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2010年10月25日 (月)

受動的販売(新EU垂直的制限ガイドライン)の誤解

EUの新垂直的契約についての一括適用免除規則(一括免除規則)と新垂直的制限ガイドラインが既に発効していますが、新垂直的制限ガイドラインにおけるインターネットでの受動的販売(passive sale)の制限の内容について、一部に誤解に基づく紹介がなされているようですので、念のため注意喚起しておきます。

まず一括免除規則のおさらいから。

一括規則では、一括免除の利益を受けられない、いわゆる「ハードコア制限」の例として、代理店の販売テリトリーまたは顧客の制限を一般論として掲げた上で、そのようなハードコア制限に該当しない場合として、テリトリー外(あるいは指定された顧客外)への「能動的販売(active sale)」を制限することを挙げています(4条(b)(i))。

つまり、

テリトリー外への能動的販売を制限することは、ハードコア制限に該当しない(=合法の余地あり)、

その反面、

「受動的販売(passive sale)」までも制限することは、ハードコア制限に該当する(≒違法)

ということです。

平たくいえば、

お客さんのほうから販売店に来ているのに、住所がテリトリー外だという理由でメーカーが販売店に販売を断らせるのは行き過ぎだ(受動的販売の制限)、

だけれど、

販売店にテリトリー外への積極的な売り込みを認めたのではテリトリー制の意味がなくなってしまうので、積極的な売り込みは禁止していい(能動的販売の制限)、

ということです(あまり分かりやすくないですかね)。

さて、ガイドラインでは、このような一括免除規則上のハードコア制限に該当する受動的販売の制限の1つとして、

「(d) an agreement that the distributor shall pay a higher price for products intended to be resold by the distributor online than for products intended to be resold offline.」

というのが挙げられています。

これを、

「販売店に対して、インターネット上で販売される商品の価格を、インターネット以外で販売する価格より高値に設定することを要請すること」

であると紹介する文献がありますが(国際商事法務37巻12号1588頁)、違います。

このような解釈をすると、上記(d)は、販売店の販売価格を指示するという内容になってしまい、もともとハードコア制限である再販売価格維持に含まれることになり、意味がありません。

上記ガイドラインを翻訳すれば、

「(d)販売店(distributor)が、オンラインで当該販売店により再販売されることを意図された商品について、オフラインで再販売されることを意図された商品よりも、高い値段を支払うべきとする合意」

です。

つまり、メーカー(ガイドラインの用語ではsupplierなので、厳密にはメーカーに限りません)が、販売店が商品をオンラインで売るつもりの場合には高い値段で卸し、店舗で売るつもりの場合には安い値段で卸す、ということです。

このようなことをすると、当然、オンラインでの販売価格が高くなり、オンラインでの販売が制限される効果があります。

なので、受動的販売を含め一般的にオンライン販売を制限する効果があるので、ハードコア制限に該当する、ということなのでしょう。

ただ、このような合意がハードコア制限に該当するとして、その意味するところは、一括適用免除にならない、というだけですので、理屈の上では、101条3項による個別適用免除の可能性はあります。

(ただし、81条3項ガイドライン(Guidelines on the application of Article 81(3) of the Treaty, OJ 2004 C101/08)のパラグラフ46では、ハードコア制限が個別適用免除になる可能性は低いとされています。)

やはり原文をきちんと確認しないと、日本語の紹介記事だけでは危ないですね。

ちなみに、日本ではここまで厳しく考える必要はないと思います。

たとえば、メーカーとしては、「インターネットで売るんだから、販売店はコストが安くて済むはずだから、その分、高い値段で卸してやろう」と考えるのは、ある意味経済合理的で自然なことです。

少なくとも、日本では、ネット販売用と店舗販売用の商品で卸値に差をつけてはいけないという先例やガイドラインはありません。

ですので、違法か合法かは、公正競争阻害性があるか否かの一本で決まることになります。

以前も書いたことがありますが、日本の裁判例は、販売方法の制限については、制限することに一応の合理性があれば足りるという、比較的ゆるやかな立場をとっています(資生堂事件)。

したがって、ネットで安売りをする業者を排除する目的でなされるというような場合でない限り(そうなのかどうかの判断は微妙な場合が多いでしょうけれど)、ネット販売が予定される商品を店舗販売が予定される商品よりも高値で卸すことが違法とされる可能性は、それほど高くないように思います。

受動的販売(消極的販売)の制限をハードコア制限とする上記欧州のガイドラインは、地理的制限(あるいは顧客制限)の文脈で論じられている(つまり、販売方法の制限の問題ではない)点に注意が必要で、ガイドラインがこのような厳しい立場をとっているのは、域内統一市場という理念を掲げて地理的分割に厳しい態度をとっているEC競争法の考え方が影響しているのだと思います。

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