異なる違反類型をまたぐ繰り返し違反課徴金
平成21年改正で、共同の取引拒絶、差別対価、不当廉売、および再販売価格拘束(厳密には、それらのうち独禁法2条9項1号~4号で定められたものに限りますが)について、10年以内に2度違反をすると課徴金が課せられることになりました。
さて、ここで課徴金がかかるのは、同じ違反類型を2度繰り返した場合です。
つまり、
1回目:差別対価
2回目:差別対価
なら課徴金がかかりますが、
1回目:差別対価
2回目:不当廉売
なら課徴金はかからないことになります。
念のため、差別対価の場合について、条文で確認してみましょう。
差別対価に対する課徴金に関する独禁法20条の3では、
「事業者が、次の各号のいずれかに該当する者であつて、第十九条の規定に違反する行為(第二条第九項第二号〔←法定差別対価のことです〕に該当するものに限る。)をしたときは、公正取引委員会は、・・・当該事業者に対し、・・・課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。・・・
一 調査開始日からさかのぼり十年以内に、第二十条〔←排除措置命令の規定です〕の規定による命令(第二条第九項第二号に係るものに限る。次号において同じ。)若しくはこの条の規定による命令を受けたことがある者・・・」
とされています。
「第二条第九項第二号に係るものに限る」とされているところから、1回目の違反に対しては、2条9項2号、つまりは差別対価に対する排除措置命令がなされた必要があることがわかります。
また、「この条の規定による命令」とされていることから、同じく1回目の違反に対しては、差別対価に対する課徴金納付命令がなされた必要があることになります。
両者が「若しくは」で繋がっているので、結局、差別対価についての排除措置命令か課徴金納付命令のいずれかがなされていれば(1回目の違反で課徴金納付命令が出ることはないので、前回の違反に対してなされるのは排除措置命令に限られますが)、2度目の違反に課徴金がかかることになります。
ちなみに、平成21年改正附則に経過措置があり、旧法下でなされた排除措置命令も1回目としてカウントされます。
差別対価についての附則8条1項を例にみてみると、
「新独占禁止法第二十条の二〔←差別対価への課徴金〕の規定の適用については、
当該事業者が、同条に規定する違反行為に係る事件について
新独占禁止法第四十七条第一項第四号に掲げる処分〔←立入検査〕が最初に行われた日からさかのぼり十年以内・・・に、
平成十八年一月改正前独占禁止法第十九条の規定に違反する行為(新独占禁止法第二条第九項第一号〔←差別対価〕に規定する行為に相当するものに限る。)について平成十八年一月改正前独占禁止法第四十八条第四項、第五十三条の三若しくは第五十四条の規定による審決を受けたことがあるとき(当該審決が確定している場合に限る。)
又は
旧独占禁止法第十九条の規定に違反する行為(新独占禁止法第二条第九項第一号に規定する行為に相当するものに限る。)について旧独占禁止法第二十条の規定による命令を受けたことがあるとき(当該命令が確定している場合に限る。)
若しくは旧独占禁止法第六十六条第四項の規定による審決〔←違法宣言審決〕(原処分の全部を取り消す場合のものに限る。)を受けたことがあるとき(当該審決が確定している場合に限る。)は、
当該審決又は命令を新独占禁止法第二十条の二の規定による命令であって確定しているものとみなす。」
とされています。
要するに、旧法下で受けた審決や排除措置命令も、その違反行為が新法2条9項1号に相当する差別対価である場合には、1回目の違反による課徴金納付命令とみなします、ということですね(排除措置命令とみなさずに課徴金納付命令とみなすことにした理由は・・・よく分かりません)。
なお、差別対価のなかでも、いわゆる略奪廉売型の差別対価(特定のライバルの顧客に対してだけ集中的に安売り攻勢をかけたりするもの)は、不当廉売との違いが紙一重です。
ですので、例えばかつて不当廉売で排除措置命令を受けた違反者が、2度目の違反について同じく不当廉売で課徴金を課せられそうになった場合には、
「2度目の違反は不当廉売ではなくて差別対価だ(ライバルの顧客以外には高値で売っているので)。」
と反論することが出てくるかも知れません(ちょっと認められにくい議論だとは思いますが)。
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