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2010年6月29日 (火)

投資組合の国内売上高

投資組合が株式取得の届出をする場合の企業結合の届出(独禁法10条2項)の要否を判断する場合、当該投資組合の「国内売上高」をどのように算定するのか、という問題があります。

この点については企業結合届出規則案に対するパブコメの時点から問題になっており、

「投資組合については何をもって国内売上高とするのか不明であるため、今後具体的な計算手法についての明確化を希望する。」

という質問(?)に対して、公取委から

「投資組合の国内売上高については、投資収益を国内売上高とする方向で考えていますが、今後、必要に応じて、Q&A等で考え方を明らかにしてまいります。」

との回答がなされています(平成21年10月23日のプレスリリース別紙2)。

そこで公取委Q&A(「国内売上高の具体的な事例について」)では、

「Q4 投資組合は何を売上高とするのですか。」

「A4 投資収益を売上高としてください。」

「Q6 投資組合の売上高における投資収益とは具体的にどのようなものが含まれるのですか。」

「A6 有価証券売却益等が含まれます。」

とされています。

まず、「投資組合」というのは独禁法にも規則にも定義はありませんが、民法上の組合であれ、投資事業有限責任組合であれ、投資を主たる目的とした組合全般を指すと考えて大過ないと思われます。

そこでいくつか疑問です。

まず、上記Q&Aによると、要するに投資組合の売上は有価証券売却益を基本に考えればよいといえそうですが、国内の売上か国外の売上かは、どのように判定するのでしょうか。

この点、届出規則2条1項では、

①取引の相手方が国内の消費者のときには、全額国内売上高、

②取引の相手方が国内の法人のときには、原則国内売上高だが、形を変えずに海外に転売されると分かっていれば、国内売上高にならない、

③取引の相手方が国外の法人のときには、原則国内売上高ではないが、形を変えずに国内に転売されることが分かっていれば、国内売上高になる、

と整理されています。

これを投資組合にそのまま適用すると、

①(投資対象の)株式を国内の消費者に売ったときには、全額国内売上高、

②株式を国内の法人に売ったときは、原則国内売上だが、外国の個人または法人に転売されることが分かっている場合には、国内売上高にならない、

③株式を外国の法人に売ったときには、原則国内売上高ではないが、日本の個人または法人に転売されることが分かっている場合には、国内売上高になる、

ということになりそうです。

しかし、これはどう考えても変です。

確かに、投資組合をメーカーに例えれば、株式を仕入れてきて転売することで利益を上げるので、形式的に考えれば、上記のように、売却先が国内か否かで、国内売上か否かが判定されるのかもしれません。

しかし、株式の売却先が日本人か外国人かは、投資法人が日本の市場(何の市場なのかが問題ですが)に与えるインパクトとは、何の関係もないはずです。

むしろ関係があるのは、投資対象になっている企業が日本企業か否かでしょう。

ですので、公取委の上記Q&Aは、「有価証券」の発行体(投資対象)は日本企業であることを前提にしていると考えるべきでしょう(さらに考えると、「日本に国内売上がある限り外国企業も含まれるのではないか」という意見も出そうですが、面倒なので割愛します)。

ただ、以上のような考え方は、届出規則2条1項の文言(売却先で国内・国外を判定)には明らかに反するので、厳密に言えば、規則を改正すべきでしょう。

もう1つの疑問は、そもそも投資組合の国内売上の定義をQ&Aで済ませてしまって良いのか?ということです。

Q&Aは、あくまでQ&Aです。法律でも規則でもありません。

そこで、法律と規則の文言に照らして投資組合の国内売上高がどのように解されるのか、を検討すると、上述の通り、株式の売却先が日本人か外国人かで決まると言わざるを得ないと思われます。

しかも、投資収益ではなく、売却額全額が「売上高」になりそうです。

銀行、保険会社、証券会社の場合は、経常収益(銀行・保険)または営業収益(証券会社)を「国内売上高」とするという明文の規定が届出規則2条1項にあり、国内と国外の切り分けも取引の相手方で決められる(例えば貸出先が日本企業なら国内売上高)ことが文言から読み取れますが、投資組合にはこのような例外規定がないからです。

実務は公取委のQ&Aどおり、有価証券売却益を売上高とすることで処理されていくのでしょうし、恐らく国内売上か国外売上かも、投資対象が日本企業か否かで処理されていくと思われますが、いずれも明文の根拠がないので、規則で手当しておくほうが良いと思います。

国内と国外の切り分けについては、少なくともQ&Aで明らかにして欲しいと思います。

【2010年7月1日・追記】

本ブログをお読み頂いたある親切な方から、公取委では、規則2条1項の文言どおり、株の売却先が国内消費者・企業か外国企業かで国内売上か国外売上かを判断している(←私が上で「どう考えても変」といった考え方です。今思えばちょっと言い過ぎでしたね。反省)とのお知らせを頂きました。ありがとうございます。

出資者も投資対象も売却先も全て日本企業のような、コテコテの国内の投資組合の場合は、いずれにせよ「国内」の売上げなので、内か外かは気にしなくていいのですが、外国企業が絡むと届出義務の見落としが出てきそうです。

例えば、出資者も投資対象も外国企業の投資組合の場合でも、投資対象会社株式の売却先が日本企業の場合は売却益が国内売上高にカウントされます。

ですので、例えばそのような基本的に外国の投資組合が、何かの拍子に日本企業に20%超出資しようと思い立った場合には、その前年度に売った株式の売却先に日本企業がいないかチェックする必要があります(国内売上の有無を確認するため)。

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