立入調査後も私的独占が継続された場合の課徴金
以前このブログで、
「私的独占が立入調査後も継続された場合には、課徴金が立入調査後の違反行為に対しても積み上がっていくのではないか、しかも、平成21年改正法施行前に立入がなされた場合でも、施行後の違反期間については課徴金がかかるのではないか」
ということを書いたことがありました。
その後、「立入調査後も私的独占が継続された場合には、むしろ、課徴金の額が計算できなくなるのではないか」という意見を聞きました。
つまりこういうことです。
排除型私的独占の課徴金の算定期間は、
「当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間」
とされています(独禁法7条の2第4項)。
ところが、立入調査後も違反行為をやめなかった場合には、「当該行為がなくなる日」というのが存在しないので、課徴金が算定できないのではないか、ということです。
確かにそうですね。
でもだからといって課徴金がゼロになるというのも収まりが悪いですね。
ではどうすれば良いのでしょうか。
公取委側の対応として考えられるのは、まず排除措置命令を出して違反行為を止めさせてから、その後に、課徴金納付命令を出す、ということでしょう。
確定排除措置命令に違反すると刑罰が科されますから、いくら課徴金の額が算定できなくなるメリットがあるとはいっても、そのために刑罰を科されるリスクを犯す企業は無いでしょう。
しかし、それで一件落着かというと、話はそんなに単純ではないと思います。
つまり、企業としては、違反行為を敢えて継続することによって、課徴金の額を減らすことが可能になってしまいます。
つまり、立入調査の日に違反行為をやめてしまうと、その日から遡って3年間の売上に課徴金がかかるわけですが、違反行為を継続しながら取引の量を減らしていけば、課徴金の額はどんどん減っていくことになります。
排除型私的独占と対象売上とは、不当な取引制限の場合と違って、必ずしも密接にリンクしないので、例えば、ある市場で排除型私的独占を続けながら、その市場での売上を3年間ゼロにする、ということも可能であり、そうすれば、課徴金をゼロにすることができることになります。
実は同様のことは、カルテルや談合でも可能なのですが、カルテルや談合のように明らかに悪いと分かっている行為については、さすがにどの企業も立入調査後は違反行為をやめるし、まして、違反行為が立入調査後も継続しているなどと進んで主張することは考えられません。
しかし、私的独占の場合には、違法と適法の限界が微妙で、立入調査後も当該行為を継続する(しかも、適法だと信じて)ということが起こりえます。
形式的に違反行為を継続しながら争って、その間、売上を意図的に落として課徴金逃れをするというのは、如何にも脱法的な臭いがしますが、現行法ではやむを得ない結論ではないかという気がします。
なお、カルテルや入札談合の場合にも、露骨に違反行為を延々と続けるというまでには至らなくても、違反企業が違反行為の終了時点を若干遅らせるインセンティブがある、という問題はありました。
例えば、入札談合をやめようかどうしようか迷っている企業が、3年弱前に大きな工事を受注していたとします。
そうすると、今すぐ談合をやめると、遡って3年内の売上にその大きな工事の売上が含まれてしまうので課徴金が大きくなるけれども、談合をやめるのを少し待てば、当該売上が課徴金算定の対象にならない、ということになります。
このような場合、その企業にしてみれあ、「じゃ、違反行為をやめるのはもう少し待ってみるか」ということになります。
とはいえ、課徴金の算定方法は明確である必要があるので、算定期間の末日を公取委が自由に選べるというのも、何かと具合が悪いような気がします。
難しい問題ですが、明確性を期すためには、算定期間に入るか入らないかぎりぎりの売上は誤差の範囲内だと割り切るしかないのでしょう。
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