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2010年6月 4日 (金)

下請法の「製造委託」の意味

下請法の適用の有無を画する重要概念として、「製造委託」という概念があります。

一般に、製造委託は、製造を委託するものであって、出来合いの商品(規格品)を購入する場合は製造委託には該当しないと考えられています。

その趣旨は、日本の実態として、下請というのは、親事業者の注文を受けて部品などを加工する場合が想定さているから、単なる売買は下請と呼ぶに値しない、ということなのでしょう。

公取委ホームページのQ&Aでも、

「Q7 規格品,標準品の製造を依頼する場合,下請法の対象となる製造委託に該当しますか。」

という質問に対して、

「いわゆる規格品,標準品であって,広く一般に市販されているものなど実質的には購入と認められる場合は該当しません。しかし,規格品,標準品であっても親事業者が仕様等を指定して下請事業者にその製造を依頼すれば下請法の対象となる製造委託に該当します。例えば,規格品の製造の依頼に際し,依頼者の刻印を打つ,ラベルを貼付する,社名を印刷するとか,規格品の針金,パイプ鋼材等を自社の仕様に合わせて一定の長さ,幅に切断するというような作業を行わせた場合等がこれに当たります。」

と回答されています。

しかし、一般に受け入れられている以上のような説明が、条文の定義にマッチしているのかは、一応チェックしておく必要があります(裁判所が公取委の解釈に従う保証はありませんので)。

下請法2条1項では、製造委託を以下のとおり定義しています。

「事業者〔=親事業者〕が業として行う販売若しくは業として請け負う製造(加工を含む。以下同じ。)の目的物たる物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料若しくはこれらの製造に用いる金型又は業として行う物品の修理に必要な部品若しくは原材料の製造他の事業者〔=下請事業者〕に委託すること及び事業者がその使用し又は消費する物品の製造を業として行う場合にその物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料又はこれらの製造に用いる金型の製造他の事業者に委託すること」

目が眩みそうになる定義ですが(笑)、赤で塗った「又は」と「及び」を手掛かりに読んでいくと、要するに、物品やら半製品やらの「製造・加工」を「委託」する点については共通するようです。

したがって、単なる規格品の売買は「製造・加工」の「委託」ではなく、「製造委託」ではない、ということなのでしょう。

しかし、そうすると、公取委HPのQ&Aの、

「例えば,規格品の製造の依頼に際し,依頼者の刻印を打つ,ラベルを貼付する,社名を印刷するとか,規格品の針金,パイプ鋼材等を自社の仕様に合わせて一定の長さ,幅に切断するというような作業を行わせた場合等がこれに当たります。」

というところがちょっと気になります。

微妙なのは、売買の過程で必ず加工が絡む場合です。

例えば、竿だけ屋に竿竹を切らせて買うのは製造委託でしょうか。

公取委のQ&Aも、「一定の長さ」に切断させるとすべて製造委託になるといっているのではなさそうです。

あくまで、「自社の仕様にあわせて」切らせることが必要、ということです。

しかし、「一定の長さ」というのが、「自社の仕様」なのか、業界で共有されている「規格」なのかは、結構微妙なこともあるのではないでしょうか。

例えば、町で竿竹を売り歩く竿だけ屋が、「2m、2.5m、3m」という「規格」を予め定めて、お客さんの注文に合わせてお客さんの目の前で2mなり、2.5mなり3mに竿竹を切る場合は、お客さんの「自社の仕様」に合わせたわけではないので、「製造委託」には該当しなさそうです。

これに対して、竿だけ屋がこのような「規格」など定めず(普通定めないでしょう)、お客さんが「竿竹を2m分ください」といえば、「自社の仕様」となって、「製造委託」に該当するのでしょうか。ちょっと変な感じがします。

例えば、ある商品には、「○○ミリ角」とかいった何種類かの裁断条件が、いわば業界の標準として、事実として存在していることがあり得ます。その原因としては、下請業者の設備の問題で、1ミリ未満の微調整が効かない、ということがあるかもしれませんし、事実上の規格に従った方がコスト的に有利と言うこともあるかも知れません。

JISなどの規格で決まっている場合には「規格品」といいやすいですが、そうではない、事実上の業界の標準のような場合には、「規格品」なのか、発注者の「自社の仕様」なのか、限界は微妙なこともありそうです。

しかし、そもそも条文の文言に遡れば、製造委託の定義は「製造・加工」の「委託」でしかないわけで、竿だけ屋が「規格」を定めていようがいまいが、竿竹を切るという作業(加工)を「委託」している以上、文言上は、「製造委託」に該当するとも読めそうです。

しかし、竿だけ屋が竿竹を切るのは、竿竹を売り歩く以上必然的に切断という作業が必要になるのであって(予め切っていくと特定の長さの竿竹だけ売れ残りが出てしまう)、買う方にしてみれば、切断という作業には重要性はなく、重要なのは竿竹を買うことだ、ということなのでしょう。なので、「製造・加工」の「委託」ではなく、売買だ、という解釈です。

こうしてみると、公取委のような一般的な解釈は、やや結論を先取りした解釈ではありますが、こういう合目的的な解釈は歓迎すべきでしょう。

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