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2010年7月30日 (金)

グループ会社の株式を買い増す場合の注意点

某社のセミナーで質問を受けてなるほどなと思ったことがありましたので、若干アレンジしてご説明します。

問題意識は、50%未満の議決権比率の子会社(実質基準のため)の株式をグループ外から買い増して50%超になる場合には、国内売上高が二重にカウントされるのではないか、という点です。

例えば、P社がS社の議決権を49%保有しているけれど、役員を送り込んでいたり等といった理由で、実質基準によりP社がS社の親会社である、という場合を考えます。

この場合に、S社の別の株主(グループ外)から、2%の株式をP社が譲り受ける場合を考えます。

もし、S社の株式をP社グループの中で右から左に譲渡するだけなら、P社グループ全体でのS社に対する議決権比率は変わらないので株式取得の届出は不要ですが、グループの外から株式を取得するので、S社に対する持株比率が増え、株式取得の届出が必要になります。

つまり、S社はP社グループの一員ですが、今回の外部からの株式取得により、P社グループ全体(P社とS社。実際に設例でS社の株を持っているのはP社のみ)でのS社株式の保有比率が49%から51%に増えるので、株式取得の届出が必要になります(売上要件を満たすことが前提)。

そこで売上要件の検討が必要ですが、例えば、S社の国内売上高が300億円、P社の国内売上高が1億円、という場合を考えてみましょう。

株式取得届出の売上要件の1つめは、取得者グループ全体(「企業結合集団」)の国内売上高(「国内売上高合計額」)が200億円超、というものです(独禁法10条2項)。

そこで本件では、P社グループの国内売上高なので、P社1億円とS社300億円を合わせて、301億円ということになります。

次の売上要件は、ターゲットの国内売上高が50億円超、というものです。

本件では、ターゲットであるS社の国内売上高は300億円なので、この要件は満たします。

・・・と考えると、S社の売上(300億円)が、P社グループの売上(取得側の売上要件)としてと、S社単体(ターゲットの売上要件)としてとで、二重にカウントされているように見えます。

何だかおかしな気がしますね。でも条文上はやむを得ないと思います。

買う側200億、買われる側50億、というように、買う側にも買われる側にも一定の売上規模を要求している趣旨からすれば、同じ売上を2度カウントするのはバランスが悪いように思いますが、かといって、絶対におかしいともいえないように思います。

例えば、二重カウントがおかしいというのであれば、S社の売上300億円を、ターゲットの売上として51億円、買収グループの売上として249億円、と割り振れば、届出の要件を満たすわけですし。

なので、二重カウントを解消する立法措置を取るとしても、どこかで線を引かなければならないわけで、しかも線を引いた結果それでも届出が必要になるということもあるわけですから、形式的に二重カウントであることだけを捉えて不当だというのも、ちょっと違う気がします(不当は不当だが、それほど大きな不当ではない)。

そもそもなぜこういう問題が生じるのかといえば、届出の要件は議決権比率20%または50%、と形式的なパーセンテージで区切っているのに、企業結合集団の範囲は実質基準で区切っているからです。

もし、株式取得のパーセンテージを50%ではななく、「実質的に支配を取得したときには届出を要する」とすれば、このような齟齬はなくなるのでしょう。なぜなら、本説例では、既にP社はS社の実質的な支配を取得済みだからです。

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