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2010年5月 9日 (日)

インターネット販売の禁止と拘束条件付き取引

メーカーが小売店に対してインターネット販売を禁止することは、拘束条件付き取引(一般指定12項)に該当するのでしょうか。

この点、アップルがネット販売を停止したことに関する記事で、

「公取委は「一般論でいうと、メーカーが『このルートで売りたい』と販路を絞り込むことは問題にはならない」(取引企画課)と指摘」

した、と報じられています。

(産経新聞電子版 2010年4月27日 http://sankei.jp.msn.com/economy/business/100427/biz1004271938043-n1.htm

この公取委取引企画課の指摘は、化粧品の対面販売について定めた資生堂事件(最高裁平成10年12月18日)が、

「メーカーや卸売業者が販売政策や販売方法について有する選択の自由は原則として尊重されるべきである・・・」

としているのと軌を一にするといえます。つまり、メーカーが「このルートで売りたい」というのは、まさに最高裁のいう「販売政策」や「販売方法」そのものであるので、「インターネットでは売りたくない」というメーカーの「選択の自由」は原則として尊重されるべきである、ということです。

ただ、「原則として」と言っている以上、常に例外があるわけで、もちろん問題はこの例外の方です。

資生堂事件最高裁判決は上記判示に続けて、

「(メーカーが)陳列方法を指示したりするなどの形態によって販売方法に関する制限を課することは、

①それが当該商品の販売のためにそれなりの合理的な理由に基づくものと認められ、かつ、

②他の取引先に対しても同等の制限が課せられている限り、

それ自体としては公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれはな(い)」

と言っています。

つまり、①(それなりの合理性)と②(制限の同等性)の要件を満たす限り、独禁法違反ではない、ということです。

②(制限の同等性)の要件が要求されている理由はおそらく、特定の小売店にだけ制限を加えているような場合には安売り防止の目的であることが推認されるから、ということでしょう。

そうであるならば、「安売り防止の目的ではないこと」というのを要件にするのが筋というものでしょうが、②(制限の同等性)の要件のほうが客観的に明確ですし(それに対して安売り防止目的のほうはどうしても間接事実の積み上げによる立証になってしまう)、実務的には、こういう明確な要件のほうがありがたいです。幅のある読み方のできる判例は弁護士の余分な仕事(=企業の余分なコスト)を増やすだけです。

ただこの②の要件も、制限が一律であれば独禁法違反でなくなるということが一般的に言えるかというとそうでもなく、例えば再販売価格維持などは一律に行うのが最悪なわけです。そうすると、どうして販売方法の制限なら一律であればあるほど良いのに価格の制限なら一律であればあるほど悪いのか、という素朴な疑問が沸いてくるところではあります。

(蛇足ながら加えると、②の要件は、小売店間の平等権の保障といったような正義公平の問題とは関係がありません。)

問題は①(それなりの合理性)の要件の方です。

インターネット販売の禁止に「それなりの合理性」が認められる場合というのはどのような場合なのでしょうか。

判決は具体的な紛争を解決するためのものなので、あくまで当該事例を前提に読むべきです。文言をこねくり回して一般論化するのは慎重でなければなりません。

資生堂事件最高裁判例は、化粧品という女性のお肌に触れるものについて対面販売を義務づけることが問題になったものです。そのことを忘れてはいけません。

結局、ある商品のインターネット販売を禁止することに「それなりの合理性」があるか否かは、その商品の特性(安全性、安全性に対する需要者の知識、ブランドイメージの重要性など)に鑑みて、インターネット販売を禁止すること(=販売をリアルの店舗に限ること)に合理性があるか否かを、個別に考えていくしかないのでしょう。

実務家としては、現に起こっていることが独禁法違反か否かよりも(それも大事ですが)、今からやろうとしていることが独禁法違反に問われないようにする、あるいは違反のリスクを小さくするには何ができるかに興味があるわけですが、事の性質上、一般的にこうだとは言いにくいです。

小売店に対するインターネット販売禁止について1つだけ言っておくと、メーカー自身がインターネット販売をやっている場合には、「それなりの合理性」は認められにくい方向にはたらくと言わざるを得ないと思います。自分はいいけど他人はダメよ、という理屈は通りにくい、ということです。

もちろんそれに対する反論としては、「小売店に対して細かいところまで契約で縛ることは無理で、自社でネットで売る場合には細かいサイトのデザインやサポートセンターの従業員の教育など細部にわたって管理ができて、まさにそういった管理がこの商品のブランドイメージの保護には不可欠」といったようなことが言えれば完璧でしょう。最高裁が「それなり」といっているのですし、もっと緩やかな理屈でもよいかもしれません。

当然ですが、「自社サイトなら価格がコントロールできるので」という理由はダメです。

なお注意すべきは、①②の違法性阻却の要件は、公正競争阻害性がある(≒価格が維持されるおそれがある)ことが当然の前提になっているということです。そもそも価格維持のおそれがないのであれば、不公正な取引方法に該当するはずがありません。

また最高裁が、メーカーは原則として販売方法選択の自由を有すると言っている以上、価格維持のおそれがある拘束行為だからといってそれだけで公正競争阻害性が認められて独禁法違反になるわけではない、と考えられます。純粋に経済学的な議論だけでは、誰がどういう権利を持つべきかという価値判断の伴う問題は解決できないのですが、この辺りが、経済学がもつ限界でしょう。

・・・と、ここまで書いてきて改めて思うのですが、冒頭紹介した公取委取引課の発言は、販売方法の制限が違法とならないために① and ②(or 公正競争阻害性なし)を要求する資生堂事件最高裁判決よりも緩やか(適法の範囲が広い)に見えますね。

公取委発言は「販路」の問題で、資生堂最高裁判決は「販売方法」の問題だ、という区別は説得力がないように思います。

それとも、取引企画課発言の

「一般論でいうと」

というところに、

① and ② (or 公正競争阻害性なし)

を読み込むのでしょうか・・・

やはり、一担当官の発言を鵜呑みにしてはいけないということでしょうか(しかも、新聞記事では発言のニュアンスとかは分かりませんし)。実務的には、最高裁の判例に準拠しておくのが穏当でしょう。

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コメント

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