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2010年5月17日 (月)

公取委事務総長定例会見について

公取委のホームページには、毎週水曜日に行われる事務総長定例会見の要旨がアップロードされます。

http://www.jftc.go.jp/teirei/index.html

独禁法の一般的な執行方針について述べたところも当局の考え方を示すものとして大変参考になりますが、毎回、その時々の話題の事件について記者さんからの質問に答えている部分も要注目です。

(ところで公取委のホームページの作りは、項目立てがあまり体系的でなくて、正直、分かりにくいですね。定例会見のアップロードされている場所なんて、初めての人は見つけられないのではないでしょうか。)

2010年4月28日の会見では、アップルのネット販売禁止についての質問について、かなり突っ込んだ発言がなされています。

重要なのでそのまま引用しますと、

「(問) 大手の家電量販店の通販サイトで,アップル社の製品の販売が今控えられているという報道について,当事者があまり事実関係を明らかにしていないので詳細は分かりかねる部分があるのですが,これについて公正取引委員会の御関心,御見解とですね,あわせて一般論でも構わないのですが,仮に,品物を卸す立場の方から,販売方法に対して何らかの制限をかけたときに,公正な取引を問う観点から問題の有無というものについて,どういうお考えなのかお聞きしたいのですが。

(事務総長) 御指摘のように事実関係が明らかになっていない,一部の報道ということになりますので,また個別の事案にかかわる話にもなりますので,公正取引委員会として正式に具体的にこう考えるとか,違反である,違反ではないというようなことを申し上げる状況ではもちろんありませんが,一般論として申し上げれば,メーカーが小売業者に対して販売方法を制限する,この場合で言うと,ネットによる通信販売を禁止するということについては,例えば,商品の安全性を確保するであるとか,品質の保持を図るとか,ブランドの信用保持を図るとか,その販売のために一定の制限を加えることが合理的であるということが認められるケースというのもあるわけであります。

また,一方,それが小売業者間の価格競争を制限することによって,競争を制限すると判断されるというケースもあり得るというわけであります。

そのような小売価格なり販売先の競争を制限すると判断されなければ,その販売方法について,いろいろ合理的な理由によって制限すること自身は販売方法に拘束を加えることが直ちに違反になるというものではない。そういう面では,こういう販売方法の制限というのは,独占禁止法の言葉で言うと,合理の原則と言いますか,ルール・オブ・リーズンと言いますか,それなりの競争阻害効果とを比較考量して判断していくという考え方になると思います。

本件の場合,まだ具体的な事実関係が分かっていないこともありますので,具体的なことを申し上げるわけではありませんが,今言ったようなことで,そのような安売りを防止する,価格競争を維持したり,制限するという目的で行われているという事実関係があった場合には,当然,独占禁止法上の問題になり得ることもあり得るかと思います。 」

大雑把にまとめれば、安全性等の合理的な目的達成のためであればネット販売の禁止は許されるが、小売業者間の価格競争を制限する場合には、違法になる、ということです。

全体のトーンとしては、あまり積極的に摘発しようという雰囲気はないような感じがします。

内容についていくつかコメントしますと、まず、安全性や品質に加えて、「ブランドの信用保持」というのが明示的に挙げられていることが注目されます。

確かにブランドイメージの保護は、資生堂事件で最高裁も「それなりの合理性」を認める根拠としてあげているので、それ自体は目新しいものではないのですが、化粧品の場合と電化製品の場合とでブランドイメージに同程度の保護が与えられるのか、という点が問題なのだろうと思います。

素朴な感覚としては、化粧品や高級なバッグ、衣類、宝石などの場合には、よりブランドイメージが大切で、電化製品の場合にはそれ程でもない、ということかと思いますが、どの商品についてブランドイメージが大切かを役所が判断するのもおかしな気がしますので、ここは、電化製品についても同様にブランドイメージが保護されるべき、と考えておくのが正しいのでしょう。

その意味で、アップルに関する質問に対して、一般論とはいえ、ブランドイメージの保護を事務総長が明言したことは、それなりに意味のあることといえるでしょう。

ただし、「あまり安く売られるとブランドイメージが崩れる」という理屈は通りません。独禁法は、価格競争を促進することが大きな目的の一つだからです。

(・・・と、いうのが一般的な考えでしょうが、正直、極端な安売りをされるとブランドイメージが壊れるということは、事実としては大いにあり得るわけで、単純に割り切っていいのか、個人的には少々疑問に感じています。少なくとも、安売りをしない小売店に対しては、「○○正規代理店」とか、「○○ certified」とか付けて、同じ商品でも安売り店のものとそうでないものとは違うのだ(イメージだけですが・・・)という雰囲気を醸し出し、安売りしない店のイメージまで損なわれること(=二次被害)を防ぐ、というような営業政策は、許されてもいいのではないかと考えています。)

次に、安売り防止の「目的」であるか否かが、違法か適法かの分かれ目になると述べられているようです。

独禁法の世界では、意図や目的は基本的に考慮すべきではないので、目的を重視するのは理屈の上では疑問に感じますが、「目的」を重視するという考え方を別の角度から捉えれば、ネット販売の禁止に価格維持の効果があってもそれだけでは違法にならず、さらに価格維持の「目的」が必要ということだとも捉えられます。

ネット販売は、リアルの店舗と比べると、価格の比較が容易であったり流通コストが安かったりするために、ネット販売を一律に禁止すると価格維持の効果がある程度生じるであろうと推測されますが、この会見の発言は、価格維持の「目的」が無いと違法にならないといっているようにみえます。

個人的には、理屈はともあれ、単に客観的な競争阻害効果のみならず、競争阻害の「目的」まで要求することで、メーカーの流通経路に対するコントロールが増すのは、結果的に結構なことだと考えています。独禁法で保護すべきは、まず何よりブランド間競争でだからです。

それから、競争阻害効果と、安全性等の要請を比較考量する、という考えが取られているのも注目されます。

競争阻害効果というのは端的に言えば値段が上がる(または維持される)ということなので、これと安全性等を比較考量するというのは、なかなか簡単ではありません。本来両者は単純に比べられないものだと思います。

本来比べようのないものを比べるのですから、当然、そこには判断者の主観が入ってくるわけで、独禁法の解釈が効率性だけでは割り切れない、そう言う意味で、独禁法も法律であるという、一つの例ではないでしょうか。

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