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2010年5月24日 (月)

カルテルと被害者の同意

カルテルの被害者がカルテルをすることに同意している場合、そのカルテルは独禁法上違法でしょうか。

いわゆる官製談合の場合は、談合をやらせているのは一入札担当者であって、発注者である官庁は談合には決して同意していない、という建前ですので、官製談合のような場合は検討の対象外とします。ここで検討の対象にしているのは、まっとうなビジネス上の理由から、被害者(購入者)がカルテルに同意している場合です。

合理的に考えれば、購入者があえてカルテルをさせたり、カルテルに同意したりするということはあり得ないように思われます。

しかし、世の中はそんなに単純ではありません。

とくに供給者の数が限られている場合には、購入者としても、供給者の間で適度に競争してもらうのは望ましいけれど、あまり激しく競争して1社しか残らなかったら自分の交渉力が弱くなるので、そこまで激しい競争は望まない、ということがあるかもしれません。

また、調達先が1社とか2社とかしか残らなかったら安定供給の面で不安だ、ということもあるかも知れません。

しかも、購入者が市場で大きな購入シェアを占めるような場合には、自分が市場での競争の程度をうまいことコントロールして、供給者を生かさず殺さず供給させることが現実に可能なので、そのような競争をコントロールしようというインセンティブが働き得ます(これに対して購入量が少ない購入者はそのようなことをやろうにも不可能です)。

また、最近は原材料の調達先を集約しようという動きがメーカー側にあり、メーカーの方から原材料供給業者らに対して、「窓口を一本化して欲しい」といってきたりすることが珍しくありません。

窓口を一本化しようとする以上、原材料供給業者の間で協調行為をせざるを得ず、これを形式的に見れば、不当な取引制限の少なくとも行為要件を満たしそうに見えますが、購入者のメーカーの方から言ってきているのに不当な取引制限だというのは、いかにも不合理な気がします。

このように、どう考えても独禁法違反というのはおかしな(と、少なくとも私が考える)事例であっても、相手方の弁護士さんが「カルテルだから違法だ」という立場であったりすると、違法でないことを説明するのにも結構苦労するわけです。

そこで、被害者が真に同意している場合にはカルテルは違法ではない、という解釈論を考える必要と実益があるように思われます。

まず、こういう場合には、実は需要者が圧倒的に強い交渉力を有することが少なくありません。なので、供給者が形式上相互拘束に該当するような行為をしても、反競争性が生じない、ということが多いと言えます。

しかし、反競争性の有無の限界は微妙であり、これに頼るのはちょっと危うい感じがします。

そこで、真に需要者が同意している場合には、仮に価格等を供給者が拘束しあっても、正当化理由があるから「競争の実質的制限」がない、という解釈論が成り立たないでしょうか。

(なお、以上は、「競争の実質的制限」=「反競争性あり+正当化理由なし」という枠組みを前提にしています。白石「独禁法講義(第5版)」p139)

いろいろ考えてみましたが、少なくともカルテルからの直接の買主である被害者だけが同意していた場合に当然にそのカルテルが違法でなくなるというのは、独禁法の解釈としては難しいように思います。

例えば、カルテルに同意した需要者が、その損失を川下市場の需要者に転嫁できてしまうような場合、川下市場の需要者こそが被害者であって、その者の同意が無い限り、カルテルは違法との評価を免れないというべきでしょう。

そのように考えると、やはり、被害者が同意しているから違法でない、という解釈を一般的に取るのは難しいような気がします。

つまり、個々の事案に応じて、コスト削減になるとか、買主の購買力のほうが圧倒的に強いとかいう事情を積み重ねて、反競争性がないというほかないのだと思います。

ただ、買主のほうからカルテルっぽいことを持ちかけてきた場合には、反競争性がないと事実上推定される(反競争性があるならそのようなことを持ちかけるはずがないので)、ということは言えるかもしれません。

独禁法において被害者の同意があるから違法でなくなるのかというのは、実はいろいろな場面で形を変えて出てくる問題で、しかも被害者が同意していると公取委に取り上げられる可能性も低いことから表面化しないのですが、実務では意外に頭を悩ませることが多いのです。

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