「議決権保有割合」の分母に自己株は含まれるか。
株式取得の届出(独禁法10条2項)の要否を判断するためには、当該株式取得の前後の取得会社の「議決権保有割合」を計算する必要があります。
つまり、「議決権保有割合」が、20%、または50%を、下から上に跨ぐと、株式取得の届出が必要です(売上規模要件を満たせば、ですが)。
(なお、ここで「議決権保有割合」といっているものは、独禁法10条2項の条文でいうと、
「当該株式取得会社が当該取得の後において所有することとなる当該株式発行会社の株式に係る議決権の数と、当該株式取得会社の属する企業結合集団に属する当該株式取得会社以外の会社等・・・が所有する当該株式発行会社の株式に係る議決権の数とを合計した議決権の数の当該株式発行会社の総株主の議決権の数に占める割合」
に相当するもので、「株式取得に関する計画届出書記載要領」にも再三登場する用語です。こういう、数式を無理矢理日本語に直した条文を読むときは、上のように、「の」とか「に」とかの助詞をマーカーで塗ると、ちょっと読みやすくなります。)
それでは、「議決権保有割合」を計算する場合の分母(10条2項では、「当該株式発行会社の総株主の議決権」の部分)に、株式発行会社の保有する自己株式は含まれるのでしょうか。
結論からいうと、含まれないと解されます。
ですので、分母から自己株式は除く必要があります。
文言解釈としては、「当該株式発行会社の総株主の議決権」でいうところの「総株主の議決権」に、自己株になっているために一時停止している議決権(会社法308条2項)も含まれるか、という問題だ、といえます。
まず、形式的な文言解釈として、議決権の割合を聞いているのですから、議決権のない自己株についての議決権は分母から除外するのが自然です。
さらに、平成21年改正前の10条2項は、
「・・・株式発行会社の総株主の議決権に占める株式所有会社の当該取得し、又は所有する株式に係る議決権の割合が・・・」
と、改正後とほぼ同じ文言を用いていましたが、これについて公取委の担当官から、
「・・・発行会社が、減資、自己株式取得等を行うことにより、総議決権が減少した場合には、新たに株式を取得した事実がなくとも議決権比率が増加し・・・」
と、自己株式の取得が行われると総議決権(=総株主の議決権)が減少することを前提にした解説がなされており(山田昭典「企業結合審査と手続上の留意点」商事法務1733号20~21頁)、改正後においてもこの解釈は変わらないものと思われます。
さらに、議決権保有割合を計算する場合の分母からは、自己株式のみならず、完全無議決権株式や、会社法308条2項の相互保有株式も除かれると解されます。理由は自己株式の場合と同様です。
議決権保有割合を計算するときには、分母から発行会社の自己株式を除くよう、注意しましょう。
なお、以上の問題は、20%、50%の閾値を超えたかを検討する際の議決権保有割合の話であって、企業結合集団の範囲を決める親子関係の範囲の話とは混同しないように注意して下さい(結論は似たり寄ったりですが)。
« カルテルと被害者の同意 | トップページ | 組合(ファンド)が絡む企業結合集団 »
「2009年独禁法改正」カテゴリの記事
- 7条の2第8項2号と3号ロの棲み分け(2015.05.02)
- 主導的役割に対する割増課徴金(2015.05.01)
- 海外当局に提供する情報の刑事手続での利用制限(43条の2第3項)(2012.11.19)
- 課徴金対象の差別対価(2012.02.20)
- 優越的地位濫用への課徴金と継続性の要件(2011.10.27)
質問させて下さい。
外国人等の保有比率が一定割合に制限されている法的規制銘柄で一定割合を超えてしまい名義書換が拒否された株式は議決権を持たないと思いますが外国人議決権保有割合を計算する時、その株式は分母に含まれるべきでしょうか?
投稿: 匿名希望 | 2011年9月 8日 (木) 10時35分
面白い問題ですね。
おそらく分母に含まれないと思います。
理由は、自己株であるために停止している議決権分は分母から除くべき、というのと同じ理屈がここでも当てはまると思われるからです。
投稿: 植村幸也 | 2011年9月 8日 (木) 18時44分
分かりました。
早速のご返答ありがとうございました。
感謝致します。
投稿: 匿名希望 | 2011年9月 9日 (金) 16時11分