組合(ファンド)が絡む企業結合集団
組合が間に入る支配関係がある場合の企業結合集団の範囲について、整理しておきます。
単純化するために、以下のような例を考えます。
A社(会社)→Bファンド(民法上の組合)→C社(会社)→D社(会社)
ここで、A社はBファンドの唯一の業務執行組合員であるとし、BファンドはC社の議決権の100%を保有しており、C社はD社の議決権の100%を保有しているとします。
この場合に、D社が他社(T社とします。TはtargetのT)の株式を取得するので株式取得の届出が必要か否かを判断しなければならない場合、D社の属する企業結合集団の範囲はどうなるでしょうか。
ここで、
「親会社になれるのは会社だけ(組合は親会社になれない)。」
というふうに覚えていると(それ自体は正しいのですが)、D社からC社までは遡るものの、その上にあるのがBファンドなので、「企業結合集団の範囲はC社どまりかな」、と一瞬考えてしまいそうです。
しかし、そうではありません。A社まで遡らないといけません。
条文で確認してみましょう。
企業結合集団の定義は10条2項により、
「会社及び当該会社の子会社並びに当該会社の親会社であつて他の会社の子会社でないもの及び当該親会社の子会社(当該会社及び当該会社の子会社を除く。)から成る集団をいう。」
とされています。
そこで、子会社の定義(10条6項)は、
「会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している会社等として公正取引委員会規則で定めるものをいう」
とされています。
「会社等」というのは、10条2項に定義があって、
「会社、組合(外国における組合に相当するものを含む。以下この条において同じ。)その他これらに類似する事業体」
とされています。要するに、「会社等」には、会社、組合その他事業体なら何でも入るということです。
子会社の定義は届出規則2条の9第1項にあって、
「法第十条第六項 に規定する公正取引委員会規則で定めるものは、同項 に規定する会社が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該他の会社等とする。」
とされています。
また、親会社の定義(10条7項)は、
「会社等の経営を支配している会社として公正取引委員会規則で定めるもの」
です。
これを受けて親会社を定義する届出規則2条の9第2項では、
「法第十条第七項 に規定する公正取引委員会規則で定めるものは、会社が同項 に規定する会社等の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該会社とする。」
とされています。
要するに、親会社の定義も子会社の定義も、「財務及び事業の方針の決定を支配している」か否かがポイントで、上記設例ではいずれも100%支配関係なので、A社→Bファンド、Bファンド→C社、C社→D社の関係(直接の支配関係)には、このような関係が問題なくありといえます(ただし、BファンドはA社の「子会社」とはいえても、BファンドはC社の「親会社」とはいえません。「親会社」は会社でないといけないので)。
それでは、子会社の子会社、つまり間接子会社も、「子会社」なのか、(あるいは、間接親会社も「親会社」なのか)については、届出規則2条の9第3項に、
「前二項に規定する「財務及び事業の方針の決定を支配している場合」とは、次に掲げる場合・・・をいう。〔中略〕
一 他の会社等・・・の議決権の総数に対する自己(その子会社を含む。・・・)の計算において所有している議決権の数の割合が百分の五十を超えている場合
〔2号以下省略〕」
とあります。この、「その子会社を含む」というのが、間接子会社も「子会社」である根拠になります。
届出規則2条の9第3項1号を、上記設例にあてはめて、A社がC社の親会社であることを確認してみましょう。
「他の会社等〔=C社〕・・・の議決権の総数に対する自己〔=A社〕(その子会社〔=Bファンド〕を含む。・・・)の計算において所有している議決権の数の割合が百分の五十を超えている場合 」
BファンドはC社の株式を100%保有しているので、上記の2条の9第3項1号を、ばっちりみたしますね。つまり、C社はA社の「子会社」となり、A社はC社の「親会社」となります。A社とC社の間にファンドが入っていても親子関係が切れることはありません。
最後に仕上げで、A社がD社の親会社であることを確認してみましょう。
「他の会社等〔=D社〕・・・の議決権の総数に対する自己〔=A社〕(その子会社〔=Bファンド(直接の子会社)+C社(上記よりC社はA社の「子会社」)〕を含む。・・・)の計算において所有している議決権の数の割合が百分の五十を超えている場合 」
上記のように、「他の会社等」(=「子会社」)のところにD社を、「自己」(=親会社)のところにA社を入れても、上記届出規則2条の9第3項1号の要件を満たしますね。
つまり、A社はD社の「親会社」である、ということです。
したがって、企業結合集団の範囲は、D社からA社まで遡ることになります。
そして、Bファンドも、A社の「子会社」として企業結合集団に含まれるので、企業結合集団の売上高(国内売上高合計額)には、Bファンドの売上も含めることになります。
以上、無事、A,B,C,D全部まとめて企業結合集団であることが確認できました。
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