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2010年10月

2010年10月28日 (木)

「報告命令」と「報告依頼」

独禁法や下請法の調査に関連して公取委から「報告命令」とか「報告依頼」といった書面が送られてくることがあります。

既に立入調査が行われたりリニエンシーの申請をした後に送られてくる場合(「報告命令」のことが多い)には、会社側も気持ちの準備ができているから良いのですが、何の前触れもなく送られてくることもあり、びっくりすることもあります。

ただ、それは通常、「報告依頼」です。

そこで報告命令と報告要請の違いを説明します。

まず報告命令には、

「報告命令書」

というタイトルが書かれています。

さらに、

「この報告命令は・・・独占禁止法47条1項の規定に基づき、貴社に対して行うものです。」

と、根拠条文が書かれているのが通常です。

さらに、

「なお、この報告命令に違反して報告をせず、又は虚偽の報告をしたときは、独占禁止法94条の規定により刑に処せられることがあります。」

と、罰則の警告が書かれることが一般的です。

報告命令は、被疑者(社?)だけではなく参考人に対してなされることもあるので、報告命令を受けたからといって、公取委がその者に対して嫌疑を持っているというわけではありません。

これに対して、報告依頼のタイトルは、

「報告依頼書」

となっています。

とはいえ、事件番号や審査長の公印が押されていて、しかも、

「・・・に基づく事件調査のため必要があるので、下記の事項について、○年○月○日までに報告して下さい。」

などと書いてあり、報告命令書と見た目がそっくりです。

しかし、これは報告命令ではありません。報告するか否かはあくまで任意です。

当然、罰則の適用もありません。

とはいえ、公取委に、

「報告依頼なので、回答するか否かは任意ですよねぇ?」

と尋ねると、

「そうですが、回答されないと、報告命令を出さざるを得なくなります。」

といわれるかもしれません。

その他、正式審査ではないけれども、例えば企業結合などについて任意で調査している場合には、

「○○の調査へのご協力のお願い」

というような、もっとカジュアルな文書が来ることもあるかもしれません。

2010年10月27日 (水)

共同の取引拒絶と不当な取引制限

流通・取引慣行ガイドラインでは、

「共同ボイコットが行われ、行為者の数、市場における地位、商品又は役務の特性等からみて、事業者が市場に参入することが著しく困難となり、又は市場から排除されることとなることによって、市場における競争が実質的に制限される場合には不当な取引制限として違法となる。」

と、共同の取引拒絶が(不公正な取引方法だけではなく)不当な取引制限にも該当しうるとされています。

これは、日米構造協議でアメリカ政府が日本企業の排他的取引を問題とし、共同ボイコットを不公正な取引方法として規制するだけでは不充分であると指摘したことを受けたものだそうです(地頭所他「新しい独占禁止法の実務」p53)。

不当な取引制限といえば、通常は、競争者間で価格をつり上げる合意をするカルテルや入札談合のようなものをイメージしますので、共同ボイコットはややイメージが異なります。

そこで、法律上の「不当な取引制限」の定義に共同ボイコットが含まれるのかを確認すると、「不当な取引制限」は独禁法2条6項で、

「事業者が、・・・他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」

と定義されています。

まず、「他の事業者」は、その後の「相互に(拘束)」という要件があるために、同じ種類の拘束をしあう関係に無ければならないと判例上解されていることから、主語の「事業者」の競争者でなければならないと考えられます。

共同ボイコットは競争者の間の合意でなされることが多いので、この要件は満たします。

次に、「対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等」の部分は、「等」とあるとおり例示なのであまり突き詰めて文言解釈する必要はないのですが、共同ボイコットは「取引の相手方を制限する」に、まさに該当します。

通常の不当な取引制限で「取引の相手方を制限する」といえば、お互い相手の得意先には営業をかけないとかいうのがイメージされますが(なので、当該得意先はカルテル参加者の誰かとは取引する)、共同ボイコットの場合は、特定の事業者(例えば安売り店や外資系企業)とは取引をしないでおこう(つまり、当該特定の事業者とは誰も取引しない)、ということを合意するわけです。

このように、共同ボイコットが不当な取引制限の行為要件に該当するということは、判例の「相互に」の解釈に従っても、不当な取引制限の定義に照らして問題ない、と言えそうです。

ただ、話はここでは終わりません。

不公正な取引方法の場合は公正競争阻害性があれば違反とされ、争いはあるものの、特定の事業者が排除されれば公正競争阻害性が満たされると解されるのが一般的と思われます。

これに対して、不当な取引制限の場合には、より競争制限の程度の高い、「競争の実質的制限」を満たす必要があります。

では、共同ボイコットの文脈で「競争の実質的制限」を満たすには、どのような事実が必要でしょうか。

まず、共同ボイコットをする事業者の合計シェアがある程度高くないといけないように思います。

例えば、複数の販売店が、特定の外資系メーカーの商品を取り扱わないでおこうという共同ボイコットをする場合、当該複数の販売店の合計販売シェアがある程度高くないと、排除されるメーカーは他の流通網を探すことができ、競争の実質的制限に至らないように思われます。

ただ、価格カルテル等の場合にはカルテル参加者のシェアが概ね5割くらいないと競争の実質的制限には至らないことが多いといわれますが(本質的に重要なのはカルテル外の事業者に牽制力があるか否かなので、4割ならOKという意味ではありませんので、念のため)、共同ボイコットの文脈では、販売店のシェアが3割くらいでも排除の効力が生じるのではないかという気がします。

さらに、共同ボイコットで排除される側のシェア(新規参入者なら、共同ボイコットがなければ近いうちに獲得すると見込まれるシェア)がある程度高くないといけないような気がします。

上の例で競争が制限されるのはメーカーと販売店からなる市場であると思われますが、そのような市場で既に活発な競争がなされており、当該排除されるメーカーが排除されても大勢に影響ないという場合であれば、競争の実質的制限があったというのは難しいような気がします。

(このように、同じ不当な取引制限でも、通常のカルテル等の場合と共同ボイコットの場合とで、競争制限が生じる市場がことなることには注意が必要です。)

では共同ボイコットが不当な取引制限に該当するとして、課徴金はどのように算定されるのでしょうか。

独禁法7条の2第1項によると、不当な取引制限をした場合の課徴金の額は、

「当該行為の実行としての事業活動を行つた日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間・・・における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額(当該行為が商品又は役務の供給を受けることに係るものである場合は、当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した購入額)に百分の十(小売業については百分の三、卸売業については百分の二とする。)を乗じて得た額」

とされています。

この規定は共同ボイコットはあまり念頭に置いていないようなので、ちょっと問題が生じます。

まず、共同ボイコットの場合の「当該商品又は役務」とは何でしょうか。

カルテルの場合は、一定の商品市場に属する商品全部を合意の対象とし、その合意の対象の商品が「当該商品」となる場合が多いと思いますが、共同ボイコットの場合は、ボイコットの対象となるのは当該特定の事業者の商品だけであり、「当該商品」の文言解釈として、ボイコットされる特定の事業者の商品・役務を指すと解するほかないと思います。

もし、排除される特定の業者の商品のみならず、同種の商品の売上額または購入額だとしたら、とんでもない金額になりそうです。

上の販売店間の共同ボイコットの例では、「当該行為が商品・・・の供給を受けることに係るものである場合」に該当するので、購入額の100分の3(小売業として)となります。

しかし、共同ボイコットの場合には、「当該行為の実行としての事業活動を行つた日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間」には、購入額はゼロのはずです(ボイコットしているから当然ですね)。

とすると、何かの間違いで違反期間中にボイコット対象商品を購入してしまうとか、例外的な場合でもない限り、課徴金の額はゼロ、ということになると思われます。

さらに、課徴金の額がゼロなのであまり意味はありませんが、リニエンシーの適用も論理的にはあり得ます。

さて、以上は、一般指定1項1号の、直接の共同取引拒絶のような場合(競争者が、自ら、供給又は供給を受けることを拒絶する場合)を念頭に置いています。

では、2号の間接の共同取引拒絶(競争者が、他の事業者に、特定の業者との取引の拒絶を依頼するような場合)は、不当な取引制限に当たるでしょうか。

例えば、日本の大手メーカーA社とB社が、国内の販売店に依頼して、外資系メーカーC社との取引を拒絶させるような場合です。

このような場合は、独禁法2条6項の「取引の相手方を制限する」には該当しないと思われます。A社とB社自身は、もともとC社とは取引するような立場ではなく、自己の「取引の相手方を制限」しているとは言えないからです。

ではその直後の「等」に該当するかといえば、それも無理だと思います。結局、「相互にその事業活動を拘束」しているか否かがポイントなのですが、A社とB社は販売店の事業活動(取引)を拘束しているとは言えても、A社とB社自らの事業活動を拘束しているとは言えないからです。

A社とB社で結託して新規参入者を排除しようとする間接の共同取引拒絶のほうが、直接の取引拒絶よりも罪は重いように思いますが、かえって不当な取引制限には該当しないということになります。

2010年10月26日 (火)

委託販売の例外の矛盾

流通取引慣行ガイドラインに、再販売価格維持が違法とならない場合として、委託販売の場合というのが挙げられています。

少々長いですが引用します。

「なお、次のような場合であって、メーカーの直接の取引先が単なる取次ぎとして機能しており、実質的にみてメーカーが販売していると認められる場合には、メーカーが当該取引先に対して価格を指示しても、通常、違法とはならない。

①委託販売の場合であって、受託者は、受託商品の保管、代金回収等についての善良な管理者としての注意義務の範囲を超えて商品が滅失・毀損した場合や商品が売れ残った場合の危険負担を負うことはないなど、当該取引が委託者の危険負担と計算において行われている場合」

さて、この委託販売の例外、実務ではよく使います。

ただ、よく考えてみると、この委託販売の例外は、論理的には少々おかしなところがあります。

つまり、こういうことです。

委託販売の例外は、再販売価格維持が違法でない場合の例として挙げられています。

それは、ガイドライン上、委託販売の例外が、ガイドラインの第2部・第1「再販売価格維持行為」の中に置かれていることから明らかです。

一方、独禁法上の再販売価格維持とは、

「自己〔=メーカー〕の供給する商品を購入する相手方〔=販売店〕に、正当な理由がないのに、次のいずれかに掲げる拘束の条件を付けて、当該商品を供給すること。

イ 相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。

ロ 相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させることその他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること。」

を意味します(独禁法2条9項4号)。

このように、再販売価格維持は、販売店が、商品を「購入する」ことが要件になっています。

しかし、委託販売契約とは一般的に、

「委託者である事業者が所有権を留保して物品の販売を販売業者である受託者に委託する契約」

であるとされています(三省堂「コンサイス法律学用語辞典」)。

つまり、委託販売は、メーカーが商品の所有権を留保し、販売店は商品を購入しないのです。

ということは、委託販売というのは、そもそも再販売価格維持(独禁法2条9項4号)の要件を満たさないことになります。

つまり、流通取引慣行ガイドラインは、もともと再販売価格維持に該当しない委託販売を、あたかも再販売価格維持の要件に該当するかのように捉えた上で、さらに再販売価格維持の例外である、としていることになります。

その原因は、流通慣行ガイドラインが、再販売価格維持の定義を、

「メーカーが流通業者の販売価格(再販売価格)を拘束することは、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となる(独占禁止法第二条第九項第四号(再販売価格の拘束))」

として、流通業者が商品を購入する者である必要があるという独禁法2条9項4号の要件を落としてしまっていることにあります。

つまり、ガイドラインの定義では、販売業者が商品を購入しようと購入しなかろうと、「流通業者」であることには変わりないので、委託販売業者も「流通業者」であり、委託販売も再販売価格維持の要件に該当することになっているのです。

このように、ガイドラインの再販売価格維持の定義は法律に反していておかしいのですが、それでも、委託販売の例外が定めあれていることには実務上の意味があると思われます。

まず、法律上の「再販売価格拘束」(独禁法2条9項4号)に該当しない場合でも、拘束条件付取引に該当することはあり得ます(一般指定12項)。

つまり一般指定12項では、

「法第二条第九項第四号又は前項〔排他条件付取引〕に該当する行為のほか、相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること」

とされており、拘束される対象者は、取引の「相手方」であれば足りることになっていますので、「相手方」が商品をメーカーから購入したか否かは問いません。

ですので、再販売価格拘束(独禁法2条9項4号)に該当しない委託販売業者への価格拘束は、拘束条件付取引で拾われる可能性があります。

そこで、ガイドラインで委託販売を再販売価格拘束の例外としたということは、独禁法2条9項4号のみならず、一般指定12項でも違法とはならない、という趣旨であろう、と解釈することができます。

また、ガイドラインが委託販売を再販売価格拘束の例外とした趣旨から、法律形式上は通常の売り切りの販売業者であっても、実態としては委託販売である場合には、違法とはならない、と解釈することも可能ではないかと思います。

例えば、取引の実態としてはメーカーから消費者に直接所有権が移転しているのだけれども、

①当事者の事業上の都合で委託販売の形式が採れない場合とか、

②法律で委託販売が禁じられている場合(そういう例があるかどうかは知りませんが)とかは、

「実質的には委託販売だ」といって、(文言上は少々苦しいものの)ガイドラインの委託販売の例外に該当するのだ、と主張することが考えられます。

ちなみに、平成21年改正で再販売価格拘束については2度目の違反から課徴金が導入されたので、再販売価格拘束か拘束条件付取引かの区別は重要です。

この点、課徴金の額の算定について独禁法20条の5では、

「・・・当該行為において当該事業者〔=違反者〕が供給した同号〔=独禁法2条9項4号〕に規定する商品の政令で定める売上額」

を基準にすることになっており、違反者が「供給」したか否かが重要で、委託販売でも「供給」していることになるのではないか、という疑問が一瞬湧きますが、2条9項4号で、相手方が「購入」することを要件としている以上、違反者が「供給」した商品というのは、実際には、違反者が供給し、かつ、相手方が購入した商品を意味する、と考えられます。

独禁法では細かい文言の解釈はあまり意味のないことが多いですし、この委託販売の例外についても、実務上は取引の実態が重要だと思いますが、気をつけておいた方がよいと思います。

次の流通取引慣行ガイドラインの改正に期待しましょう。

2010年10月25日 (月)

受動的販売(新EU垂直的制限ガイドライン)の誤解

EUの新垂直的契約についての一括適用免除規則(一括免除規則)と新垂直的制限ガイドラインが既に発効していますが、新垂直的制限ガイドラインにおけるインターネットでの受動的販売(passive sale)の制限の内容について、一部に誤解に基づく紹介がなされているようですので、念のため注意喚起しておきます。

まず一括免除規則のおさらいから。

一括規則では、一括免除の利益を受けられない、いわゆる「ハードコア制限」の例として、代理店の販売テリトリーまたは顧客の制限を一般論として掲げた上で、そのようなハードコア制限に該当しない場合として、テリトリー外(あるいは指定された顧客外)への「能動的販売(active sale)」を制限することを挙げています(4条(b)(i))。

つまり、

テリトリー外への能動的販売を制限することは、ハードコア制限に該当しない(=合法の余地あり)、

その反面、

「受動的販売(passive sale)」までも制限することは、ハードコア制限に該当する(≒違法)

ということです。

平たくいえば、

お客さんのほうから販売店に来ているのに、住所がテリトリー外だという理由でメーカーが販売店に販売を断らせるのは行き過ぎだ(受動的販売の制限)、

だけれど、

販売店にテリトリー外への積極的な売り込みを認めたのではテリトリー制の意味がなくなってしまうので、積極的な売り込みは禁止していい(能動的販売の制限)、

ということです(あまり分かりやすくないですかね)。

さて、ガイドラインでは、このような一括免除規則上のハードコア制限に該当する受動的販売の制限の1つとして、

「(d) an agreement that the distributor shall pay a higher price for products intended to be resold by the distributor online than for products intended to be resold offline.」

というのが挙げられています。

これを、

「販売店に対して、インターネット上で販売される商品の価格を、インターネット以外で販売する価格より高値に設定することを要請すること」

であると紹介する文献がありますが(国際商事法務37巻12号1588頁)、違います。

このような解釈をすると、上記(d)は、販売店の販売価格を指示するという内容になってしまい、もともとハードコア制限である再販売価格維持に含まれることになり、意味がありません。

上記ガイドラインを翻訳すれば、

「(d)販売店(distributor)が、オンラインで当該販売店により再販売されることを意図された商品について、オフラインで再販売されることを意図された商品よりも、高い値段を支払うべきとする合意」

です。

つまり、メーカー(ガイドラインの用語ではsupplierなので、厳密にはメーカーに限りません)が、販売店が商品をオンラインで売るつもりの場合には高い値段で卸し、店舗で売るつもりの場合には安い値段で卸す、ということです。

このようなことをすると、当然、オンラインでの販売価格が高くなり、オンラインでの販売が制限される効果があります。

なので、受動的販売を含め一般的にオンライン販売を制限する効果があるので、ハードコア制限に該当する、ということなのでしょう。

ただ、このような合意がハードコア制限に該当するとして、その意味するところは、一括適用免除にならない、というだけですので、理屈の上では、101条3項による個別適用免除の可能性はあります。

(ただし、81条3項ガイドライン(Guidelines on the application of Article 81(3) of the Treaty, OJ 2004 C101/08)のパラグラフ46では、ハードコア制限が個別適用免除になる可能性は低いとされています。)

やはり原文をきちんと確認しないと、日本語の紹介記事だけでは危ないですね。

ちなみに、日本ではここまで厳しく考える必要はないと思います。

たとえば、メーカーとしては、「インターネットで売るんだから、販売店はコストが安くて済むはずだから、その分、高い値段で卸してやろう」と考えるのは、ある意味経済合理的で自然なことです。

少なくとも、日本では、ネット販売用と店舗販売用の商品で卸値に差をつけてはいけないという先例やガイドラインはありません。

ですので、違法か合法かは、公正競争阻害性があるか否かの一本で決まることになります。

以前も書いたことがありますが、日本の裁判例は、販売方法の制限については、制限することに一応の合理性があれば足りるという、比較的ゆるやかな立場をとっています(資生堂事件)。

したがって、ネットで安売りをする業者を排除する目的でなされるというような場合でない限り(そうなのかどうかの判断は微妙な場合が多いでしょうけれど)、ネット販売が予定される商品を店舗販売が予定される商品よりも高値で卸すことが違法とされる可能性は、それほど高くないように思います。

受動的販売(消極的販売)の制限をハードコア制限とする上記欧州のガイドラインは、地理的制限(あるいは顧客制限)の文脈で論じられている(つまり、販売方法の制限の問題ではない)点に注意が必要で、ガイドラインがこのような厳しい立場をとっているのは、域内統一市場という理念を掲げて地理的分割に厳しい態度をとっているEC競争法の考え方が影響しているのだと思います。

2010年10月23日 (土)

○「市場画定」と、×「市場確定」

独禁法の世界でありがちな誤字に

「市場確定」

というのがあります。

正しくは、

「市場画定」

です。

私も、オフィスの自分のパソコンを使っているときは「画定」と出るのですが、事務所で借りる出張用のノートパソコンとかでは、「確定」が第一候補に出てくるので、注意が必要なところです。

頻出かつ重要な用語なのに間違えやすく(しかも、間違えてもあまり違和感がない)、しかも間違えると目立つので気をつけましょう。

なお、「市場画定」というのは、

"market definition"

あるいは、

"market delineation"

の訳語です。

"definition"の動詞の"define"は、普通は「定義する」と訳します。手元の英英辞典(「Oxford Advanced Learners' Dictionary」)では、

"to say or explain what the meaning of a word or phrase is"

という説明が最初にあって、まさに「定義する」という翻訳にぴったりです。

これに対して別の説明もあって、

"to show clearly a line, shape or edge"

というものです。

「市場画定」というときの「画定」は、まさにこちらがしっくり来ますね。

限界のはっきりしない概念を、「ここからここまで」と明確に線を引いて区別するイメージです。

以上に対して「確定」は、文脈によっていろいろな英訳が考えられますが、差し当たり無難なのは、

"determine"

でしょうか。

ところで、英語を書く弁護士や法律の翻訳をされる方々は、必ず英英辞典を使いましょう。

法律は、言葉の一つ一つの意味が重要であることが多く、英和辞典をつかって翻訳あるいは英作文をしていたのでは、とうてい正確な英語にはなりません。

私は紙ベースの英和辞典は仕事では持っていません。仕事で使うには不正確だからです(だいたいの意味が分かれば良いときはアルクで片づきますし)。

政府の法令英訳プロジェクトも進んでいますし、これからの時代日本の法律を外国に正確に伝え、また外国の法律を日本に正確に伝えることが必要になることがますます多くなると思います。

その際の言語は、必然的に英語です。これは事実として受け入れざるを得ません。

ただ幸いなことに、翻訳では正確な意味は伝わらないとよく言われますが、法律は、どこの国でも、言葉の定義(概念)が重要という点では共通しているように思います。

なので、定義をきちんと踏まえれば、共通の基盤で英語で議論することは、それほど難しくないように思います。

むしろ日本語の文章を英語で説明しようとしたときにうまく英訳できない文章は、定義がきちんとされていないとか、論理の展開が明確でないとか(日本語の「ニュアンス」でなんとなくわかったような気にさせられている)、法律の文章として出来の良くないものが多いです。

そいういう「アラ」が、英訳をしようとすると見えてきたりするのも、面白いところです。

2010年10月20日 (水)

公正取引委員会と違憲立法審査権

医薬品卸業者による宮城県での医療用医薬品のカルテルが問題となった事件(平成13年(勧)第33号)の勧告審決(に添付の審決案)に、興味深い判断があります。

同事案で被審人は、審判手続が適正手続を定める憲法31条に違反すると主張しました。

これに対して審判官は、

「行政機関である公正取引委員会は独占禁止法等の法令の合憲性を判断する権限を有しないのであるから、その点については、判断の限りではない。」

としました。

所詮傍論なのでやかましいことを言うこともないのかもしれませんが、行政機関なので法令の合憲性を判断する権限を有しないというのは、一般論としては疑問に思います。

これ以上の詳しい理由も述べられていないのですが、恐らく審判官のこの判断の理由は、違憲立法審査権に関する憲法81条でしょう。

しかし、憲法81条は、

「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」

といっているだけであり、行政機関の判断が「終審」としてのものでなければいいはずです。

憲法81条は、行政機関が法令を執行するに際して明らかに違憲な法律でも執行しなければならないとまでいっているわけではなく、行政機関は行政機関の解釈として、法令を違憲と判断して執行を差し控えるということは、当然あってよいと考えます。

普通の行政機関は当事者の意見の主張に対してきちんと理由を付けて回答しなければならないこと自体少ないでしょうから(国税不服審判所くらいでしょうか)、そもそも明示的に憲法判断を迫られることがないのかもしれませんが、司法的機能を有するところが公取委の大きな特徴であるわけですから、当然、違憲判断をしてもよいはずです。

いずれにせよ、審判制度自体が近い将来無くなると予想されるので、今後はますます注目されることのない論点かとは思います。


2010年10月18日 (月)

経団連「独占禁止法の国際的な動向に関するセミナー」

今日、大手町の経団連会館で行われた、標記の経団連主催セミナーで、日本の企業結合規制の最近の動向について話してきました。

お忙しい中、大変たくさんの皆様に参加いただき、ありがとうございました。

また今日の準備のために尽力された皆様にも感謝申し上げたいと思います。

このセミナーは、外国から独禁法で著名なGibson, Dunn & Crutcher法律事務所をお招きし、日本からは矢吹法律事務所、長島・大野・常松法律事務所、森・濱田松本法律事務所、西村あさひ法律事務所、日比谷総合法律事務所、フレッシュフィールズブルックハウスデリンガー法律事務所と当事務所の独禁法専門の弁護士が最近の独禁法の国際的な動向(単独行為、企業結合、カルテル)について話すというものでした。

私は今回が初めてでしたが、2008年に第1回が行われたものの2回目ということでした。

スピーカーの一人である私が言うのも何ですが、ものすごく内容の濃いセミナーで、今日の話を聞けば世界の独禁法の流れがおおよそ分かる、という意味で、独禁法に関心のある企業の方にはとても有益だったのではないかと思います。

とくに外国の独禁法のところについての資料などは、とても情報量が多くて、私も後でじっくり読み返してみたいと思っています。

こういうセミナーには、スピーカーとしても観客としても時々参加しますが、やはり多くの専門家の生の声と言いますか、理屈にならない実務感覚的なところに触れるのは意義があると思います。

また、論文には書きにくいけれど話すだけなら・・・ということで、けっこう突っ込んだ話も聞けたりします。

こうやって、独禁法実務の実態を少しでも多くの人に知ってもらうのも実務家の役割かなと考えておりますので(このブログもそういうつもりで続けているわけですが)、私にとっても大変有意義な一日でした。

2010年10月14日 (木)

アサインバックが違法な本当の理由

「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(知財ガイドライン)では、

「ライセンサーがライセンシーに対し、ライセンシーが開発した改良技術について、

ライセンサー又はライセンサーの指定する事業者にその権利を帰属させる義務〔通称、アサイン・バック〕、又は

ライセンサーに独占的ライセンス(注19)をする義務〔通称、グラント・バック〕を課す行為は、

技術市場又は製品市場におけるライセンサーの地位を強化し、また、

ライセンシーに改良技術を利用させないことによりライセンシーの研究開発意欲を損なうものであり、また、

通常、このような制限を課す合理的理由があるとは認められないので、

原則として不公正な取引方法に該当する(注20)(一般指定第12項)。」

としています。

つまり、改良技術のアサイン・バック、独占的グラント・バックが不公正な取引方法(拘束条件付き取引)に該当する積極的な理由として、

①ライセンサーの地位が強化される、

②ライセンシーの研究開発意欲が削がれる、

という2つを挙げ、消極的な理由として、

③通常合理的理由がない、

ということを挙げています。

しかし、これだけを理由にアサインバック等が不公正な取引方法に該当するというのは、個人的には少々納得のいかないものがあります。

まず、①(ライセンサーの地位の強化)については、ライセンサーの地位が強化されることによって競争が阻害される場合というのは、ライセンサーが独占やそれに近い場合など、相当強い場合に限られるのではないかと思われます。

むしろ、1番手に大きく離された2番手や、小さな競争者の場合は、その地位が強化される方が、市場での競争が活発になるということすらあり得ます(これは「知財と独禁法」という狭い土俵ではなく、「独禁法一般」という広い土俵では、普通に言われることです)。

ですので、①(ライセンサーの地位の強化)を、アサインバックが違法な一般的な理由とするのは少々無理があると思います。

確かに、アサインバックとかが問題になるケースは、業界のガリバーみたいなライセンサーがやるから問題になるというケースが多いのでしょうが、違反者が市場支配的地位を有することを違反の要件とする欧米の単独行為規制ならまだしも、日本では、良きにつけ悪しきにつけ、不公正な取引方法の土俵で議論をしているわけですから、①(ライセンサーの地位の強化)を違法性の一番の理由とするのは、なおさら違和感があります。

次に、②(ライセンシーの研究意欲の阻害)を理由とすることにも疑問があります。

なぜなら、合理的なライセンシーであれば、ある特許を利用できる便益と、改良技術を自分のものとできる便益とを天秤に掛け、さらにはロイヤリティ額の多寡も考慮して、アサインバックを受け入れるか否かを決めるのであり、「ライセンシーの研究意欲の阻害」という、ある意味個人的(個社的?)な事情が、競争法上そんなに大きな意味があるのか、と思うのです。

例えば、ライセンシーによっては、もともと技術を改良する気などないこともあるでしょう。

つまり、当事者の自主的な判断に任せておけば効率性は達成されるのだ、というシカゴ学派的な発想です。

いくら公正競争阻害性の競争制限のレベルが競争の実質的制限に比べて低いとはいっても、②だけを根拠に公正競争阻害性が常にあるいは原則満たされるというのは、やや説得力がないように思います。

ただこれに対しては、「将来どんな改良発明がなされるかは誰にも予想できないのであり、合理的な判断がそもそも可能なのか(そういう将来の不確実性にライセンサーがつけ込むところに強い違法性があるのではないか)」という反論があり得るとは思います。

また、「ライセンスの対象特許が必須特許で、ライセンシーはアサインバックを拒絶するという選択肢がない場合もあるのではないか(なので、当事者の合意に任せていたのでは効率性は達成できないのではないか)」という反論も考えられます。

ただ、この反論に対しては、「ならば必須特許にアサインバック条項を付ける場合だけを違法とすべきで、それ以外は適法とすべきではないのか」という再反論も考えられます。

(さらに言えば、必須特許にアサインバック条項を付ける場合は、拘束条件付き取引ではなく、優越的地位濫用に該当することが考えられます。)

以上、いろいろ考えてみると、実は大きな意味を持つのは、③(合理的理由の欠如)ではないか、という気がしてきます。

独禁法というのは往々にして違法適法の限界が不明確であり、それを逐一判断するための社会的コストを考えれば、細かいことは言わずに一律違法だとルールで決めてしまうのは合理的なことだと思うのです。

つまり、個別の事案を見れば公正競争阻害性が本当にあると言えるのか疑問な場合があるかも知れないけれど、一律違法とした方が実務的に合理的だ、という発想です。

それから、知的財産についての特殊な事情として、新技術は新技術を呼ぶ、といいますか、正のフィードバック効果がある、といいますか、つまり、技術革新には権利者に帰属する便益を超えた便益が社会に対してある、という点も見逃せないと思います。

つまり、当事者の交渉に任せておけば足りる(効率性が達成される)とは言えないのです。

アサインバックを禁じる積極的な理由としては、実はこれが一番大きいのではないか、という気がしています。

これは「②(ライセンシーの研究意欲の阻害)」に読み込めるのかも知れませんが、あたかもライセンシーの個人的事情であるかのような表現を用いるのは、問題の本質を突いていないような気がします。

しかも、通常、競争制限効果はすぐに生じるものであり、企業結合を始め、余り先のことは分からない(せいぜい1、2年)というのが実務的な感覚ではないかと思いますが、技術革新については、その制限効果が現れるのは何年も先のことになります。

それでも敢えてアサインバックを禁止するというのは、「実を結ぶかどうか分からないものでもとにかく保護しないと技術革新は成り立たない(なので保護すべき)」という、常識的で多分正しい感覚があるのではないかと思います。

独禁法の世界には、知財に限って特殊な議論をしたがる専門家が多いですが、もう少し、一般的な理論の中に取り込む努力といいますか、何が独禁法の一般論で説明できて何が説明できないのかをよく考えることが重要だと思います。

そうしないと、独禁法と知財の問題は知財ガイドラインを暗記して黒白灰色を言えれば終わり、という、独禁法の専門家としてはいささか寂しいことになりかねません。

2010年10月 8日 (金)

【IBAバンクーバー2010】4日目

今日はantitrust regulation for natural resourcesというセッションを聴いてきましたので、簡単にメモしておきます。

【南ア】企業結合の審査に、競争だけでなく、雇用の維持なども考慮する。

国際的な企業結合では、「対南ア市場に対するオペレーションのコントロールを他から隔離(ringfence)する」というレメディが提案されることがあるが、認められることはまずない(当たり前ですね)。

南アでの企業結合届出の売り上げ基準には、南ア市場への輸入のみならず、南ア市場からの輸出も含む。

アルセロール・ミタルに対して、excessive priceの異議が述べられたことがある。

【中国】MOFCOMは、他国の競争当局にプロフェッショナルと見られたいという気持ちがあるので、表立っては競争以外の価値を企業結合審査に持ち込まないが、実際には、政治的意図や産業政策が影響している。

届出基準に達しない企業結合でもMOFCOMの審査の対象になる。

【ブラジル】企業結合審査では、国際協力はあまり活発ではない。

(ブラジル大手鉄鉱会社の)ヴァーレによる他社買収の件では、インフラの重要性を重視して審査を行った。

ブラジルには鉄鋼メーカーはないので、ヴァーレが他社を買収してもブラジル内の需要者が損害を受けるわけではないので、ECなど他の当局に任しておけばよいとの意見もあったが、国内が1社に独占されると将来国内に鉄鋼会社が誕生しなくなる恐れがあるというforward lookingな視点も加味して審査した。

(この、国内の将来の需要者、市場を企業結合の際に考慮するというのは面白いと思いました。将来川下の産業が育ってきたときに、「あのときのSEAE(ブラジルで企業結合を担当する当局。「セアイー」と読みます)の判断は卓見だった。」ということになるのかもしれません。)

【EU】BHPビリトンとリオティンとのジョイントベンチャーは、フルファンクションのジョイントベンチャーではないので、企業結合ではなく、カルテル(101条)で審査されている。なので審査期間に制限がない。

【カナダ】最近独禁法の大幅な改正があった。極めて短期間に改正がなされたのは、他の不況対策パッケージの立法の一部だったから。

Investment Canada Actに注意。economic testとnational security testがあり、正味でカナダに利益があるかが問題とされる。

垂直合併ではstructural remedyは難しいので、behavioral remedyもやむをえない。

2010年10月 7日 (木)

【IBA2010バンクーバー】3日目

3日目の今日は、午前中、dawn raid(抜き打ちの立ち入り調査)のセッションを聴いてきましたので、まとめておきます。

【オーストラリア】 盗聴可。自己帰罪拒否特権なし。住居の立入には女性の調査官が必ず立ち会う。

【米国】 FBIと協働。DOJの職員は立入には立ち会わず、現場からの質問に答えるためにオフィスに待機する。立入調査には(刑事事件なので)probable causeが必要だが、リニエンシー申請者からの証拠で認定できることも多い。逮捕状はまた別。

ブリーフケース、ラップトップなど押収する。原則として午前6時から午後9時までに立ち入る。

刑事の判例で、ドアをノックしてからどのタイミングでドアを蹴り倒せるかなど、細かい判例法がある(ピアノを差し押さえるなら数分待つべきだが、薬物の押収なら直ちに可、など)。

コンピュータのパスワードを教えないとパソコンごともっていく。海外のサーバーにオンラインでサーチすることまではしていない。

捜査官への協力はタイミングがキー。カルテルは詐欺や窃盗と同じ犯罪であり、軽く考える発想は皆無。

パソコンの膨大なデータをサーチするために、「フィルターチーム」がいる。このチームは事件の捜査には関わらない。データのコピー(おそらくリスト)を当事会社に示し、拒否特権の対象情報を特定させることにより、拒否特権の対象情報が捜査チームの目に触れないように配慮している。

【韓国】公取委と検察に対立がある。刑事でも公取が担当。重い場合は検察。住居の捜索は通常行われない。行政事件では刑事の手続補償なし。KFTCの職員が収賄で起訴されたことがある。公取委にはフォレンジック・オフィサーがいて、パソコンのデータなどをコピー、調査する。コンピュータのパスワードは教えるべきとする考えが多いが、教えずに、調査官に「どのような書類が必要なのか」を特定させ、会社のほうで該当するファイルを探す、という妥協策に成功した例あり。

刑事事件で、法律事務所からの請求書(弁護士の作業の内容の詳細が書いてある)が、プリビレッジを根拠に証拠から排除された例がある。

弁護士からのメモも押収されることがあるので、メモは依頼者の特定の行為を直接違法と指摘するのではなく、架空の例を挙げるような形にするなど気を遣っている。

【EC】立入は朝9時。EUの旗を振っているか各国の旗を振っているかをまず確認(EU法が適用される欧州委員会の調査と、加盟国の当局の調査で、手続き保護の内容に違いがあるので)。

ECは自宅の捜索は嫌う。オランダ当局はよく行う(マジストレイトの同意が必要)。

立入に30分くらいは待ってもらえる(オランダの場合)。

ドイツでは半年かけてパソコンのデータをサーチしたりする。サーチのキーワードも公開する。

オランダではインハウスカウンセルにも弁護士依頼者特権を認める。

【ブラジル】立入調査には裁判所の令状が必要。マシンガンを持った警察官が来たりするのでかなり怖い。住居の捜索も可能。自己帰罪拒否特権あり。

個人情報と会社の情報の区別は、プライバシーに配慮して、厳密に行っている。

弁護士依頼者特権については確たるルールがなく、不明確である。

【カナダ】カルテルは刑事事件。立入にはprobable groundが必要。カナダでは何事も中庸。捜査官とホッケーの話をするのはいいが、会社の中で起こったことは話さない。パスワードは教えるべき。

午後はBRICSの独禁法当局によるセッションに参加しました。

【インド】カルテル調査は45日で終わらせることになっているが、複雑な事件や当事者が多い事件では時間が足りない。

企業結合は、30日のフェーズ1と、申し立てから210日のフェーズ2からなる。

【ブラジル】カルテル調査には7、8年かかる。最近も2003年から2010年までかかった例あり。30人のケース・ハンドラーしかおらず、人手不足。事件は建設業が多い。検事の協力を得ている。

【ロシア】カルテルにも刑罰はない。もっぱら行政事件。9ヶ月以内に調査を終えることになっている。

企業結合の届出の閾値が比較的高い。

【中国】調査に期間の制限はない。

ところでお昼のランチで一緒のテーブルになったアメリカの弁護士さんが、何かの機会でダニエル・クレイグ(一番最近のジェームズ・ボンド)と席が隣になったとかで、

「映画で見たまんまだったよぉ」

とか、

「腕は太かったなぁ」

とか、

「やっぱり『カジノロワイヤル』のほうが良かったよねぇ」

とか、たいそう盛り上がりました。

私も007シリーズでは、「カジノロワイヤル」が一番のお気に入りです。

2010年10月 6日 (水)

【IBA2010バンクーバー大会】

先週の土曜日から、International Bar Association (IBA。国際法曹協会)の大会でスピーカーを務めるために、カナダのバンクーバーに来ています。

今日、企業結合規制に関するプレゼンが終了して、やっと時間ができたので、今回のIBA大会について、簡単に記しておきます。

バンクーバーは思ったほど寒くなく、山と海があって、とても美しい街です。

カナダは今回が初めてですが、北米では日本よりもマツダのクルマがたくさん走っていて(とくに「マツダ3」(日本名アクセラ)がたくさん走っている)、ユーノスコスモ(←ユーノスロードスターではありません。念のため)の3ローターを愛車とする根っからのマツダファンの私には、とても嬉しいです。

さて、日曜日のオープニングセレモニーのゲストには、カナダの法務大臣などのほか、アメリカの著名ジャーナリストのボブ・ウッドワードさんが招かれていました。

ウッドワードさんは、ワシントンポストの記者さんで、ウォーターゲート事件を暴いたことで有名な方です。

私も留学中には、CNNの「ラリーキングライブ」などで何度か見たことがあります。

スピーチは、弁護士向けのちょっとブラックなジョークを交えながら面白かったですが、何よりも、政府の透明性が民主主義にとっていかに大事であるかを、まじめに、熱く語っていらっしゃいました。

質疑応答では、「よい聴き取りをするために心がけていることは?」といういかにも弁護士らしい質問に対して、「たとえば本人が遠い昔に書いた論文なども読んで、相手のことを事前に徹底的に調べ上げること」とおっしゃっていました。

やはりどの世界でも一流の方は独特の凄みがあります。

さて、本日(10月5日)に私もパネリストとして参加した企業結合のパネルですが、米国FTCのRichard Feinstein氏(司会から「新合併規則の父」と紹介されて、「まぁ、産婆(midwife)くらいかな」と謙遜されていました)やインドの競争当局の方をはじめ、錚々たる顔ぶれでした。

何より今回のパネリストはみなさんとても気さくな紳士、淑女の方々で、たいへん気持ちよく発表をすることができました。

全員で顔を合わせたのは当日のランチが始めてだったのですが、短時間でみなとても打ち解け、一体感を感じました。

さて肝心の中身ですが(笑)、カナダのパネリストが、米国合併規則が必ずしも市場画定から分析をスタートさせないことを批判して、

「市場画定というのは世界の競争法に共通する分析のフレームワークだ。確かにアメリカの新合併ガイドラインは最新の経済分析を取り入れてとてもすばらしい内容だが、みんなが運転できるわけではないフェラーリのようなもので、アメリカ以外の当局ではうまくいかない。」(後半は第三者の発言の引用)

との意見を述べたのにたいして、Feinstein氏が

「市場画定が対市場効果の分析に無意味だといっているのでは決して無い。そのような誤解があるようだが、それは明らかに誤解だ」

とおっしゃっていたのが興味深かったです。

私などは、需要の弾力性など、経済分析の視点から企業結合を眺める発想があるので新合併ガイドラインのいいたいことはよく理解できるのですが(相当事実関係を調べないと、実は市場画定はできなかったりして、逆に市場画定ができるころには、対市場効果についての答えは出ていたりする)、独禁法専門とはいえ法律家である弁護士の中には、まず市場画定ありきだ(あるいは、企業結合の分析は市場画定に始まり市場画定に終わる)、という、フレームワークにこだわる発想が強いみたいです。

ぜひ、日本の公取委にはフェラーリを運転できるようになってほしいものです(笑)。

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