個人やファンドが支配する企業結合集団
平成21年改正によって企業結合の届出の要否(売上、グループ内再編の届出免除など)が、企業結合集団を基準に判定されることになりました。
そして、この企業結合集団というのは、大雑把に言うと、究極親会社の下にぶら下がる全ての会社(組合などの事業体も含む)、ということになります。
ですので、個人が支配するグループの場合には、その個人の1つ下の会社までしか企業結合集団は遡らないことになります。
例えば、A氏(個人)が、B社とC社の株式の100%を保有し、B社がb1社とb2社の株式を100%保有し、C社がc1社とc2社の株式の100%を保有しているとします。
この場合、経済的実態をみればB社、C社、b1社、b2社、c1社、c2社は同じグループの企業ということになると思われますが、独禁法上は、B社とb1社とb2社が1つの企業結合集団で、C社とc1社とc2社は、また別の企業結合集団、ということになります。
条文上の根拠は独禁法10条2項の「企業結合集団」の定義で、ピラミッドの一番上に来る事業体は会社に限ることになっているためです(さらに元を辿れば、「親会社」が「会社」に限ることになっているためです。10条7項)。
B社~c2社全部が1つの企業結合集団となるよりも、B社以下とC社以下が別々の企業結合集団であると認定された方が、グループの売上が小さくなるので、届出の必要な場合が少なくっていいじゃないか、と思われるかもしれません。
しかし、実際には、グループ内再編の届出免除の規定が適用されなくなることの方が問題です。
つまり、上記の例では、経済的実態としては、B社とC社は同じグループなのですが(ひょっとしたら、創業者であるA氏の名前を社名に冠しているかもしれません)、独禁法上は別のグループであるために、例えばb1社の株式をC社に譲渡するような、実質的にはグループ内再編に過ぎないような場合にも、株式取得の届出が必要になってしまいます。
このような、実質的にはグループ内再編に過ぎない場合までを届出の対象にするのは、意味がないことだと思います。
そもそもなぜこのようなことが起こるのかといえば、独禁法が株式取得(やその他の企業結合)の届出義務を会社に対してだけ負わせていることと無縁でないように思われます。
つまり、株式取得の場合が分かりやすいので株式取得を例に説明すると、独禁法上は、「会社」(10条1項)による競争制限的な株式取得が禁止され(実体上の問題)、それと平仄を合わせる形で、「会社」(10条2項)による株式取得だけが、届出義務の対象となっています(10条2項)。
このこと自体あまり合理性はないと思われるのですが(個人による株式取得が競争を制限することもあり得る)、さらに悪いことに、平成21年改正法では、企業結合集団の範囲まで、究極親「会社」を頂点とする企業集団というように定義してしまいました。
企業結合規制では個人は無視する、という意味では、このような企業結合集団の定義も首尾一貫しているというか、分かりやすいということかもしれません。
しかし、会社による株式取得だけが禁じられているからといって、企業結合集団の範囲まで、「会社」を中心に定める論理的必然性はないはずです。
つまり、個人をピラミッドの頂点とするグループを企業結合集団と定義してもよかったはずです。
上記の例では、どうせ株式取得の届出義務を負うのは取得者であるC社なので、会社が届出義務を負うという建前にも反しません。
経済を動かしているのは会社なのだから会社による株式取得を規制すれば充分、というのは日本経済だけを念頭においたローカルな思考で、海外には億万長者みたいな資本家もたくさんいるわけです。平成21年改正法では外国企業も日本企業と同一の届出要件の下で届出を要するわけで、そういった想像力が必要だと思います。
さらに、ピラミッドの頂点にファンドが来る場合、というのはもっと数が多いのではないでしょうか。
頂点のファンドに、さらにその業務執行権限の過半数を握る会社があれば(ファンドの親子関係の判定については届出規則2条の9第3項参照)、その会社が究極親会社になりますが、ファンドがたくさんの会社から出資を募っていて過半数の業務執行権限を有する会社が存在しない場合には、ファンドマネージャーが実質的にはその傘下の企業を支配しているにもかかわらず、当該ファンドの傘下の企業はそれぞれ別の企業結合集団、ということになってしまいます。
本当にこういうことでいいのでしょうか。
ちなみに、アメリカのハートスコットロディノ法では、個人の株式取得も届出の対象になっています。
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