独禁法の「事業者」の英訳について
公取委の英語版のホームページには、独禁法全文の英訳がアップされています。
http://www.jftc.go.jp/e-page/legislation/index.html
同じ独禁法の英訳は、政府の「日本法令外国語訳データベースシステム」でも手に入ります。
http://www.japaneselawtranslation.go.jp/
しかし、この独禁法の翻訳は、政府の法令英訳プロジェクトが始まるずっと前になされたものを元にしており、あまり出来が宜しくありません(翻訳した方、すみません)。
中でも気になるのが、「事業者」の英訳です。
独禁法の英訳では「事業者」を「entrepreneur」と訳しているのです。
しかし、entrepreneurの意味は、
"someone who starts a company, arranges business deals, and takes risks in order to make a profit" (利益を得るために、会社を興し、事業を取り纏め、リスクを取る者)(ロングマン現代英英辞典)
であり、日本語で言えば「起業家」です。
一応、政府の公定訳なので、この訳語を使わざるを得ないのですが、はっきりいって誤訳だと思います(うちの事務所の外国人ローヤーに見てもらうと、ほとんど必ず直されます)。しかも頻繁に登場する用語なので、目立ちますし。
なので、英文メモを書くときは、条文を引用するのでない限り、私は"company"とか"business"とか、適当に訳すか、できるだけ「事業者」に相当する用語を使わないで済むように書いています。
ちなみに、上記の日本法令外国語訳データベースシステムの辞書検索で「事業者」を引くと、business operatorが1番目に出てきます。こちらの方がまだしっくり来ますね。
確かに翻訳の継続性ということも大事ですから簡単には直せないのも分かりますが、翻訳が修正された例が過去にないわけでもありません。
昔見つけたのに、独禁法47条1項(強制調査の条文です)に、
「公正取引委員会は、事件について必要な調査をするため、次に掲げる処分をすることができる。 」
とあるのを、古い翻訳では、
「The Fair Trade Commission may, in order to conduct the necessary investigation with regard to a case of violation, take the following measures:」
と訳されていたのが、いつの間にか、
「The Fair Trade Commission may, in order to conduct necessary investigation with regard to a case, make the following measures:」(現在の英訳)
と、violationという単語が無くなっていました。
プリントアウトした1つめの古い翻訳を(当時はそれが最新のものと思いこんで)見ていたときには、
「47条の『事件』は違反事件(case of violation)という意味で、公取委は違反の事実が無い限り強制調査はできないという前提でこの翻訳をしたのかなぁ。確かに、『事件』っていう日本語は、普通は違反があった場合を意味するよなぁ」
と思っていたのですが、念のためホームページで最新版をチェックしたらviolationが無くなっていてびっくりしました。
このように、こっそり翻訳を修正した例は過去にもあるわけで、是非、「事業者」も business operator あたりに直して欲しいものです。
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