« 立入調査後も私的独占が継続された場合の課徴金 | トップページ | 「競争減殺」と「競争回避」と「競争停止」と「競争排除」 »

2010年7月14日 (水)

下請法の「トンネル会社規制」について

下請法に、いわゆるトンネル会社規制というものがあります(下請法2条9項)。

下請法の適用範囲は親事業者と下請事業者の資本金額で形式的に決まります。

例えば、発注者の資本金3億超なら、下請業者の資本金は3億以下の場合に、下請法が適用されます(「親事業者」、「下請事業者」の定義に関する下請法2条7項1号、同条8項1号参照)。

そのため、親事業者に該当しないような小さな資本金の会社を間に挟むことで下請法の適用を免れようとする企業が出てくるかも知れません。

例えば、本来の発注者(A社)の資本金が10億円、下請(B社)の資本金が3億円とすると、A社がB社に直接発注すれば下請法が適用されますが(下請法2条7項1号、8項1号)、A社とB社の間に、資本金1億円のa社を挟むと、a社とB社との間に下請法は適用されないことになります。

そのような脱法的な行為を禁止するとされるのが、トンネル会社規制です。

では、具体的に条文をみてみましょう。

下請法2条9項では、

「資本金の額又は出資の総額が千万円を超える法人たる事業者〔=A社〕から役員の任免、業務の執行又は存立について支配を受け、かつ、その事業者から製造委託等を受ける法人たる事業者〔=a社〕

その製造委託等に係る製造、修理、作成又は提供の行為の全部又は相当部分について再委託をする場合・・・において、

再委託を受ける事業者〔=B社〕が、役員の任免、業務の執行又は存立について支配をし、かつ、製造委託等をする当該事業者〔=A社〕から直接製造委託等を受けるものとすれば前項各号〔=下請事業者〕のいずれかに該当することとなる事業者であるときは、この法律の適用については、再委託をする事業者〔=a社〕は親事業者と、再委託を受ける事業者〔=B社〕は下請事業者とみなす」

とされています。

要するに、

①A社がa社を支配し、

②A社がa社に製造委託等をし、

③a社が②の製造委託の全部または相当部分をB社に再委託する、

場合には、a社を親事業者、B社を下請事業者とみなして、下請法が適用される、ということです(もちろん、A社とB社に下請法が適用されるような資本金の大小関係があることが前提。例えば、A社が3億円超なら、B社は3億円未満)。

ただ、このトンネル会社規制は、帯に短したすきに長し、といいますか、実際に適用される場面が「トンネル会社規制」というネーミングからイメージされるのと少しずれています。

つまり、「トンネル会社規制」というと、いかにもダミーの会社を挟んで脱法行為をするような印象を受けますが、必ずしもそうではありません。a社が普通の事業会社であっても、トンネル会社規制は適用されます。

また、a社からB社への再委託は、A社の指示に基づくものである必要はなく、a社の独自の判断で再委託に出した場合でも、トンネル会社規制は適用されます(というより、条文上は、a社が自己の判断で再委託をする場合を想定しているといえます)。

逆に、資本金3億円を超える親会社を持つと常に資本金3億円以下の下請業者に発注するときには下請法が適用されるのかというと、そこまでは徹底されていなくて、親会社(A社)から受けた製造委託等の全部または相当部分をトンネル会社(a社)が再委託に出した場合にだけ、適用されます。

つまり、たとえa社のB社に対する製造委託等がA社の指示に基づくものであっても、A社からa社への製造委託等が存在しない限り、トンネル会社規制は適用されません。

ここで、「B社へ製造委託せよ」とのA社のa社に対する指示をもって、A社のa社に対する製造委託であると擬制する(よって、a社からB社への製造委託は、再委託である)という考えもあり得ますが、解釈論としては難しいと思います。

しかし、立法論としては、このようなケースこそまさにB社を保護すべきであって、A社からa社に委託があったか否かはB社の保護にとって関係ないというべきです。

また、トンネル会社規制は支配会社からの委託の再委託という限られた場面にのみ適用されるため、例えばa社が資本金1000万円以下の会社で下請法なんて普段気にしたこともない、というような場合だと、うっかりトンネル会社規制を見落とすことが起こりえます。

ほかにいくつか気になる点を記しておきます。

まず、2条9項冒頭の

「(支配する会社が)資本金の額又は出資の総額が千万円を超える」

という部分は、条文としては余分だと思います。この部分がなくても、結局トンネル会社規制が適用されるのは、2条7項(親事業者の定義)と8項(下請事業者の定義)の要件を満たすときに限られ、2条7項では親事業者は必ず資本金1000万円超だからです。

それから、2条9項のかっこ書きは、

「(第七項第一号又は第二号に該当する者がそれぞれ前項第一号又は第二号に該当する者に対し製造委託等をする場合及び第七項第三号又は第四号に該当する者がそれぞれ前項第三号又は第四号に該当する者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をする場合を除く。)」

というものですが、ちょっと分かりにくいですね。

ここでいう、

「第七項第一号又は第二号に該当する者」

が、トンネル会社(a社)を想定しています。

つまり、a社とB社の資本金の大小関係から元々a社B社間に下請法が適用される場合には、2条9項のトンネル会社規制は適用されない、といっています。

元々下請法が適用される場合なのだから重ねてトンネル会社規制は適用されない、といっているだけなのですが、読みにくいですね。「第七項第一号又は第二号に該当する者」というのをA社のことと勘違いすると、わけが分からなくなります。

それから、トンネル会社規制によって親事業者とみなされるのは、あくまでトンネル会社であるa社です。A社ではありません。

トンネル会社規制の目的はA社による脱法を防ぐことにあるのですから、A社に何らかの法的義務を負わせても良いように思いますが、現在の法律ではそうはなっていません。

「支配」の意義については、公取委の「下請取引適正化推進講習会テキスト」では、

「例えば、親会社の議決権が過半数の場合、常勤役員の過半数が親会社の関係者である場合又は実質的に役員の任免が親会社に支配されている場合」

が、支配の例として挙げられています。

また、どの程度の再委託であれば「相当部分」になるのかといえば、同テキストでは、

「例えば、親会社から受けた委託の額又は量の50%以上を再委託・・・している場合」

としています。「例えば」なので、あくまで例示です。

親会社から100個の製造の委託を受けて60個を再委託する場合が「相当部分」の例として説明されたりします。

ただ条文の文言上は、必ずしも数量的な一部を再委託する場合だけでなく、質的な一部、例えば全体として大きな装置の製造委託の一部のユニットの製造を委託する場合でも、再委託に該当するのではないかと思います。その場合、金額ベースで「相当部分」かどうかを決めるのでしょう。

なお、質的な一部の再委託もトンネル会社規制に含まれるといっても、例えばA社からa社への委託が製造委託でa社からB社への再委託が修理委託、というような場面は想定されていないというべきでしょう。

なぜなら、製造委託か、修理委託か、情報成果物作成委託か、役務提供委託か、によって、親事業者・下請業者の資本金要件に差があるため、当初委託と再委託との間で委託の類型が違うと、「Aが直接Bに委託をすれば親事業者・下請業者の関係になる場合」という基準に合理性がなくなってしまうように思われるからです。

« 立入調査後も私的独占が継続された場合の課徴金 | トップページ | 「競争減殺」と「競争回避」と「競争停止」と「競争排除」 »

下請法」カテゴリの記事

コメント

トンネル会社規制について、今一度ご教授下さい。
①親会社は10億円以上で私の会社の資本金5000万円、100%出資の製造子会社で、取締役は親会社からの出向者、社長1名、他に非常勤取締役2名も親会社社員ですので、一つは該当している。
私共の協力会社で1億円の会社に仕事を依頼していますが、トンネル会社規制で下請けに該当するのか知りたいのです。
依頼している仕事は親会社から私共が受注して鍛造工程を製造委託しています。②仮に10種類の受注製品があり、その内1種類の鍛造100%を製造委託しており、金額レベルでは当社加工費売上高の10%を占めています。 私は① and ②製造委託50%で該当すると思っていたのですが、先日講習会で① or ②で該当と伺いましたが、下請法の解釈を教えて下さい。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1240660/35736493

この記事へのトラックバック一覧です: 下請法の「トンネル会社規制」について:

« 立入調査後も私的独占が継続された場合の課徴金 | トップページ | 「競争減殺」と「競争回避」と「競争停止」と「競争排除」 »