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2010年8月 5日 (木)

譲渡制限株式の取得と届出

あまりない事例と思いますが、譲渡制限株式を取締役会等の承認が無いままで取得しようとする場合、独禁法上の届出は必要でしょうか。

なお、その前提として、

①届出時には譲渡承認は無いけれども取得時までには承認がなされる場合、

②譲渡承認を請求するつもりが当面無い場合、

の2通りが大きく分けてあり得ますが、①の、承認がなされる予定の場合には、争い無く、届出が必要であろうと思われます。ここでの問題は、②の場合です。

さて、譲渡制限株式を取締役の承認なく取得した場合の効力については、会社に対する関係では効力を生じないけれども譲渡当事者間では有効であるとするのが判例です(最判昭和48年6月15日)。

ですので、

会社との関係では無効なのだから議決権は行使できないのだから届出は不要だ、という考え方と、

とにかく株式を取得するのだから届出は必要だ、という考え方

があり得るように思われます。

そこで、何はなくとも条文です。

届出に関する独禁法10条2項をみてみましょう。

10条2項では、

「〔取得〕会社・・・は、他の会社の株式の取得をしようとする場合・・において、当該株式取得会社が当該取得の後において所有することとなる当該株式発行会社の株式に係る議決権の数・・・の当該株式発行会社の総株主の議決権の数に占める割合が、百分の二十・・・を超えることとなるときは、・・・あらかじめ当該株式の取得に関する計画を公正取引委員会に届け出なければならない。」

とされています。

条文を読む限り、「所有することとなる」となっており、あくまで株式を所有することとなるか否かが届出の要否を決するので、会社に対して対抗できるとか、議決権を行使できるとかいうことは、届出の要否と関係ないように読めます。

(もしこれが、「議決権を取得することとなる」となっていたら、会社に対して議決権を取得しない以上、届出は不要という解釈もありえるかもしれません。)

ですので、条文の文言解釈からは、譲渡承認を得るつもりがなくても、独禁法上の届出は必要になると解されます。

実質的に考えても、この場合に事前届出が要らないとすると、取得後に、譲渡承認の30日前までに事前届出をすることになるように思われますが、承認の時期というのは譲受人が完全にコントロールできるわけではないので、いつ届け出ればいいのかよく分からなくなってしまいそうです。

譲渡承認請求の30日以上前に届け出れば、承認されるまでに独禁法の届出から30日以上経つでしょうから、待機期間中に譲渡承認がなされてしまう(思ったより早く譲渡の効力が生じる)という問題はなさそうですが、

①「譲渡承認請求の30日以上前に届け出れば足りる

というのと、

②「譲渡承認請求の30日以上前に届け出なければならない

というのとでは、意味が異なります。

譲渡承認により「取得」(独禁法10条2項)が生じると考える立場(=譲渡承認のない取得は「取得」ではないと考える立場)なら、論理的には、譲渡承認の30日以上前に届け出れば足りるはずであり、譲渡承認請求の30日以上前に届出なればならない(②の立場)とするのは、根拠がないように思われます。

というわけで、譲渡承認を請求する予定もなく譲渡制限株式を取得しようとする場合に独禁法の届出が要らないとすると、「それではいつまでに届け出ればいいのか」という質問に対して論理的に答えられなくなりそうです。

さらに実質的に考えれば、企業結合の届出は、公取委に審査の機会を与えるためのものなので、仮に譲渡承認がなくても、株式を取得する以上は競争法的観点からの審査を正当化できるほどのインパクトがあるといえるのではないでしょうか。

また、平成21年改正前の解説ですが、株式取得の取得日は、

「売買契約等が履行された日が取得日となる。この場合、名義の書き換えが行われている必要はない。」

という公取委担当官の解説がありますので(商事法務1733号20頁)、会社への対抗要件は問題にしないという姿勢が受け取れます。そうすると、譲渡承認も同様に、その有無にかかわらず届出は必要、ということかと思われます。

したがって、譲渡承認を請求する予定もなく譲渡制限株式を取得しようとする場合にも、やはり譲渡前に事前届出(独禁法10条2項)をすべきと考えます。

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