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2010年8月

2010年8月26日 (木)

独禁法違反を防ぐ契約書ドラフティング

ある契約書の条項が独禁法に違反しないかをチェックして欲しいという相談をよく受けます。

しかし、独禁法に違反するか否かは、契約書の文言よりも実際の運用次第というところがあり、また、特に垂直的制限に該当する条項の場合には当事者のマーケットシェアが大きな意味を持つので、契約書の文言だけで独禁法違反かどうかは決まらないことが多いのです。

ただ、そうはいってもいくつか気をつけておくべきことはあると思います。

競争者間の契約は、共同研究開発やジョイントベンチャー契約のような場合を除き、独禁法上注意すべき場合が多いです。

例えば、「甲乙〔注:甲乙は競業者〕は、お互いの顧客基盤を尊重するものとする」なんていうのは、露骨な市場分割協定なので、違法になる可能性が高いです(実際にあった例です)。

垂直的制限のうち、価格制限(再販売価格維持)については、日本では当然違法というわけではありませんが、やはり避けておいた方が無難でしょう。

非価格制限については、ケースバイケースの判断になります。

例えば、代表的な非価格制限である排他的取引(ライバルの商品は取り扱わせないこと)について流通取引慣行ガイドラインでは、

「市場における有力なメーカー(注4)が競争品の取扱い制限を行い、

これによって新規参入や既存の競争者にとって代替的な流通経路を容易に確保することができなくなるおそれがある場合(注5)には、

不公正な取引方法に該当し、違法となる」

とされています。

その他、ドラフティングのテクニックで独禁法違反のリスクを低減する方法としては、

「本契約の条項が独禁法違反と判断される場合には、その条項は無効とする。」

とすることがありますが、むしろ独禁法違反になり得ることを当事者が認識していたことを窺わせることにもなり、ちょっといやらしい感じがします(ただ、契約交渉のなりゆきで、こういう文言を入れるのが落ち着きが良いことがあるのも事実です)。

その他には、相手方の行為を制限する条項を入れる際に、その趣旨、目的も契約書に書き込んでしまう、ということがあります。

例えば、売買の目的物の転売を禁止するような条項は、拘束条件付き取引として独禁法違反になり得ますが、例えば売買の目的物が危険物で、転売禁止の趣旨目的が安全性の確保である場合には、

「買主は、本商品が危険物であって、充分な説明を受けずに使用すると事故の危険があることを充分に理解し、本商品を売主の承諾なく第三者に転売しないことに同意する。」

といった具合です。

しかし繰り返しになりますが、独禁法違反になるか否かは、契約書の文言よりも実際の運用や事実関係に左右されます。

例えば転売禁止条項に上記のような趣旨、目的を書き込んでも、本音のところでは安売り業者に横流しされることを防ぐためだったのであれば、やはり独禁法違反の可能性があります。

このように、契約書の文言だけを見て独禁法違反か否かを判断することはできないことが多いことをご理解頂きたいと思います。

2010年8月23日 (月)

物流特殊指定と下請法との関係

物流特殊指定(正式名「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」)は、その構成要件の定め方が一見すると下請法に似ており、下請法と混同しがちなので、両者の関係を整理しておきます。

物流特殊指定は、資本金3億円(1000万円)超の荷主が3億円(1000万円)以下の運送会社・倉庫会社に運送・保管を委託する場合に適用される、という点が、下請法2条7項、8項を連想させます。

しかし、物流特殊指定は、あくまで、不公正な取引方法(独禁法2条9項)の一種です。

そして、実質的には、優越的地位濫用(独禁法2条9項5号)の特別な類型になります。

つまり、物流特殊指定は、物流業界で行われる不公正な取引方法(なかでも優越的地位濫用)について定めたものであり、これに対するエンフォースメントは、通常の不公正な取引方法と同じく、独禁法上の排除措置命令だけ、ということになります。

(ちなみに、物流特殊指定は独禁法2条9項6号に基づく不公正な取引方法なので、平成21年改正後も課徴金の対象にはなっていません。)

要するに、物流特殊指定は、あくまで独禁法、つまり「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」の枠の中の話です。

これに対して、下請法は、勧告制度(下請法7条)など、下請法独自のエンフォースメントが定められており、独禁法の枠の外の法律です。

さらに、そもそも物流特殊指定と下請法では、適用される場面が異なります。

物流特殊指定は、

「特定荷主〔=資本金3億円超または1000万円超の荷主〕が、特定物流事業者〔=資本金3億円以下または1000万円以下の物流事業者〕に対し運送委託又は保管委託をした場合」

に適用されます(物流特殊指定1項柱書き)。

つまり、荷主が運送業者に運送を委託(あるいは倉庫業者に保管を委託)するという、ありふれた取引形態を念頭に置いています。

これに対して、下請法で運送・保管に最も関係しそうな「役務提供委託」は、

事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること・・・をいう。 」

と定義されています(下請法2条4項)。

運送の場合を例に説明すると、上記の「事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為」における、

「業として行う提供の目的たる役務」

が運送役務を指すことになり、そのような役務を提供する「事業者」というのは、ひたらくいえば運送会社です。

ですでの、役務提供委託の定義における

事業者

というのは、運送会社のことであり(荷物の所有者(荷主)ではありません)、

事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること・・・ 」

というのは、運送会社である「事業者」が、その下請である「他の事業者」(他の運送業者)に、運送行為の全部または一部を再委託することである、と理解できます。

つまり、下請法上の役務提供委託は、運送を例にとれば、運送会社と運送会社の関係です。

これに対して、物流特殊指定は、荷主が運送会社に運送を委託する場合に適用されます。

しかも、下請法2条4項の「役務提供委託」に該当する場合には、物流特殊指定は適用されないことになっています(物流特殊指定備考1項柱書きかっこ書き)。

実は、物流特殊指定の荷主の定義の、

「・・・物品の運送又は保管を委託するもの

というところだけを見ると、「委託するもの」でありさえすれば、荷物の持ち主(送り主)であろうと運送会社であろうと構わないように一瞬思えます。

そうすると、「特定荷主」が運送会社である場合も含まれることになって、下請法も適用されてしまうので、柱書きに明文で、除外規定を置いて(物流特殊指定備考1項柱書きかっこ書き)、結局、物流特殊指定と下請法とが重複しないようにされているのです。

ただ、物流特殊指定の規定振りは、ドラフティングとしてはやや稚拙で、柱書きでは、

「・・・該当する事業者」

と締めくくりながら、除かれるのが、

「・・・場合」

となっていて、噛み合っていません。

論理(あるいはマニアックな美しさ?)にこだわるなら、概念が「事業者」で規定されている以上、除外するのも「事業者」や「もの」など、同じ概念で除外するべきでしょう。

【2010年9月29日追記:その後、やや考えを深めております。2010年9月17日の「優越的地位濫用と特殊指定との関係(再論)」も、併せてお読み頂けますと幸いです。】

2010年8月21日 (土)

子会社への運送委託と物流特殊指定

ある荷主が、その子会社である運送会社に運送を委託する場合、物流特殊指定(「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」)は適用されるでしょうか。

結論としては、適用されないと考えられます。

理由は以下に述べるとおりですが、一言で言えば、(ほぼ)明文で除外されています。

物流特殊指定が適用されるのは、大まかに言うと、

①資本金3億円超の荷主が、資本金3億円以下の運送会社に運送を委託する場合(備考1項1号と2項1号)

②資本金1000万円超の荷主が、資本金1000万円以下の運送会社に運送を委託する場合(備考1項2号と2項2号)

③地位が優越する荷主が、地位の劣る運送会社に運送を委託する場合

の3通りがあります(いずれも継続して委託する関係が必要)。

しかし、物流特殊指定での「特定物流事業者」(=物流特殊指定で守られる事業者)の定義をみると、例えば上の①のパターンでは(②のパターンでも理屈は同じです)、

「個人又は資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下(資本金の額又は出資の総額が三億円を超える事業者の子会社を除く。)の事業者であって、前項第一号に規定する特定荷主から継続的に物品の運送又は保管を受託するもの」

とされており、特定物流事業者の定義から、資本金3億円超の事業者の子会社が明文で除外されています。

(なお、物流特殊指定での「子会社」は、議決権の過半数で決することとされています。備考5項。)

この明文の除外規定は、資本金3億円超の会社の子会社を全て物流特殊指定から適用除外する内容なので、趣旨としては、資本金3億円以下の運送会社でも、3億円超の会社の子会社なら、そんなに弱小ではないだろうから特殊指定で保護する必要はないだろう、という趣旨であろうと推察されます。

(ちなみに、似たような規定である下請法の場合には、このような適用除外規定はありません。)

しかし、資本金3億円超の親会社を持つ運送会社が全て適用除外されている(つまり、親会社が荷主か否かを問わず適用除外されている)ため、結果的に、親会社である荷主がその子会社に運送委託する場合も含めて、適用除外されることになっています。

もしこの適用除外規定がなくても、解釈で子会社への運送委託には物流特殊指定は適用されないと解することも可能だとは思いますが、文言上、結果的に子会社への運送委託も適用除外されていることになってしまっているので、実務上は、それ以上適用除外の理論的根拠を深く追求する必要もないでしょう。

やや問題なのは、③の場合です。

③の場合は、地位の優劣という実質を見て判断することになります。

そのこともあってか、③の場合には、親会社が資本金3億円超の場合を適用除外とする規定もありません。

そして、実質的に優劣を判断する場合には、運送会社の親会社の資本金が3億円超であろうが無かろうが、荷主との関係では運送会社が劣った地位にあることはいくらでもあるでしょうから、資本金3億円超の会社の子会社であっても、「特定物流事業者」として物流特殊指定で保護される、と考えるのが当然でしょう。

しかし、やはり親会社である荷主がその子会社に運送を委託する場合には、③のパターンでも、物流特殊指定の適用はないと考えるべきでしょう。

これは物流特殊指定に限った話ではなく、一般の優越的地位濫用(独禁法2条9項5号)の場合でも同様と考えるべきでしょう。

なぜなら、親子会社は経済的には一体であり、優越的地位濫用で子会社を保護すべき前提を欠くと思われるからです。

以上により、荷主がその子会社に運送委託する場合は、物流特殊指定は適用されないと考えられます。

なお、以上の議論は荷主がその子会社に運送委託する場合の話で、荷主がその運送子会社に運送委託して当該運送子会社が別の運送会社に再委託する場合の、いわゆる「トンネル会社規制」(物流特殊指定備考3)とは関係ありませんので、注意して下さい。

2010年8月20日 (金)

一般指定と特殊指定との関係

平成21年改正前の一般指定と特殊指定との関係について、

公正取引委員会取引部企業取引課「『特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法』の告示について」(公正取引642号・2004年4月・11頁)

では、

「・・・一般指定及び特殊指定のいずれも、独占禁止法第2条第9項に基づいて公正取引委員会が指定するものであるが、両指定の関係は、特殊指定で規定されている行為については特殊指定が優先的に適用されるというものであり、特定の業種について一般指定の適用が排除されるわけではない。」

とされています。

おそらくここで言いたいのは最後の部分、平たく言うと、「運送業界にも一般指定が適用されますよ」ということなのでしょうが、今回注目したいのは、一般指定と特殊指定との関係について述べた、上記下線の部分です。

上記下線部分は、

特殊指定(例、物流特殊指定) > 一般指定(例、優越的地位濫用) ・・・①

という適用の優先関係だ、といっています。

さて、平成21年独禁法改正によって、法定の不公正な取引方法(=累積課徴金4類型+法定優越的地位濫用)について、課徴金が導入されました。

それに伴い出された優越的地位濫用ガイドライン案では、

「独占禁止法第2条第9項第5号に該当する優越的地位の濫用に対しては,同号の規定だけを適用すれば足りるので,当該行為に独占禁止法第2条第9項第6号の規定により指定する優越的地位の濫用の規定が適用されることはない。」

とされています。

つまり、

法定優越的地位濫用(5号) > その他の優越的地位濫用(6号) ・・・②

という適用関係になります。

ここで、「その他の優越的地位濫用(6号)」には、一般指定(のうち役員選任への干渉に関する13項)と特殊指定の両方が含まれますから、

法定優越的地位濫用(5号) > 一般指定または特殊指定 ・・・②’

ということが読み取れます。

そこで、①式と②”式から、

法定優越的地位濫用(5号) > 特殊指定 > 一般指定 ・・・③

ということになります。

論理的にはこう考えざるを得ないのですが、何だかおかしな気がします。

改正後の法定優越的地位濫用は、改正前の一般指定の優越的地位濫用から一部分(というか、大部分)を抜き出したものです。

そうだとすると、適用の優先度も、改正前の一般指定と同等と考えるのが自然だと思います。

「法律に格上げになったんだから改正前の一般指定よりも改正後の法定優越的地位濫用の方が優先適用されるのだ」という議論もありえますが、一般指定も立派に法律上の根拠(2条9項6号)がある以上、法定優越的地位濫用(2条9項5号)と優劣の差はないと考える方が自然だと思います。

私は、特殊指定が一般指定に優先する(①式)というのも、そもそもおかしいと考えていました。

①式は、「特別法は一般法に優先する」という素朴な発想なのでしょうが、それは特別法と一般法の内容が抵触する場合の話であって、両者の内容が矛盾しない場合には、重畳的に適用されるというのが、むしろ普通の法律解釈ではないかと思います。

これに対して、優越的地位ガイドライン案の考え方は、実務的な割り切りとして、それはそれで評価できますが、やはり、理屈の上では、構成要件に該当する限り、法定優越的地位濫用(5号)とその他の優越的地位濫用(6号)とは、重畳的に適用されるというのが筋だと思います。

ただ、一般指定の優越的地位濫用は、法定優越的地位濫用と構成要件が重ならないようにドラフトされていますので、結果的に、法定優越的地位濫用が適用される場合には一般指定の優越的地位濫用が適用されることはない、というに過ぎないと思われます。

(ただ、一般指定の優越的地位濫用は、役員選任への干渉(新一般指定13項、旧一般指定では14項5号)という、実務上ほとんど適用例のない抜け殻のような規定になっていますが・・・)

まして、法定優越的地位濫用が適用される場合には特殊指定が排除されると考えるのは、理由がないと思います。

優越的地位ガイドライン案が、「・・・だけを適用すれば足りる」といっていて、「・・・だけが適用される」とは言っていないのも、理論的には、法定優越的地位濫用とその他の優越的地位濫用(特殊指定を念頭)が重畳的に適用されることを念頭に置いているのかもしれません。

以上要するに、適用の論理的な優先度については、

法定優越的地位濫用 = 一般指定 = 特殊指定 ・・・④

という考え方を支持したいと思います。

ただ、裁量の余地のない課徴金が法定優越的地位濫用に導入された(ただし、継続性が必要)趣旨に鑑み、運用上は、

法定優越的地位濫用 > 一般指定 = 特殊指定 ・・・⑤

とすべきでしょう。

しかし、継続性のない法定優越的地位濫用には、課徴金を課す余地がないので、あえて法定優越的地位濫用を運用上優先適用する理由もありません。

したがって、継続性のない優越的地位濫用については、

法定優越的地位濫用 = 特殊指定  ・・・⑥

という運用でよいと思います。

こうすることにより、継続性のない違反の場合には、特殊指定で簡易に処理ができて良いのではないかと思います。

ガイドライン案の考え方を文字通りに読めば、継続性のない違反の場合には、課徴金を課す余地がない(エンフォースメントに差がない)にもかかわらず、特殊指定による簡易な処理がてきないことになりかねず、不都合ではないでしょうか。

【2010年9月29日追記:その後、自説を一部変更というか深めております。2010年9月17日の「優越的地位濫用と特殊指定との関係(再論)」も、併せてお読み頂けますと幸いです。】

2010年8月18日 (水)

企業結合と情報公開

企業結合の事前相談と届出を行う場合に公取委に提出した文書は、情報公開の対象になるのでしょうか。

この点、独占禁止法上は、企業結合の届出や事前相談に関して当事者が提出した文書について第三者がアクセスできるような制度はありません(外国にはあるところがあります)。

(なお、独禁法70条の15には、審判記録の閲覧に関する規定がありますが、これは審判が開始された場合の話ですから、企業結合とは関係ありません。)

したがって、企業結合の届出や事前相談で当事会社が提出した書類の開示は、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(以下、「情報公開法」)によることになります。

情報公開法3条(開示請求権)では、

「何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長・・・に対し、当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる。」

とされています。

主体は「何人(なんぴと)も」とされているので、誰でも開示請求できます。利害関係は不要です。

そして、開示の対象である「行政文書」は、同法2条2項で、

「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録・・・であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているもの」

と定義されています(ただし、官報、白書等不特定多数に販売されるものや、歴史的資料などは除外されています。同項但し書き)。

当事会社が企業結合の届出や事前相談で公取委に提出した文書も、「行政機関の職員が職務上・・・取得した文書」なので、「行政文書」に該当することは明らかでしょう。

その上で、情報公開法5条(行政文書の開示義務)には、公開の対象にならない「不開示情報」が規定されています。

企業結合の場合に関係しそうなのが5条2号で、

「法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げるもの。ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。

 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの

 行政機関の要請を受けて、公にしないとの条件で任意に提供されたものであって、法人等又は個人における通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの」

とされています。

イで、「競争上の地位」が明示的に例示されていますし、企業結合の届出や事前相談の場合にはコストや顧客に関する情報など、競争上非常にセンシティブな情報が多く含まれますから、かなりの部分は、イで、不開示の対象となると考えて差し支えないでしょう。

ただ、一部に不開示情報が含まれる場合には、不開示情報を除いて開示することとされています(情報公開法6条1項)。

ところで、事前相談が2次審査に入ると、関係者からの意見が受け付けられます。

また、1次審査の段階でも、事実上、関係者が公取委に意見を述べることはあり得るでしょう。

このような関係者から提出された情報は、情報公開の対象になるでしょうか。

法人が意見を提出することが多いでしょうから法人の場合を念頭に考えると、結局、当該法人の「正当な利益を害するおそれ」があるか否かによって、ケースバイケースで判断する、ということになるのでしょう。

企業結合の当事会社が提出する情報に比べれば、関係者が提出する情報はバラエティに富むことが多いでしょうから、開示の全てが当該関係者の「正当な利益を害するおそれ」を有するということもないと思われます。

ただ、開示の可否の基準は、「正当な利益を害するおそれ」の一本であり、企業結合の当事会社からの情報であろうと関係者からの情報であろうと、同じ基準で判断されます。

ちなみに、企業結合事前相談ガイドラインでは、

「当委員会は,第2次審査の過程において,当該企業結合計画が独占禁止法第4章の規定に照らして問題がある旨指摘しようとする場合には,他の事業者の秘密にわたる部分を除き,問題があると判断した根拠(当事会社が主張した事実に係る認定,当委員会で実施した調査・分析やアンケート調査の結果等)を示すものとする。」

とされているので、当事会社に対する判断根拠の説明においても、(当事会社以外の)他の事業者の秘密に関する情報は、当事会社には開示されないことになっています。

また、結果の公表については、

「第2次審査の結果については,当事会社が上記「(1)」で要請した具体的な資料を提出した日から原則として90日以内に,その理由も含め文書で回答するとともに,当事会社の秘密にわたる部分を除き公表するものとする。」

とされており、当事会社の秘密情報は公開されない(逆に言えば、秘密でない情報は公開される)ことが明確にされています。

2010年8月17日 (火)

アルバムの曲のバラ売り拒否と抱き合わせ

最近は音楽をネットからダウンロードして購入することが増えました。

そこで、以前はアルバムとして一つのCDで販売されていたのが、バラバラに1曲ずつでも買えるようになりました。

ただ全ての曲がバラバラに買えるようになったわけでもなく、アルバムによってはCDの時代と同様に、全部まとめてでしか買えなかったり、1つのアルバムの中の一部の曲はバラバラでも買えるけれど一部の曲はバラバラで買えない(アルバム全部を買わないといけない)ということがあるようです。

そこで問題になりそうなのが、抱き合わせとの関係です。

つまり、「アルバムごと買わないといけないのが、曲と曲の抱き合わせ販売ではないのか」という問題です。

本来抱き合わせが念頭に置いている、A市場での市場支配力をテコにB市場での競争者を排除する、というパターン(他者排除型抱き合わせ)は、ここでは問題にならないでしょう。このような「抱き合わせ」で排除される「他者」というのが、およそ想像できませんから。

問題は、ついでに要らないものも買わせてしまうという「不要品強要型」です。

こちらの「不要品強要型」については、少なくとも通説的な考え方に立つ限り、抱き合わせに該当するという考えにきちんと反論するのは、けっこう難しいような気がします。アルバムのうち1曲だけを買いたい需要者にとっては、その他の曲は不要と考えざるを得ないし、そういう需要者はけっこう多いと思われるからです。

アルバムをCDという形だけで売っていた時代には、誰も「アルバム」という商品形態自体を「曲と曲との抱き合わせ」だとは考えなかったでしょう。

アーティストの方なら、「アルバムは、いろいろな曲をまとめて全体として一つの作品なのだ」と主張するのでしょうが、商業的な割り切った言い方をすれば、個々の曲を売ったのではコストがかかる割に売上が見込めないからアルバムという形で売ったのだ、ということだろうと思います。

いわば、まとめて売ることで初めて商業ベースに乗る、つまりは広い意味での効率性(商品の供給量が増えるという意味で)があったと言えます。

(ちなみに、産業組織論の教科書では、バラバラの商品をまとめて販売する(例えば、ご飯と主菜と副菜とみそ汁をバラバラでだけ売るのでなく、定食としても売る)となぜばら売りだけの場合に比べて売上が伸びるのかとして、というモデルがあったりしますが、アルバムの場合も同じモデルで説明できそうです。)

ところが、音楽をダウンロードして購入することが一般的になってから、個々の曲で売ってもそれほどコストはかからないことになりました(だからこそばら売りがされるようなったのでしょう)。

また、抱き合わせが成立するためには、A商品とB商品が「別の商品」であることが必要です。

音楽を、CDという有形物としてだけ売っていた時代には、常識的な感覚として、アルバム1枚で一つの商品だと認識されていたと思いますが、パソコンでダウンロードする購入方法が一般的になると、そのような認識がもはや危うくなってきます。

このように、オンラインでのダウンロードという音楽の販売形態は、技術革新が商品のコスト構造に影響を与えたとともに、「1つの商品」か「別の商品」かという抱き合わせ規制の根本問題にも影響を与えた、興味深い事例といえます。

さて、ではアルバムの曲をばら売りすることを拒否すると抱き合わせで違法になるのか、というと、やはり違法というのは言い過ぎだと思います。

そもそも私は、不要品強要型の抱き合わせを抱き合わせ規制で処理するのは正しくないと考えています。

そういうものは、優越的地位濫用一本で行くべきでしょう。

仮に、抱き合わせ規制で処理するとしても、その違法要件は優越的地位濫用に揃えるべきです。

ですので、不要品強要型の抱き合わせは、「正常な商慣習に照らして不当」(独禁法2条9項5号)である場合に初めて違法、と考えるべきでしょう。

(厳密に言えば、2条9項6号ホでも違法になるので、気になる人は、上の「正常な商慣習に照らして不当」を、「公正な競争を阻害するおそれ」(2条9項6号柱書き)、あるいは「不当に」(同号ホ)と読み替えて下さっても、理屈はだいたい同じです。)

そして、アーティストが1枚のアルバムとして複数の音楽をまとめてリリースすることは、音楽産業において長年定着してきた正常な商慣習であると考えられます。

これが、ダウンロード販売が可能になったために突如として「正常な商慣習」でなくなるというのはおかしく、はやり、長年「正常な商慣習」として定着してきたものは、尊重すべきでしょう。

以上のような理由で、曲のばら売り拒否は抱き合わせに該当しない、と考えます。

2010年8月12日 (木)

企業結合届出書の任意提出

株式取得の届出書(独禁法10条2項)などの企業結合届出書を、その届出要件を満たさないのに任意に提出することができるでしょうか。

なぜこういうことを考えるのかというと、こういうことです。

届出要件を満たして届出書を提出した場合には、追加の情報要求がない限り、待機期間経過後は排除措置命令の事前通知を受けることがなくなります(10条9項など)。

これに対して、届出要件を満たさない場合には、逆に、排除措置命令を出せる期間に制限がありません。

そのため、届出要件を満たさないのに敢えて任意で届出書を提出したいという場合がありうるのです。

また、任意に届出書を提出したいというもう一つの場合として、届出要件を満たすか否かはっきりしない場合です(たとえば、国内売上高が届出要件に届くか否かぎりぎりでよくわからない場合)。

この点、独禁法の条文(10条2項など)は、

「〔届出要件を満たす〕ときは、・・・届け出なければならない」

となっていて、届出義務の前提は届出要件が満たされることを当然の前提としています(当たり前ですが)。

したがって、仮に届出要件を満たさないのに届出がなされたとしても、そのような届出書は、独禁法上の企業結合届出ではない、つまり意味のない届け出である、というのが論理的な解釈だと思います。

したがって、公取委はこのような届出がなされても受理すべきではない、ということになるでしょう。

以上が、届出要件を明らかに満たさないのに任意で届出をした場合の取り扱いです。

これに対して、届出要件を満たすか否か微妙でよく分からない場合は、別段の考慮が必要であろうと思われます。

企業としては、届出要件を満たすか否か微妙な場合には、念のために届けておきたい、ということがあり得ます。

ですので、ケースバイケースではありますが、微妙なケースでは公取委はできるだけ受理するような扱いをすべきではないか、と思います。

また、届け出が受理された以上、排除措置命令の事前通知も待機期間内(追加の情報要求があった場合にはさらに90日間以内)になされるべきでしょう。

この点、形式論理的にいえば、届出書がいったん受理された後で実は届出要件を満たしていなかった(届出は不要だった)ことがわかった場合には、排除措置命令の措置期間の制限は適用されない(永久に排除措置命令を出せる)、ということになりそうです。

しかし、それはいかにも変でしょう。

いったん届出書が受理された以上は、受理されたという事実に対して当事者の信頼が積み重なっていくので、措置期間の制限があると解すべきでしょう。

以上まとめると、

①届出要件を明らかに満たさない場合は、公取委は受理しない、

②届出要件を満たすか否か微妙な場合、公取委はできるだけ受理すべき、

③受理した以上は措置期間の制限あり、

④受理しなかった場合は、後で届出要件を満たすことがわかっても届出義務違反の罪は成立しない(違法性の意識の可能性なし?)

ということになります。

2010年8月10日 (火)

顧客からの情報収集

顧客を通じてライバルの価格情報を収集することは独禁法上問題ないでしょうか。

例えば、A社が顧客に、ライバル(B社)から当該顧客に発行された見積書を見せてもらうような場合です。

結論としては独禁法上問題はないのですが、なぜこのようなことが問題になるのかというと、ライバル間で直接価格情報の交換をしていればカルテルのおそれありとされるのに、同じ情報を、顧客を通じて交換するのは問題ないと言い切れるのか、という問題意識です。

上記のように、結論としては独禁法違反ではないというべきですが、その理由はなぜでしょうか。

そもそもライバル間の情報交換が問題であるのは、お互いに直接情報交換をすることによって、お互いの値付けを他方に知らせるということもありますが、もう一つ、

「お互いこうして価格情報を交換し合っているのだから、向こうから価格競争を仕掛けてくることはないだろう」

という安心感というか、共通の認識を得られるところにあるように思います。

さらに、

「こちらから価格情報を教えているのだから、こちらから価格競争を仕掛けるつもりはありませんよ」(価格競争を仕掛けるなら秘密にやるほうが合理的)

というサインというか、シグナルを送っているということになるのだと思います。

このようにして、ライバル間で直接の情報交換をすると、暗黙の合意が成立しやすくなるのです。

(というようり、暗黙の合意があるから情報交換するのでしょう。)

これとは異なり、顧客を通じてライバルの情報を得る場合には、このような「暗黙の合意」が成立する余地は、基本的にはないといえます。

なぜなら、顧客を通じてライバルに自社の価格情報が漏れることは世の中で普通に起こる事態であって(「弊社の見積は部外秘にして下さいね」なんて、普通はお客さんに頼めないでしょう)、そのような形での情報の漏洩がライバル間の暗黙の合意成立の証拠になるとは到底思えないからです。

これは、「この客は、競合他社にうちの見積を見せるだろうな」と分かっている場合でも同様であり、暗黙の合意は成立しません。

さらにいえば、当該顧客が「この見積は他社に見せても良いですか」と明示的に承諾を求めてきた場合でも同様に、ライバル間に暗黙の合意は成立しません。(普通はそのような断りもなく見せるのでしょうが。)

つまり、顧客を通じてライバルの情報が交換され、しかも交換されることを全ライバルが知っている場合であっても、基本的には、ライバル間に暗黙の合意が成立することはないと思われます。

このような状態は、

「ライバルはこちらの価格情報を知っていて、こちらがそのようなことを知っていること自体をライバルは知っていて・・・(以下、同様)」

という状態ではあるわけですが、

「価格競争は仕掛けない」

というサインの送り合いはまったくない、といえます。

顧客を通じてライバル間の価格情報が交換される場合には、むしろ価格競争が促進されるのではないでしょうか。

もちろん、顧客に対して、ライバルからの見積書を見せてくれるよう求めることも、独禁法上何ら問題ありません(「他店より多く値引きします」というキャンペーンをやるときには、顧客の主張するライバル店の価格が事実であるのかを確認するために、当該ライバル店の見積書の提示を顧客に求めることもあるのではないでしょうか)。

ちなみに、顧客からもらったライバルの見積書に、

「企業秘密。部外者への開示禁止」

と書かれていた場合は、これを受け取っても独禁法上問題ないでしょうか。

独禁法上は問題ないと考えます。

(むしろ、当該見積書が他のライバルへの開示を予定されていないものであることを示すものとして、カルテルを否定する方向にはたらく証拠とすら言えるかも知れません。)

(民法上の不法行為責任も、お客さんからただ見せてもらったというだけでは成立しないでしょう(当該見積書が部外秘であることを知りながら執拗に当該顧客に迫って当該見積書を開示させた場合には、不法行為責任が発生するかもしれません。))

以上のように考えると、ライバル間の直接の情報交換がカルテルのおそれありとされるのは、ライバルが他社に対してあからさまに自己の手の内を明かしている(そのため、明かされた手の内から逸脱した行動は取らないという安心感をライバルに与える)という点に求められるのではないでしょうか。

参加者の顔が見えながらやるようなオークションは、ある意味で参加者間の情報交換という側面もあると言えますが、カルテルのおそれがあるなどとは誰もいわないでしょう。

このような公開のオークションにおいてカルテルがあるとすれば、公開のオークションの場ではなく別の場所で、カルテルの合意がなされる場合でしょう。

要するに、ライバル間の情報交換といっても、独禁法上は、他者(とくに顧客)に隠れて、こっそりと(通常はライバル間で直接)情報交換をする、ということが当然のように想定されているのではないかと思われます。

2010年8月 7日 (土)

購入カルテルと域外適用

商品を外国から買う場合に、国内の買手がカルテルをして安く買う、という購入カルテルをした場合、日本の独占禁止法は適用されるでしょうか。

供給者のカルテルにおいて保護されるべきは国内の需要者であるのと裏返しで、需要者のカルテル(購入カルテル)において保護されるべきは国内の供給者である、したがって、購入カルテルにおいて供給者が海外にいる場合には日本の独禁法は適用されない、というのが、形式論理的には正しそうです。

しかし、そう言い切ってしまうのには躊躇を感じます。

独禁法の域外適用については、国内の市場に効果が及ぶのであれば外国での行為にも適用されるという効果理論の考え方が一般的です。

しかし、効果理論は、そもそもその前提として、違反行為が海外でなされた場合であっても効果が国内市場に及ぶことを根拠に独禁法の適用範囲を海外に拡張する、というのが議論の前提なのではないかと思います。

逆に、違反行為が国内でなされた場合でも効果が外国市場にしか及ばない、という場合に、自国の独禁法の適用を制限する理屈として用いることを想定していることは、通常は無いのではないでしょうか。

そもそも自国の法律の効力は自国の領域内に及ぶ、というのが国際法の出発点であり、自国内で行われた行為に、明文の規定がないにもかかわらず、自国の法律の効力が及ばないというのは、ちょっと謙抑的過ぎる解釈だと思うのです。

刑法の域外適用の問題では、犯罪を構成する事実の全部または一部が国内で生じた場合には、国内犯として処罰されると解するのが一般的です。

例えば、国内で拳銃を発砲して国内にいる人を殺せば、犯罪構成事実全部が国内で生じているので、問題なく日本の刑法が適用されるでしょう。

そればかりでなく、国内から毒入り餃子を外国に送って外国の人を殺せば、実行行為(犯罪構成事実の一部)が日本で生じているので、やはり日本の刑法が適用されるでしょう。

これと同じ理屈で、日本の独禁法上の不当な取引制限の罪(独禁法89条)も、行為が国内で行われていれば成立する、と考えるのがバランスが良いように思います。

さらに、刑罰である不当な取引制限の罪が成立するのに、それよりも軽い行政上の制裁である排除措置命令や課徴金納付命令の対象にならないというのも、バランスが悪いでしょう。

ただ課徴金の額については、別の考慮が必要です。

つまり、購入カルテルの場合は購入額が基準になりますが(独禁法7条の2第1項)、販売カルテルにおける「売上額」は、国内での売上額(=国内需要者への売上額)を基準にすると考えられていると思います。

これの裏返しで、購入カルテルの課徴金の算定基礎である「購入額」は国内での購入額を基準に考えるべきであり、さらに販売カルテルの売上額との裏返しで考えれば、ここでの「国内での購入額」とは、購入者が国内にいるか否かではなくて、供給者が国内にいるか否かで決める、つまり供給者が国内にいる場合の購入額を「国内での購入額」とする、という考えは成り立ちうるでしょう。

その結果、課徴金の額はゼロになることもあるかもしれません。

しかし、課徴金がゼロになるということと、そもそも日本の独禁法の効力が及ぶのかという管轄の問題とは、次元が異なる問題であると思うのです。

以上のような次第で、購入カルテルの場合には、供給者が外国にいる場合は日本の独禁法が及ばないというのが形式論理的には正しいように思われるものの、日本の独禁法の効力が及ぶと考えるほうが合理的であるように思われます。

少なくとも実務上は、供給者が外国にいるから購入カルテルをしても日本の独禁法が及ばないと考えるのは危険です。

なお、このような問題が現実に起こるとすれば、供給者が独禁法の執行の緩い国(あるいは独禁法の無い国)にいる場合でしょう。供給者がアメリカや欧州にいたら、むしろ日本の独禁法より、アメリカや欧州の独禁法のほうが怖いはずですから。

2010年8月 5日 (木)

譲渡制限株式の取得と届出

あまりない事例と思いますが、譲渡制限株式を取締役会等の承認が無いままで取得しようとする場合、独禁法上の届出は必要でしょうか。

なお、その前提として、

①届出時には譲渡承認は無いけれども取得時までには承認がなされる場合、

②譲渡承認を請求するつもりが当面無い場合、

の2通りが大きく分けてあり得ますが、①の、承認がなされる予定の場合には、争い無く、届出が必要であろうと思われます。ここでの問題は、②の場合です。

さて、譲渡制限株式を取締役の承認なく取得した場合の効力については、会社に対する関係では効力を生じないけれども譲渡当事者間では有効であるとするのが判例です(最判昭和48年6月15日)。

ですので、

会社との関係では無効なのだから議決権は行使できないのだから届出は不要だ、という考え方と、

とにかく株式を取得するのだから届出は必要だ、という考え方

があり得るように思われます。

そこで、何はなくとも条文です。

届出に関する独禁法10条2項をみてみましょう。

10条2項では、

「〔取得〕会社・・・は、他の会社の株式の取得をしようとする場合・・において、当該株式取得会社が当該取得の後において所有することとなる当該株式発行会社の株式に係る議決権の数・・・の当該株式発行会社の総株主の議決権の数に占める割合が、百分の二十・・・を超えることとなるときは、・・・あらかじめ当該株式の取得に関する計画を公正取引委員会に届け出なければならない。」

とされています。

条文を読む限り、「所有することとなる」となっており、あくまで株式を所有することとなるか否かが届出の要否を決するので、会社に対して対抗できるとか、議決権を行使できるとかいうことは、届出の要否と関係ないように読めます。

(もしこれが、「議決権を取得することとなる」となっていたら、会社に対して議決権を取得しない以上、届出は不要という解釈もありえるかもしれません。)

ですので、条文の文言解釈からは、譲渡承認を得るつもりがなくても、独禁法上の届出は必要になると解されます。

実質的に考えても、この場合に事前届出が要らないとすると、取得後に、譲渡承認の30日前までに事前届出をすることになるように思われますが、承認の時期というのは譲受人が完全にコントロールできるわけではないので、いつ届け出ればいいのかよく分からなくなってしまいそうです。

譲渡承認請求の30日以上前に届け出れば、承認されるまでに独禁法の届出から30日以上経つでしょうから、待機期間中に譲渡承認がなされてしまう(思ったより早く譲渡の効力が生じる)という問題はなさそうですが、

①「譲渡承認請求の30日以上前に届け出れば足りる

というのと、

②「譲渡承認請求の30日以上前に届け出なければならない

というのとでは、意味が異なります。

譲渡承認により「取得」(独禁法10条2項)が生じると考える立場(=譲渡承認のない取得は「取得」ではないと考える立場)なら、論理的には、譲渡承認の30日以上前に届け出れば足りるはずであり、譲渡承認請求の30日以上前に届出なればならない(②の立場)とするのは、根拠がないように思われます。

というわけで、譲渡承認を請求する予定もなく譲渡制限株式を取得しようとする場合に独禁法の届出が要らないとすると、「それではいつまでに届け出ればいいのか」という質問に対して論理的に答えられなくなりそうです。

さらに実質的に考えれば、企業結合の届出は、公取委に審査の機会を与えるためのものなので、仮に譲渡承認がなくても、株式を取得する以上は競争法的観点からの審査を正当化できるほどのインパクトがあるといえるのではないでしょうか。

また、平成21年改正前の解説ですが、株式取得の取得日は、

「売買契約等が履行された日が取得日となる。この場合、名義の書き換えが行われている必要はない。」

という公取委担当官の解説がありますので(商事法務1733号20頁)、会社への対抗要件は問題にしないという姿勢が受け取れます。そうすると、譲渡承認も同様に、その有無にかかわらず届出は必要、ということかと思われます。

したがって、譲渡承認を請求する予定もなく譲渡制限株式を取得しようとする場合にも、やはり譲渡前に事前届出(独禁法10条2項)をすべきと考えます。

2010年8月 4日 (水)

本のおまけと著作物再販

本にCDロムなどの「おまけ」が付いていることがありますが、このような本とCDロムなどのセットに「定価」と表示した場合、再販売価格拘束で違法になるのでしょうか。

その前提として、本については再販売価格拘束をしても良いということになっており(独禁法23条4項)、それでは本にいろいろな物を付けた場合でも再販売価格拘束をしてもよいのか、というのが問題の所在です。そして、「定価」という表示は再販売価格拘束の疑いがある、という前提です。

参考になる事例としては、公取委の平成16年相談事例集の7番目の事例で、書籍と書籍に登場するキャラクターのフィギュアをセットで販売する場合に、まとめて再販売価格拘束をすることはできない、とされたものがあります。

この相談事例を根拠に、本におまけをつけて「定価」と表示するのは一切違法、という結論も考えられますが、ちょっと硬直的に過ぎるように思います。

上記相談事例のように、本にフィギュアを付けたり、あるいは雑誌にプラモデルの部品を付けて全巻揃えるとプラモデルが完成する、という商売をする場合には、常識的にいって、フィギュアやプラモデルは本とは別物という感じがしますので、全部まとめて再販売価格拘束をするのは違法というのは納得しやすいです。

しかし、例えば外国語の学習用の本に、発音を録音したCDをくっつけて売る場合はどうでしょうか。

この場合は、そのような音声CDは、独禁法23条4項の「著作物」として、再販売価格拘束をしてよい、という理屈が成り立ちそうです。

公取委の見解では、独禁法23条4項の「著作物」には音楽用CDも含まれるとされているのですが、音楽用ならOKだけれど外国語のナレーションならNGということもないでしょう。

どうしても気になるなら、ナレーションの後ろにBGMを流して、「音楽用」だと言い張る、ということも考えられます(ほとんど冗談ですが)。

では、パソコンの雑誌などに、おまけでソフトウェアプログラムを記録したCDロムを付けるのはどうでしょうか。

ソフトウェアを「音楽用」というのは難しい気がしますし、通常のワードやエクセルなどのソフトウェア(を記録したCDロム)自体の再販売価格を拘束すれば明らかに違法でしょうから、雑誌のおまけに付けるのも違法、というのも一つの見解でしょう(でも、本屋で確認したわけではありませんが、CDロムの付いたパソコン雑誌も「定価」と表示されているのではないかと思います)。

しかし、それも少し硬直的すぎる解釈と思います。

例えば、日本では見たことはありませんが、外国の経済学の教科書には、学習支援用のプログラムが記録されたCDロムが付いていることがあります。

こういう場合、CDロムは、その教科書と一体となって価値を増すものとして、両者一体に考えるのが素直な気がします。

もちろん、

「『定価』はあくまで本の定価であって、CDロムは無料である」

と強弁することも考えられますし、CDロムにほとんど経済的価値が無いような場合にはそれでもいいのかもしれませんが、そうでない場合もあり得るので、一般的な論拠にはなりにくいような気がします。

また、

「景表法上の景品である」

と整理することも可能かも知れませんが、景品か否かという問題と、独禁法23条の再販売価格維持制度の対象物になるか否かという問題とは、まったく次元の異なる問題のように思われるので、この整理も筋がよい議論とはいえないように思われます。

例えば、女性雑誌の化粧品の広告に化粧品の試供品がくっついていたりすることがありますが、これなどは景品ですかね(でも、それはあくまで広告の一部であって、雑誌自体の購入を誘因するための「景品」というのは、違和感も残ります)。

結局、出版社のみなさんは、健全な常識に従って判断しているというのが実態ではないかと想像しますが、詰めて考えると、なかなか難しい問題だと思います。

2010年8月 3日 (火)

異なる違反類型をまたぐ繰り返し違反課徴金

平成21年改正で、共同の取引拒絶、差別対価、不当廉売、および再販売価格拘束(厳密には、それらのうち独禁法2条9項1号~4号で定められたものに限りますが)について、10年以内に2度違反をすると課徴金が課せられることになりました。

さて、ここで課徴金がかかるのは、同じ違反類型を2度繰り返した場合です。

つまり、

1回目:差別対価

2回目:差別対価

なら課徴金がかかりますが、

1回目:差別対価

2回目:不当廉売

なら課徴金はかからないことになります。

念のため、差別対価の場合について、条文で確認してみましょう。

差別対価に対する課徴金に関する独禁法20条の3では、

「事業者が、の各号のいずれかに該当する者であつて、第十九条の規定に違反する行為(第二条第九項第号〔←法定差別対価のことです〕に該当するものに限る。)をしたときは、公正取引委員会は、・・・当該事業者に対し、・・・課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。・・・

 調査開始日からさかのぼり十年以内に、第二十条〔←排除措置命令の規定です〕の規定による命令(第二条第九項第二号に係るものに限る。次号において同じ。)若しくはこの条の規定による命令を受けたことがある者・・・」

とされています。

「第二条第九項第二号に係るものに限る」とされているところから、1回目の違反に対しては、2条9項2号、つまりは差別対価に対する排除措置命令がなされた必要があることがわかります。

また、「この条の規定による命令」とされていることから、同じく1回目の違反に対しては、差別対価に対する課徴金納付命令がなされた必要があることになります。

両者が「若しくは」で繋がっているので、結局、差別対価についての排除措置命令か課徴金納付命令のいずれかがなされていれば(1回目の違反で課徴金納付命令が出ることはないので、前回の違反に対してなされるのは排除措置命令に限られますが)、2度目の違反に課徴金がかかることになります。

ちなみに、平成21年改正附則に経過措置があり、旧法下でなされた排除措置命令も1回目としてカウントされます。

差別対価についての附則8条1項を例にみてみると、

「新独占禁止法第二十条の二〔←差別対価への課徴金〕の規定の適用については、

当該事業者が、同条に規定する違反行為に係る事件について

新独占禁止法第四十七条第一項第四号に掲げる処分〔←立入検査〕が最初に行われた日からさかのぼり十年以内・・・に、

平成十八年一月改正前独占禁止法第十九条の規定に違反する行為(新独占禁止法第二条第九項第一号〔←差別対価〕に規定する行為に相当するものに限る。)について平成十八年一月改正前独占禁止法第四十八条第四項、第五十三条の三若しくは第五十四条の規定による審決を受けたことがあるとき(当該審決が確定している場合に限る。)

又は

旧独占禁止法第十九条の規定に違反する行為(新独占禁止法第二条第九項第一号に規定する行為に相当するものに限る。)について旧独占禁止法第二十条の規定による命令を受けたことがあるとき(当該命令が確定している場合に限る。)

若しくは旧独占禁止法第六十六条第四項の規定による審決〔←違法宣言審決〕(原処分の全部を取り消す場合のものに限る。)を受けたことがあるとき(当該審決が確定している場合に限る。)は、

当該審決又は命令を新独占禁止法第二十条の二の規定による命令であって確定しているものとみなす。」

とされています。

要するに、旧法下で受けた審決や排除措置命令も、その違反行為が新法2条9項1号に相当する差別対価である場合には、1回目の違反による課徴金納付命令とみなします、ということですね(排除措置命令とみなさずに課徴金納付命令とみなすことにした理由は・・・よく分かりません)。

なお、差別対価のなかでも、いわゆる略奪廉売型の差別対価(特定のライバルの顧客に対してだけ集中的に安売り攻勢をかけたりするもの)は、不当廉売との違いが紙一重です。

ですので、例えばかつて不当廉売で排除措置命令を受けた違反者が、2度目の違反について同じく不当廉売で課徴金を課せられそうになった場合には、

「2度目の違反は不当廉売ではなくて差別対価だ(ライバルの顧客以外には高値で売っているので)。」

と反論することが出てくるかも知れません(ちょっと認められにくい議論だとは思いますが)。

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