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2010年4月 3日 (土)

「価格が維持されるおそれ」の判断要素としてのブランド間競争

流通取引慣行ガイドラインの非価格制限(地域制限など)の違法基準として、「当該商品の価格が維持されるおそれがある場合」というのが示されていますが、その判断要素として、

①ブランド間競争の状況(市場集中度、商品特性、製品差別化の程度、流通経路、新規参入の難易性等)、

②ブランド内競争の状況(価格のばらつきの状況、流通業者の業態)、

③制限対象の流通業者の数及び市場における地位、

④制限が流通業者の事業活動に及ぼす影響(制限の程度・態様等)

というのが挙げられています。

しかし、これらの要素がどのように価格維持に繋がるのかという仕組みが分からないと、実際の当てはめが困難です。

例えば、①の「市場集中度」でいえば、市場集中度が高いほど価格維持のおそれが大きいことは常識的に理解できますが、ではどの程度の市場集中度であれば、独禁法上違法と評価されるような「価格維持のおそれ」があるのか、という問題に関しては、ガイドラインは何も答えを与えてくれません。

実はこの辺りの勘所を掴むのにミクロ経済学の知識が有用なのですが、ここでは、①のブランド間競争について挙げられている要素について、私なりの考え方を述べておきます。

まず「市場集中度」について。

「市場集中度」の場合に限りませんが、「価格維持のおそれ」があるか否か(あるとしてその程度)は、当該商品の需要の価格弾力性に決定的に依存します。

つまり、需要が弾力的な場合(=価格がちょっと上がっただけで需要が一気に減るような商品の場合。無ければ無しで済むような、例えばお酒などでしょうか)には、価格維持のおそれは小さいといえます。よって、独禁法上違法となる可能性は小さくなります。

逆に、需要が非弾力的な場合(=価格が上がっても、需要は大して減らないような商品の場合。雪国での灯油代など、生活必需品のイメージです。)には、価格維持のおそれは大きいと言えます。この場合、独禁法上違法となる可能性が高くなります。

なので、どの程度の「市場集中度」であれば「価格維持のおそれ」ありとなるのかも、需要の弾力性を頭の片隅において考える必要があります。

そして、寡占モデルのクールノー競争(産出量による競争。超過利潤が最大になります。)とベルトラン競争(価格による競争。超過利潤はゼロになります。)とを両極端に置いて、需要の弾力性も頭の片隅に置きつつ、現実の市場での超過利潤はどの程度かなぁ・・・とイメージしながら、「価格維持のおそれ」も大してないのかなぁ、などと考えます。

次に、「商品特性」について。

これは正直意味がよく分かりません。この次に差別化のことが書いてあることからすると、差別化のことは除くようなので、ひょっとしたら需要の弾力性のことかもしれません。いずれにせよ、よく分からないのでパスです(笑)。

次に、「製品差別化の程度」について。

差別化についてもミクロ経済学でモデル化されているので、それを勉強するとイメージが沸きやすいのですが、例えばA社の商品とB社の商品が差別化がされていると(例えば、壊れにくいけどデザインは野暮ったいA社のパソコンと、デザインはピカイチだけれど壊れやすいB社のパソコン)、それぞれの会社が直面する需要曲線は右下がりになり、わずかながらも限界費用より価格を上げることができるようになります。

このようなことが起こるのは「特にA社の製品を好む人」、「どちらかというとA社の製品を好む人」、「どちらでも良いので値段の安い方を選ぶ人」、「どちらかというとB社の製品を好む人」、「特にB社の製品を好む人」というように、いろんな嗜好を持った需要者が市場にいるためです。

このように、市場に色々な嗜好を持った需要者がいることをイメージしながら、「この程度の差別化だったら、これくらい値段を上げたらこれくらい他社製品に客が流れるから、価格維持のおそれはある(または、ない)」と考えます。

次に、「流通経路」について。

これも正直よく分かりませんが、ブランド間競争の文脈で問題にしているのですから、例えば流通段階の寡占度を問題にしているのかもしれません。あるいは流通の系列下が進んでいる場合には価格維持のおそれが大きいということかもしれません。

次に、「新規参入の難易性」について。

新規参入が容易か否かは、理屈の上では、価格維持のおそれの有無を判断する上で決定的に重要です。メーカーの流通業者に対する拘束により価格が維持されても、新規参入が速やかに起こるのであれば、維持された価格は速やかに競争レベルに戻るからです。

このように、理屈の上では最も重要な「新規参入」が最後に来ているのは、きっと日本の現状(少なくとも流通取引慣行ガイドライン制定時の現状)では新規参入が容易なことなんてあまりない、という認識の表れなのかもしれません。

最後に、「等」について(笑)。

ブランド間競争の程度を計る物差しのバスケット条項なので、いろいろ考えられますが、例えば、乗り換えの容易性(乗り換えが容易なほど競争が激しい)、モデルチェンジの頻度(頻繁なほど競争が激しい)、技術革新の活発さ(活発なほど競争が激しい)、耐用年数(長いほど競争が緩い)などでしょうか。

こんなイメージだけでは具体的なケースを判断することはできないのですが、ただ要素を列挙するだけよりは何らかの足しになるかなと思い、私なりのイメージのふくらませ方を記した次第です。

また漠然としたイメージだけでは微妙なケースの判断はできないのですが、少なくとも明らかに大丈夫なケースは明らかに大丈夫と自信を持って言えるようになりますし、大丈夫というためにはどの辺に目を付けたらいいかという勘所も身に付くと思います。

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