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2010年6月 3日 (木)

平成21年度企業結合事例集

平成21年度企業結合事例集が公取委のHPで公表されました。

いくつか気が付いた点を記しておきます。

【事例2】新日本石油(ENEOSですね)と新日鉱ホールディングス(こちらはJOMOです)の経営統合

両社競合する商品の1つであるパラキシレンの地理的市場を、「アジア地域」としています。

理由は、アジア統一指標価格があること、制度面・実質面の輸入障壁が低いこと、アジア地域のパラキシレン・メーカーはアジアの各国に供給できる体制にあること、です。

両社の統合後の日本市場でのシェアは、合計40%で1位、ということだったので、日本市場を画定されるとさらに慎重な審査を要したかもしれません。

アジア統一市場、アジア内需という言葉を新聞などでみかける昨今、アジア市場を画定するケースが独禁法の世界でも増えてくるかも知れません。

ニードルコークスに関する問題解消措置も興味深いです。

①ニードルコークス事業を分社化して議決権の90%以上を大手商社に譲渡する。

②譲渡完了まで(公取委のクリアランスから1年以内と指定されています)、事業価値を維持するよう努める。

③同事業の売上を毎月公取委に報告する。

④ニードルコークスの原料を、分社した会社に「適切な価格」で供給する。

⑤ニードルコークスの製造を受託する。

⑥情報遮断措置をとる。

⑦研究開発成果やノウハウを、分社した会社に「適切な条件」で提供する。

①で、対象事業を完全に第三者に譲渡するのではなく、10%程度議決権を保有しつつづけることを認めているのは、こうしたほうが、分社後も当事会社がニードルコークス事業を引き継いだ会社に協力するインセンティブを持たせようという意図かもしれません(もちろん、10%保有し続けることを義務づけられているわけではないのですが)。

【事例3】三井金属工業と住友金属鉱山による伸銅品事業の統合

この事例で興味深いのは、統合の対象である伸銅品事業ではなく、伸銅品の原材料である電気銅に関する競争制限の可能性(情報交換)を問題にしている点です(統合される伸銅品事業は、当事者のシェアが低く、セーフハーバーで救われています)。

さらに、電気銅事業に関する問題解消措置の内容も興味深いです。

①電気銅について情報遮断措置をとる。

②秘密情報(電気銅の研究、開発、製造、販売及びマーケティングに関する非公知の情報)は、パスワード、施錠管理により、必要のある者しかアクセスさせない。

③②の違反者に対する懲戒事項を定める。

④PPC(=三井金属グループの電気銅事業子会社)の役員または役員であったものを、「本件共同出資会社」(=本件統合により伸銅品事業が集約される住友金属鉱山伸銅のことと思われます。事例集の「本件共同出資会社」の定義の仕方は変だと思います)の役員に選任しない。その逆の選任もしない。

⑤PPCで秘密情報を知った者は、最低5年間、「本件共同出資会社」へ出向・転籍させない。逆もまたしかり。

③で、懲戒事項を定めることを求めているということは、おそらく、入社時に署名させるような一般的な守秘義務契約ではなくて、電気銅に関する秘密情報という、対象を具体的に特定した守秘義務と、それに違反した場合の懲戒を定めよ、ということなのでしょう。

④については、PPCと「本件共同出資会社」との間の役員兼任を禁じるなら、バランス上、住友金属鉱山と「本件共同出資会社」との間の役員兼任も禁じるべきように思われますが、なぜかそのようになっていません。その理由は、事例集の記載からは読み取れませんでした。

(といいますか、事例集の文章は、こんな骨と皮だけの味気ない文章ではなくて、もっと人間味のある、読む人に易しい文章にはならないものでしょうか。一応法律のプロの私でも頭に入れるのに苦労するのですから、アマチュアの人はもっと苦労すると思います。)

【事例4】

この事例では、当事者が提出したSSNIPテストのデータが、「SSNIPテストにおける一般的前提から大きく離れている可能性があ(った)」ため、不採用になっています。

しかし、こういう判断こそ、何がどういけなかったのかを、はっきり事例集で公表すべきではないでしょうか。そうでないと今後の参考になりません。

【事例5】エクシングによるBMBの株式取得

通信カラオケの会社の買収です。

これ、すごくあっさり認められてますが、本当によかったんでしょうか。

統合前は、1位の会社(第一興商ですね)が60%、BMBが25%、エクシングが15%で、統合後は、1位60%、2位40%という2社体制になります。

カラオケ機は中古機も出回っていてユーザーが価格交渉上優位に立つことがOKの理由として述べられていますが、HHIが5200,ΔHHIが750、という事例がこれだけあっさりとした理由で認められたのは、ちょっと驚きです。

3社から2社への統合で、中古品が出回っている商品の事前相談を受任することがあったら、このケースを引用してみたくなります。

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