« 価格の内訳は問題か。 | トップページ | 「ブランド間競争」(inter-brand competition)という用語 »

2010年5月11日 (火)

SSNIPの誤解

企業結合ガイドラインの市場画定の手法として、SSNIPテストというのがあります。

SSNIP(small but significant non-transitory increase in price)を日本語でいうと「小幅ではあるが、実質的かつ一時的ではない価格引き上げ」(同ガイドライン)ということになりますが、同ガイドラインでは、SSNIPとは、

「通常、引上げの幅については5%から10%程度であり、期間については1年程度のものを指す・・・」

とされています。

この、「5%から10%」という数字を、競争の実質的制限に至る程度の値上げ幅を示すもの、あるいは、「5%から10%の値上げができないような企業結合は適法である」、と誤解されることがあるようですが、決してそうではありません(米国の水平企業結合ガイドラインには、その趣旨が明記されています)。

感覚的に言っても、合併しただけで価格を5%も上げることができるような合併は間違いなくアウトだと思います。

理屈の上でも、SSNIPテストで画定した市場を前提に、「5%から10%」の値上げが可能となる合併を許容すると、当該市場の全競争者が合併して(仮想的独占者ではなく本当の)独占企業が生まれるような場合でも、独禁法上適法ということになりかねず、論理的に破綻しているといわざるを得ません。

ですので、「SSNIPテストで5~10%の値上げが想定されているので、それ以下の値上げしかできないような合併は独禁法上認められる」というアドバイスをすると、明らかに間違いです。

では何%程度の値上げまでは許容されると考えるべきでしょうか。

企業結合は、「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」(独禁法10条1項など)に違法となります。

そして、「競争を実質的に制限する」とは、

「競争自体が減少して、特定の事業者・・・がその意思で、ある程度自由に、価格・・・を左右することによって、市場を支配することができる状態をもたらすこと」

であるといわれています(東宝新東宝事件判決。ガイドラインでも引用されています)。

そこで、何%の値上げまでなら許されるのか、という問いに対して、敢えて判例の文言解釈をすれば、上記判決が「ある程度」といっているのがどの程度なのか、がポイント、ということになりそうです。

しかし、企業結合の文脈では、企業結合自体の効果として、「企業結合なかりせばあり得なかった値上げ」が可能となる場合には、その値上げがたとえ僅かなものであっても、独禁法上その企業結合は違法である、と考えるべきでしょう。

また、実際の運用もそのようになされているのではないかと思われます。

あるいは、「ある程度」というのは、何%と数値で表せるようなものではなく、もっと質的なものなのだと考えるべきなのかも知れません。

では、SSNIPテストで用いる値上げ幅は、なぜ5%~10%なのでしょうか。

日本のガイドラインでは、この5%から10%という数値ですら、「あくまで目安であり、個々の事案ごとに検討されるものである」という、お決まりの留保文言が付いているので(それだったら、こういう場合は5%を用いてこういう場合は10%を用いるという例くらいは挙げるべきでしょう)、なぜ5%~10%なのか?という問いを真面目に考える気力が萎えますが、おそらく、この辺りが常識的な市場画定に結びつくから、ということなのでしょう(結論先取りですね)。

ただそう言いきってしまうと何の面白みもないので敢えて掘り下げますと(笑)、おそらくSSNIPテストは、需要者が反応するミニマムなレベルの値上げを探っているのだと思います。

つまり、1%くらいの値上げでは、需要者が有意に代替品に乗り換えないかもしれません。また一瞬値上げしただけでは、かなり大幅な値上げでも直ちには乗り換えないかもしれません。

そういうことを踏まえ、5%から10%、かつ1年程度、というあたりに落ち着いているのではないか、と推測します。

« 価格の内訳は問題か。 | トップページ | 「ブランド間競争」(inter-brand competition)という用語 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1240660/34641098

この記事へのトラックバック一覧です: SSNIPの誤解:

« 価格の内訳は問題か。 | トップページ | 「ブランド間競争」(inter-brand competition)という用語 »