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2010年4月22日 (木)

ABA初日

ABA Spring Meeting の初日午前中はまず司法省のDeputy Assistant Generalによるブリーフィングに出席しました。

実は昨日、合併ガイドラインのドラフトが公開されており、やはりそれについての話題が多かったです。私はまだドラフトを読めていませんが、議論の要点は以下の通りです。

-新ガイドラインは現在の実務を反映するものであって、現在の実務からの乖離を意図するものではない。

-より高い透明性と、判断の背後にある考え方もわかることを目標としている。

-現行ガイドラインの、まず市場画定をしてから・・・というstep by stepのアプローチではなく、手続をフレキシブルなものとした。

-市場画定がまずありきではなく、市場画定は反競争的効果の分析の一要素に過ぎないことを明らかにした。

-新たに、アップワード・プライシング・プレッシャー(UPP)、マージンレシオ、ダイバージョンレシオ、クリティカルロス・アナリシスなどの経済分析が採用されているが、これらはスクリーニングの手段(違法要件)ではなく、違法性の一つの要素(indicator)に過ぎない。セーフハーバーでもない。

-構造的レメディーが中心。行為的レメディーは、構造的レメディーを補強するものであれば歓迎する。

もう1つの話題は、現在のDOJの刑事執行担当の責任者であるスコット・ハモンド氏によるカルテルに対する執行の説明がありました(ちなみに、彼は日本の公取委主催のセミナーでも見たことがありますが、ものすごい男前です。甘い声だし、ちょっとジョージ・クルーニーっぽいです)。

-引き続きカルテル執行は強めていく。

-国際カルテルに対する執行のコンバージェンスを目指していく。

-ただ、司法省は捜査権限と訴追権限の両方を有する当局として世界でもユニークな存在であることは認識している。

-国際カルテルに対する執行は、違反が海外で行われるので、いかに相手方国の協力を得て証拠を収集するかがポイントであると考えている。

-競争法の強化は世界的な潮流である。ICNによる調査でも、最近10年で刑罰を強化した国が大半である。盗聴を認めるようになった国もある(このような議論を聞いていると、カルテルは1つの行為の効果が世界中に波及することに特殊性があり、またそのために国際協力について各国当局に強いインセンティブがあることから、カルテルの国際執行の議論が国際刑事法や場合によっては国内刑法の議論を牽引していくのも自然な成り行きだなぁと感じます)。

それから、ガンジャンピングでスミスフィールドのケースが取り上げられました。

このケースは以前このブログでも説明しましたが、民事執行の責任者であるモリー・ボースト氏によると、このケースでは、通常のビジネスに属する事柄の、しかも売り上げに占める大きな割合が買収企業のコントロールに服したことがポイントである、とのことでした。

また購入の協調行為をガンジャンピングとして取り上げたケースとしては初めてのケースとのことでした。

その他、司法省の組織変更や、完了した企業結合やHSRの届出要件を満たさない企業結合に対する調査(最近話題で、実例も多いらしいです)、ライブネイションによるチケットマスター買収のケースの問題点(垂直的合併での水平的要素の考慮、バンドリング)、再販売価格維持、オラクルとサンのケース(EUは日程が融通が利かないので苦労したこと。EU当局とは毎日のように議論したこと)、グーグルブックに対する議論などが照会されました。

午後は合併ガイドラインについてのセッションに出てきました。

ありがたいことに、ガイドラインの全体像についての説明がありました。

要点は以下の通りです。

-HHIのセーフハーバーの基準が変わった。

-ダイバージョン・レシオについての経済学的説明(ダイバージョン・レシオというのは、商品1と商品2があるときに、(商品2の価格-商品1の価格)×(商品1の価格の変化に対する商品2の数量の変化の割合)を意味するそうです。こんどじっくりガイドライン案を読んでみます)

-買い手独占

-商品市場の画定も地理的市場の画定も、本質的には同じ作業である(白石先生がたびたびおっしゃっていることですね)

-部分的買収

-合併の分析における顧客の役割の重視

-経済分析は生の証拠(社内文書など)を補完するものであること。やはり生の証拠は大事であること

-SSNIPテストのベンチマーク価格は合併直前の価格であること

-クリティカルロス・アナリシスのは損益分岐点の発想であること

-行動経済学的発想(企業は必ずしも利潤の最大化を目指さないこと)

-2年以上かかる参入は競争圧力にならないこと

-UPPの下では低いマージンの産業でも狭い市場が画定されることがあること

なお、新ガイドライン案についてはウォールストリートジャーナルの朝刊でも紹介されていて、「新ガイドラインは、当局の立場からすれば現状の実務を明らかにするものに過ぎないということだろうが、企業の側からすれば、当局に手続き的な柔軟性があたえられるために、裁判所でガイドライン違反だと争うことがむずかしくなるだろう」という評価がなされていました。

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