上位に表示されるものを、パソコンの利用者ごとにサイト運営者が変えるとしたらどうでしょうか。

利用者は、「信頼できるサイトで検索して上位に表示されたから人気がある商品なんだろう」と思っていたのに、実は、その順位は誰が検索しても同じ結果になるものではなく、その人が(正確にはそのパソコンで検索すれば)検索したからその順番になったに過ぎないとしたら、利用者の信頼は損なわれないでしょうか。

こういうわけの分からない問題(と自分で言うのも何ですが。笑)を考えるときには、何はなくとも条文です。

景表法4条は、

「第4条  事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。 」

という柱書きから始まります。

まず、検索サイト運営者は、「事業者」でしょうか。

「事業者」の定義は景表法2条1項で、

「商業、工業、金融業その他の事業を行う者」

とされており、笠原編著「景品表示法(第2版)」p38では、

「営利を目的としているかどうかを問わず、経済活動を行っている者はすべて事業者に該当する。」

と説明されています。

とすると、検索サイト運営者は、検索サイトを運営しているだけなら、検索サイトのサービス自体は無料なので、「経済活動」に該当しないように思われます。

(「営利を目的としているかどうかをとわず」というのは、商品役務を有償で提供しているのか否かという問題ではなくて、株式会社のような営利法人なのか公益法人のような非営利法人なのかを問題にしています。)

しかし、実際の検索サイト運営者は、バナー広告や検索連動型広告を貼ったりして収入を得ている、つまり、検索サイトのスペースを提供して広告を載せてあげるという役務を提供しているので、そういう意味では、「経済活動」といえそうです。

・・・しかし、そうすると趣味でホームページを運営している人がバナー広告を貼り付けてお小遣い程度の広告収入を得ている場合まで、「事業者」になってしまいそうですね。

それは何だか広すぎるような気がしますね・・・

実は定義告示運用基準にヒントがあります。

定義告示運用基準(「景品類等の指定の告示の運用基準」)では、

「営利を目的としない協同組合,共済組合等であっても,商品又は役務を供給する事業
については
,事業者に当たる。」

とされています。

つまり、事業者であるか否かは、その個人や法人ごとにみるのではなく、その供給する商品役務ごとにみるということです。

どこかで事業を営んでいる限り、明らかに事業に当たらないような商品役務の提供の場合にまで景表法が適用されるというのは明らかにおかしいので、商品役務ごとに事業者か否かが決まるという運用基準の立場は妥当だと思います。

なので、検索サイト運営者が検索結果をパソコンごとに操作しても、「事業者」でないため、景表法には反しない、ということになりそうです。

思わぬところで答えが出てしまいました(笑)。

でも、設例をちょっと変えるとこれは少し変で、例えば検索サイト運営者が、

「うちのサイトはこんなに性能が優秀です」

という虚偽の広告をだしても、「事業者」でないので、景表法には反しないことになりそうです。

(もちろん、「うちのサイトはこんなにヒット数があります」といって広告主に対して虚偽の表示をすれば、消費者に対する表示ではないので景表法には反しませんが、不公正な取引方法には該当しそうです。)

これも何だか問題がありそうな気がしますね。

とすると、やはり検索サービスのような無償のサービスでも、「経済活動」に該当する、あるいはもっと直接的に、「事業者」に該当する、と考える方が、据わりがよいようにも思います。

でもそれはそれで、規制対象が広がりすぎる気がしますね。

最近は何でもただ(フリー)の経済だと言いますが、そういうフリーの商品役務が増えてきたときに、思わぬところで「事業者」という要件からすり抜けるものが出てきそうです。

2010年11月10日 (水)

事前相談廃止の盲点

企業結合に関する事前相談を廃止すべき、あるいは、事前相談は正式届出前の公取委のコミュニケーションあるいは調整の機会にとどめるべき、という意見が産業界を中心にあるようです。

日本経団連2010年10月19日「企業結合に関する独占禁止法の審査手続・審査基準の適正化を求める」など)

確かに、日本の事前相談は、正式届出前に、正式届出と瓜二つの手続(第1次審査→第2次審査)を行うという点で、世界的にみてかなり異色な制度といえます。

まさに、屋上屋を架す、英語で言えば、belt-and-suspender approachです。

しかし、ひとつ注意しておくべきことがあると思います。

それは、法律上の届出要件を満たさない企業結合にどう対応するか、です。

法律上の売上要件を満たさないような小さな企業結合は無視していいんじゃないか、というのも1つの割り切りです。

しかし、日本の独禁法は、実体上競争を実質的に制限することとなるのであれば違法であるとはっきり言っており(10条1項など)、届出要件を満たさないからといって、実体法上も違法でなくなるわけではありません。

それに、法律上の届出要件を満たさないのは、規模が小さな企業結合だけではありません。

たとえば、ジョイントベンチャーを設立して、当事会社の生産設備の運営を委任する(ただし生産設備の譲渡はしない)、というようなスキームを考えてみましょう。

この例では、ジョイントベンチャーを設立するときに両親会社がジョイントベンチャーの株式を取得するので、株式取得の届出を考えることになります。

しかし、新たに設立するジョイントベンチャーには売上がないので、売上要件を満たさないことになります。

したがって、株式取得の届出は不要ということになります。

そうすると、極めて生産能力の大きい生産設備を実質的に統合する場合でも、法律上の届出が要らないという場合が出てきます。

ちなみにこの例では、経営の委任(16条1項4号)に当たると言えるのかも知れませんが、経営の委任には届出制度がない(16条2項は事業譲渡の届出だけ)ので、やはり届出は不要といわざるを得ません。

日本の企業結合規制は、法的なスキーム毎に縦割りに届出制度を定めているので、法律に定められたスキームの間からすり抜けてしまうものがあり得ます。

日本の会社法の適用のない外国会社どうしの企業結合ならなおさらです。

ですので、少なくとも、法律上の届出要件を満たさないような企業結合については、事前相談を残しておく方が良いと思います。

2010年11月 9日 (火)

独占的グラントバックの意味

知的財産ガイドラインでは、ライセンサーが、ライセンシーに改良技術を譲渡させる義務を負わせること(アサインバック)と、ライセンシーに独占的な改良技術のラインセンスをさせること(独占的グラントバック)は、原則として不公正な取引方法に該当するとされています。

これに対して、非独占的グラントバックは、原則として不公正な取引方法には該当しないとされています。

このように、同じグラントバックでも、独占的か非独占的かで結論が正反対となる(ケース・バイ・ケースで判断するという中間の部分が無い)のですが、注意すべきはここでの「独占的」の意味です。

知財ガイドラインの(注19)では、

「本指針において独占的ライセンスとは、特許法に規定する専用実施権を設定すること、独占的な通常実施権を与えるとともに権利者自身もライセンス地域内で権利を実施しないこと等をいう。権利者自身がライセンス技術を利用する権利を留保する形態のものは非独占的ライセンスとして取り扱う。」

と、はっきりと書いてあります。

つまり、グラントバックにおいては、元のライセンス契約におけるライセンシーが「権利者」ですから、ライセンシーが改良技術を利用する権利を留保する形態のものは非独占的グラントバックとして取り扱われる、ということです。

実は、ライセンス契約での「独占的ライセンス」あるいは「exclusive license」というのが、権利者自身が行使する権利を留保するのか否か、ややはっきりしないところがあります。

英文契約で「exclusive license」といえば、通常は、権利者自身も権利行使できない(権利行使できるのは、専ら(exclusively)ライセンシーのみ、という意味だと思います。

以前何人かのアメリカ人弁護士と話したときも、みなそういう認識でした。

例えば外国メーカーが日本にexclusive distributorを選任するとすれば、そのメーカー自身が日本で販売することもできないと解釈するのが普通だと思います。

なので、メーカー自身が販売も手がける場合には、代理店契約を解除するか、非独占に変更することになります。

ちなみに田中英夫編「英米法辞典」でexclusive licenseを調べると、

「独占的実施権□特許権者その他排他的権利の所有者等が、ある者に対し、その者だけが独占的に特許製品の使用、製造、販売等を行う権利を付与した場合、その付与された権利を独占的実施権といい、付与された者を独占的実施権者(licensee)という。」

と説明されており、「その者だけ」が行使できるということは特許権者は行使できないとかいするほかないので、結局、特許権者も行使できないのが独占的ライセンスだ、と解釈できます(そこまで考えての説明かどうかは分かりませんが)。

ただ、言葉の意味としては、「独占的ライセンス」というのは、「他の者にライセンスをしない」というだけ、あるいは「ライセンシーが1人だけ」という意味で、権利者自身が権利行使できるか否かは問わない、という解釈もあり得ます。

現に、Black Law Dictionaryでは、exclusive licenseは、

「A license that gives the licensee the exclusive right to perform the licensed act and that prohibits the licensor from granting the right to anyone else

と説明されています。

これも論理的に厳密に読めば、ライセンシーに「exclusive right」を与えるという前半だけで、特許権者自身も権利行使できないと読めますが(その場合、後半は論理的には余分)、後半に重点を置いて読むと、別の人にライセンスしなければいいという趣旨とも解釈できそうです。

(だいたい、exclusive licenseの説明に、同じexclusiveという単語を使ったんでは定義が循環しているように思います。)

さらに私のお気に入り、実務家必携の名著「コンサイス法律学用語辞典(三省堂)」では、特許法77条の「専用実施権」の説明として、

「・・・特許権者であってもその範囲内の発明を実施することはできない。」

と説明した後に、

「なお、専用実施権は、特許庁の原簿に登録しなければ効力を生じない・・・が、実務的には「独占的」である旨を当事者間で定め登録を行わない場合もある。〔←むしろそれが普通でしょう。〕

このような場合、法的には専用実施権と呼ぶことはできず、独占的通常実施権と呼ばれる。」

と説明されており、前後の文脈からすると、ここでいう「独占的通常実施権」の場合も、特許権者自身も権利行使できないことを前提にしているように読めます(専用実施権との区別がないので)。

いずれにせよ、言葉の形式的な意味だけからすると、権利者自身が行使できる権利を留保する場合が、「独占」なのか「非独占」なのかは、解釈の余地があり得るわけで、現に、この点を心配して、権利者自身も行使できないとはっきり書いてある契約書の例もあります。

この点を、知財ガイドラインは、権利者自身が行使できる場合は非独占である、と明記しているのです。

ちなみに、この整理は米国のライセンスガイドラインでも同様です。

最後に独禁法に話を戻すと、結局、グラントバックの場合、ライセンシー自身が使えるのであれば改良のインセンティブとして充分だ(独禁法上違法と言うほどのことはない)ということです。

2010年11月 8日 (月)

リニエンシーの不申告と代表訴訟

カルテルがあったのにリニエンシー(課徴金減免制度)の申請をしなかったことを理由に株主代表訴訟が提起されたと報道されています。

報道によれば、原告株主側は、被告取締役がカルテルを黙認したうえ、他社に先駆けて違反を申告せず、減免の機会を失った過失があると主張し、あわせて、リニエンシー活用のための社内体制の不備も合わせて主張するそうです。

こういう事件があると、

「リニエンシー活用のための社内体制を作らないと代表訴訟で訴えられますよ」

と、企業の不安を煽って仕事につなげようとする弁護士が出てきそうですが(笑)、それはさておき、リニエンシーが導入された当時から、このような代表訴訟が将来あるかもれないということは関係者の間で予測されていたところです。

ではこのような請求が認められる可能性は、実際のところどの程度あるのでしょうか。

本件の事情は分からないのであくまで一般論ですが、カルテル参加企業がリニエンシーの申請をしなかったことにより当該企業が被った損害というのは、リニエンシーの申告をしていれば減額されたであろう課徴金の額ということになるのだと思います。

しかしその立証は、一般的にはなかなか難しいのではないかと思われます。

まず、リニエンシーを申請するには、社内でカルテルがあったことが発覚しないといけません。

つまり原告は、いついつまでに取締役がカルテルの存在を知ったこと、あるいは、適切に監視していればカルテルの存在を知ることができたことを立証しないといけません。

しかし、カルテルは通常会社に内緒でやることが多いので、取締役がカルテルを知っていた(または知ることができた)という立証は、かなり難しいのではないかと思われます。

次に、もし取締役がカルテルの存在を知った、あるいは適切に関ししていれば知ることができたとして、その知った(または知ることができた)時期からリニエンシーの申請をして5位以内(立入検査前の場合)に入ったであろうことの立証が必要です。

もし、原告が、「被告が速やかに申請していれば1位になれた」と立証できれば、本来支払わなくてもよいものを支払ったことになるので、支払った課徴金全額が会社の被った損害となるのでしょう。同様に、2位になれたことを立証すれば、課徴金の50%が会社の被った損害ということになります。

しかし、前述のように、そもそも取締役がカルテルを知っていた(あるいは知ることができた)こと自体の立証が大変です(というより、知らなかったし、知ることもできなかった、ということが多いでしょう)。

仮に、取締役が知った(または知ることができた)ことが立証できたとしても、速やかに申請すれば課徴金の減免を受けられたことの立証が必要であり、そのような立証をするには、他社が公正取引委員会にリニエンシーの申請を何月何日の何時になされたのかを知る必要がありますが、公取委は守秘義務を理由にリニエンシーの申請については回答しないのではないかと想像されます。

そもそも、カルテルらしき事実が判明したとしても、本当にカルテルがあったと断定できないこともあり、リニエンシーの申請をすべきか否かは微妙なこともあるはずです。

そのように考えていくと、リニエンシーの申請をしなかったことで会社に損害を与えたという請求が認められるのは、かなり例外的な場合ではないかという気がします。

とくに、リニエンシー活用のための社内制度がなかったことを根拠にする請求は、ではどのような制度があれば活用できたのかを主張立証しないといけませんし、そのような制度があれば減免を受けられたこと(因果関係)の立証をしないといけません。

しかし、繰り返しになりますが、本当に難しいのはカルテルを発見することであり、発見した後のリニエンシー活用のための社内制度というのは2次的なもの(発見すればなんとかなる)なので、「リニエンシー活用のための社内制度がなかったこと」と「損害が発生したこと(減免を受けられなかったこと)」との因果関係の立証は、かなり難しいと思われます。

ただ、立入検査後のリニエンシー申請が問題にされる場合は若干異なります。

立入調査があると、カルテルがあったことを取締役が認識することになる可能性が高いからです(カルテルがあったか否か明確でない場合もあり、必ずしもそうとは言い切れませんが)。

少なくとも、立入検査があったのに「何も知らなかった」ではすまされないでしょう。

例えば、5社でカルテルをして、立入検査前には1社だけリニエンシーの申請をしていた場合、立入検査後も、残り4社のうち2社までは、30%の減額が認められます。

しかし、このような場合に、減額が認められなかった2社の取締役が代表訴訟で責任を負わされるというのは、やはりおかしな気がします。

4社のうちどの2社が減額を認められるかは紙一重で、結果的に間に合わなかったというだけで責任を認められるのは不合理でしょう。

リニエンシーは確かに時間との勝負ですが、どれだけ迅速に申立できるかは、法務部やカルテルに関与した営業、依頼する法律事務所の共同作業にかかってきます。

取締役がそんな実務的なことにまで関われるはずがありません。

取締役が気にすべきは、事前に、一般的な体制を整備することだけです。

さらに、どのような素晴らしい体制を作っていても、3位以内に入れる保証はありません。

・・・と考えると、やはり立入検査後に席が残っていても、取締役が責任を負うべき場合はほとんど無いように思われます。

2010年11月 4日 (木)

前後理論について

カルテルの被害者が加害者(カルテルの参加者)に損害賠償請求をする場合の損害額の認定の方法として、米国の判例法には、前後理論(before and after theory)というものがあります。

これは、カルテルが行われるの価格と、カルテルが行われている最中(「前後理論」という名前との対応を意識すれば、カルテル開始、といってもいい)の価格とを比較して、その差額がカルテルにより引き上げられた価格だと考えるものです(価格ではなくカルテル参加者の利益で比較するのが本来みたいですが、分かりやすいので価格で説明します)。

したがって、被害者の損害額は、そのような差額に、カルテル中の購入数量を掛けた額となります。

カルテルがいつから始まったか分からないなど、カルテル前の価格が明らかでない場合は、カルテルの最中(再び「前後理論」という名称と対応させれば、カルテル終了、ということなのでしょう)の価格と終了の価格を比較する、ということも行われます。

アメリカでは個別具体的な事案の類型毎に、ナントカ理論という名前がつくことが多いのですが、この前後理論も、要するに日本の判例の差額説の一種です。

もう少し論理的に言えば、差額説における「差額」を立証するための手段であると言えます。

差額説とは、加害行為が無かったと仮定した場合の被害者の財産状態と加害行為があったために現に存在する被害者の財産状態との差額を損害とする考え方です。

「前後理論」という名前がつくと、

「『前』って、何の前だっけ?」

と、どうでも良いことで悩みかねないので、こういう余分な名前を付けるのはやめた方がいいと思うのですが、確立された用語なので仕方ありません。

しかし、カルテル期間中とそれ以外とで、材料費とか経済状況とかが変わっていることも多く、この前後理論を額面どおりに適用してよいかは問題です。

アメリカでも、前後理論を適用できるための要件についての議論が蓄積されています(谷原修身「独占禁止法と民事的救済制度」p227)。

とくに、談合が摘発された後には、落札価格は一旦は急激に下がりますが、それは、自由競争に慣れていない入札業者が過剰反応して安値で入札するからであるということも充分考えらます(そのような入札を続けていけばいずれ立ちゆかなくなることが徐々に分かってくるにつれ、ほどほどのレベルに落ち着く)。

そういうことも考えると、とくに、談合中の価格と談合摘発直後の価格とを比べて損害を認定することには、慎重であるべきではないかと思われます。

それに比べれば、談合を開始する前と談合中の価格を比べるほうが、まだましだと言えるでしょう。

2010年11月 3日 (水)

情報交換と一方的な情報の伝達

競争業者間の情報交換が独禁法違反とされる場合があります。

とくに、価格やコスト、生産量に関する将来の情報は、相互の行動を予測させやすくするものとして、問題視されます。

また、市場全体で集計した場合には問題は少ないけれど、個別の顧客に対する価格など個別具体的な情報を交換するのは問題が大きいと言われます。

さて、ここで問題とされているのは情報「交換」です。

では、事業者が、一方的に、競争業者に対して、将来の価格情報等を伝えることは、独禁法違反になるのでしょうか。

例えば、生産能力の削減計画を伝えるような場合です。

もともと日本の独禁法では、情報交換そのものが違法というよりは、情報交換はカルテルの有力な証拠とされる(事前の情報交換+事後の同一行動でカルテルが認定できる)のでやめた方が良い、という位置づけです。

(なお、カルテルの前段階としての情報交換は通常密室で行われるのに対して、業界団体を通じての情報交換が事前相談に持ち込まれるケースなどでは、情報は公開されることが多いなど、情報交換の文脈にも多様なものがあることは頭に入れておくべきでしょう。)

なので、それよりもさらに前の段階の、一方的な情報の伝達の場合には、それ自体では違反になることはないと思います。

ただ、それでは実務上一方的な情報の伝達であればまったく自由に行って問題ないと言えるのかは、やや検討を要します。

つまり、一方的な情報の伝達(たとえばプレスリリース)の体裁を取りながら、長年の慣行で、例えば、

「A社が生産能力の削減を発表して、他社が追随する場合には一定期間内に同様のリリースをする」

という慣行なり共通理解なりがある業界だと、A社は、他社が追随したら予定どおり生産能力の削減をするし、追随しなかったら削減を撤回する、ということができるかもしれません。

このような場合だと、形式的な意味での合意(相互拘束)は無いのかもしれませんが、長年の慣行という文脈の中で捉えれば、合意が認定できる場合もあり得るように思われます。

とくに、生産能力の削減を、需要者にも伝わるプレスリリースという形ではなく、競争業者間に限って伝達するような場合には、ますます怪しい感じがします(需要者に伝わっていなければ撤回も容易でしょうし)。

また、直接情報を伝達するのではなく、例えば調査会社に対して開示するような場合も、問題が無いではありません。

例えばA社が来期の生産予想を調査会社に一方的に伝達する場合でも、

「競合他社も、同じ調査会社に同様の情報を伝達するだろう。その情報を調査会社は自分に教えてくれるだろう(そして、競合他社も同じ認識だろう)」

というような場合だと、一方的な情報の伝達ではなく、情報交換と捉えうると思われます。

そのような情報が需要者にも開示されるなど公になるならまだ良いのですが、競合会社間だけで共有されるような場合は問題になり得ます。

やはり、情報交換であれ一方的な情報提供であれ、公開してしまうのが無難でしょう。

なお、独禁法の基本中の基本ですが、生産能力を削減するような場合、競合他社に対して事前に、

「おたくはどうするの?」

なんて聞いては、絶対にいけません。

それは露骨なカルテルです。

もし競合他社の担当者が自分の大学の後輩でも、絶対そういう話はしてはいけません。

2010年11月 2日 (火)

独禁法弁護士が経済学を学ぶ意味

最近、アメリカで経済分析に基づく立証が盛んなことを若干批判的にみて、独禁法訴訟において経済学が立証に役立つ場合は限られているのではないか、という論調を目にすることがあります。

たしかに、アメリカでも専門家によってまったく正反対の経済分析の結果が出たりすることがあると聞きますし、

「経済学者は、自由に経済モデルを編み出して、どのような結論でも自分に都合の良い結論を導くことができるんだ」

という、やや極端な意見も目にしたりします。

私も、経済分析を使っての立証はどこまで有効なのか、正直、はっきりとしたことは分かりません。

しかし、それでも独禁法を専門とする弁護士(実務法曹)が経済学を学び、経済学的発想を身につける意味は大いにあると思うのです。

ひょっとしたら、独禁法の研究者以上に意味があるかもしれません。

なぜなら、研究者の場合は「自分は経済学者じゃないので」といって、法律論だけを研究していればいいのかもしれませんが、弁護士は、現実の事案を解決しなければならず、「自分は経済学者じゃないから」では済まされないからです。

特許侵害訴訟の弁護士が技術のことも理解できる必要があるのと似ています。

このように具体的な事案を解決するためには、目の前の事案のどのようなところに問題があるのかといったところに気が付く必要があり、そのために経済学的発想はとても重要だと思うのです。

たとえば、生産合弁を計画している2社の間で生産量を50%ずつに分けるという取り決めにした場合、「販売価格についてはお互い拘束しないのだからいいじゃないか」というのは甘い分析で、生産量の調整は価格の調整と経済学的には等価であるという発想があれば、このような取り決めに問題があり得ることを見抜けます。

JASRACのケースは、JASRACから購入した場合の顧客の限界支出をゼロにしている(裏返せば、JASRACの限界収入はゼロである)点が問題の本質である、ということが分かります。

さらに、たとえば最終的な化合物を生成する前段階の中間品については、市場をどう画定するのかは難しい問題です。

このような場合、中間品には代替性のある競合品が無くても、もし完成品市場で類似の機能を有する競合品があれば、当該中間品の値段を上げると完成品市場で当該購入者が競争できないために、中間品の値段を上げることができないのではないか、経済学的にいえば、当該中間品の需要の弾力性が極めて大きいのではないか、よって、市場支配力は無いのではないか、という発想が生まれます。

このような判断は、長年の実務経験を積めば勘のいい人は身に付くのかも知れませんが、経済学を勉強していれば、わりと簡単に整理できることが多いです。

一般的な企業結合における市場画定でも、産業組織論の商品差別化や価格差別のモデルが頭の中にあれば、どれか特定の需要者を狙い撃ちして値上げすることが可能でないか?という発想が出てきます。

それから、日本ではまだ実務がそのレベルにまで達していないので現実に問題になることは少ないかもしれませんが、「経済学に騙されない」ために、経済学を学ぶ必要が出てくるということも、将来的にはあるかもしれません。

逆に、経済学を学ぶことによるデメリット(というほど大げさなものではないかもしれませんが・・・)もあるように思います。

具体的には、経済学的に見て意味のない主張は、あまり力を入れて検討する気力が沸きません(笑)。

例えば、経済学では供給量が増えれば価格は下がり、供給量が減れば価格は上がるというのは常識なので(弾力性が大きければ供給量減少による価格情報幅が小さいとはいえますが、価格が上昇しないとはいえないでしょう)、「数量の調整はしたが価格には影響がない」なんていう主張は、最初から諦めてしまいがちです。

でも弁護士なので、そういう主張もアイディアとして思いつくことは必要なことがあるのかもしれません。

2010年11月 1日 (月)

米新水平合併ガイドラインのドラフトからの変更点

2010年8月19日に公表された米国の新水平合併ガイドラインでは、ドラフト段階からいくつかの変更がなされています。

結論的には大きく変わったところはないのですが、気が付いたところを記しておきます。

まず市場画定の意義について、ドラフトでは、

「The Agencies define relevant markets to help analyze the competitive effects of a horizontal merger. Market definition is not an end in itself: it is one of the tools the Agencies use to assess whether a merger is likely to lessen competition. Market definition identifies an arena of competition and enables the identification of market participants and the measurement of market shares and market concentration. This exercise is useful to the extent it illuminates the merger’s likely competitive effects. The Agencies’ analysis need not start with market definition. Some of the analytical tools used by the Agencies to assess competitive effects do not rely on market definition, although evaluation of competitive alternatives available to customers is always necessary at some point in the analysis.」

と、市場画定は単なる手段に過ぎないということを強調する表現だったのが、最終版では、

「When the Agencies identify a potential competitive concern with a horizontal merger, market definition plays two roles. First, market definition helps specify the line of commerce and section of the country in which the competitive concern arises. In any merger enforcement action, the Agencies will normally identify one or more relevant markets in which the merger may substantially lessen competition. Second, market definition allows the Agencies to identify market participants and measure market shares and market concentration. See Section 5. The measurement of market shares and market concentration is not an end in itself, but is useful to the extent it illuminates the merger’s likely competitive effects.

The Agencies’ analysis need not start with market definition. Some of the analytical tools used by Agencies to assess competitive effects do not rely on market definition, although evaluation of competitive alternatives available to customers is always necessary at some point in the analysis.」

と、言っていることは大して変わりませんが、市場画定の役割を強調する表現に変わったように見えます。

やはり、余りに市場画定を軽視することに対する実務家からの反発が強かったことに配慮した結果ではないかと想像します。

次に、ドラフト段階で使われていた限界費用(marginal cost)という言葉が姿を消し、増分費用(incremental cost)という概念に統一されました。

増分費用について同ガイドラインでは、

「Incremental cost depends on the relevant increment in output as well as on the time period involved, and in the case of large increments and sustained changes in output it may include some costs that would be fixed for smaller increments of output or shorter time periods.」

との説明が追加されました(2.2.1)。

やや意訳も込めて訳すと、

「増分費用は、生産量の関連する増分(relevant increment)に依存する。

また増分費用は、(生産の)期間にも依存する。

生産量の増分が大きな場合や、生産量が持続的に変化する場合には、生産量の小さな増分であれば固定費であった費用や、より短期間であれば固定費であった費用も、増分費用に含まれることがある。」

となります。

ただ、不当廉売の場合と違って、企業結合ではコスト基準を限界費用とするかその他の費用基準(平均回避可能費用など)とするかといった議論は通常する必要がありませんので、ガイドラインの実際の事案への適用に当たっては、この変更はそれほど大きな意味は無いように思います。

ちなみに、司法省が2008年に公表後撤回した単独行為に関するレポートでは、

「増分費用の計測」

という標題のもとに、増分費用の計測方法の主なものとして、

①限界費用、

②平均可変費用、

③長期平均増分費用、

④平均回避可能費用、

の4つがあるというふうに紹介されているので、新水平合併ガイドラインが「限界費用」といっていたのを「増分費用」と言い換えたのは、4つの計測方法より上のレベルの「増分費用」という括りに統一したということになるかと思われます。

その他には、SSNIPテストの値上げ幅が5%か10%かについての記述が変わっています。

ドラフト段階では、

「Where explicit or implicit prices for the firms’ specific contribution to value can be identified, the Agencies typically use a SSNIP of ten percent of those prices. Where such implicit prices cannot be identified with reasonable clarity, the Agencies instead base the SSNIP on the price paid by customers for the products or services to which the merging firms contribute. In such cases, because the base prices will be larger, a lower SSNIP will normally be used, typically five percent but possibly lower.」

と、企業が貢献した価値の価格が明確な場合には10%を使う(通常は明確な場合が多いでしょう)けれど、明確でない場合には5%か、もしくはもっと低くなるかもと、原則10%ということがかなりはっきりと書かれていました。

ところが最終ガイドラインでは、

「The Agencies most often use a SSNIP of five percent of the price paid by customers for the products or services to which the merging firms contribute value. However, what constitutes a “small but significant” increase in price, commensurate with a significant loss of competition caused by the merger, depends upon the nature of the industry and the merging firms’ positions in it, and the Agencies may accordingly use a price increase that is larger or smaller than five percent. Where explicit or implicit prices for the firms’ specific contribution to value can be identified with reasonable clarity, the Agencies may base the SSNIP on those prices.」

となり、10%という数字は姿を消したのみならず、場合によっては5%よりも安くなることもある、というふうに、かなり漠然としたものになりました(4.1.2)。

これを形式的に受け止めれば、SSNIPが5%になる(あるいはもっと低くなる)ということはそれだけ狭い市場が確定される可能性が高くなるので、合併当事会社のシェアは相対的に高くなり、合併は認められにくくなる、ということになるのでしょう。

しかし、新ガイドラインは経済分析重視で、市場画定は反競争的効果を判定するための道具に過ぎないという立場ですから、この部分の変更だけで今までの運用に大きな変化が生じるということは無いのでしょう。

でも、この点は明確性が明らかに後退してしまっているので、残念なところです。

あと細かいところでは、参入のところで、

「Market values of incumbent firms greatly exceeding the replacement costs of their tangible assets may indicate that these firms have valuable intangible assets, which may be difficult or time consuming for an entrant to replicate.」

という一文が加わりました。

「may」なので、必ずしも断定ではないのですが、既存企業が再調達コストを大幅に上回るような市場価値(例えば株式時価総額)を有することは、参入が困難であることの証拠になりうる、ということでしょう。

一般論としてはそのとおりなのですが、問題は、そのようなintangible assetをどのように獲得したかが大きな問題で、正当な企業努力で獲得したものであれば、それを理由に合併が認められなくなるというのも腑に落ちないものがあります。

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