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2010年7月20日 (火)

売手と買手の両方に市場支配力がある場合の価格決定

経済学の理論では、完全競争下では、価格は市場における需要と供給によって決まるとされます。

完全競争下では、無数の売主と買主が市場にいて、いずれの売主も買主も、市場価格に影響を与えることができません。

つまり、売主が市場価格よりも高い値段を付けると売上がゼロになるし、買主が市場価格よりも安く買おうとしても誰も売ってくれない、ということになります。

これに対して、売手側が独占的供給者の場合、自己の限界費用より高く売ることで利益を最大化できます。

そのような意味で、独占的供給者には市場支配力があると言われます。

そのちょど反対の意味で、独占的買主にも、市場支配力があるといえます。

いずれにせよ、これらのモデルでは、独占者の相手方には、市場支配力がまったくないことが前提とされています。

つまり、独占的売主の相手方たる買主は、それぞれが充分に小さくて、無数に存在する、と考えられているわけです。

このような前提では、市場における供給量は、独占的供給者の限界費用と限界収入が等しくなる点で決まり、価格も自動的にその1点に決まる、ということになります。

では、売手にも買手にも市場支配力がある場合、極端な例では、売手も買手も独占者である場合には、価格はどのようにきまるのでしょうか。

この場合、価格は、需要曲線(独占的需要者なので、その需要者の需要曲線)と供給曲線(独占的供給者なので、その供給者の供給曲線)との間で、交渉によって決まる、と考えられています。

交渉によって決まるので、交渉のテクニック次第で、売手側に有利にも、買手側に有利にも決まりうるわけです。

要するに、価格は理論では決まらない、ということですね。

ですので、売手側寡占市場で観察される価格がばらついている場合には、買手側にも市場支配力があるのではないか、ということを疑ってみる必要があります。

というより、価格のばらつきがあることを根拠に、買手側にも市場支配力があると主張し、「なので、売手側の市場支配力の反競争性が中和されている(なので売手側の合併は大した問題ではない)」という主張の裏付けとして使えるのではないか、と思われます。

ただし、この場合に注意すべきことは、実際の世の中では、売主買主双方に市場支配力があるために価格がばらつくというよりは、需要と供給そのものが変わる(需要曲線と供給曲線がシフトする)ために価格がばらつくことが多いでしょうから、「価格のばらつきは需給の変化によるものではないか」を常に問うていく必要があることです。

ですので、以上のような理屈を知っていても実務で使える場面は限られると思いますが、以上の理屈に論理的に明らかに反する主張が相手方や関係者から出てきた場合や、逆に、以上の理屈を鵜呑みにした主張が相手方から出てきたときの心の準備として、こういう議論も知っておいて良いと思います。

(実際、独禁法実務をやる上で経済学を学んでおくメリットは、こういう間違い探し的なものである場合がけっこう多いように思います。)

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