一般指定と特殊指定との関係
平成21年改正前の一般指定と特殊指定との関係について、
公正取引委員会取引部企業取引課「『特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法』の告示について」(公正取引642号・2004年4月・11頁)
では、
「・・・一般指定及び特殊指定のいずれも、独占禁止法第2条第9項に基づいて公正取引委員会が指定するものであるが、両指定の関係は、特殊指定で規定されている行為については特殊指定が優先的に適用されるというものであり、特定の業種について一般指定の適用が排除されるわけではない。」
とされています。
おそらくここで言いたいのは最後の部分、平たく言うと、「運送業界にも一般指定が適用されますよ」ということなのでしょうが、今回注目したいのは、一般指定と特殊指定との関係について述べた、上記下線の部分です。
上記下線部分は、
特殊指定(例、物流特殊指定) > 一般指定(例、優越的地位濫用) ・・・①
という適用の優先関係だ、といっています。
さて、平成21年独禁法改正によって、法定の不公正な取引方法(=累積課徴金4類型+法定優越的地位濫用)について、課徴金が導入されました。
それに伴い出された優越的地位濫用ガイドライン案では、
「独占禁止法第2条第9項第5号に該当する優越的地位の濫用に対しては,同号の規定だけを適用すれば足りるので,当該行為に独占禁止法第2条第9項第6号の規定により指定する優越的地位の濫用の規定が適用されることはない。」
とされています。
つまり、
法定優越的地位濫用(5号) > その他の優越的地位濫用(6号) ・・・②
という適用関係になります。
ここで、「その他の優越的地位濫用(6号)」には、一般指定(のうち役員選任への干渉に関する13項)と特殊指定の両方が含まれますから、
法定優越的地位濫用(5号) > 一般指定または特殊指定 ・・・②’
ということが読み取れます。
そこで、①式と②”式から、
法定優越的地位濫用(5号) > 特殊指定 > 一般指定 ・・・③
ということになります。
論理的にはこう考えざるを得ないのですが、何だかおかしな気がします。
改正後の法定優越的地位濫用は、改正前の一般指定の優越的地位濫用から一部分(というか、大部分)を抜き出したものです。
そうだとすると、適用の優先度も、改正前の一般指定と同等と考えるのが自然だと思います。
「法律に格上げになったんだから改正前の一般指定よりも改正後の法定優越的地位濫用の方が優先適用されるのだ」という議論もありえますが、一般指定も立派に法律上の根拠(2条9項6号)がある以上、法定優越的地位濫用(2条9項5号)と優劣の差はないと考える方が自然だと思います。
私は、特殊指定が一般指定に優先する(①式)というのも、そもそもおかしいと考えていました。
①式は、「特別法は一般法に優先する」という素朴な発想なのでしょうが、それは特別法と一般法の内容が抵触する場合の話であって、両者の内容が矛盾しない場合には、重畳的に適用されるというのが、むしろ普通の法律解釈ではないかと思います。
これに対して、優越的地位ガイドライン案の考え方は、実務的な割り切りとして、それはそれで評価できますが、やはり、理屈の上では、構成要件に該当する限り、法定優越的地位濫用(5号)とその他の優越的地位濫用(6号)とは、重畳的に適用されるというのが筋だと思います。
ただ、一般指定の優越的地位濫用は、法定優越的地位濫用と構成要件が重ならないようにドラフトされていますので、結果的に、法定優越的地位濫用が適用される場合には一般指定の優越的地位濫用が適用されることはない、というに過ぎないと思われます。
(ただ、一般指定の優越的地位濫用は、役員選任への干渉(新一般指定13項、旧一般指定では14項5号)という、実務上ほとんど適用例のない抜け殻のような規定になっていますが・・・)
まして、法定優越的地位濫用が適用される場合には特殊指定が排除されると考えるのは、理由がないと思います。
優越的地位ガイドライン案が、「・・・だけを適用すれば足りる」といっていて、「・・・だけが適用される」とは言っていないのも、理論的には、法定優越的地位濫用とその他の優越的地位濫用(特殊指定を念頭)が重畳的に適用されることを念頭に置いているのかもしれません。
以上要するに、適用の論理的な優先度については、
法定優越的地位濫用 = 一般指定 = 特殊指定 ・・・④
という考え方を支持したいと思います。
ただ、裁量の余地のない課徴金が法定優越的地位濫用に導入された(ただし、継続性が必要)趣旨に鑑み、運用上は、
法定優越的地位濫用 > 一般指定 = 特殊指定 ・・・⑤
とすべきでしょう。
しかし、継続性のない法定優越的地位濫用には、課徴金を課す余地がないので、あえて法定優越的地位濫用を運用上優先適用する理由もありません。
したがって、継続性のない優越的地位濫用については、
法定優越的地位濫用 = 特殊指定 ・・・⑥
という運用でよいと思います。
こうすることにより、継続性のない違反の場合には、特殊指定で簡易に処理ができて良いのではないかと思います。
ガイドライン案の考え方を文字通りに読めば、継続性のない違反の場合には、課徴金を課す余地がない(エンフォースメントに差がない)にもかかわらず、特殊指定による簡易な処理がてきないことになりかねず、不都合ではないでしょうか。
【2010年9月29日追記:その後、自説を一部変更というか深めております。2010年9月17日の「優越的地位濫用と特殊指定との関係(再論)」も、併せてお読み頂けますと幸いです。】
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