下請法の域外適用
独禁法の世界では、海外で行われた行為に日本の独禁法が適用されるのか、という域外適用の問題がしばしば議論になります。
では下請法には域外適用はあるのでしょうか。
問題になる場面は、以下の2通りでしょう。
①日本所在の発注者が外国所在の企業に発注する場合
②外国所在の発注者が日本所在の企業に発注する場合
まず、①の場合(日本→外国)は下請法は適用されるでしょうか。
適用されないと考えるべきでしょう。
なぜなら、下請法の目的は、弱い下請業者を保護することにあるからです。外国の下請業者を日本の下請法で保護する必要は無いでしょう。
①のような場合が下請法違反に問われた例もありません。
以前、「下請法を余り厳しく執行すると発注者が海外に発注するようになって国内産業が空洞化してしまうので、下請法の執行はさじ加減が難しい」という発想が昔公取委内部にあった、という講演を聴いたことを書きましたが、その発想は、下請法が海外の下請業者への発注の場合にも適用されるという考えからは出てこないものでしょう(海外の下請業者に発注する場合にも下請法が適用されるなら、日本の下請業者に発注する場合にも海外の下請業者に発注する場合にも、同じように厳しく下請法を執行すれば、日本の産業が空洞化するはずもないので)。
つまり、公取委にも、海外の下請業者に発注した場合に下請法を適用するという発想は皆無であるといって良いと思います。
条文上の根拠は、残念ながらありません(笑)。
というより、域外適用の問題は条文から導かれるというより、理屈で導かれるものでしょう。
もちろん、条文ではっきりと「域外適用する」と書いてあれば適用されることが明らかですが、条文が沈黙している場合は理屈で判断するほかないと思います。
この点、独禁法の域外適用の理由付けについて、「独禁法の条文には違反行為を国内に限る条文が無いので、当然海外の行為にも適用されるのだ」というのを聞くことがありますが、間違いとは言えないものの、ちょっと乱暴というか、余り強い理由ではないと思います。
やはり、「日本の法律の効力は日本国内に及ぶのが原則だ」と考えておくのが穏当でしょう。そこから先は理屈の問題です。
では、②(外国→日本)の場合はどうでしょうか。
この点については、中小企業庁のホームページにQ&Aがあります。
「Q13.海外法人との取引
A社(資本金900万円)は、海外のB社(メーカー)から部品の製造の外注を受けています。B社は、納品した後に、いつも当初の発注金額からの減額を求めてきますが、B社に対して下請代金法違反を問えないのでしょうか。
A.
外国の法律に基づき設立された企業が日本国内に在住する企業に発注した場合、この外国企業に対して下請代金法が適用されるかについては、外国で行われた行為又は外国に在住する企業に対して、自国の下請代金法を適用できるかという、「域外適用」の問題が生じます。
下請代金法の趣旨が日本の下請事業者の不利益を擁護しようとするものである以上、外国企業に対しても下請代金法を適用すべきという考え方もありますが、現時点においては、国は運用上、海外法人の取締まりを行っていません。」
とあります。
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/shitauke/110/1_1.htm
というわけで、理屈の上では海外の発注者に対しても下請法が適用されることを否定はしないが運用上取締を行っていない、ということのようです。
(なお、回答の冒頭の、「外国の法律に基づき設立された企業が日本国内に在住する企業に発注した場合」というのは若干ミスリーディングです。外国の法律に基づき設立されたか否かは関係ありません。行為の場所あるいは事業の所在地が問題になることはあっても、設立準拠法は関係ないでしょう。上記回答も、それに続く部分を見ると、行為地または所在地を問題にする趣旨のようです。)
私は、②の場合には下請法が適用されると考えます。
理由は、上記Q&Aにもあるように、下請法は日本の下請業者を保護することを目的にする法律だからです。
しかも、下請業者が日本にいる以上、国際礼譲とかも気にする必要はないからです。日本に発注する以上、当然日本の法律の適用は覚悟しておきなさい、ということです。
それにもかかわらず運用上外国の発注者は取り締まっていないというのは、実際の取締の難しさということもありますが、余り日本政府が声高に下請法を海外でアピールすると、日本の下請の仕事が減ってしまう、という、①のところで述べたのと同じ発想があるのかもしれません。
さらには、外国企業に発注書面の交付という煩瑣な義務を負わせることの据わりの悪さ(もっと一般化すれば、企業の経済活動がグローバル化する中で下請法という極めてローカルな法律を適用することの据わりの悪さ)というものも、本音の部分であるのかもしれません。独禁法はわりと世界共通なので、こういう「据わりの悪さ」はありません。
しかし、日本の当局がこのようにホームページで堂々と「外国企業は取り締まりません」と書いて良いものでしょうか(「現時点においては」との留保付きですが)。むしろ、悪質な場合には積極的に取り締まるべきではないでしょうか。もうちょっと国の役割というものを考えて欲しいものです。
ところで、このような下請法の域外適用の問題を考えていくと、下請法の一般法である優越的地位の濫用規制についても同じような議論ができるのではないか、といえそうです。
つまり、一般的に独禁法は国内の競争を保護するのが目的だと言いますが、優越的地位の濫用は違います。濫用を受ける者を保護するのが目的です。
とすると、優越的地位濫用に限っては、売る競争であるか買う競争であるかにかかわらず、濫用の被害を受ける事業者が日本に所在する場合に限って日本の独禁法が適用される、ということになりそうです(なお、優越的地位濫用は、濫用者が競争事業者に比べて競争上有利な立場に立つことを問題にするのだ、という説に立つと、濫用の被害者が日本にいても優越的地位濫用が適用されないことになりそうですが、それは変でしょう。その意味でも、この説は間違っています)。
ただ、優越的地位の意味について取引必要性説(濫用の被害者が、濫用者と取引をせざるを得ないような場合に「優越的地位」有りとする考え)を取る実務を前提にすると、日本の企業が外国の企業と取引をせざるを得ないというような場合が今まではなかったから、海外企業に対して優越的地位濫用規制が発動されたことがない、ということなのでしょう。
でも国際化社会ですし、将来には、外国企業に優越的地位濫用規制が発動されてもおかしくないですし、むしろ外国企業に対しても国内企業と同等に執行するのが筋だと思います。
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お世話になります。
下記 事例の場合は どのような判断となりますでしょうか?
海外法人同士の取引
日系独資B社(資本金900万円)は中国内の企業であります。
日本企業A社(資本金1500万円)は、海外のB社へ製造の外注委託をしました。
A社は日本国内本社から生産担当を派遣し納期・品質を管理しています。
委託工賃の決定も本社営業担当が決定しています。
A社はトンネル会社と判断できると思います。
B社は、A社から 加工開始後に発注金額の減額をされました。
B社も全ての決定権は日本人にあります。
A社に対して下請代金法違反を問えないのでしょうか。
契約書もありませんでした。
このような場合には域外適用はされるのでしょうか?
国内の問題として適用されるのでしょうか?
投稿: nohara | 2010年11月18日 (木) 02時24分
申し訳ないのですが、具体的な事例に関するご質問はブログではお答えしかねます。多くの場合、追加で事情をお聞きしなければ正確なお答えができないのと、第三者が読んでも誤解の無いように回答するのがけっこう大変だからです。
何卒ご理解下さい。
投稿: 植村幸也 | 2010年11月19日 (金) 15時36分