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2010年9月17日 (金)

優越的地位濫用と特殊指定との関係(再論)

平成21年改正で、大規模小売業告示のような特殊指定と優越的地位濫用(独禁法2条9項5号)の関係がどうなるのかについて、このブログでも何度か書きましたが、今改めて考え方を整理してみます。

以下、話が具体的な方が分かり易いので、大規模小売業告示を念頭に置きつつお読み下さい。

改正後の特殊指定は、独禁法2条9項6号に基づいて公取委が指定するものという位置付けです。

そして、2条9項6号では、

「前各号に掲げるもののほか」

とされています。

つまり、2条9項6号により公取委が指定できるのは、2条9項1号~5号に掲げる行為に該当しないものに限られます。

もし、2条9項1号~5号に該当する行為(最も問題になるのは優越的地位濫用の5号)を特殊指定として指定した場合、その指定は2条9項6号の授権の範囲を超えて無効、ということにならざるを得ないと思われます。

あるいは、特殊指定の解釈として、2条9項1号~5号に該当する行為は特殊指定で指定されていないと縮小解釈する、ということにならざるを得ないと思われます。

つまり、大規模小売業告示は、法律上の優越的地位濫用(独禁法2条9項5号)に該当しない部分だけが効力を有する、ということになります。

この点、公取委の優越的地位ガイドライン案の(注2)では、

「独占禁止法第2条第9項第5号に該当する優越的地位の濫用に対しては,同号の規定だけを適用すれば足りるので,当該行為に独占禁止法第2条第9項第6号の規定により指定する優越的地位の濫用の規定が適用されることはない」

とされていますが、これだと、5号の優越的地位濫用と特殊指定は、論理的には重畳的に適用され得るけれど、両方に該当する場合には5号だけを適用すれば足りるといっているように読めますが、厳密に言うと、これは不正確です。

正確には、5号に該当する優越的地位濫用は、6号に基づく特殊指定に該当することは論理的にあり得ないのであって、5号に該当する行為はそもそも特殊指定には該当しない、特殊指定を適用することは論理的に不可能である、というべきです。

条文解釈としては、これ以外に解釈のしようは無いように思われます。

とすると、平成21年改正後の特殊指定には、どのような意味があるのでしょうか。

結論としては、99.9%、特殊指定は無意味になった、といわざるを得ないような気がします。

残りの0.1%は、5号の優越的地位濫用には該当しないけれども特殊指定には該当する、という行為ですが、実際にはなかなかイメージしにくいですね。

というのは、例えば大規模小売業告示の違反類型を見ると、優越的地位濫用を具体化するような書きぶりであり、これを広げるものでは無いように思われるからです。

もう少し細かく見ると、2条9項5号は、ざっくりまとめれば、

イ 購入強制(押し付け販売)

ロ 金銭・役務等提供強制

ハ 受領拒否、不当返品、支払遅延、不当減額、その他

で、注目すべきは、最後の「その他」(条文では、「その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること」)です。

この「その他」にも該当しないような行為を特殊指定の中に見つけるのは、かなり困難に思われます。

現状の特殊指定は、一般論である優越的地位濫用を具体化したものであるにもかかわらず、そもそも一般論の優越的地位濫用に該当するものは除外される、ということになってしまっています。

その論理的帰結として、公取委が特殊指定を根拠に違法とする場合には、「5号に該当するのだから特殊指定には該当しない」という違反者の反論を許さざるを得ないように思われます。

というより、特殊指定に該当する行為のほとんどが優越的地位の濫用にも該当しそうなことは一見して明らかですから、むしろ公取委の側が、優越的地位濫用には該当しないことの立証責任を事実上負うことになり、むしろ特殊指定は非常に使い勝手の悪いものになったといわざるを得ないように思われます(改正前は、特殊指定はとても使い勝手が良かったはずなのですが)。

そうすると、「優越的地位の濫用でも行けそうだけど、一部立証に不安があるから、大規模小売店特殊指定で行くか。」というふうに特殊指定を使うこともできなくなります。

なぜなら、優越的地位濫用は要件が曖昧なのでその存在を立証することが容易でないことがあり得ますが、それと同じくらい、優越的地位濫用の不存在を立証することも容易でないのではないか、と思われるからです。

このように、現在の特殊指定は、体系的にも実務的にも、非常に据わりの悪いものになっていると言わざるを得ません。

要件の明確性による執行の容易さ、認定の容易さ、という特殊指定のメリットを生かすのであれば、2条9項6号に「前各号に掲げるもののほか」などという文言を入れず、1号~5号と重複するものも6号で指定できるようにしておくべきだったのです。

それを律儀に6号から除外したものですから、このような問題が生じてしまいました。

別に1号~5号と重複する行為を6号で指定する法律の建て付けにしても良かったのです。

重複指定を認めた上で、1号~5号のみ課徴金の対象とする、という行き方もあり得たはずです(それはそれで問題あるかも。ここは余り深く考えていません)。

恐らくそうすると、課徴金が裁量の余地のない処分であることとの整合性が問題になったので、1号~5号と6号を切り分けたのだと想像されますが、その結果、特殊指定は実務上ほとんど意味のないものになってしまった、といわざるを得ません。

また、そもそも論を言えば、平成21年改正で一般指定を法律上の不公正な取引方法から切り分ける形で改正したように、特殊指定も、法律上の優越的地位濫用から切り分ける改正をすべきだったのではないでしょうか(そうすると、特殊指定が99.9%意味のないものとなることがよりはっきりしてしまったかも知れませんが・・・)。

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