独禁法上不当な目的を達成するための行為の違法性
独禁法上不当な目的を達成するための行為は独禁法上違法である、と言われることがあります。
例えば、再販売価格維持を守らせる目的で、再販売価格を守らない代理店との契約を解除する場合、そのような解除は、再販売価格維持という独禁法上違法な目的を達成するためになされるので違法である、というように説明されます(流通取引慣行ガイドラインにもそのような記述があります)。
この場合、「解除」という行為を単体でみれば単独の取引拒絶(一般指定2項)なのですが、単独の取引拒絶の違法性基準(かなりハードルは高い)では違法性を判断することはせずに、再販売価格維持の違法性(ハードルはかなり低い)に従って違法性を判断するのが通常です。
つまり、「解除」という行為だけを取り出して独禁法上の評価をするのではなく、「解除」という行為によって達成しようとしている目的の方に注目するわけです。
ここで注意を要するのは、この例はあくまで再販売価格維持の問題と考えるべき、ということです。
このような解除を、独禁法上違法・不当な目的を達成するための取引拒絶と整理した上で、一般指定2項の「その他の取引拒絶」の問題であるとする考え方が多いと思いますが、理屈の問題として、このような考え方は間違っていると思います。
まず文言解釈として、「不当に」(一般指定2項)という同じ文言に、本来の単独の取引拒絶の違法性基準(厳しめ)と、他の不当な目的達成のためという緩めの基準の、2つの基準を読み込むことになり、文言解釈として据わりが悪いということもありますが、実際上の問題もあるように思われます。
つまり、「不当な目的」ということで片づけてしまうと、反競争性の分析が、なおざりになってしまう、という問題があると思われます。
弁護士としては、「違法な目的達成のためだから違法だ」というと、何となく理屈がついたような気になるし、クライアントも何となく納得してしまうので便利な理屈なのですが、これは裏を返せば、反競争性の分析をせずに違法だという結論を出しているわけで、独禁法のアドバイスとしては失格です。
結局再販売価格維持としての反競争性を吟味しなければならないのなら、一般指定2項の問題と扱わず、最初から再販売価格維持(独禁法2条9項4号ロ)の問題として取り扱うべきです(再販売価格維持なら、2度目の違反から課徴金もかかりますし)。
さらに、「不当な目的達成のため」という理屈に頼ると、国際的な問題を考えるときに、どこの市場での競争が問題になっているのかという問題点を見落としてしまいがちです。
例えば、米国企業のA社が商品αと商品βを製造し、商品αは欧州で、商品βは日本で、いずれも何社かの代理店を通じて販売していたとします。
そして、日本企業のB社は、A社の代理店として、商品αを欧州で、商品βを日本で、販売していたとします(いずれも非独占の代理店契約)。
A社は、実は欧州で再販売価格維持を行っており、B社以外の欧州代理店は、それに従っていました。
しかし、B社は再販売維持に従わず、欧州で商品αの安売りをしました。
そうしたところ、A社は、日本で売る商品βのB社に対する卸売価格を上げてきました。しかし、A社は、日本の他の代理店に対する卸売価格は据え置きました。
以上の経緯からすると、どうやら日本での商品βのB社に対する卸売価格の値上げは、B社が欧州で商品αの再販売価格維持に従わなかったことに対する報復であるようです。
さて、以上のような例で、日本での商品βのB社に対する卸売価格の値上げは、差別対価(独禁法2条9項2号)として違法になるのでしょうか。
商品αの再販売価格維持を達成するために差別対価を行っているのだから、独禁法上違法な目的達成のためということで、違法な差別対価である、といってよいのでしょうか。
でも待って下さい。
ここで競争制限が問題になっているのは、明らかに、再販売価格維持がなされている商品αで、商品αは欧州で販売されているだけです。
そうすると、日本の市場での競争制限はなく、そもそも日本の独禁法が適用されないのではないか(管轄がないのではないか)、ということに気が付きます。
このように、達成される違法な目的(=欧州での商品αの再販売価格維持)の方に注目していれば、このような事例が日本の独禁法の問題ではない、ということに容易に気付きます。
ところが、違法な目的を達成するための手段行為にだけ着目していると、手段行為が行われたのが日本なのは間違いないので、何の疑問もなく日本の独禁法の問題であると考えてしまいがちです。
このような例も考えると、やはり、手段行為の方に着目するのは何かと問題があり、正々堂々と、達成される目的の方に着目すべきことが分かるのではないでしょうか。
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