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2010年8月12日 (木)

企業結合届出書の任意提出

株式取得の届出書(独禁法10条2項)などの企業結合届出書を、その届出要件を満たさないのに任意に提出することができるでしょうか。

なぜこういうことを考えるのかというと、こういうことです。

届出要件を満たして届出書を提出した場合には、追加の情報要求がない限り、待機期間経過後は排除措置命令の事前通知を受けることがなくなります(10条9項など)。

これに対して、届出要件を満たさない場合には、逆に、排除措置命令を出せる期間に制限がありません。

そのため、届出要件を満たさないのに敢えて任意で届出書を提出したいという場合がありうるのです。

また、任意に届出書を提出したいというもう一つの場合として、届出要件を満たすか否かはっきりしない場合です(たとえば、国内売上高が届出要件に届くか否かぎりぎりでよくわからない場合)。

この点、独禁法の条文(10条2項など)は、

「〔届出要件を満たす〕ときは、・・・届け出なければならない」

となっていて、届出義務の前提は届出要件が満たされることを当然の前提としています(当たり前ですが)。

したがって、仮に届出要件を満たさないのに届出がなされたとしても、そのような届出書は、独禁法上の企業結合届出ではない、つまり意味のない届け出である、というのが論理的な解釈だと思います。

したがって、公取委はこのような届出がなされても受理すべきではない、ということになるでしょう。

以上が、届出要件を明らかに満たさないのに任意で届出をした場合の取り扱いです。

これに対して、届出要件を満たすか否か微妙でよく分からない場合は、別段の考慮が必要であろうと思われます。

企業としては、届出要件を満たすか否か微妙な場合には、念のために届けておきたい、ということがあり得ます。

ですので、ケースバイケースではありますが、微妙なケースでは公取委はできるだけ受理するような扱いをすべきではないか、と思います。

また、届け出が受理された以上、排除措置命令の事前通知も待機期間内(追加の情報要求があった場合にはさらに90日間以内)になされるべきでしょう。

この点、形式論理的にいえば、届出書がいったん受理された後で実は届出要件を満たしていなかった(届出は不要だった)ことがわかった場合には、排除措置命令の措置期間の制限は適用されない(永久に排除措置命令を出せる)、ということになりそうです。

しかし、それはいかにも変でしょう。

いったん届出書が受理された以上は、受理されたという事実に対して当事者の信頼が積み重なっていくので、措置期間の制限があると解すべきでしょう。

以上まとめると、

①届出要件を明らかに満たさない場合は、公取委は受理しない、

②届出要件を満たすか否か微妙な場合、公取委はできるだけ受理すべき、

③受理した以上は措置期間の制限あり、

④受理しなかった場合は、後で届出要件を満たすことがわかっても届出義務違反の罪は成立しない(違法性の意識の可能性なし?)

ということになります。

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